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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第二章 王都編
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第二章 80 自己管理のできない人たち



ところ変わって、俺はいまレーヴの部屋の前まで来ていた。

ジークに言われた時間まではまだ少しあるし、一応導使節としても任された仕事はしなくちゃな。

正直な話、もうレーヴに監視は必要ないんじゃないかとも思っているので、監視というよりは生存チェック的な意味合いが強い。

ちゃんと生きてますねー?困ったこともないですねー?変な事してませんねー?では帰りまーす…って感じ。


「やぁ、よくもまぁ飽きずに毎日来れるものだね。君はもっと時間を有意義に使うべきだじゃないのかい?」


「開口一番の嫌味ごちそうさま、お前こそ毎日来るのが俺でさぞがっかりしてるんだろうな?なんならお望みの可愛い子を、こちらに案内いたしましょうか?んん~?」


「はて、いったい誰の事を言っているんだか…僕には皆目見当がつかないな。だいたい君はそんなお節介を焼ける身分なのかい?君の周りにはずいぶん女性が多いみたいだけど、なんの発展もしていないんだろう?いいのかい、一生未経験で終わっても。」


「う、うっるせー!それこそ余計なお世話だっつーの!それに、お前こそ人の事言えるご身分なのか?あぁ?いつまでも素直にならずに避けてばっかりだといつか愛想を尽かされちゃうぞ?これを逃したら、お前も俺と同じ道を進むことになるんじゃねーのかなぁ?いいのかなぁ、一生未経験だぞぉ?」


「ん?」


「………え?え、嘘でしょレーヴ…お前まさか。」


「さて、薬の調合でもしようかな。」


「嘘でしょ?嘘だよね?レーヴ君は俺の仲間だよね!?ねぇー!!!!!」


俺の叫び声だけが虚しく部屋にこだました。

レーヴはそんな俺を完全に無視して調合の準備を進めており、名実ともに置いてけぼりを喰らう羽目になる。

くそ、まさかエルちゃんとは既にそういう関係だったとは。

…いや待てよ?相手がエルちゃんとは限らない…というか二人を見てる限りそんな感じではない…よな?

っていう事は元カノか!

なんだよ、他人には興味ないような事言っておいてやる事やってんのか!

クソ羨ましい…じゃない、嘘つき野郎め!

年齢的には何もおかしい事ないんだろうけど、コイツのスタンスからして絶対他人を寄せ付けずに生きてきたと思ってたのにっ!

そっち方面は話が別なんですか、そうですか!

俺だってもう少し歳食えばきっと…!


「…ん?なぁ、そういえばレーヴっていくつなんだ?」


「また急な質問だね…。まぁ、どうして僕の歳が気になったのかは聞かないでおくけど。僕はいま31だよ。」


「おぉ!?予想より少し上だったな…もう三十路過ぎだったのか、お前。」


「まぁね。…そういえば君は以前18歳って言っていたけど、中身の方はいくつなんだい?」


「少なくともお前よりは下だよ。ったく、信じてるんだか信じてないんだか…。ん?そういえば、エルちゃんっていくつなんだ?」


「………16。」


「は、犯罪じゃねーか!おまわりさーん、事案発生でーす!!コイツ一回り近く下の女の子にやらしい事しましたー!!」


「ちょ、してないよ!大きな声で変な事言わないでくれるかい!?だいたいするわけないだろう、あの子はただの弟子だったんだから!」


「ふーん、弟子だった(・・・)んですかー…へぇー。」


「また始まった、君の妙な邪推。そういう風に僕をからかうつもりなら、僕はもう作業に集中させてもらうよ?」


「まぁまぁ、そう言わないで。今から俺の神業トーク術でエルちゃんとの出会いからちょっとディープな話まで、根掘り葉掘り聞くつもりなんだから。」


「そうかい、帰れ。」


「せんせー!今日も来たよー!!」


「おっ、噂をすれば…。」


レーヴが冷たく俺をあしらっていると、元気な声が窓の外から聞こえてくる。

声の主であるエルちゃんは、昨日と同じように窓の外からレーヴに話しかけるつまりらしく元気な声で明るく話し始めた。

やれやれ…また後で傷が痛むぞ、これ。

エルちゃんは傷の事など関係ないと言わんばかりに話し続け、しばらく間を置いたかと思えばさらに続ける。


「あのね、昨日あの後先生の家に行ったよ。棚とかボロボロだったからびっくりしちゃった。ちゃんと片付けて、しっかり戸締りしてきたから安心してね?それと…、先生の家の鍵は私が預かってる!返して欲しくば速やかに顔を出しなさーい!!」


「あはは、だってさ。」


「………。」


「………もう!先生のバカ、分からず屋、おたんこなす!!これから毎日先生の家を掃除してやるんだから、覚悟しなさいっ!…じゃ、またね。」


「ははっ、おたんこなすって久しぶりに聞いたなぁ。こっちでも言うのな?」


「…君は、顔を出すかと思っていたよ。」


「ばーか、そんなことしたらエルちゃんがガッカリするだろうが!俺はエルちゃんのそんな顔見たくないの!」


そう言って俺はエルちゃんの見送りをすべく窓際に近づく。

そろそろ小さな後ろ姿くらいは見れるだろうとそっと外を覗いてみる。

しかしそこから見えたのは、少し離れたところでうずくまっているエルちゃんの姿だった。


「エルちゃん!?」


「っ!?」


俺はとっさに窓から飛び降りてエルちゃんに駆け寄った。

エルちゃんはお腹の辺りをぎゅっと握って真っ青な顔で息を荒げている。

今日はいつにも増して具合が悪そうだな…。

俺はエルちゃんに肩を貸しながら跳ね橋にある門番の所まで連れて行くことにした。

あそこなら小さいながらも休憩できるスペースがあったはずだ。


「もう少し頑張って、門のところで休ませて貰おう。な?」


「う、うん…ごめんね、ナユタ君。」


「いいんだよ。…俺の方こそごめん、レーヴじゃなくて。」


「変なの、そんなこと…ナユタ君が謝る事じゃないのに。」


「うん…でもごめん。」


「…いいんだよ。ありがとう、ナユタ君。」


事態に気が付いた門番二人が俺たちの元に駆け寄って来てくれたので、事情を話して休憩スペースを貸してもらう。

イスに座り水を貰ったエルちゃんは、だいぶ顔色は良くなってきていたがそれでもまだ具合は悪そうだった。

エルちゃんの気持ちも分かるが、しかしこんな状況ではここへ来ることも止めさせなくてはならないかもしれないな。

まずはしっかり自分の体を治すことが先決だろう。


「エルちゃん、病院には通ってるの?薬はちゃんと貰ってる?」


「うん。私、普段から病院のお仕事を手伝ってるから、薬は貰ってるしちゃんと飲んでるよ?ただ…あんまり効かない体質なの…。それで先生に薬の事も教えてもらってたんだけど…ごめんね、でも来るなとは言わないで!…お願い。」


「…今日は一段と具合が悪そうだけど、それに心当たりはあるの?」


「え?えっと、たぶん昨日の掃除でちょっと無理し過ぎたから…かな?また傷口が開いちゃって、お医者さんにも怒られちゃったんだ。えへへ…」


「えへへ…じゃない!まったく、そんな事ばかりしてると本当に出入り禁止にするよ!?」


「ご、ごめんなさい!もうしないから、それだけはっ!!」


「…約束できるね?無茶はしない、無理はしない、少しでも体調が悪い時は来ない…できる?」


「え、来ないのはちょっと…」


「で・き・る・ね ?」


「あ…はい。」


「よろしい!それじゃあもう少しここで休ませて貰って、大丈夫そうだったら帰るんだぞ?ゆっくりな?足元には注意してな!?」


「ふふふ、はーい。」


「まったく、ちゃんと分かってるのかねぇ…。んまぁそういう事情だから、申し訳ないけどしばらくこの子の事頼んでいいか?」


「はっ、かしこまりました!…それと導使節様、こちらの方の件なのですが…。」


「ん?どうかした?」


「いえ、導使節様のお客様と言う事を承知しておりましたので、今日はそのままお通ししてしまったのですが…よろしかったでしょうか?」


「おぉ!ナイス判断、明日からもそうしてくれ。」


「はっ!」


「あ、でも具合悪そうだったら追い返していいから。」


「は、はいっ!」


その話を聞いていたエルちゃんが不服そうに頬を膨らませていたが、約束さえ守ればそんな事にはならないと言うと目を背ける。

こういう反応もそっくりだな、この師弟は。

おっと、こうしちゃいられない。

きっと師の方がそわそわしているだろうから、さっさと戻って安心させてやらないと。

俺はエルちゃんに再度念を押してから城へ戻ることにした。



――――



城内を歩いていた時に、すれ違ったメイドがすっかり濡れてしまっていた俺を見て慌ててタオルを渡してくれた。

さすが宮中仕えのメイドは仕事が早いし的確だなぁ。

俺はそれに礼を言って、タオルで体を満遍なく拭きながらレーヴの居る部屋まで戻ってくる。

タオルを首にかけ部屋のドアを開けると、レーヴが作業台の前で俯きじっと何かに耐えているような様子で立っていた。

作業台に置かれた拳は強く握られていて、そこにはうっすら血が滲んでいるようだ。


「…おい。」


「ん、あぁ。戻ったのかい?ご苦労様…」


「あぁじゃねーよ、手。」


「ん?」


「血が出てるぞ。何やってんだ、お前は。」


「あぁ、本当だ。気が付かなかった…。」


「…はぁ、ったく。エルちゃんからもらった傷薬があっただろ、それ貸せ。」


「いや、あれは…。僕が作ったのがそこの棚にあるから、それを持ってきてくれ。」


「…エルちゃんのは?」


「………寝室に、ある。」


「ったく…。」


俺はタオルを適当に投げてから、レーヴの言う傷薬を棚から持ってくる。

レーヴはそれを受け取ると慣れた手つきで塗布していく。

流石に包帯を自分の手には巻けないようだったので、そこだけ俺が手伝うことにした。

とはいっても、俺も慣れているわけではないので綺麗に巻けるわけではないんだが…。

巻いている間無言というのも気まずいので、俺はさっきの出来事をレーヴに聞かせる。


「…エルちゃん、きのう傷口が開いちまったんだってさ。医者には診せたみたいだし、本人も無理してる自覚はあったみたいだから、その辺注意するようにとだけ言っといた。」


「……そう、かい。」


「門番にも、具合が悪そうだったら追い返すように頼んでおいたから、それに関してはもう大丈夫だと思う。エルちゃんにも無理はしないって約束してもらったし。」


「……無理でなくとも来させなければいいじゃないか。僕としてもその方が」


「お前が逆の立場だったらやめるか?」


「………。」


「そういうこった。ほれ、出来たぞ。」


「…なかなかに下手くそだね。」


「うるせぇ、慣れてないんだからしょうがないだろ。」


不恰好に巻かれた包帯を触って苦笑しているレーヴ。

そんなに言うならそもそも怪我をするなって話だ。

思わず血が出るほど拳を握ってしまうだなんて、普通に考えればありえないだろう。

レーヴにはぜひ、そうなってしまう自分の気持ちと素直に向き合って、その頑張りを別方面に向けてもらいたいものだ。

守るために離れて結果そうなるんだったら、守るためにも側に居りゃいいのに。

見てるこっちがもどかしくて嫌になってくるぜ、まったく。


「あー、そういや今日の訓練どうする?その手だし、やめておくか?」


「いや行くよ、この程度どうってことないさ。昨日も言っただろう、こういう事は継続が大事だって。」


「頑張るねぇ…。お、そういえば筋肉痛は大丈夫なのか?わりかし平気そうに見えるけど…ま、まさか、二日後に来ると言うあれか!?」


「薬で痛みを和らげてるだけだよ。」


「なーんだ、ドーピングかぁ!ってそれ大丈夫なやつか!?」


「心配しなくても、ちゃんと適量を使ってるよ。」


「ほう、さすが薬師。毒も薬もさじ加減ってやつっすねー。」


「いや、意味分からないから。それより、もう行くのかい?」


「あーいや、ジークに呼ばれてるからその後だな。何なら先に始めてていいぜ?」


「そう。なら仕度が出来たら先に行くよ。」


「おう!んじゃ、俺はジークんとこ行きますか。」


そうして俺はレーヴの部屋を後にし、ジークに会うため騎士団本部へと向かった。

まさかこの後とんでもない出来事に遭遇するとは夢にも思わずに…。



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