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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第一章 始まりの出会い
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第一章 10 姫様とお茶会



さすが豪華な屋敷だけあって中庭はかなり広く、そしてよく手入れされていた。

俺は花に詳しいわけではないので正式な名前は分からないが、大きさと色の違うバラのような花が迷路を作る様に咲き乱れていた。

それを横目にしばらく歩くと池があり、そのほとりに東屋…西洋風だからガゼボか?があって、どうやらそこで話をするようだ。


設置されているイスに腰掛けると、いつの間にか現れたクロエがお茶とクッキーを手早く用意してくれる。


「…え?てか、クロエいつから着いて来てた?全然気が付かなかったんだけど。」


「姫様とナユタ様が中庭に向かわれるのが見えましたので、お茶とお菓子を準備して先に待機しておりました。」


へぇー、出来るメイドはちがうねー…っておかしくね?

俺たちが中庭に向かってるのを見てから準備して先回り?

そんな事って可能なんだろうか?


確かに花を眺めながら歩いてたから普段より歩調は緩めだったかもしれないけど。

茶器やら何やらを持ったまま移動して、俺たちより先にここに着いてるなんてちょっと無理くない?

まぁ、魔法でも使ったっていうなら出来るのかもしれないけどさ。


ま、まさか…

クロエは時間を止められる系のメイドなのか…!?

という事は。


「な、なぁ、クロエ。君の特技ってナイフ投げとかだったりする?」


「?いえ、そのような特技は持っておりませんが?ナイフ投げ…?」


残念、違ったようだ。

まぁパット入れてる感じでもないし、幻想的で瀟洒なメイドと言うわけではないのだろう。


「クスクス。ナユタ様はずいぶんクロエと仲が良ろしいのですね?」


「え、あぁそうですね。恥ずかしい所を見せるような仲です。」


ゲロ的な意味で。


「え…、えぇ!?こ、こんな短時間でそんなに深い仲になられたのですか!?まさかクロエが…」


「姫様、ナユタ様のお戯れですので本気になさらないで下さい。」


ノエルの顔を真っ赤にして慌てる様はとても可愛らしく、俺ほどの訓練を受けている者なら今ので白米10杯はいけたであろう。

ご馳走様です。


「まぁ、驚きましたわ。ナユタ様はそんなご冗談をおっしゃられる方なのですね。」


「おや、心外ですね?俺はいつだって本気ですよ。やる気・根気・本気が俺の人生の三本柱なので。そういうお姫様こそクロエとは気が合うように見えますが、お友達なので?」


そう言ってクロエにばっちりウインクを飛ばす。

クロエがお姫様ファンであることはリサーチ済みなので、ちょっとしたサービス精神のつもりだ。

ここから二人が急接近して仲睦まじい姿を見せてくれるのなら、俺はいつ死んでも悔いはない。

…のだが、残念ながら当のクロエが全く気が付かなかったので俺の気遣いとウインクは徒労に終わった。


「そうですね、クロエとも親しくなりたいと思っております。それと、どうぞノエルとお呼びください。敬語も使わなくて結構ですよ、私はナユタ様とお友達になりたいと思っておりますので。」


そう言ってまた天使のような笑顔を向けてくれる。

ま、眩しいっ!

一体何を食べたらこんな可愛い生物が生まれるんだ!

姫様のご両親に全力で伝えたい、ありがとー!!

おっと、にやけている場合じゃないな。


「んん!あー…そういう事なら、俺の事もナユタで頼む。様とかつけられるのガラじゃないし。それじゃ、えーっと…よろしくなノエル。」


「はい、ナユタ。こちらこそよろしくお願いします。」


おずおずと差し出した手をノエルはためらわず握ってくれた。

手ちっさー!柔らかー!俺、手汗やベー!

気持ち悪いとか思われてたらどうしよう。

…いや、それはむしろご褒美か?


「それでは姫様、控えておりますので何かございましたらお呼びください。」


それにノエルが小さくうなずくと、クロエは静かに庭園の中へと消えていった。

お呼びくださいってどう呼ぶんだ?大声を出すとは思えないけど。


「ナユタ。よければ貴方の話を聞いてもいいかしら?」


「おぉ、全然オッケーだぜ。何聞きたい?」


「えぇっと、それじゃあ…ナユタの住んでいたところってどんなところ?」


「んーと、俺がいたのは日本っていう世界の極東にある小さな島国で、その国の都市の東京ってところに住んでたんだ。夜でも人がウロウロしててな、”眠らない街”なんて呼ばれ方もされる街なんだぜ。」


眠らない街に住む眠らない会社員、俺。

ふふふ、どうかしてるぜ。


「眠らない街…。そこに住む人々は一様に眠らず生活しているのですか?それとも国中が?」


「いやいや、眠らないのは都市に住む一部の人間だよ。それに、眠る時間をずらしているだけで奴らは昼間にちゃんと寝てるんだぜ。あー、騎士にも夜に仕事してるやついるんだろ?そんな感じだと思ってくれれば大体あってるよ。」


ま、俺の会社は違ったけどな。と小声で言ってみた。

どうやら聞こえなかったみたいだけど。


「なるほど。夜間も敵襲に警戒して待機している民がたくさんいる、ということですね。ナユタの国の王は良い忠臣をお持ちなのですね。」


ちょっとちがーう。けど嬉しそうに笑ってるからこのままでオッケー!

それにしてもさすが姫様って感じだな。

俺たち平民とは着眼点が少し違ってて、いちいち反応が面白い。


「ではナユタやナユタの家族も、その都市に身を置き仕えているのですか?」


「うーん、俺はだいたいそんな感じだけど親は一緒に住んでないよ。自由気ままな一人暮らしってやつ。」


「まぁ。ではナユタは親元を離れ一から一人で?素晴らしい事ですね。ご両親もさぞ誉に思っていることでしょう。」


「それはないんじゃないかなー。反対押し切って東京の大学行って、帰ってこいって言われたのにそのまま就職しちまったから。盆暮れにも帰らなかったし、その内連絡も来なくなったし…。もしかしたら、俺の事なんて綺麗サッパリ忘れてんのかもな。」


もう俺の事は諦めましたって感じ?

ま、俺もそれでいいと思ってたし、むしろ(ないがし)ろにしてたのは俺の方だったし。

でも…いつでも帰れると思って帰らずにいたのに、いざ容易には帰れないとなるとこんなに恋しくなるもんなんだなぁ。


あーあ、こんな事になるんならもっと親孝行しとけばよかったぜ。

親父もおふくろも元気かなぁ…おっと、いかんいかん。

うっかりすると泣いちゃいそうだからしんみりタイムは終了でーす、閉店!


「ナユタはご両親の事をとても大切に想っているのですね。大丈夫、ナユタと同じようにご両親もナユタの事を大切に想ってますよ。」


「はは、まっさかー!………そう、かな?」


「えぇ、そうです。人の親とは皆、そういうものですよ。」


「…………そっか。」


そう返事を返すのが精いっぱいで、しばらく俯いた顔を上げる事ができなかった。

しんみりタイムセールはどうやらまだ終わってくれないみたいで、俺の目から大安売りの雫を大量出荷し続けてる。

女の子の前だっていうのに、格好悪いったらないぜ…




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