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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第二章 王都編
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第二章 74 回答


…ふむ、なかなかの高さだな。

レーヴの部屋の窓から下を覗いた俺はそんな感想を漏らす。

今朝上った見張り用の塔ほどではないにしても、建物の3階くらいの高さはゆうにあるようだった。

城をぐるりと囲う塀よりは高い位置にあるので街並みも確認できるが、どちらかといえば墓地の方が視界を占める割合が多い。

どうやらここは城の端っこに位置するようだ。

…ん?待てよ、それって少し変じゃないか?

俺は窓を開けるとその下を覗き込むようにして身を乗り出した。


「…うん、やっぱ変だ。」


体勢を戻して再度考えてみたがやっぱりどうもおかしい。

この部屋に来るにあたって、俺たちは螺旋階段を上ってきた。

螺旋階段っていうのは大抵、円柱型の建物に作られることが多いよな?

上っていた俺もこの階段は円柱型の建物に作られていると認識していた。

しかしどうだ、窓の下を覗き込んでみてもそこにあるのは普通の外壁、なんの変哲もない平面な壁なのだ。

そして何よりおかしいのは、先ほど俺がいた書庫が城の中央付近に位置する場所だったことだ。

確かに書庫はだだっ広かったし談話室に向かうのにも多少歩きはしたが、それでも城の端まで行くほどの距離ではなかった。

だというのに、目の前には窓があり、その先にはこの街の北西側の景色が広がっている。

一体どういう原理でこうなってるんだ…?


「ふーむ、ワンダーランド。」


「どうかしたのかい?」


「レーヴ、どうやら俺たちは不思議の国に来てしまったようだ。」


「………は?」


俺は間の抜けた顔をしているレーヴに、今しがた抱いた疑問を説明した。

レーヴは最初こそ興味なさそうに俺の話を聞いていたが、話が進むにつれ顎に手をあて真剣に考えるような仕草で耳を傾けている。

そして一通りの説明が終わると、レーヴは眉間に深い皺を寄せさらに考えるように腕を組む。


「…何か分かるか?」


「……さてね、なにせ僕は大した才能もない名ばかりの宮廷魔術師だから。ただ空間拡張魔法とまやかしの魔法は使われているのかもしれないな、と思ったくらいだよ。」


「わかっとるやないかい!」


「おそらく外からの攻撃に備えてどこに何があるのか分かりにくくしているんだろうけど、僕の様な底辺の解呪師ではその程度しか察することは出来ないかな。」


「めちゃくちゃわかっとるやないか!!…っとにお前はめんどくさい男だな。」


「お褒めに預かり光栄だよ。君に感心されても何の自慢にもならないけどね。」


「ちっ…。ん、そういえばお前ってどんな魔法が使えるんだ?特殊魔法が使える人間は四大魔法とか基本的な魔法は使えなかったりするって聞いたけど。」


「おや、ずいぶん詳しいんだね。知り合いにそういう人が居るのかな?仰る通り、僕も例に漏れず四大魔法・三神魔法は一切使えない。出来るのは闇魔法と解呪、そして知ってのとおり化け物の召喚と使役だけだ。とは言っても、もう一度あの化け物を召喚するようなことは出来ないから、正確には使役だけだけどね。」


「え、なんで?そんなに難しい召喚だったのか?…こんなこと言うと多方面から御叱りを受けそうだけど、あの化け物が何体もいたらめちゃくちゃ強くね?」


「君が何人かの生贄を連れてきてくれるなら、また召喚してもいいけど?」


「あ…そういう。んじゃ無理だな、つか論外だわ。」


他人の命を犠牲にしてまで力を手に入れたいなんて事、少なくとも俺はまったく思わん。

倫理的にももちろんアウトだが、なにより俺が耐えられそうにない。

きっと毎日自責の念に駆られて精神を病んで生きだろう。

ま、絶対にそんな事はしないから無用な心配だけど。


「まぁ生贄を用意されても無理なものは無理だけどね。僕の魔力量じゃ一匹が限界…というか、一匹でも厳しいんだ。」


「あぁ、そういえばそれも気になってたんだった。お前の化け物って召喚したらされっぱなし…なんだよな?なんで?」


「質問攻めかい?…まぁいいけど。話せば長いんだけど、簡単に言えば代償…かな?召喚したら最後、この化け物は一生僕から離れず魔力を喰い続けるんだ。だから正直な話、今の僕は殆どの魔法が使えない。こいつに魔力を喰われ続ける限りほぼ無力だよ。」


「…それって、もしレーヴの魔力が尽きたらどうなるんだ?」


「さぁね、魔力を求めて見境なく人間を襲い始めるか…あるいは僕を喰らって消滅するか、どっちかなんじゃないかな?」


「ずいぶん漠然としてるなぁ。使ってる本人がよく分かってないってのはどうなの?お前の作った魔法だろ?」


「正確には違うよ。僕はあの人が持っていた本から与えられた知識に少し手を加えただけだから。それも中途半端に手を出したから、こんな苦労を強いられているんだけど。」


「あの人って…クフィミヤン男爵か。どういう繋がりがあったんだ?男爵と街の解呪師が接点を持つってなかなか難しいと思うだけど。」


「その前に僕からも質問だ。以前言っていたね、粛清者の使う魔法陣の特徴として”メメントモリ”がどうのって。あれは何の事を指していたのかな?」


「あぁ…よく覚えてんなそんな事。メメントモリは魔法陣の下に書いてあった文字の事だ。アレは俺たちがいた世界の文字で、意味は確か…”死を忘れるな”とかって言ってたかな?」


「……俺たちがい(・・・・・)た世界(・・・)?それはどういう意味だい?」


「あぁ、そっか。うーん、まぁこれから長い時間を共に過ごすことになりそうだし、話しておいた方が楽かもだな。」


「何を話すって?」


「俺の世界の話。信じられないとは思うけど実は俺、異世界から召喚された人間なんだ。」


「……嘘を吐くならもう少し面白い物を頼むよ。」


「嘘じゃねぇって!まぁ、信じられないっていうのも分かるけども。…ちなみにこの体も本当は俺のじゃない。」


「…馬鹿げてる。他人の体に他者を召喚するなんて話、聞いたこともない。ましてそれが異世界の人間だなんて…。」


「つっても事実だからなぁ。あ、ちなみにこの事を知ってるのはノエルとジーク騎士団長と大賢者ノアヴィス、後はシュヴァリエ辺境伯とそのメイド、そして俺の身元を引き受けてくれたユエル家の人間だけだから。秘密にしてるわけじゃねぇけど、あんまペラペラ言いふらすなよ。」


「………。」


「お、これは真偽を測りかねてる沈黙だな?別に信じなくてもいいけどさ。でももし何かあった時に知ってるのと知らないとじゃだいぶ違うと思うから、一応頭の隅にでもしまっておいてくれ。」


おー、考えてる考えてる。

珍しく困ったような顔をしたレーヴは特に反論もせず、しかし疑っていることも隠さずにただ沈黙している。

レーヴの中でどう結論が出ても俺は構わないが、せっかくだし出来れば信じてほしいという気持ちはある。

ただそれは、信じてくれたらラッキーくらいの心持ちだけど。


「…もし、その話が本当だったとして。ならその体は誰のものだったんだい?それに異世界から人間を召喚するなんて、そんな計り知れない事をやってのけた人間は誰なんだい?」


「ん?そりゃ両方同じ奴だな。お前が知ってるかは分かんないけど、結構な有名人らしいぞ?この体の元の持ち主で且つ俺をこの世界に召喚したと思しき人物、それはかの英雄シャルル・モマン・ユエルだ。」


「…またずいぶん大きく出たね。英雄シャルルの話なら僕も知っているよ、最強無敵の天才だろう?そしてその天才も、邪竜討伐で戦死したらしいじゃないか。そんな人間がいつ、どうやって君を召喚できるんだい?」


「さぁ?俺もその辺はよく分かってない。ただ気が付いた時にはこの体にいて、目の前には邪竜の死体が転がってただけだったから。シャルルが何を考えどうして俺を自分の体に召喚したのかなんて本人にしかわかんねぇよ。」


「……保留、でいいかい?」


「あん?」


「その話、僕の中で消化するにはもう少し時間が必要だから、いったん保留って事にしておいてくれ。」


「ぷっ!お前、変な所で律義だな。いいぜ、別に俺がここにいる理由なんて知ってようが何だろうが変わらないから。んじゃ、また俺からの質問な?お前とクフィミヤン男爵の接点はなんだったんだ?」


「接点、ね。ただの偶然だったんだけど、街を歩いている時にたまたま男爵とぶつかったんだ。男爵はその時に一冊の本を落として、僕がそれを拾い上げた。その時に本の内容が頭に流れ込んできて…、そんな感じで話をしていく内に魔法の改良と粛清を頼まれたってわけさ。僕もあの魔法には興味あったし、それにあの時は…まぁいろいろあったから僕にとっても好都合だったのさ。」


「一冊の本?…その本ってもしかして錠が付いた変な手触りの本か?」


「あぁ、そういえばそんな感じだったような…。なんだ、君も知っているのか。」


間違いない、男爵の部屋にあった魔導書・エイボンの書だ。

俺も詳しい事は知らないけど、確かネクロノミコンよりもヤバい魔導書…だった気がする。

邪神を召喚したり力を授かったりするとかしないとか…

そんなSAN値直葬してもおかしくない本を読んでしまったレーヴは大丈夫なんだろうか?

まさか闇魔法って邪神に近い存在の元々がヤバい魔法だったんじゃ…?


「レーヴ…SAN値ピンチ?」


「…君はまたよく分からない事を。それも君の世界の知識なのかい?」


「あぁ、うん、まぁ…。」


話している限り発狂しているような感じはしない。

しかし今後あの化け物を使うことでどうなるかは分からない以上、出来る限りあのエイボンの書から得た知識は使わない方が身の為だろう。

でないとコイツの今後の人生に支障をきたしかねない。


「な、なぁ、レーヴ?あの化け物だけど、知識も含めて使うのは控えるようにしないか?周りはもちろん、お前自身も危ないと思うから。」


「…よし、あの化け物はいまからメメントモリと名付けよう。名前がないと不便だって前々から思っていたんだよ。」


「名前を付けるな、愛着が湧くでしょ!?つーか俺の話ちゃんと聞けって!」


なぜか化け物に名前を付けるレーヴを窘めるも、レーヴ自身はどこ吹く風。

しれっと部屋の散策に戻り俺の話など聞いちゃいない。

せっかく人が心配してアドバイスしてるっていうのに!

俺はレーヴの後ろに素早く回ると膝カックンを決めこみ、さながら小学生のように”バーカ”と連呼したのだった。



――――



「おっと、そろそろ戻るかな。」


気が付くと外は夕暮れ時で、この部屋も朱に染め上げられていた。

今日一日でこの城の中を見て回るつもりだったんだが、残念ながら続きはまた明日以降にお預けのようだ。

導使節の仕事がなんなのかは相変わらず分からないけど、とりあえずは当分はレーヴの様子を確かめるくらいでいいのだろう。

おっと、そうなるときちんとしたルールを決めておいた方がいいよな。


「レーヴ、ここで一度俺たちの間の規則を決めておこうと思う。」


「規則?…なんだか破りたくなる単語だね。」


「破るなよ!いいか、お前は王宮魔術師になったとはいえ元犯罪者なんだ!きちんと罪を償う意思がある事を示すためにも、勝手な行動は慎むように。」


「はいはい、この部屋から出るなっていうんだろ?別に僕はそれでも構わないさ。」


「いや、出ろよ。」


「…は?」


「この部屋だけじゃ窮屈だろ?クフィミヤン男爵だって屋敷(・・)に幽閉なのに、なんでお前だけ部屋に幽閉なんだよ。ましてお前は城に仕える魔術師なんだから、この城の中を自由に歩く権利くらいはあって然るべきだろ。」


「…それは、いくらなんでも甘すぎないかい?」


「別に大丈夫だろ、そんくらい。んじゃ、お前は俺の許可なく城の敷地から出ないこと!外に出る時は俺も同伴、もしくは代行者を同伴させる事。いいか?こっそりエルちゃんの様子を見に行こうなんて思うなよ!」


「………魔法は?その腕輪を外した今、僕はいつでもメメントモリを活動させられるけど。」


「マジでその名前使うのか…。んー、そうだな。原則使用禁止だけど、やむを得ない場合には許可で。やむを得ないっていうのは自分を守る為だとか、誰かを助けるためだとかそういう時な?」


「…。君はそれでいいのかもしれないけど、この城にいる他の人たちにはなんて説明するつもりなんだい?」


「え?特に何の説明もしないけど?」


「君ね…」


「いやだって、実質お前は無害だろ?エルちゃんとの約束があるし、魔力的にもそんなに使えないって言ってたじゃん。ならある程度の自由があったって罰は当たらんだろ。」


「だからって何の説明もなしに野放しっていうのは問題なんじゃないのかい?」


「そうか?大丈夫だろ。何か問題だっていうのなら、監視役に俺を選んだ王様に文句を言えってんだ!俺がお前の監視になった以上、この方針で行くの!はい、決定!これにて会議を終了します!…ちゃんと守れよ?」


「…忘れていたよ、君が救いようのない愚か者だったって事。…せいぜい好きにさせてもらうさ。」


「エルちゃん家を覗きには行くなよ?絶対だぞ?俺はそれだけが心配で心配で…。」


「あのね…君は僕をなんだと思ってるんだ。」


「エルちゃんセコム、もしくはガチ勢。」


「…僕に分からない言葉を使ったところで馬鹿にされてるのは伝わるんだからね?」


「おっと急用を思い出した!んじゃな、また明日!」


俺は返事も聞かずにレーヴの部屋を飛び出して螺旋階段を駆け下りる。

分からないだろうと高を括ってからかう手もそろそろ潮時だな。

先ほどの静かに怒るレーヴを思いだし苦笑いを浮かべる。

本当に覗きに行くとは思ってないけど、心配である事は確かだ。

エルちゃんの事となるとすぐに熱くなるからな、アイツ。


たぶんエルちゃんの事だから明日もレーヴに会いに来るだろう。

そしてレーヴは宣言通り、きっとエルちゃんには会わないつもりなんだろう。

レーヴの過去を思うと、そうしてしまう気持ちもわかる。

しかしエルちゃんがそれで本当に幸せかと言えば、きっと答えはノーなのだろう。

どちらの気持ちも理解できる分、どちらの肩も持つことが出来ない。

果たして俺は、明日エルちゃんに会った時になんて言えばいいんだろう?


「…よし、ちょっと体を動かしてから帰ろう。」


俺は考えをまとめる為とリフレッシュを兼ねて昨日の訓練場に行くことにした。

流石にノエルはいないだろうけど、自主トレだって十分意味はある。

いい汗流してさっぱりしよう!



しばらく自主トレをしてから部屋へ戻ると、机の上に見覚えのない手紙が置かれていた。

それは時代劇とかで見るような和紙に包まれていて、鼻を近づけると微かにお香のような良い香りがする。

俺は身に覚えのない手紙に首を傾げつつも、しかし読まない訳にもいかないのでおっかなびっくり開いてみる。


「……これ、ツバキ姐さんからだ。」


その手紙には筆で書かれたような文字で今日の昼に国へ帰る事と、きちんと挨拶に行けなかった事への謝罪が書かれていた。

ツバキ姐の話によると、エルフ族が今日の朝に帰国したことで獣人族もそれに倣うように帰国していったのだそうだ。

それにより仲介に張る必要がなくなったので、ツバキ姐さん達鬼神族も国へ帰る事となったらしい。

短い間ではあったが楽しいひと時を過ごせたということをとても丁寧に書いてくれている。

ツバキ姐…俺もちゃんと挨拶したかったな…。

お世話になってばっかりで何も返せなかったし。


追伸として今度遊びに来るようにと書いてあったので、俺は必ず行こうと心に固く誓ったのだった。


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