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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第二章 王都編
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第二章 73 王宮魔術師として



「ほほう、ここは書庫なのか。どれどれぇ…」


城中回ってみようキャンペーン中の俺は今、とある大きな扉の前にいた。

掛けられているプレートからしてここが書庫であることは間違いないと思うのだが、それにしたって扉がバカデカい。

鉄製の扉は俺の身長の倍は余裕で超えており、まるでここから先は別世界へ通じていますといわんばかりの雰囲気を醸し出している。

書庫の扉として、このデザインは正解なのか?

どっちかって言ったら冥界への門って感じなんだが。


俺は見た目より軽いその扉を開き書庫の中をぐるりと見回すと深くため息を零した。

扉の大きさからしてそれなりの広さはあるだろうと踏んでいたが、これはまた…

ずらっと設置された天井にまで届く本棚の数々に、明かりが少ないせいもあるのだろうがそれにしたって見通せない書庫の奥。

どんだけでかいんだよ、ここ。

一歩中に入ると尚更その広さに圧倒される。

もしこの中から一冊の本を探せと言われたら、きっと何週間もかかるんだろうなぁ。

そんな広さとそれに負けない蔵書数がここには収められていた。


「ほへー…すっげぇなぁ…。」


「あっ、導使節様!」


「うお、…びっくりした。ここってそんな大きい声出しても大丈夫な所なの?図書室では静かにするのがセオリーなんじゃ…」


「よかった、なかなかお越しいただけませんでしたのでお迎えに上がろうかと思っておりました。さぁ、こちらへどうぞ。」


「へ?呼びにって、俺を?こっちって何があるんだ…?」


俺に声を掛けてきたメガネの女性は、俺の疑問に応える前にどんどんと書庫の奥へ進んでいく。

段々と小さくなる背中を見つつ追った方がいいのかと考えあぐねていると、振り返ったその女性がまたしても大きな声で早く来るようにと俺を急かした。

俺はどうすべきか少し悩んだが、城の中で騒ぎを起こすような人間はそうそういないだろうと思い、そのあとを追いかけた。


女性は暗い本棚の間を迷いなく進んで行き、壁沿いの本棚に近づくと一冊の本を手前に引いた。

するとそこにあった本棚が奥へとずれていき、そこに扉が現れたのだった。

すげー!映画とかでよく見るやつだー!

本棚に隠された扉とか一番興奮するやつじゃないですかー!!


「さ、導使節様。こちらです。」


「あ、はい。」


静かに興奮していた俺にその女性は中に入るよう促した。

扉を開けた先にはらせん状の階段があり、それを上っていくと不思議な廊下に出る。

なんだろうこの違和感…なんだか背筋がゾワゾワする。


「ひとまずは談話室へお願いします。」


「え、えぇ。」


そう言って一つの扉の前に案内されると、中から微かに争う様な声が聞こえてくる。

さすがに内容までは分からないが、どうも複数の人が口論になっているようなだ。

なんだろ、俺に仲裁でも頼みたいって事なのかな?

女性が何のためらいもなく扉を開くと、中では同じような服装をした人たちが中央に居る人物と何やら揉めているようだ。


「導使節様をお連れしたわ。…まだやっていたの?」


「イェリル、戻ったか。あぁ、この男…まったく聞く耳持たんのだ。」


「何度も言っているのに、どうして分かってくれないのかしら?こんなに名誉な事ないと言うのに…。」


「僕も何度も言っているはずだよ。僕はこの城に仕える気がない、だから別の処分を求めるってね。」


「だから!これは処分じゃなくて…あーもう!どうして陛下はこんな男を召し上げたりしたんだ!」


「まったく以て同意見だよ。君たちの王様は少しおかしいんじゃないのかい?僕を罰するどころか王宮魔術師にするなんて…とても正気の沙汰とは思えないね。」


「おまえっ!我らの王を愚弄するか!」


「陛下がお前を召し上げるとおっしゃったんだ、お前はただそれを受け入れるだけでいい。そう言っているのに…なぜ刃向うようなことをする?お前にとっても悪い話ではないだろう。」


「何か勘違いがあるみたいだね。残念だけど、僕にとってこの状況は悪い話以外の何物でもないよ。どうして僕が君たちのような国家の犬と肩を並べなくちゃならないんだい?まったく、話にならないな。」


「貴様、言わせておけば…!」


「ぐふっ…」


「………。」


「………。」


一同の視線が俺に集中する。

それに一瞬気後れしたが、それに勝るものが俺の中から込上げてきてどうにも抑えられない。

…ダメだ、我慢できない!


「ぶっ!っ、んん…くくく。」


「ど、導使節様…?」


「だぁーはっはっは!だめだぁ、もう無理っ!んっくく、おま、レーヴ…なんだよその格好、似合わないにも程があるだろ!!」


「…ナユタさん?」


レーヴの驚いたような声も、戸惑う人たちの視線も全て無視して俺は笑い続けた。

だってこれは面白すぎる…!

ここにいる人たちは全員が同じような刺繍を施された黒のローブを着ている。

黒魔導師が来ているような真っ黒くて足が見えなくなるくらい長いやつだ。

それはここにいるレーヴも同じで、黒に赤い刺繍で縁取りされたローブを着ているのだが…


「すげぇ似合わねぇ!それになんだよその丈、短すぎだろ!何でお前のだけそんな…いや、もしかして全部同じサイズ?お前がデカいからそんな事に…!?ぷ、くくく、足見えちゃってるじゃねぇか!だせぇ!果てしなくだせぇよ、それ!!」


「……知らないよ、勝手に着せられたんだから。……いい加減笑うのやめてくれないかい?」


「お、おう…すまんかっ…ぶーっ!だめだ、ツボにはまった!ひーっ、たすけてー!くっくっくっく…」


「…そのまま息できなくて死ねばいいのに。」


「ひ、ひどいこと…ぷぷ。言うなよな!…くっ!」


「ひどいのはどっちだろうね。まったく…一番面倒な人が来た。」


レーヴは低くそう言い放つとおもむろにローブを脱いで適当なイスに腰掛ける。

それを見たひとりの男が再度レーヴに何か言おうとしたが、仲間がそれを止めると蜘蛛の子を散らすように全員が去っていった。

最後に退出しようとしたイェリルと呼ばる女性が、俺にそっと耳打ちしたかと思えばポケットに鍵を入れ『後はよろしく』といって出て行った。

なるほど、丸投げされたわけね。


「あー、笑って悪かったな。その…似合ってはいたぜ?」


「見え透いたお世辞をどうも。…それで、何しに来たんだい?まさかわざわざ僕を嘲笑いにきてくれたのかい?もしそうなら感激のあまり殺してしまいそうだよ。」


「そんなまさかとんでもない!この俺がレーヴを嘲笑うだなんて一生に一度だってありえないぜ!だから隙さえあれば殺そうとするのやめてぇ!」


「…はぁ、本当に何しに来たんだい?僕の気持ちも少しは考えてほしいよ…。会いたいと思うかい?僕が、君に。」


「まぁまぁ、下手したらこれから毎日会う事になるんだから、そんな事言わずに仲良くしようぜ?」


「いま、なんて…?ちょっと信じがたい言葉が聞こえた気がしたんだけど。」


「信じがたいだろ?でもこれが現実。お前が王宮魔術師になったのも、俺がお前の監視を任されたのも全部すべてどこまでも現実だ。…俺とお前の因縁は、どうやらまだまだ続くらしい。」


「…勘弁してくれよ。」


レーヴは深くため息を吐くと、信じられないと言いたげに首を振る。

そのリアクションに俺は少しムッとしたが、良く考えたら俺も似たような感想を抱いていたので突っかかるの自重する。

コイツの反応にいちいち怒っていたらあっという間に血管が切れちまうしな。

出来るだけスルーする形で乗り越えていこう。


「…まさかとは思うけど、僕を王宮魔術師にしたのは君なのかい?」


「んなわけねぇだろ、それに関しては俺だって予想外だったんだ。だがまぁ、お前が死ななくて済んだ事にはホッとしたけどな。」


「君に心配されるいわれはないけどね。」


「俺が心配したのは主にエルちゃんの事だけどな。お前が処刑されるんじゃないかって泣いてたぞ?」


「まさか、会ったのかい?…泣いていた?」


「そ。さっき城の門のところで揉めてたから声を掛けたんだ。んで、はい。これを預かって来たぞ。」


俺は先ほどエルちゃんから預かった薬の瓶を取り出すとレーヴの手元に持って行く。

レーヴはそれを恐る恐る受け取ると、なぞるように触ってから匂いを嗅いだりしてそれが何なのか確認していた。


「これは…エルの作った傷薬かい?これを、僕に?」


「あぁ、お前が怪我をしているかもしれないって思って作ったんだってさ。それにしても、よくエルちゃんが作った物だってわかるな。…愛?」


「あの子にこれの作り方を教えたのは僕だから、分かるのは当然だろ?……エルは、他に何か言っていたかい?」


「さてな?そんなにあの子の事が気になるのなら直接会って話せばいいだろ?あの感じだと明日もまた来るだろうし、流石に二人きりにするのは難しいけど俺の目の届く範囲にいてくれるんなら問題ないと…」


「僕はもうエルと会う気はないよ。」


「……は?」


「あの子とはもう会わない、そう言ったんだ。」


「……なに、言ってんだ?お前、エルちゃんに会わないって…なんでだよ!」


「どうだっていいだろ、君には関係ない。」


「関係ないわけないわ、ボケェ!エルちゃんはお前に会いたくて、痛む体に鞭打ってここまで来たんだぞ!それなのに会わないって…どういうつもりだよ!お前はまたエルちゃんを泣かせる気か!!」


「………。」


「なんとか言えよ!おい!!」


「………。」


俺はレーヴの胸ぐらを掴み激しく揺さぶる。

しかし当の本人はもう何も話さないと言わんばかりに顔を背け、ただひたすらに沈黙を貫いている。

その態度は俺をさらに苛立たせたが、ふとレーヴの拳が震えるほど強く握られていることに気が付き思わず胸ぐらから手を離す。


「レーヴ、お前…。」


「…ところで、ナユタさんはこれの鍵を持ってないのかい?導使節様ならなんとかできるんじゃないのかな?」


「……。これって、お前の両手首についてるその腕輪みたいなのか?なんだそれ、外れないの?」


「あぁ、そうなんだよ。あの手錠よりは幾分かマシだけど、それでも魔力は封じられているから体がだるくて仕方ないんだ。」


「…いや、外せないだろ。例えお前に罪を償う意思があったとしても、それを証明するにはそれなりに時間が必要だ。信用保険として甘んじて受け入れとけ。」


「やれやれ、仕方ないか。これを付けていると人の闇を認識できなくて判別に困るんだけどね。」


「人の闇を?お前はそうやって他人を判別してたのか。なんつーか…器用だな。」


「盲目男の悪あがきさ。…あぁ、そういえばこの間ナユタさんが店に来た時は驚いたよ。以前来た時とは闇の形がまるっきり変わっていたからね、いったい何をしたらそんなに変貌するんだい?」


「は?闇の形が変わってるなんて言われても俺にはわかんねぇよ、お前の感覚の話だろ?もっと具体的に言ってくれ、どんな風になってるんだ?」


「うーん、経験のない事だから何とも言えないけど。あえて言うなら…人っぽくなくなった、かな?」


「は?なんだそれ、よくわからん。」


「君に分からないなら僕にだって分からないさ。」


そう言ってレーヴは呆れたように肩をすくめた。

嫌がらせで言っているわけではなく、純粋に疑問に思ったから口にしたって感じだ。

人っぽくなくなった…か。

意味はやっぱり分からないが、それが良い事なのか悪い事なのかそれだけは知りたいと思った。

とは言ってもレーヴがこの感じじゃその謎も迷宮入りだろうけど。


「はぁ…なんだかどっと疲れたわ。もう面倒だからさっさと移動するぞ。」


「移動?どこに行くつもりだい?」


「これからお前が生活する部屋だ。」


俺はレーヴについて来るように言って談話室から出る。

レーヴはもしかしたらついてこないかもしれないと思ったが、意外な事に素直に立ち上がり杖で周りを確認しながらいつもよりゆっくりと歩いて来る。

俺は密かに安堵の息を漏らすと、先ほどイェリルに耳打ちされた部屋へと向かった。


「談話室を出て右、突き当りの扉を開けるとさらに上へ続く螺旋階段があるからその先の部屋を使え。だってさ。ほれ、ここがその部屋だろ?」


俺は言われた通りに階段の先に向かい扉のノブを回す。

が、そこには鍵が掛けられており開く事はなかった。

おっと、忘れてた。

俺はポケットに手を入れ、先ほど渡された鍵を取りだす。

…ん?この鍵、二種類ついてるけどどっちが部屋の鍵なんだ?

俺は二分の一の確立だと、とっさに目に付いた方の鍵を穴に差し込もうとした。

しかしそれは扉の鍵ではなかったようで、入りはしても回ることは無かった。

よく見ると鍵穴よりもその鍵は一回り小さく、きちんと確認していれば一目で別の鍵だとわかるような形をしていた。

ま、まぁそういう事もあるよね?初めてのところだったし、仕方ないね!

俺は改めてもう一方の鍵を使い扉を開ける。

するとそこには小奇麗に整えられた空間が広がっていた。

扉の正面には窓があり、右手に行くとキッチンとバスルーム、左手には寝室が設けられているようだ。

どれも人ひとりが住むには十分な大きさと設備で、何不自由なく暮らすことのできるスペースであるといえるだろう。

なにより現在いるこの部屋には…


「ここはたぶんお前に与えられた居住区、兼工房なんだろうな。入ってすぐに作業台やらがあるのが何よりの証拠だろ。」


「………。」


「どうした?お前も早く入って来いよ。」


「魔力感知が使えない今、僕が新しい環境で生きていく為にどれだけの苦労をするのか君にはわからないのかな?…どこに何があってどのくらいの広さがあるのかも分からないのに動けるわけないだろう。それとも僕が無様に物にぶつかる様が見たいのかな?」

 

「あ、そうか…。」


ただ歩く分には杖で確かめながら進むことが出来るけど、ここで生活するとなると話は別だ。

衣食住が保障されていたとしても、全てを自分でやる事に変わりはない。

真っ暗な未知の場所に連れてこられたレーヴにしたら、こんなに危険な場所もないだろう。

ましてやこれからはここで生活することになるのだ。

慣れればいいとは言っても、それまでの道のりはとても険しい。

こんな作業台があったところで、レーヴはまず一人で生活できるようにならなければいけないのだ。


「ん?これは…」


俺は作業台の上に置かれた一枚の紙に気が付いた。

それに目を通してみると、どうやらこれは俺に当てた手紙であるようだ。

要約すると、さっきの鍵の小さい方はレーヴにつけられた魔力を封じる腕輪を取る為の物らしい。

どのタイミングで使うかは俺に任せるが、もしそれによって怪我人や死人が出た場合の保障はしない…ということだった。

まぁた丸投げですよ。

俺はこの手紙を丸めてポケットにしまうと、レーヴの正面に立つ。


「…レーヴ、お前さっきエルちゃんとはもう会わないって言ってたよな?」


「…それが、なんだい?」


「それはエルちゃんの事が大切だからか?エルちゃんがお前を庇って怪我したから、だからエルちゃんをお前から遠ざける為に…不幸にしてしまわないように会わない選択をしたのか?」


「………。」


「答えてくれ、これは大事な事だ。」


「…だったら、何だっていうんだい?」


レーヴの顔は真剣だった。

真剣にエルちゃんの幸せを祈っている…そう覚悟を決めた男の顔だ。

それが正しいのかどうかは一概には言えないけど、それでもこの男が今もエルちゃんを大切に想っていることに変わりはない。

…それだけ分かれば十分だ。


「レーヴ、手を出せ。」


「…今度はなんだい?」


俺はポケットから鍵を取りだし、レーヴの腕輪を外していく。

重く冷たいそれは、鍵を差し込むとするりと簡単に開きその役目を終える。

両方外したところで怪訝な顔をしているレーヴが口を開いた。


「…どういうつもりだい?これは信用を得るまで外さないと言っていたじゃないか。」


「お前はいま俺からの信用を得た、だから外した。お前がエルちゃんと交わした約束を反故にする事はないと判断したから、お前にこれは必要ない。」


「よくもそんな簡単に人を信用できるね、僕には信じられない判断だよ。」


「確かに、お前は俺を裏切るかもしれないな。でも、お前がエルちゃんを裏切ることは絶対にない。俺はそれをよく分かっている。」


「……。」


「ちなみに図星を突かれたり、分が悪くなると黙る。それもお前の特徴だよ。」


「…分かったような口を利くじゃないか。」


「まぁな!曲がりなりにもお前を理解しようとした男だぞ、俺は。」


「…悪趣味だ。」


眉間に皺を寄せるレーヴにとびっきりの笑顔で応える。

見えていなくとレーヴにはきちんと伝わっているようで、その証拠に眉間の皺がまた一段と深くなった。

もう少しからかいたいところではあるが、あんまり調子に乗ってうっかり殺されでもしたらシャレにならないのでここらでやめておく。

レーヴもそれを察したようで、俺を無視して部屋の中を見て回り始めた。

ゆっくりと、どこに何があってどんなものがあるのかを確認しているようだ。

これはしばらく放っておくべきだろう。

しかしそうなると、俺が完璧に暇になるな。

ひとまず邪魔にならない窓際にでも行って、外の景色でも眺めるとしますか。




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