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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第二章 王都編
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第二章 69 粛清者とナユタの処遇



おはようございます、異世界で目下奮闘中の九城那由他です。

僕はいま途轍もない後悔に苛まれております。

というのも昨夜の話しです、僕は友人のノエル、そしてその側使いであるリアリスニージェと楽しく談笑しながらお茶を嗜んでおりました。

俺が街で出会った人々や発見したおいしい屋台の話など、主に俺がしゃべり続けていたのですが…えぇ、それはもう楽しいひと時でした。

ノエルの微笑みに癒され、リアの淹れてくれたお茶と美味しいクッキーを口にし、本当に幸せな時間でした。

だというのに俺ときたら…、三十分もしない内に眠りこけやがったのです!!

あの多忙&多忙のノエルが俺の為に時間を割いてくれたというのにっ!

確かに疲労困憊の状態で程よく腹が満たされれば眠くもなるでしょう…しかし!

あのようなハッピー☆タイムを犠牲にしてまで眠る必要なんてあったでしょうかいいやない!!

そんな愚行を犯すような阿呆にあのような幸せは勿体ない!まさに豚に真珠、ナユタにティータイムだっ!

…故に俺は後悔しています。

またとない素敵な時間に眠りこけ、現在こんなむさ苦しい(・・・・・)()に会う時だけきっちり起きているなんて…。

俺が何をしたのでしょうか、神様。


「…ずいぶんな言い草じゃねぇか、喧嘩売ってんのか?」


「ちょっとぉ、人のモノローグに口挟まないでくれるぅ?これだから男子はデリカシー無いんだからっ!ぷんぷん!」


「なんだそれ気持ち悪ぃなぁ…じゃあ心の中だけで言ってろよ、全部口から出てんだよお前は!ったく…クソ忙しい中時間を割いてんのは俺も一緒だっての。」


目の前でぶつぶつと悪態を零しているこの男、ジーク・シークは山積みにされた書類を嫌そうに除けながらもきちんと整理していく。

意外と几帳面なところもあるらしい。

密かに感心している俺は今、この男との約束を果たすべく騎士団本部へと赴いていた。

何も悪い事はしていないのに指名手配されては敵わないので、嫌々ながら朝一番に顔を出したのだ。

そうして通されたのがジークの部屋、いわゆる団長室である。

そこは俺が想像していたよりもずっと整頓されていて、ジークという男の性格からは想像できないほど清潔な空間だった。

てっきりこの男の事だから『俺の部屋なんだから俺の好きに使う!』『片付いていないように見えて何がどこにあるのかはちゃんと把握できている!』といったようなThe男部屋の主だと思っていた。

正直汚部屋はレオンで十分足りているので、ここが綺麗な事に心底安心している。

あの汗臭い運動部の部室みたいところに案内されていたら、あるいは気絶していたかもしれない。

…俺、運動部じゃなかったけど。

何はともかく、この整理整頓された小奇麗な部屋で俺はジークから粛清者の処遇を聞いていた。


「クフィミヤン男爵の話は聞いてんな?あの人は昨日の朝、陛下の元を訪れて自分が粛清者であると自供したんだ。陛下に仇なす者の排除を目的にしていたのだそうだが、今は猛省していかなる処分も受け入れるそうだ。」


「クフィミヤン男爵が…。でも、それならなぜ男爵は襲われたんだ?偽装工作かとも思ったけど、それなら自分から出頭するわけないよな?」


「あぁ、それな。最後の犯行があっただろ?あれに関しては男爵は関与していないらしい。実行者…レーヴとかいったか?あいつが勝手にやったことで、それを追及するために抗議に行き…返り討ちになったんだそうだ。殺されなかったのは男爵を隠れ蓑にする為だと言っていたらしいが…どうだかな。」


「どういう意味だ?共謀していた男爵を殺さずに、むしろ被害者とすることで目を背ける…理にかなってるんじゃないか?褒められた事ではねぇのは確かけど。」


「そうか?男爵の人柄からすれば止める為に何かしらの策を講じる事は分かっていたはずだ。それなのに殺さず、しかも粛清者だと分かるような傷さえ負わせるって言うのは…。まぁこれは俺の憶測なんだけどな、…本気にすんなよ?あの大男、捕まえてほしかったんじゃないのか?」


「…は?捕まえてって…なんで。」


「正直、粛清者が粛清だけやっていたら犯人を見つけ出すのにもう少し時間が掛かったはずだ。それなのにあの男はあえて粛清とは関係ない人間を殺し、犯人が特定しやすいように画策したんじゃねぇかな。…巻き込まれた方は堪ったもんじゃねぇけどな。」


捕まえてほしかった?あのレーヴが?

…いやいや、そんなわけないだろ。

だってアイツは俺たちを本気で殺そうとしていたんだぜ?

捕まえようとする俺たちにこれ以上ないほど抗っていたじゃないか。

それに、捕まえてほしかったなんて言うなら男爵のように自首すればいいだけの話だろう。

それをわざわざ遠まわしに誘導して…いくらなんでも回りくど過ぎるだろ、それは。

だからレーヴに限って捕まえてほしかったなんてことはないはずだ。


…でも、そう言われると思い当る節はあるにはある。

俺たちがレーヴの元に着いた時、もっと早く来ると思ったと言ってた。

という事は俺たちがレーヴにたどり着くという確信があったということだ。

それに最後の犯行があった日は、俺がレーヴに粛清者を追っていると話した日だ。

それを聞いて何かを決心してしまったのなら…最後の殺人の異質さにも説明が付くような気がする。

でも、だからって捕まえてほしくてあえて殺人を行うなんてそんな事…。

…ありえる、か。

素直さとは正反対の、どうしたってひねくれたあの男ならそれもあるかもしれないと思ってしまう。

でも、そうなってくると…気になる事が一つある。


「…ジーク、アルフレッドが殺されたのは、俺のせいかもしれない。」


「あ?なんだ藪から棒に。…どういう事だ?」


「アルフレッドが殺された日、俺はレーヴに王様に頼まれて粛清者を探してるって言ったんだ。今思うとあの時のレーヴの様子は少しおかしかったような気がする。…もしジークの言う通り捕まえて貰いたくて最後の殺人を行ったのなら、その導火線に火を着けたのは俺かもしれない。」


「………。」


「ごめん、俺が軽率にしゃべったりしなければ…。」


「…馬鹿かお前。」


「え?」


「なぁにすべての責任を背負ってるような顔してんだ、んなもん結果論じゃねぇか。」


「でも、俺があんな事言わなければ…。」


「確かにお前の発言が原因でアルの奴が死んだのかもしんねぇ。でもな、そんなの比較しようがねぇだろーが。お前が何もせずに進んだ未来でアルが死ぬかどうかも、その先で犯人を捕まえられたかどうかもわかんねぇんだ。時間は戻らん、どうしたってな。だからそんなもしもの話にいちいち悩んでねぇで、お前はお前のやるべきことをしろ!止まるな、進め!今のお前をアルフレッドの奴が見たら呆れるぞ!」


「っ、…了解。俺は俺のなすべきことをする。」


「そうだ、それでいい。」


「あー…あり、がとな。ちょっと元気でたわ。」


「そりゃよかった。なぁに気にするなって、口が重くなったらお前への取り調べも進まなくなるからお互い様だ。」


「…俺の、取り調べ?」


「さぁ洗いざらい吐いてもらうぞ、お前がパーティーの日どこで何をやらかしたのかをなぁ!!」


「は、はぁ~!?」


それから小七時間ほどジークによる取り調べが行われた。

なぜか途中からアリスともう一人の女騎士…たしかテレスだったろうか?その二人も加わり、案の定話が脱線に脱線を重ねた。

その結果、本題を二割あとの八割の時間を雑談に費やされたのだった。

いや本当に意味のない雑談だった。

どうやら姉妹であるらしいこの二人は、俺の両隣に陣取ってはセクハラ発言を繰り返したのだ。

正直俺は茹でダコ状態だ。

ジークもジークで最初の内は窘めてくれていたのだが、最終的には面倒になったのか放置するようになり何食わぬ顔で話を進めようとしていた。

お前の騎士団だろ、躾くらいちゃんとしておけよ!

お願いだからせめて俺の太ももをまさぐってる手だけでもやめさせてくれー!!


「さて、お前の怪しい一日がただのドジであったことが分かったし、聞きたい事はあと一つだけだな。」


「話すことは全部話したよ…もう、帰らせてくれぇ…。」


「あらダメよ、もう少しイタズラしたいもの。」


「そうよ、まだまだ触らせてもらうわ。」


「マジで勘弁して…」


「お前らその辺にしておけ、コイツ童貞だからそれ以上やると色々吹き出るぞ。」


「あら可愛いらしい。」

「あら美味しそう。」


「出るわきゃねぇだろふざけんな!」


「まぁ冗談はこの辺にして…で?お前はこれからどうするんだ?」


「な、なんだよ、進路相談みたいな事言って。どうもこうも導使節がいつまで有効なのか分かんないし、その辺王様に聞いてみない事には…」


「いや、そういう事じゃなくて。まぁ関係ないわけではないが…。お前、騎士団に入るのか?」


「…は?なんだよ…いきなり。」


「あら、あなた魔法・召喚部門の優勝者なんでしょ?なら騎士団に入る権利が与えられているはずよ、試験はあるけど。」


「…あぁ、そういえば。」


確かにそんな話もされた気がするが、全然それどころじゃなくて今の今まで忘れていた。

その日は色んな事が起こって印象が薄かったっていうか…何より騎士団に入りたくてあの模擬戦に出たわけじゃなかったからな。

しかし改めて考えてみるとどうだろう?

俺が騎士になってこの国の為に働く…というのはありだろうか?

…あんまり想像できないが、嫌ではないな。

ジークの部下っていうのが引っかかるけど、こっちに来てから何回かあった戦闘でも生き延びることは出来ていたし、何より騎士ってワードが格好良い。

小さい頃から王様や王子様より勇ましく戦う騎士に憧れていた俺であったし、この年でその夢を果たすっていうのも悪くはないだろう。


「俺は…」


「失礼します!!」


「おぉ、どうした。」


俺の発言を遮るように一人の騎士が入ってくる。

その男はジークの元に駆け寄るとそのままジークに何か耳打ちし、一枚の紙を手渡すと退出していった。

なんだ?ジークの顔色からして悪い知らせではないようだけど…。


「…粛清者の処罰が決まった。」


「!!ど、どうなったんだ…?」


「粛清者…クフィミヤン男爵は幽閉されることになった。処刑こそされないが、その生涯をそこで過ごすことになるだろう。」


「…ずいぶんと軽いんですね。」


「そうだな。だが陛下がお決めになったことだ、俺たちはそれに従うのみ。」


「「はい。」」


「レーヴは、どうなるんだ?」


「………。」


「ジーク、教えてくれ。」


「舌の根も乾かぬうちにと思うかもしれんが、俺はこれに関しては不服だ。陛下は何を考えておられるんだか…。」


「ジーク!レーヴはどうなるんだ!」


「解呪師レーヴ・ヒュプノスは新たな魔法を生み出した功績により王宮魔術師として召し上げられることとなる。…監視付きだそうだが。」


「王宮、魔術師…?え、つまりレーヴも実質処罰無しなのか?」


「そう取れるな。四六時中監視されながらの生活にはなるが、そんなものあの男は何とも思わんだろう。…気に入らん。」


レーヴが、無罪。

いや、監視が付く以上無罪放免というわけではないのだろうけど…。

それでも予想していた処罰よりはるかに軽い、何人も殺した殺人者に対してこれは異例中の異例なんじゃないか?

ジークの言った通り、王様が何を考えているのか俺にも全く分からない。

こんなことして、民は納得するんだろうか?

いやそれよりも…多くの貴族や豪族から反感を買うんじゃないのかな?

いくら不正を行っていたとはいえ貴族は貴族だ、それを蔑ろにすることは王族だとしても危険だろう。

下手したらクーデターの引き金になりかねないんじゃないのか?


そして何より、騎士団のメンバーは納得できるはずもないだろう。

アルフレッド・デイズが殺された時だって殺気立っていたやつらが、この判決を知って大人しくしているか…想像するだけで恐ろしい。

今回ももジークが止めるんだろうか?

それとも今回はジークも加わって王様に不服を申し立てるのか?

もしそうなったら、それこそこの国は混乱に陥るんじゃないだろうか…?


「…テレス、エトワールを呼んで来い。アリスは中堅どもを見てろ、くれぐれもこの事は漏らすんじゃねぇぞ?」


「はい、すぐに。」


「漏らすだなんて…そんなはしたない事しないわ、させる側だもの。」


「いいから行け。」


「はい。」


「ジーク…。」


「あぁ?なんだその(ツラ)は。お前が心配するようなことは何もねぇよ。言ったろ、俺たちは陛下に従うだけだ。この決定には不服だが、陛下には陛下の考えがあるんだろ。あの人はいつも大局を見ている人だからな…。分かったらお前はもう帰れ!これからここは少し荒れるからな、部外者がいると邪魔なんだよ!」


「…わかった、じゃ。」


「おう、もう悪さすんなよ。」


「まだ何もしてねぇよ!」


ふざけた様子で笑うジークを睨みつけてから俺は背を向けて団長室のドアを開ける。

廊下はシンと静まり返っていて、まるでこれから嵐が来るかのような不気味さがあった。

きっとジークならいつものように上手く収められるだろうが…。

俺は何も起きないことを祈って騎士団本部を後にした。



さて、雨が降っているせいで日の傾きが分からないが、そろそろ夕暮れ時くらいだろう。

騎士団で不本意な時間を過ごしてしまった事もあり、一日の終わりがとても早く感じられる。

いや…あのセクハラの時間は地獄のように長かったが。

思い出しただけで震える足を思い切り叩いて吹っ切るように歩き出す。

あのセクハラ姉妹の事を忘れる為にもちょっと体を動かそうかな…。

と言ってもこの雨では筋トレくらいしかできないが、たまにはそれもいいだろう。

俺は部屋に向かうべく歩みを進めた。

すると前方に見知った後ろ姿を見つける。

雨が降っているというのにそこだけ陽だまりであるかの様な暖かさが感じられるようだ。

それを見るだけで俺の中のモヤモヤが綺麗に吹き飛んでいき、ついでに俺も二人の元に飛んでいく。


「はーい、そこの可愛いお嬢さん方!今暇かなー?お兄さんと一緒に遊ばなーい?」


「あら、ナユタ!ふふ、今日は一段と元気なのね。」


「一段と煩いの間違いなのです、姫様。あんまり調子に乗らせると後が面倒なのですよ?」


「相変わらずの辛口ご馳走様です!だが、それでもめげないのがナユタ君なのだよ!勢いついでに言ってしまうと、昨日の夜はごめんなさい!まさか寝ちまうとは…一生の不覚!!」


「いいのよ、疲れていたんだもの。リアに聞いたわ、ナユタはとっても頑張ったのよね?ね、リア?」


「リア…!!」


「多少は褒めてもいい部分があったというだけなのです。姫様の部屋であんなにだらしなく寝こけたことは絶対に許さないのですよ!」


「あら、でも昨日の夜はリアったら…」


「ひ、姫様!それはダメなのです!しーっなのですよ!」


「な、なに!?何事があったの!?」


「ふふ、内緒。ね、リア?」


ぶんぶんと激しく頷くリアと、それを見て嬉しそうに微笑むノエル。

そして一人悶々とする俺。

こんなに気になる反応しておいて内緒はないでしょー。

何か俺にとって嬉しい出来事があった予感がするんだけどなぁ!

しかしいくら聞いてもノエルは笑うばかりで教えてくれそうにない。

小悪魔か!この二人は小悪魔属性も持っているのか!

くーっ、それはナユタに効果抜群だぁ!!


「そういえば、ナユタはどこにいていたの?今朝はジークさんに会いに行くって言っていたけれど、もう夕方だから他にも用事があったのかしら?」


「いや…、今の今まで騎士団本部におりました。」


「あら、それは何というか…お疲れ様。」


「本当に疲れた!精神的な意味で!!なぁノエル、俺はいま無性に体を動かしたい気分なんだけど、どこか広くて多少運動しても問題ないような場所は無いだろうか?」


「体を動かしたい!?そ、それはとても素晴らしい事だと思うわ!武術の訓練に使う部屋があるからそこへ行きましょう!リア、私の訓練用の服を持ってきてくれる?ナユタは私が先に案内していくから。」


「え、ですが姫様…。」


「お願い、リア。」


「~~~っ!すぐにお持ちしますのです!!」


「ありがとう!…さ、ナユタはこっちよ!」


あれよあれよという間に俺はノエルに手を引かれ、城の中をずんずんと進んでいく。

確かにテンション高く話しかけたのは俺だけど、結局そのテンションもノエルに追い越されてしまった感が否めないな。

っていうかいつの間にかノエルも参加する流れになってるし。

ノエルのお願いに辛抱堪らん感じのリアは走っていってしまうし…大丈夫なのかこれ。

最近のノエルさんは多忙であると窺っていたんですけどねぇ?

まったく、これだから小悪魔系運動大好きっ子は…体を動かすチャンスを絶対に逃さないもんなぁ。

しかし俺を引くノエルの手が柔らかくて暖かいからもう何でもいいや。

ナユタは早々に考えるのをやめる生き物なのである。



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