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確かに俺は最強だった。  作者: 空野 如雨露
第一章 始まりの出会い
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プロローグ 帰り道

読みづらかったらごめんなさい



いやいや、何が起こった?

えっと…確か、仕事帰りにコンビニ寄って肉まんとあんまんと牛乳買って…我慢できずに肉まんを頬張ったところまでは覚えてるな。

12月の冷たい空気を吸い込んでツンと冷えた鼻に暖かい至高の香りをお届けしたはずだ。

うん、それは間違いない。


だというのになんだ、この状況は。

瞼が重くてなかなか持ち上がらない…しかも背中から伝わるこの冷たい地面の感覚。

え、なに?もしかして俺ってば道端でのうのうと寝ちゃってるんです?

…ないわぁ、お兄さんさすがにそれはドン引きしちゃうなぁ。

この寒空の下?

しかも道端で?

寝ます、普通?

………いやいやいや!

しないでしょ、あり得ないでしょ!常識無いにも程があるでしょ!!

もしそんなやつが居るんなら名乗り出なさいよ、お兄さん腕によりをかけてお説教しちゃるから。


…まぁ、俺なんですけどね。


聞きまして、奥さん?今まさにこの俺がお説教対象ですって。

たはー、こりゃ一本とられたわー参った参った。

お兄さんったらお兄さんにお説教されちゃうわ―。

いやーん、優しくしてー。


…うん。

あのね?ここまで言って説得力無いかもしれないけど、俺って普段からこうなわけじゃないよ?

もう少ししっかりしてるし、微量にクールな所もあったりするんだよ?

…本当だよ?

ただね、今は仕方ないというか状況がそうさせるというか…。



12月、師走と言われる繁忙期。

例に漏れず俺の勤め先も目の回るような忙しい日々を送っていた。

サービス残業なんのその、徹夜朝帰りどころか会社に連泊なんて当たり前。

もしかしてここが俺の家で棺桶なんじゃね?なんて錯覚起こすくらいに、それはそれは忙しい日々を送っていた。

いつから会社に泊まりこんでいたのかすら忘れちゃうくらい仕事漬けの毎日だったのだ。


人ってのは不思議なもんで、追い込まれていくとだんだんこう…楽しくなってくるんだよね。


「やべー、仕事楽しいわー。楽しすぎて楽しすぎてやめらんねぇですわー。…ひひっ、目が霞んでくるとやる気でるぅ!」


うん、重症だ。

今思えば何を頓珍漢な事を言ってんだ俺って思える。

でもあの時は本当にいろいろ摩耗してたから…ね?


ここで誤解しないでもらいたいんだが、こんな精神崩壊一歩手前みたいな発言をしてたのは何も俺に限った話ではないという事だ。

当然と言えば当然なのだが、俺が忙しいと言う事は周りも同じような状況であるという事に他ならない。

つまり周りにいる人間の中にも俺と同じような状況に陥っていた奴が少なからず居たという事だ。

まさにカオス…そう言っても過言ではないような場所であったと言う事を皆様にはご理解いただきたい。


閑話休題。

とにかく、その時の俺はそんな事ぶつぶつと呟きながら満面の笑みでPCと睨めっこしていたのだ。

そしたら夕方くらいだろうか?

ふいに誰かに肩を叩かれたのだ。


『ちっ、誰だよ俺のハッピーラッキーいちゃこらタイムを邪魔する奴はよぉ!俺様おこだぞぉ!』

…とか思いながら振り向くと、そこには慈悲深い菩薩のような表情を浮かべて目頭抑える部長の姿があったのだった。

ポカンとしている俺を余所に部長はひどく優しい声で「帰ろう、なっ?」と言い、隈のひどい目から真珠のような涙を流して微笑んだ。

俺は一瞬何を言われたのか理解できず、ただ擦れた声で笑った。

しかしその時、俺の意思とは関係なく目や鼻からびっくりするくらいの汁が溢れてきてしまって…。

その時初めて気づいたんだ。

―――あぁ、俺…疲れてたんだなぁって。

その後なぜか部長と抱き合ってわんわん泣いてしまった。

周りの奴らも何人かもらい泣きしてたみたいで、どこからともなく鼻をすする音が聞こえていた。

これが友情…否、これこそが愛なんだとみんなの心が一つになった瞬間だった。


そう、そんな風に思っていたのがコンビニに着く10分前だ。


会社から徒歩圏内に住んでる俺はふらふら…もといふわふわとした気分で、さながらお花でも舞ってるんじゃないかと思うくらいの上機嫌さを醸し出しながら家路を急いでいた。


俺は会社にも上司にも恵まれた幸せな人間だ。

例え生まれてこの方、()のつく女に巡り合えていないとしてもそれを帳消しにして余りある幸せ者だ。

おぉ、神よ!感謝します!今なら俺、何でもやっちゃいますよ!

…だなんて、たいして信じてもいない神に手を合わせて空を仰いだりしながら歩いていたのだ。


ん?そういえばあの時、一瞬足元が光ったような?


まぁなんだかんだで、ちょうど家と会社の中間あたりに位置するコンビニに差し掛かった時の事だ。

素通りするはずだった俺の鼻に漂ってきたのは冬の定番…そう、おでんの香り。

魅惑のスメルが俺の足を止めさせ、極限まで思考力を失った頭にさながら稲妻のような衝撃を与えた。

『ふえぇ、お腹なっちゃうよぉ!熱いのいっぱい食べたいのぉ!!』と俺のお腹の妖精さん(cv丹○桜)が可愛くおねだりしている脳内ビジョンを一通りこなしたところで、ふと家に帰っても食べ物が何一つないじゃないかと思った時だ。

気づいた…そう俺は、気づいてしまったのだ。

正気に戻った、とも言えるが…。


先ほどのシーンのあの異常なやり取り。

20代中盤のボロボロで薄汚れた男が、40代後半のこれまたボロボロでなんなら若干うっすらとしてきてるおっさんと抱擁をかわし涙を流したあの状況…


オエーッ!

あれは無いだろ、無いないナイ!

とても健全な男子の行いとは思えない異常さを孕んだ行動だ!

それに周りも周りだ。

あんな状況を前にしてぱらぱらと拍手しながら涙ぐむだなんてどう考えてもおかしいだろ。

何が「良かったな!」「うんうん!」…だ!

そもそも休みなく働いて休日出勤サービス残業なんのそのって状況から、本来あるべき形に戻っただけじゃねぇか!

揃いも揃って奇跡を垣間見たみたいな顔しやがって…前提からおかしいってのに誰一人としてそれを指摘できないのかよ!


ま、まぁ?俺もそんな場面に遭遇したら間違いなく同じ反応してた自信あるけど…。

何なら社内新聞の一面を飾るべくヒーローインタビュー張りに「今のお気持ちは!?」とか取材に向かってたかもだけど!


それでもあの空間から一歩外に踏み出した今だからこそ分かる、あれは最上級クラスの異常事態だった。

暇は人を殺す…なんて言葉があるが、多忙は心を殺すのだという事を身を以て知った体験だった。

これは本当にあったこわ~い話…。


でもアレだな!

いくら多忙で疲れ切っていたからって、何もかもを受けいれちゃダメだな。

それは思考の放棄、ただ言われるがまま働く奴隷と一緒だ!

みんなやってるからとか、いつもの事だからとか、そんなの関係ない。

誰かにとって都合のいい人間でい続けてたら人生ちっとも楽しくならないだろう。

だから今こそ声を大にして言わねばならないのだ!

俺を助けるのは俺自身!

例え何があってもどんな状況でも、俺は俺を全力で助けるのだ!


よぉし、やっちゃうぞぉ!

俺の反乱は今、この瞬間から始まるのだ!

うっし、手始めにコンビニに反逆だ!

おでんなど買ってやるものか!肉まんじゃ!あんまんじゃー!!


そうして俺は、さながら英雄の凱旋のように胸を張りコンビニへと足を踏み入れたのであった。




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