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希望の翼  作者: 美汐
第二話 花の記憶
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花の記憶3

 翌日、私は十六歳の誕生日を迎えた。その日は朝から雨だった。自分の部屋のカーテンを開け、窓を叩く雨粒の流れ落ちていくのを見つめる。

 昨日家に帰ってから、私は何度も同じことを考えていた。浮かんでくるのは谷村先輩の笑顔。すぐに頭を振り、友恵のことを思い出す。そんなことを何度も頭の中で繰り返していた。


 駄目。それだけは絶対に駄目。

 そう自分に言い聞かすのに、すぐに谷村先輩の顔が頭に浮かんでくる。


 お陰で、なかなか眠れなかった。せっかくの誕生日だというのに、心は晴れず、今朝の天気のようだった。

 私は友恵の恋を応援するって、心に誓ったんだ。大好きな親友が、私に相談してくれたんだ。それなのに。


 泣きたくなった。胸が締めつけられるように苦しくて、切なかった。


 私はその日、仮病を使って学校を休んだ。


「せっかくの誕生日なのに、大丈夫?」


 お母さんがそう言って部屋まで来て心配してくれていたが、私は嘘をついてしまったことが心苦しくて、早く一人にして欲しいと思った。


「寝たいから静かにしておいて」


 私がそう言うと、お母さんは黙って一階へと下りていった。私は布団を頭まで被り、目を閉じた。


 どうしよう。どうしたらいい?

 恋と友情どっちを選ぶ?


 そんなの、テレビや雑誌で話題に上がっても、自分には関係のないことだと思ってた。そんなのどっちかなんてどうやって選べばいいの?

 閉じた目蓋にぎゅっと力をこめる。

 でも、それでも。選べなくても選ばなくちゃいけないのなら。


 やっぱり一番は友恵だ。

 友恵を傷つけることだけはしたくない。

 だったら答えはひとつしかない。


「私がこの気持ちに蓋をしておけばいい」


 声に出して言ってみると、一層苦しさが増して、嗚咽が漏れそうになった。唇を噛みしめて、感情の波が落ち着くのを待つ。

 今まで通り。なにも変わらない。私がなにも言わなければ、それで済むんだ。

 その日の夕方、友恵が家までやってきた。


「友恵ちゃん来てるけど、どうする?」


「ごめん……。ちょっとまだ調子悪いから……」


 部屋まで訊ねに来たお母さんにそう言って、友恵には帰ってもらった。

 せっかく来てくれたのに、ごめん。明日からはいつも通りの私に戻るから。

 窓から小さく外を覗いた。外はまだ小雨が降っている。そんな中、傘を差した友恵が帰って行くのが見えた。その後ろ姿を見て、また胸がきゅっと締めつけられる。

 お母さんが再び私の部屋のドアをノックして入ってきた。


「友恵ちゃん。皐月に渡してくださいってこれを持ってきてくれたわよ」


 お母さんの手には、可愛らしくラッピングされた包みが乗っていた。


「友恵ちゃん。本当にいい子ね。毎年皐月の誕生日にはかかさずこうしてプレゼントしてくれて。いいお友達を持ったわね」


 お母さんは私にそのプレゼントを手渡すと、下へと戻っていった。

 包みを開け、中を見ると、可愛い花柄のポーチが入っていた。そこにはメッセージカードも一緒につけられていた。


『誕生日おめでとう皐月。

 いつもありがとう。

 これからの一年が皐月にとってハッピーでありますように。

                                     友恵』


 その友恵特有の丸みを帯びた文字を見て、視界が滲んだ。涙が溢れる。プレゼントを胸に抱きしめ、私はむせび泣いた。


 ありがとう。大好きだよ友恵。


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