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希望の翼  作者: 美汐
第二話 花の記憶
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花の記憶1

 友恵(ともえ)は、小学校からの親友で、中学も高校も同じだった。部活も同じテニス部に入り、いつでも一緒に行動した。

 お揃いのハンカチを使い、お揃いのバッグも買った。他にも違う友達はいるけれど、友恵は特別だった。こんなに気が合って、一緒にいて楽しい友達は他にはいない。

 ある日、友恵がこんなことを相談してきた。


谷村(たにむら)先輩って素敵だよね。つきあってる人とかいるのかな?」


「きゃあ、友恵。谷村先輩のこと好きなの?」


 友恵は恥ずかしそうにして慌てた。


「違うよっ。ちょっといいなって思うだけで」


「それが好きってことなんじゃん。きゃー。友恵ってば恋しちゃってるんだ」


「もうっ。ちゃかすんじゃない!」


 友恵は少しふくれてしまったが、怒っているわけではないことは長年のつきあいからわかっている。


「そうそう。谷村先輩と言えば、聞いた話によると最近彼女と別れたらしいよ」


 私がそう話すと、友恵は驚きと喜びを顔いっぱいに表した。


「嘘! 超チャンスじゃん。うわー、どうしよう」


「思い切って告白したら?」


「ええー。いきなり言って、引かれたりとかしないかな?」


「大丈夫だって。友恵可愛いもん」


 そう言うと、友恵は照れたように笑った。

 友恵は快活で、スポーツが得意だ。ショートヘアで、笑うとえくぼができちゃうところなんて、めちゃ可愛いと思う。自慢の友達。人懐っこくて、テニス部の先輩からも可愛がられている。

 対して私はちょっと人見知りなところがあって、すぐには人と打ち解けられない。テニス部でも、友恵の人柄の恩恵にあずかることで、輪に入れるようになったようなものだ。だから友恵にはいつも感謝している。


 谷村先輩は男子テニス部の二年の先輩で、テニスがとてもうまい。精悍な顔立ちで、結構かっこいい。あまり話したことはないが、コートにいるところを見ると、つい目で追ってしまう。

 友恵が好きになってしまうのもうなずける。私は友恵の恋を、親友として応援したい気持ちでいっぱいになっていた。


 しかし、やはりいきなりの告白よりは、少しずつ距離を縮めていく方法のが良いように思われ、私はその手伝いができないかとその機会を待つことにした。

 そして、その機会は意外とすぐに訪れた。

 それは、放課後の部活動の後片付けをしているときだった。


「谷村先輩、さっき足擦りむいてたみたいだよ。今、水で流しにいってる。友恵、絆創膏持ってたでしょ。持っていきなよ」


 女子の先輩は先に部室に戻っていて、周りの目もそんなにない。行くなら今だ。


「え、でも……」


 友恵は恥ずかしそうに目を泳がせた。いつもはこんなふうではないのに、谷村先輩のことになると、急に臆病になってしまう。そんなところが可愛いとは思うが、今は勇気を振り絞るときだ。


「早く早く。今がチャンスなんだって」


「わ、わかった」


 友恵はいきなりのことに驚いていたが、ポケットに入れていた絆創膏を手にすると、谷村先輩の元へと走っていった。

 私は少し離れたところから、二人の様子を眺めた。友恵は顔を赤らめて、緊張しているみたいだった。それでも絆創膏を差し出して、谷村先輩には受け取ってもらえたようだった。友恵は礼をすると、こちらのほうへ走って戻ってきた。


「受け取ってもらえたみたいだね。先輩なにか言ってた?」


「うん。ありがとうって」


 友恵はとても嬉しそうだった。顔が緩んでしまっている。私はそんな友恵を見て、やはり嬉しかった。

 その日の帰り、私と友恵はいつものように、バス停へと向かって歩いていた。友恵と私は家も近く、乗るバスも同じだった。必然的に登下校はほとんど一緒になる。


「あ、芍薬(しゃくやく)


 バス停へ向かう途中にある道沿いの家の庭に、芍薬の花が咲いているのに気づいた私がそう言った。ピンク色の大輪の花が見事に咲き誇っている。


「へー。皐月よく知ってるね」


「おばあちゃんちに咲いてる花だから。立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花って聞いたことない?」


「あー。あるある。なんだっけ。素敵な女性の形容詞みたいなのだよね」


「そうそう。まあ、なれるかって言われると難しいかもだけど」


「あはは。でもすごい綺麗だね」


 そんな話をしていると、頭上を白い小鳥が通り過ぎていった。


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