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希望の翼  作者: 美汐
第五話 きみとともに
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きみとともに1

 早朝六時半。近所の公園には、まだ誰の姿もなかった。空には朝焼けが見える。公園の遊具の上の方を、朝の陽光がその線を浮かび上がらせるように照らしていた。

 冬も近くなり、もう朝はかなり寒い。僕ははあっと息をつき、その白い息が空気に霧散していくのを眺めていた。


 今日も僕のが早かった。あいつ朝弱いからなぁ。

 そう思いながら公園のジャングルジムにもたれかかるようにしていると、静香が公園の入り口のところに姿を現すのが見えた。


「おおーい、静香しずか! 遅いぞ」


「やかましい。朝から大声出すなー」


 テンション低めの静香が、僕の顔を上目遣いに睨みながら近づいてきた。セーラー服のリボンがきちんと結べていない。ショートの頭も寝癖がついたままだ。


「ったく、もう少し女としての身だしなみに気をつけたほうがいいんじゃないのか。寝癖とリボン、ちゃんとしとけって」


「うーるさい! そんなことよりさっさと行くよ。部活の時間がなくなる前にっ」


「はいはい」


 僕と静香は同じ中学に通う幼なじみだ。部活も同じ卓球部に所属している。練習は男子は男子同士、女子は女子同士でやるのが基本だが、別に男女でしても構わない。僕と静香は、最近早朝練習で一緒に戦うのを日課のようにしている。夏の大会も終わり、三年生が引退して、僕たちが部長となったため、そのあたりは自由にさせてもらっている。


「くっそー。今日こそは孝介こうすけをめっためたに打ちのめしてやるっ」


「無理無理。もうちょっと腕を磨かないと」


「むっかつくー。絶対今日は勝つ!」


 静香とは幼稚園時代から近所に住んでいて、もはや兄妹のような関係だ。勝ち気で男勝りなところのある静香は、昔から女の子同士で遊ぶより、男の子に混じってサッカーしたりキャッチボールをしたりすることが多かった。運動神経もいいほうで、女の子だからといって男に負けてはいなかった。


 僕たちの住む町内の公民館には卓球台が置かれてあり、小学生のころから僕と静香はそこでよく卓球をしていた。そのおもしろさが病みつきになり、中学校の部活でも卓球部に入ったのだ。静香も同じように卓球部に入ったことは、正直嬉しかった。


 近所ということと、同じ部員同士ということから、朝はこの公園で待ち合わせて一緒に学校へ向かう。この公園は、この近辺では一番大きな公園だ。ジャングルジムに滑り台、ブランコや砂場などは一通りあり、昼間は小さい子供を連れた親子連れが多くやってくる。夕方になると今度は小学生たちが集まり、皆でカードゲームを持ち寄ったりサッカーをして騒いでいる。

 遊具のあるところを通り抜けると芝生広場もあり、ここでは休みの日などはよくフリスビーやバトミントンをしている人の姿が見られる。桜の木も多く植えられていて、春になると花見客が大勢やってくる。


 なかなかいい公園だと思う。本当はここは通学路ではないのだろうが、待ち合わせにもちょうどいいので、僕たちはいつもこの公園を抜けて学校へ通っているのだった。


「紅葉ももうそろそろだね」


 静香がそんなことを言った。上を見上げると、緑色だったもみじの葉が少しずつ赤く色づき始めていた。この公園には多くのもみじの木も植えられていて、紅葉も楽しむことができる。そろそろそんな時期も近づいているのだなと、しみじみ思った。しばらくそれを立ち止まって眺めていると、静香が「早く行くよ」と急かしてきたので、僕は再び歩き始めた。


 来週くらいにはもみじも赤く染まっているだろうか。

 その赤い光景を思い描きながら、僕は学校へと急いだ。


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