流星雨4
どれだけ歩き続けたのだろうか。もう随分歩いてきたような気がする。しかし、遠くに見えるあの光は一向に近づく気配がしない。それどころか、逆に遠ざかっているようにも思える。細く頼りない道は、少しでも気を抜けば足を踏み外してしまいそうだった。夢の中のはずなのに、足は疲れ、胸は激しく拍動していた。息が苦しくてたまらなかった。
しかし、諦めるわけにはいかなかった。なにがなんでもあそこに辿り着かなければいけない。あの光は僕が生きることのできる、最後の希望。
行かなくてはいけない。なにがなんでも。
僕は歩みを進めた。まだまだだ。こんなもので、到達できるはずがない。こんな程度で弱音を吐いている場合じゃない。
そうして歩いていると、ふいに風を感じた。
それは前方から吹いてきていて、歩みを進めるたびに、強さを増していった。一歩一歩踏みしめるように前へと足を踏み出す。しかし、歩みを進めるたびに風は強くなっていき、やがて、一歩を踏み出すことすら困難になっていった。
一歩一歩が重くなり、体の疲労感は急激に増していく。また一歩踏み出そうと足を前に出すが、その一歩の重さたるや、体中に重しをつけられてでもいるかのようだった。
荒れ狂うような強風は、僕を押し戻そうと、轟然と猛威を振るう。少しでも気を緩めようものなら、簡単に後ろへ飛ばされてしまうだろう。
僕はそこで踏ん張った。絶対に飛ばされるわけにはいかない。
優星。真知。待っていてくれ。絶対にそこへ辿り着いてみせるから。こんなところで負けたりなんかしないから。
一歩、また一歩と歩みを進める。吹き飛ばされそうになるたび、ぐっと足を堪えて踏ん張る。
あの男が言っていた、意志の力という言葉が脳裏に蘇る。
本当に、これは強靱な意志の力がなければあの光に近づくことができない。それをまさに今、体感していた。
一歩。さらに一歩。どんどんと重くなっていく体を、必死に前へと進ませる。
体が引きちぎられそうだ。目も開けていられない。
強風はさらに猛威を増して、刺すような痛みをともないながら、僕の体に叩きつけてきた。僕はそれでも負けずに、一歩ずつ足を踏み出していく。
そのたびに、全身が切り裂かれるような痛みを感じた。烈風がかまいたちのように、僕の体を引き裂いていく。僕は絶叫した。
たまらない痛みに心が折れそうになり、ふわっと体が浮きかけた。
駄目だ。踏ん張れ! 踏ん張れ!
諦めるな!
生きろ!
僕は必死にそう自分自身に言い聞かせ、そこに踏みとどまった。ぼろぼろで、体力などとうに使い果たしていたが、僕は意志の力だけで、そこに立っていた。
全身の痛みはさらに強くなっていた。吹きつける風の威力はなおも衰えることはなかったが、僕はそれでも歩くのをやめなかった。僕を動かしているのは、もはや意志の力だけだった。
生きたい。生きたい。生きたい!
風はナイフのようになり、僕の体の肉を切り裂き、そぎ落としていった。耳はちぎれ、目はやがて見えなくなった。このままいけば、僕の体はバラバラに切り裂かれ、やがてはなにもなくなってしまうだろう。
だけど、それでも諦めたくはなかった。行かなくてはいけない。僕にはまだ、やらなくてはいけないことがある。
優星との約束を、果たさなくてはならないんだ――。




