♯009 人は欲望に忠実な生き物である
人の表現は例外はあるが大半が分かりやすい犬科と分かりにくい猫科に別れるそうだ。
では、犬と猫の尻尾の嬉しいという喜びの表現の違いについて知っているだろうか。
犬は尻尾をブンブン振って猫は尻尾をピーンと立てる行動をする。
因みに猫が尻尾を振っているときは“イライラ”である。
何が言いたいのかと言うと自分は猫科だと思っていたがどうやら犬科だったらしい。
理由は今現在ゲームを一緒にやる為に詩音の部屋に居るのだが、もしも尻尾があるならば自分では抑えきれずに千切れんばかりに全力で尻尾が振られていることだろう。
だから、ポーカーフェイスがなければ、それは表情でも出ていた可能性がありその場合は無様な姿を晒して兄の威厳は失墜していたかもしれない。
本当にポーカーフェイス様々である。
それはさておき、妹と親密になって部屋に入れて貰うには正直もう少し時間が掛かるとは思っていた。
けど、姉妹と談話で色々聞いたりしていたのだが妹の好感度が思った以上に高かったみたいだ。
なので姉達が風呂や着替えで妹と2人の時に“そういえば詩音は、ゲームどんなのしているの?”と聞いてみたら話が弾んだので、最終的に“お兄ちゃん部屋にきて一緒に遊んでみる?”まで誘導入れながらやってみると持っていくことができた。
その結果が“部屋に入れて貰えた”である。
あざとい?目の前に目的の一つがあるというのにそのまましとく訳がない。
ねぇねぇ、誘導するようなスキル持っていたっけ?ああ、スキルは持ってはいないけど持っていなくてもこれくらいなら問題なく…というかスキルがないとできないという固定観念に囚われすぎではないだろうか。
さて、詩音に呼ばれたので話戻すがクローゼットの方に移動した。
「お兄ちゃん…何のゲームする?」
開かれたクローゼット8畳程の中には大量のゲームが整頓されてあった。
『ほうこれは、我が妹よなかなかやりおるな!』
目の前に写るゲームの品数にニヤケそうなのを抑え、妹を心の中で褒め称えながら2人でできるジャンルをチョイスして貰うことにした。
「何か一緒にプレイできる格ゲーかレース又は協力プレイできるものはある?」
「ん……お兄ちゃん、P〇6とかでもいい?」
「うん♪お任せでお願いするね。」
“4じゃあなくて6?”自分が知っているのはP〇4迄だが世界が違うのでそういうものだろうと思って詩音に任せることにした。
妹が取り出してる間に部屋を見渡す。
妹の部屋にきて…いや転生してからなのだが、自分の部屋やリビングでもテレビを見ていないのである。
“ゲームをするにはモニターが必要なんだけど…”そう思っていると詩音がゲーム機とゲームをベッドの近くに運んでセッティングしていたのでそちら側に行った。
詩音が自分のベッドにあったリモコンを操作して“ピッ”と音がしたと同時にベッドの近くの台の様なものからモニターがフッと現れた。
『……はっ?…マジ?』
驚いた…俺のペラペラのステータス画面の様な46インチはあるだろうワイドウインドー画面が台の上に現れたのだから俺は目が釘付けになったのである。
『電子?粒子?えっ!どうなってんの?携帯は普通に同じだったのに…こっちのモニターは未知の技術とか…調べてみてー。』
そう思っていたが段取りが終わった妹に何をプレイするか聞かれ知的探求より欲望を優先するのだった。
*
『ヒャッハ―――!妹よ、ケツにとりついたぜ!!』
俺は現在2回目のプレイで詩音製作のバリバリチューンナップしたミニクーパーで追撃中である。
『貰った!!隙あり。』
「あっ……お兄ちゃん上手だね〜。初めてじゃない…よね。コーナーの切り方とか…カットの仕方なんかも……。」
「アハハ、いや初めてだよ。『このゲームはね♪』」
「む〜。」
1回目の時で接待ゲームを行っていた妹に対してお互い楽しみたいから本気でやって欲しいと頼んで妹を負かしている大人気ない中身37歳がそこにいた。
2回目のプレイが終ると同時に妹に“ちょっと待ってて”と言われて待っているとヘッドフォン付きのバイザーを2つ持ってきて取り付けはじめた。
「詩音?」
「お兄ちゃん慣れているようだから玄人向けで遊ぼうかと…。」
「玄人向け?」
「えっとね。これつけるとキャラクターの視線でできるの。」
『!?、なんですと〜!!』
ただ画面がより視界に近くに替わるだけのバイザーだと思っていたのだが、どうやら違ったようだ。
『グラフィックとかがよりリアルになっているな〜ぐらいにしか思ってなかったが…こんなオプションがあったとは…。侮れんな異世界(笑)。』
使い方を聴きながら装着してプレイすると話しで聞いたとうりドライバー視点で車内から前後左右に頭を動かした方向に車外が視界に写り込む。
『何これ、スゲー。キャラの体が車体の衝撃でブレると視界もブレる…車を運転しているのとほぼ代わらないとかマジすげー。』
妹との差を拡げられながらゲームの出来に驚いて余所見運転をしていたらコースアウトでフッと飛んだ。
『アハハ、ヤベー。コースアウトしたら視点回転とかまで再現してるのかよ。チョ〜楽しい(笑)♪』
「む〜。お兄ちゃん、真面目やって!」
「あっ!!ごめんね。あまりに視点が凄かったものだからつい…。」
観察にのめり込んでしまって妹とのプレイに集中していなかった…反省だなと思いながら4回目のプレイに挑むのだった。
*
その後、何戦かしばらく遊んでいると急に妹がソワソワし始めた。
トイレか?と思ったが、そろそろ0時近くになっていたのでゲーマーだった自分にも思い当たることがあったので聞いてみた。
「詩音、もしかしてイベント?」
「!?………うん。」
「そっか…僕は部屋に戻ることにするよ。帰る前にどんなネトゲしているのか聞いてもいい?」
邪魔するのも悪いし、よくよく思えばゲーム優先でヤバそうなスキルを取得しても放置していた事もあったので、申し訳なさそうにする妹に興味本意でどんなネトゲをしているのか聞いてから部屋に戻ることにした。
「あのね…これ最新の機種でワールドっていうの。1人専用の実体験できる“MVR”でラクリラっていうオンラインゲームをしてるの♪」
質問に対して妹が急に立ち上がりベッドの所にあったバイザーを持ってきて見せて教えてくれた。
実体験と聞き略式のような単語がでたのでまさかと思い聞いてみた。
「し…詩音さん……MVRは“Machine Virtual Reality”とかの略式ですか。其れは仮想空間で実体験ができるあれですか?」
「ん?詩音…さん?……略式は覚えてないの。でも、仮想空間はね、合ってるよ。触った感触や匂いがしたり…あとねぇ〜ご飯も味があったりして楽しいの♪」
何気に聞いたつもりが思わぬ収穫に手をワナワナと震わせ余りの驚きに軽く素が出てしまった。
「…そっか、それは楽しそうだね。」
そう答えた次の瞬間、俺の心の中に筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の漢が顕現した。
俺と彼は右手を天に掲げると一言。
『『我が生涯に一辺の悔いなぁ―――し!!』』
そして、シンクロしたのだった。
不意に頭の中に『スキル“裸王”を取得しました。』とメッセージが流れたが今はそんなことがどうでもいいほどテンションが限界突破していた。
『神様マジありがとう。転生させてくれてありがとう―――――――――。』
そうして、この男はその日の内に手の平を返した…そう餌を与えれば千切れんばかりに尻尾を振る、粉うことなき馬鹿犬がそこには存在していた。
*
「そろそろ僕は部屋に戻るね。遊んでくれてありがとう。また遊んでくれると嬉しいな♪じゃあね、詩音お休み。」
「うん、お兄ちゃんお休みなさい。また遊ぼうね♪」
我に返った俺は挨拶を交わし詩音の部屋をあとにした。
廊下に出ると直ぐに索的をかけつつ取得したスキル確認していった。
ロリキラーZ
[任意。ロリキラーの強化版。Zの名前は伊達ではない!!ロリコン野郎に対してサッと一吹き!一撃必殺効果超絶大。]
『…………何これ…強化版、超絶大って、使ったら俺ごと殺る気か?封印だな…。』
暗歩
[任意。主に暗殺用。相手との距離感を狂わせて近づく為の歩方。]
エアマスター
[任意。隠密用、使用者の匂いや足音も消す。空気のような存在に一時的になれる。誰もあなたに気がつかない。効果時間60分、リキャスト時間180分、他のスキル使用や声を発したり、人や動物に触れると強制解除。]
『……まあ使えないことはないか。』
裸王
[自動。裸の状態の時に発動。気力、体力の激UP。発動中は脳筋化。]
『裸で自動発動、激UP…夜の営業用(ベッド活動)か…しかも脳筋化のオマケ付き…………すまんな、シンクロした友よ…お前とは共存できそうにない…封印。』
そうして部屋に着きスキルの処置もすんだことでスマフォで調べものをして、就寝に入り長かった1日がようやく終わったのだった。




