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魔女の庭  作者: かずさ
森の魔女
4/6

夢の檻

 形のない真っ白な空間の中。正反対の色彩を纏う魔女の腕の中には、ふっくらとした少年が抱えられていた。


 少年は、眠っていた。呼吸に合わせて、微かに胸が上下している。

 魔女は辺りを見回した。そして確信した。ここは、この少年の夢だと。

 もう一度、魔女は少年に目を落とす。相変わらず、起きる気配はない。

 不意に、魔女は思った。夢の中で見る夢は、一体どんなものなのだろうか、と。


「ん……」

 不意に、腕の中の少年が身動いだ。そして、眠たげにその目をこすりながら、呟いた。

「……おかあさん……?」

 こども特有の、少し高くて甘い声だった。

 その声だけで魔女は悟った。少年は忘れてしまったのだ。先程までの、現実の世界のことを。


 魔女は、ひとの心に聡かった。そして、冷静だった。魔女の呼び名に恥じない程度には。

 だから、自分ができると思ったことを迷い無く行った。


「大丈夫。もう少し眠りなさい」

 魔女が少年の髪を梳く手つきは、まるで慈愛に満ちた母そのものだった。それはつくりものに限りなく近かったのだけれど。


「……おやすみ、なさい」

 安心しきったような声が聞こえてきた。魔女は、瞑目した。そして、心の深くにそれを仕舞い込んだ。

 なんと、穏やかで、満ち足りた言葉であることか。


 しかし、救われない。

 少年が、ただ逃げるためだけにここへいるのであれば。

 けれど、夢の中でなら、きっと幸せになれるだろう。醒めない夢へと追いやったのが誰なのか、ずっと知らないままでいられるだろう。


 夢の世界は現実と違って、はるかに綺麗で、優しい。例え、それが幻であろうとも。

 それを望むなら、幸せだというのなら、魔女として叶えよう。

 それがどれだけ、残された者にとって残酷であっても。


 夢という名の檻。どうか、それが少しでも優しく、幸せであるように。

 魔女は、心より願う。


 腕の中で、少年は、眠る。

 それが、まがいもののしあわせだと知らぬまま。

 ただ、ゆめのなかで、ゆめではないゆめを、みる。


(初出 2007.4.8)

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