守銭奴王女、内職に精を出す2
地道な作業も今日で区切りが付きそうだった。残った一山の破片を分類し、片手で掴んだ最後の一つをランゼル神の台座に乗せる。
「よし、これで終わり!」
達成感で大きく叫び、汗が滲んだ額を手の甲で拭う。
「どう?満足した?」
煩く指示していたハニワたちを得意満面で振り返ると、いきなりハニワたちは一斉に飛び上がって回転しながら強く光りだした。
「え!ちょっと何して!」
何が起こっているのか分からずに片腕で目元を覆う。床が大きく揺れ、ゴゴゴと轟音が響く。同時に石と石がぶつかる音が聞こえ、それが数分続いた。
(まさか、また変動が起こっているの?)
床に蹲ってアリーは頭を庇う。しかし、全ての音が鳴りやんだ瞬間、アリーは空気が変わったことに気付いて目を開いた。
「修復が…終わっている?それにこの気配は…」
剥き出しの床と瓦礫の山だったそこは、厳かな神殿に変わっていた。白い床とレリーフの施された壁、立ち並ぶ柱の一つ一つも今建てられたばかりのように美しい。石造りの祭壇と七つの台座も完璧に再現されている。しかし、アリーが積み上げた聖遺物だけは、復元されていなかった。
「いったい…何が起きたの」
呆然と座り込んだままのアリーを放って、ハニワたちは神殿の中を踊りながら回っている。
「アリー!何をやった?」
そこへ異変に気付いたヴォルフが飛び込んできた。
「私じゃないわよ!」
濡れ衣だとアリーは叫び返すが、続けてやってきた三人も懐疑的な視線を彼女に向けてきた。
「いや、土魔法で石を動かしていたアリーなら、これくらいのことは可能だろう?」
自分たちの住処を魔法で作ったことを挙げて、ブランドンが言う。
「そうだね、他の誰にこんな奇跡を起こせるわけ?それともこれも魔道具かなにか?」
興味津々でニコラスが聞いてくる。
「でも、すごく綺麗な神殿になったのね。何か厳かな感じがするわ」
うっとりと両手を組み合わせ、ジェイダが高い天井を見上げる。
「だから、私は何もしてないの。ひたすら瓦礫を片付けていたら、ハニワちゃんたちが急にパーッと飛び上がって。ちょっと、ハニワちゃんたち…何をしたのか説明してくれる?」
仲間に言い返す途中で、アリーはハニワたちに呼びかけた。
『アリー様のおかげヨー』
『神様、きっとお喜びヨー』
『アリー様、見て見て。美ボディフッカーツヨー』
嬉しそうに寄ってくるハニワ達を見下ろし、アリーは「んん?」と目を眇め両手でハニワ達の筒状の身体を撫で回す。
『やーん、エッチー』
棒読みで恥じらう赤い花のハニワを持ち上げ、アリーは驚きの声をあげる。
「ひび割れが直ってる?」
『フッカーツよー』
新品同然のボディを自慢げに反らし、赤い花のハニワが続けた。
『神域もフッカーツヨー』
「神域?マジで?」
『まじヨー』
王女にあるまじき言葉使いで驚くアリーに、赤い花のハニワが嬉しそうに答える。それを怪訝な表情で見ていたヴォルフが仲間を代表して聞いた。
「で?何が起こったんだ」
「えぇっと…簡単に言うと奇跡的な、何か?」
首を傾げながら答えるアリーに、冒険者は呆れる。
「つまりお前にも分からないということか」
その通りだったので、アリーは無言で頷くしかなかった。
隔離された無人島にいきなり神殿が現れたことに、仲間たちは驚きつつも次第に慣れていった。『大変動』だからという言葉は全ての免罪符になるようで、アリーも無理矢理自分を納得させるしかなかった。
しかし、奇跡はこれだけで終わらなかった。
翌日、神殿の周囲に植物が芽生え可憐な花が咲き始めていた。
「奇跡って凄いわ~」
早朝の神殿に祈りを捧げにやってきたアリーは、色とりどりの花に乾いた笑いを漏らした。
「絶対におかしい。なんで聖域が広がっているの?ねえ、ねえ、どういうこと?」
アリーは傍らの赤い花のハニワを両手で揺さぶった。
『アリー様のせいヨー。神様の御髪毟ってきたヨー』
「なに恐ろしいことを言ってるのよ。私がいつ、そんな…ああああ!」
反論しかけて、アリーは両手で頭を抱えた。
残念なことに心当たりがあった。大変動の最中、ほんの一瞬自分だけ別の場所に迷い込んだのだ。そこで神の一柱と邂逅した記憶がある。しかし、それは酷く朧気で曖昧なものだった。
ご尊顔も、お言葉も何一つ残っていない。ただ、指に絡まっていた銀糸のような御髪のみが、邂逅の証拠だったのだが…。
「そういえば、あの髪はどこへ?」
『ココよー』
即座に赤い花のハニワが答える。
「え?なんで、いつ?」
全く記憶にない。
『最初の夜ヨー。アリー様ウッカーリ、落としたヨー』
結局自分が元凶だったことが判明して、アリーは再び頭を抱え唸った。が、すぐに体を起こして開き直ったように笑った。
「まっいいか!おかげで神殿も、ハニワちゃんたちも復活したんだからね」
その言葉に赤い花のハニワが、アリーに勢いよくしがみつく。
『アリー様、好きヨー。がめつくても好きヨー』
一方、体当たりされたアリーはウッと息を詰まらせながら、ハニワの頭を掴んだ。
「一言多い!」




