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守銭奴王女、帝国の学生たちから巻き上げる 改稿

国名を変更しました。


前の話もおいおい修正していきます。


×グラテディオン→○グラディオン


「ダンジョンに入れないとはどういうことなのだ」

「遠路はるばる足を運んで来たんですよ」

「まさか、このまま帰れと言うのか?最悪なんだけど…」


『三の森』がいつになく騒がしい。


「だからね、中に入るためには王家発行の許可証が必要なのよ。それを持たずに、王家所有の森に入っただけで、あなたたちは略奪者になるんだけど…私の話を聞いている?」


 呆れたような女性の声が聞こえてくる。


「エラさん、何かありましたか?」


 落ち葉を踏みしめながら栗色の髪の少女が近づいていく。ここはランゼリア聖国と隣国ラルネラの国境近くにある王家所有の森の一つである。七つある森には、それぞれ神々が造ったと言われるダンジョンがあり、そこからは聖遺物と呼ばれる神代魔道具が見つかっている。

 しかし、三十回潜ってようやく一つ見つかればいいという確率の低さと、ダンジョンの難易度から、冒険者たちには敬遠されていた。そのため、ランゼリア聖国には滅多に冒険者がやってこないのである。

 冒険者がいなければギルドも拠点を作らないので、ダンジョンの管理は王室と近隣の住人がしていた。


「アリーさん、いらっしゃったんですか」


 エラと呼ばれた三十代半ばの女性が笑顔で少女を迎える。聖国の民らしくエラは絶世の美女だ。対するアリーという少女は地味な風貌で、厚手の旅装と相俟ってなんとも冴えない。

 彼女こそ、グラディオン帝国王太子ウィルフレッドの側妃候補になるべく、旅立ったアリアンナ王女その人だった。

 ちなみに王女は、アリーという名前でランゼリア聖国の数少ない公認冒険者として、隣国ラルネラのギルドで登録している。容姿が違うのは、アーティファクト『オルシェの腕輪』で姿を変えているからだ。


 美と芸術を司る女神オルシェが作った『四の森』ダンジョンで見つかるそれは、本来は美しく変身したいという女性の望みを叶える魔道具だ。

 アリーの場合は冒険者として活動するために、他国でも馴染む姿を選んでいるのだが、本人はそばかすの浮いた陽気そうなこの顔を気に入っていた。


「こんにちは、今日の当番はエラさんだったんですね。それで…こちらの方たちは?」


 アリーはダンジョンの前で、怒ったように睨んでくるグループをちらりと見た。四人の冒険者風の若者たちだ。剣士らしき男が二人、魔道士らしい少年が一人、紅一点の少女は回復魔法を使う治療士ヒーラーというところだろうか。


「グラディオン帝国の冒険者ギルドの方たちです。いきなりやってきてダンジョンに入れろとごねられて、困っていたんですよ」


 溜息混じりに説明して、エラは助けを求めるようにアリーを見た。なんとかして下さいと、その瞳が訴えている。


「分かりました。私が話を聞きますから、エラさんはお昼の仕度に行っていいですよ。チビちゃんたちがお腹空かせているでしょう?」


 エラは森と隣接する村の住人で、可愛い子供三人と農夫の夫と暮らしている。その村の住民全員が森の監視役で、ダンジョンの見張りも村人が交代で行っていた。礼を言ってエラがその場を離れると、冒険者たちがアリーに詰め寄ってきた。


「君、なぜ勝手に管理者を帰しているんだ。まだ、こちらの用事は済んでないぞ」


 大きな声で叫ぶのは赤毛の大柄な青年だ。蒼竜の革を贅沢に使った胸当てを付け、背中には柄頭に魔石を嵌め込んだ両手剣を背負っている。


「彼女は管理者じゃないですよ。ただの見張り当番です。村人が交代でこの森とダンジョンを監視しているんです」


 アリーは穏やかな声で説明すると、冒険者たちを見渡した。四人とも彼女とたいして歳が変わらない若さだった。


「それじゃ本当に王家に許可証を発行して貰わないとダメなのか?」


 長い金髪を一つに括った魔道士が落胆したように聞いてくる。背が低く、まだ少年のような顔をしているが、その手に握られている杖は魔木の古木で造られた高価なものだ。


「その前にいい?あなたたちは冒険者ギルドの人間じゃないわよね」


 確認するように聞くアリーに、魔道士の少年が目を泳がせる。


「な、なんでそんなことが分かるのよ」


 うろたえながら聞き返す治療士は、プラチナブロンドの巻き毛に、青い目の可憐な美少女だ。身に着けているマントは真新しく、裏地には紅豹の毛皮が使われていた。


「冒険者ギルドに所属していれば、ランゼリア聖国にギルドが無いことも、ダンジョンに入るためにどんな手続きが必要か、簡単に情報が手に入るわ。こんな僻地のダンジョンでも、それを糧にしている人間はいるのよ。冒険者の資格もない人たちに荒らされては堪らないわ」


 アリーの口調は厳しかった。


「資格は持っている」


 今まで黙っていたもう一人の剣士が口を開いた。無造作に伸びた黒髪と青い瞳の、野生の獣のような男だった。もう一人の筋肉質の剣士より上背はないが、細身の体はよく鍛えられている。彼が身につけている装備は、使い込まれた石竜の革の胸当て、裾が擦り切れた飛竜の革マントと、ギルドでそれなりに稼いでいる冒険者のそれだった。

 アリーは改めて男に視線を向けて納得した。他の三人からは貴族特有の高慢さと甘えが伺えたが、その男からは同業者の匂いがした。


「それなら知っていたんでしょう。どうして手間を省こうと思ったの?」


「時間がなかった。後からギルド経由で許可をもぎ取ろうと思っていた。ダメなら管理している村人に賄賂でも渡して…」


「それはダメでしょ」


 即座にアリーは言い返す。


「それでも無理ならちょっと脅して…」

「更にダメ。は~、私がここに居て良かったわ。あなたたち、彼の作戦でダンジョンに入ったら大変な目に遭っていたわよ」


 呆れてアリーは溜息を吐く。


「そうなのか?」


 悪びれることなく黒髪の冒険者が首を傾げる。


「扉を抜けた途端に、侵入者専用の牢獄に転送されるの。魔法も武器も通用しない場所で、ギルドか身内が保釈金を払うまで、ずっと過ごすことになるわよ」


 彼女の説明に四人はぎょっとする。


「知らなかったのだ。どうすればいい?どうすれば、その王室の許可証を取れる?我々には時間がないんだ」


 赤毛の剣士が切羽詰った表情でアリーににじり寄り、魔法使いの少年と治療士の少女も必死に懇願する。


「何か方法があったら教えてくれ!」

「お願い!友だちの未来が掛かっているの!」


 どうやら何か訳があるようだった。アリーは黒髪の冒険者に視線を向け、無言で説明を促した。


「事情を話す。ただし、時間が無いのは本当だ。このダンジョンで手に入るものを持って、急いで帝都ルードに戻らなくちゃいけない。猶予は残り五日…最短の帰還方法を使っても、ダンジョンに潜っていられる時間は二日しかない」


 黒髪の青年は淡々と説明した。


「それを踏まえて解決方法を探す必要があるってことなのね。いいわ、話を聞かせて」


 アリーはそう言うと、見張り小屋の中に四人の若者を招き入れた。


「まず、数々の非礼を詫びる。俺はブランドン…家名は許してくれ。魔道士のニコラスと治療士のジェイダは、帝都ルードの王立貴族学園に通う友人だ。ヴォルフは、今回の旅の案内役を頼んだ帝都の冒険者ギルドの人間だ」


 ブランドンと名乗った男が代表して話し始めた。


「四日前、俺たちの学園で大きな事故が起きた。集団で広域魔法の訓練をしていた際に、魔法が暴走したんだ。巻き込まれた生徒や教師は五十人近くいて、その大半が重症を負った」


「運が悪かったんだ。彼らが訓練していた魔法がトルネードだったせいで、巻き込まれた人たちは風の刃に体を切り刻まれた」


 アリーが淹れたハーブティーを飲みながら魔道士が続けた。


「すぐに私たち治療科の生徒が手当てしたから、幸いにも死者は出なかったわ。でも、失った腕や足はどうにもならなくて、このままじゃ学園に居られないどころか…」


 治療士の少女が言葉を濁す。貴族のための学園なら怪我をした生徒も貴族のはずだ。学園を辞めても領地に戻れる恵まれた家庭の生徒は良いが、下級貴族の子女ならそのまま見捨てられる可能性もある。


「なるほど、それであなたたちは『再生の杖』の探しに来たというわけね」


 事情を聞いてアリーは頷いた。『三の森』ダンジョンで見つかる聖遺物に、人体を再生させる奇跡の杖がある。一本の杖で10回と使用回数が限られているため、市場に出ることはほぼないと言われている。


「俺の目的は別にあるけどな。それはさておき、なんとかすぐに中に入れないか?」


 ヴォルフが先を急ぐように聞いてきた。


「その前に聞きたいんだけど、どうしてメラナ神殿に怪我人を連れていかないの。女神の神官なら完全回復の魔法が使えるでしょう?『再生の杖』を探すよりも簡単だと思うんだけれど…」


 話を聞いている間にアリーは首を傾げていた。主神ランゼルの妹神であるメラナ神は、生命と大地の女神だ。神殿では病気や怪我の治療も行っていたはずである。


「帝国とその属国には軍神カイ以外の神殿はない。邪神は全て排除されている」


 ブランドンの答えにアリーは耳を疑った。


「まさか、本当に軍神以外の神々を全部追い出したのね。それじゃ治療士は、どこで治療魔法を

習得しているの?」


「勿論、学園で習うわ。南イルティアで治療魔法を研究してきた先生に師事しているの。メラナ

神殿の怪しい術とは関係ないわ」


 治療士のジェイダが胸を張って答えるが、アリーは頭を抱えたくなった。


「南イルティアはメラナ神の信仰に篤い国よ。あなたの先生は間違いなくメラナ神殿で学んでいるわよ。まあ、いいけどね。グラディオン帝国が神々の加護を失おうと、私には関係ないもの」


 溜息のように囁き、アリーは気を取り直したように姿勢を正した。


「一つ、ダンジョンに入れる方法があるわ。私はランゼリア聖国の公認冒険者だから、私とパーティを組めば一緒にダンジョンに入れるようになるわ。ただし、許可証発行に掛かるはずだった金額は納めてもらうわよ」


 彼女の提案に学生たちの表情は明るくなるが、ヴォルフだけは淡々とした口調で聞いた。


「で、いくら掛かるんだ?」

「一人金貨一枚!一万メドよ!」


 即座にアリーは答える。


「高い!四人で四万メドとはボッタクリだ。西イルティアで見つかったばかりの孤島ダンジョンだって、許可証はパーティに一つに付き一万メドだったぞ」


 今、大陸で一番人気の新ダンジョンのことを持ち出され、アリーは舌打ちする。


「舌打ちしたわ、この子」

「守銭奴だったのか」

「大人しそうに見えて恐ろしい」


 治療士、魔道士、剣士の三人が頭をつき合わせてコソコソと話している。


「そこまで知られているんじゃ仕方ないわね」


 見つかったばかりのダンジョンは、発見者の権利を守るために、許可証という名目で入場料を撤収されることになっている。

 発見者が最深部まで攻略すれば、ギルドに権利を譲渡して、それ以降は許可証は必要なくなる。もし、発見者が攻略を放棄すれば、ギルドが代わりに上級冒険者を派遣することになっている。

 孤島ダンジョンはまだ踏破されていないため、現在開放されているのは地下三十階までだ。発見者はそろそろ五十階に到達しているというから、近々四十階まで潜れるだろう。海に囲まれた島のダンジョンは、見つかるお宝も独特でアリーも最深部の解放を楽しみにしていた。

 ダンジョン一つ見つければ、その者は国家予算に匹敵する富を得ることになる。羨ましい限りだが、そうそう簡単に見つかるわけも無く、孤島のダンジョンも三十年ぶりの新発見だった。


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