箱庭の勇者
あるところに、箱庭の国がありました。四方を高い壁に囲まれた国でした。
この国には王様とお姫様、それに魔王がいます。
国民は正体のわからない魔王を怖がり暗くひっそり暮していたのです。
ある日、魔王から王様に手紙が届きました。
「私はお姫様を頂きたいと考えている。一度話をしてもらえないだろうか」
お姫様が欲しいと言う魔王に腹を立てた王様は国中に魔王を倒した物にこの国をやろうとお触れを出しました。
しかし正体のわからない魔王が怖くてなかなか名乗り出る者はいませんでした。
そんな中、2人の男が王様に名乗り出たのです。
2人は親友でした。1人は賢く、聡明で、もう1人は強く、勇敢でした。
強い男は姫に一目ぼれ、お姫様も強い男をとても気に入り高価な剣を送りました。
王は2人に命令します。
「お前達、必ず魔王の息の根を止めるのだぞ」
強い男は「お任せください」と大きな声で返事をしました。
国の外れの魔王の住みかにたどり着いた2人は魔王と呼ばれる者と相対します。
「武器を収めてくれないか、私はあの姫が愛おしくて仕方がない。駄目でもいい一度話しがしたいだけなのだ」
賢い男は強い男に言いました。
「魔王というがそれほど恐ろしい感じもしない。一度話を聞いてやってもいいのではないか。実際に何かやったわけでもないことだし」
「何を言う、王様より必ず息の根を止めるようにと言われたではないか。姫を狙うだけで死に値する。邪魔をするなら…」
強い男は姫から貰った剣で賢い男も魔王も殺しました。
王様の命令を受け、自分が思ったとおりに悪い魔王を成敗できた。強い男は満足でした。
1人戻った強い男を王様は勇者と呼び、国民はみんな外へ出て不安なく働き国は栄え、平和になりました。
勇者はお姫様と一緒に過ごし、国民の人気者。
王様は少しづつ勇者の人気が妬ましく思うようになりました。
ある日、王様は勇者を呼び出し命令します。
「北の洞窟に恐ろしい魔物がいるといううわさがある、国民の為様子を見てきてもらいたい」
「かしこまりました、みんなの不安を取り除いてみせます」
みんなの為にと意気揚々と洞窟に向かう勇者。
洞窟にはお城の兵士がたくさん待ち構えていて、いきなり襲ってきました。
勇者はボロボロになりながらも兵士達を皆殺しにしました。
ボロボロのままお城に戻った勇者は王様に尋ねます。
「なぜ、こんなことをしたのですか」
「お前にはわかるまい」そういい残して毒を飲んで死んでしまいました。
勇者は王様になりました。国民は新しい王様の誕生を喜びました。
隣にはいつもお姫様が一緒です。どこへ行くにも何をするにも一緒です。
仲の良い二人の姿に国民は安心してこの国は益々平和になりました。
時は過ぎ、平和なこの国は人も増え、四方の壁の隅々まで人が行き交うようになりました。
お城で今日も王様とお姫様が一緒に座っていると恰幅のいい男が入って深く頭を下げて言いました。
「王様、貧しい者達が私の財産を奪おうとするのです、正義の旗の下どうか成敗してください王様」
王様はそれは困っているだろうと貧しい者達を根絶やしにしました。裕福な者にとってこの国は平和になりました。
ある日ずっと一緒にいたお姫様の姿が見えません。
王様はうろたえ、城の中を探し回りました。暫くするとお姫様は姿を現しいつもと同じように王様の隣を歩きます。王様は何も訊かずいつも通り過ごします。
それから、時々お姫様が見えないときがありました。王様はそのたびうろたえ、何も訊きませんでした。
ある日、いつものようにお姫様が見当たらず探し回っていると、城門のところに恰幅のいい男とお姫様がそれぞれのお供と一緒に居るのを城の上から見つけました。
王様は腰に提げた剣を抜きながらしたまでまっしぐらに駆け下り…
「これは王様、見つかってしまいましたね姫様」
そういいながらにやにやする男を一太刀で切り殺し、さらに振り向き様にお姫様に切り付けました。
「なんで…」
お姫様は何かを大事そうに握ったまま死んでしまいました。
王様はそれを拾い上げ中を見ると2つの指輪は短い手紙。
『いつまでも一緒よ』
王様は大声で笑いながら首に剣を当ててみましたが突き刺すことができず。
子どものように泣きながら剣を片手に箱庭の中をさまよい続けているそうです。