21.来客の知らせ
長らく放置してしまいました・・・更新再開です。
そして数時間後、第2教室には憮然とするジョナタがいた。
「あ、あの・・・ジョナタさん・・・」
シルヴァーナは落ち込んだ様子のジョナタに何と声をかけたら良いかとオロオロとする。
「シルヴァーナ、謝るとそいつは余計に落ち込むぞ」
セヴェリオが言えば、ジョナタはガバッと顔をあげて彼を睨んだ。
「何なんですか!!猊下は最初から知ってたんですか!!っていうか、知ってたら教えろよ、セヴィのアホ!!」
「・・・素が出てるぞ、ジョナタ。それに完全に言いがかりだ。確かに私はその可能性を考えなかったわけじゃないが、癒しの術はあっさり使っていたから大丈夫だと思ってたんだ」
シルヴァーナの法力のコントロールの件は、セヴェリオだって寝耳に水というか、あれだけ簡単そうに癒しの術を使うシルヴァーナが、他の術に関してはノーコンだなんて思ってもいなかったのだ。
「それだけじゃないですよ・・・なんで、法術使うのに気合が必要なんですか・・・」
法則や理論を全て吹っ飛ばしたようなそのコントロール方法に、真面目に勉強したことがアホらしくなって、ジョナタはすっかりヤサグレてしまった。
「いや、気合じゃなくて・・・こう使おうっていうイメージがあれば良いというか、だな」
「余計悪いわ!!!ホント、法術舐めてんですか!!世の中の法術使いや神官の苦労を何だと思ってんだっ!!」
セヴェリオが訂正すると、ジョナタが吼えた。
ジョナタの言うことも尤もである。だが、セヴェリオやシルヴァーナはその存在自体が規格外であり、比べる方が酷というものだ。
「と、言われても・・・私もシルヴァーナも体内に法力をしこたま蓄えているからな。それを普通の連中と同じようにコントロールしろという方が難しい」
セヴェリオが偉そうに胸を張る脇で、シルヴァーナが申し訳なさそうに身体を小さくしている。それを見てジョナタは少しだけ冷静さを取り戻した。
「――確かに、一般の神官と枢機卿や聖女とを比べてはいけないですね。・・・ですが、これは他言無用ですよ?そんなコントロール方法はお2人しか使えないんですからね?」
「――言われずとも」
「は、はいっ・・・」
「・・・どこまでも偉そうですね、猊下は」
「実際に偉いからな」
プチン、という音が聞こえた気がするが、ここで怒鳴ったらセヴェリオの隣で瞳を潤ませているシルヴァーナが泣き出すに違いない。そう思ってジョナタは何とか我慢をする。
「――とりあえず、これで法術の方はなんとかなりましたが・・・」
「礼法も問題ないとギーメルが言っていた。・・・後は」
本人の性格、というか自信を持てるかどうかだが、どう考えても難しい。
シルヴァーナの中にはいつもレーティアンヌの姿がある。そして必ず自分と比べ、姉ならばこんなことは簡単に出来るのだろうと“諦める”のだ。
レーティアンヌにも出来ないことはあるだろうに、シルヴァーナの中では完璧超人と化している。
――― 幼い頃から植え付けられてきた劣等感がそう簡単になくなるわけが無いか・・・。
セヴェリオは小さくため息を吐いて、シルヴァーナと視線を合わせる。
「・・・あの、枢機卿猊下?」
向かい合ったまま黙り込んだセヴェリオを見て、不思議そうに首を傾げるシルヴァーナ。
そんなシルヴァーナにこの後の予定を話すべきかどうかセヴェリオは迷っていた。変にプレッシャーを与えてはいけないが、心の準備も必要だろうとも思う。
何しろ彼の人物は彼女が今まで出会った中でも、最も高貴な生まれの人物だろうから。
「シルヴァーナ」
「はい?」
「数日の内に国の要人がお前に会いに来る。その人物と会うために習得を急がせた法術も礼法もまったく問題ないレベルになっている。だから・・・何も心配する必要は無い。いいな?」
シルヴァーナはセヴェリオの話をしばらく理解できなかった。「いいな?」と言われても「はい」と素直には頷けない。
なぜなら・・・。
「国の、要人?」
「・・・やっぱり、そこに引っかかりますか・・・」
ジョナタが苦笑する。セヴェリオに会う時ですら混乱していたシルヴァーナだ。国の要人などと言われればそれはもう、大混乱しているに違いない。
「そう。国の要人、だ」
「む、むむ、無理ですっ!」
「無理じゃない。お前に会いに来るんだ。会わないと逆に無礼にあたる。当人は何も言わないかもしれないが、周りの連中はうるさいだろうな」
「そ、そんな・・・!」
顔を青褪めさせたシルヴァーナに同情するような表情をうかべ、セヴェリオは首を横にふった。
「私だってあの人は苦手なんだ。・・・だが、シルヴァーナのフォローで傍にいるということになった。・・・この意味がわかるな?」
つまり、セヴェリオだって我慢するのだから、シルヴァーナも我慢しろということである。
それよりも何よりも、セヴェリオが苦手な人物と聞いてシルヴァーナの顔はますます蒼くなっていっている。
「こ、怖い人、なんですか・・・?」
「怖くはない。“当人は”な」
怖いのは彼の周りにいる権力者達だ。シルヴァーナを献上しようとするか、それとも、邪魔と思い始末しにくるか。
おそらく、ほぼ前者だろうとは思う。表立って大神殿を敵に回すようなことはしないはずだ。セヴェリオはそこまで考えて、怯えるシルヴァーナの頭をポンポンと軽く叩いた。
「私は心配するなと言った。お前ならばなんら問題は無い」
そう言われてもシルヴァーナは自分を信じられないでいるため、不安気だ。
「そうですよ、大丈夫ですよ、シルヴィさん。猊下がきちんと護ってくださるそうですから」
「まぁ、お前の存在を隠し切れなかった私の責任でもあるからな・・・あの方が嗅ぎつけるのはもっと後になるはずだったんだが・・・」
「――その・・・どういう、方なんですか?」
懸命に説得してくる2人に折れたのか、シルヴァーナがようやくそう訊ねた。
が、セヴェリオもジョナタもそっとシルヴァーナから視線を外す。
「・・・私とジョナタの学友、だな。一応」
「――まぁ、そうですね・・・あの方とまともに友人関係を続けられたのは、私達だけでしたよねぇ・・・」
――― なにそれ、どんな人!?余計に不安になるんですけどっ!
2人の話しぶりに、シルヴァーナは口元を引き攣らせ、心の中で悲鳴をあげたのだった。