1.意地悪枢機卿と苦労性秘書官
性格の悪い聖職者が存在します。
ご注意ください。
――フォルスト大神殿
ちゃりーん。
「フ・・・やはり、銀貨が一番良い音色だ」
銀貨が貯まる美しい音色にうっとりと眼を細める。金貨でも銅貨でもない。銀貨でなければならない、その大きさと音色。
そう。貯金は彼の毎日の習慣・・・いや、習慣の域を超えて趣味の領域に入っている。
「・・・猊下、そろそろよろしいでしょうか?」
待ち兼ねて声をかけてきた秘書官を彼はギロリと睨む。
短く刈られた眩いばかりの金髪、まるで宝石のように輝くペリドットの瞳。目と眉と鼻と口が絶妙なバランスで配置された――いわゆる美形。
その美形が睨むと迫力が半端ないのだが、秘書官は慣れたもので涼しい顔をして受け流す。
「なんだ、私の至福の時を邪魔するなと常々言っているだろう」
――― てゆーか、趣味が貯金とか・・・こんなのを清廉潔白で人格者の枢機卿だって思っている連中が見たら幻滅するんだろーなぁ。
「・・・申し訳ございません、予言神官達が例の件で至急取り次ぎをとのことでしたので」
内心を隠しつつ報告する秘書官も、枢機卿の趣味と性格を知った途端に熱意を失った1人だったりする。
とはいえ、この枢機卿の趣味を知る人間は限りなく少ない。本人曰く、秘書官を含めた数人のみなのだそう。
「・・・ふむ、例の件ねぇ・・・まぁ、急がなければならない案件ではある」
「予言神官達は第2応接間に通してあります」
だから、早く応接間に行け。・・・とは言わない。あくまでも、いち秘書官として接するつもりであるからだ。
「ほう・・・相変わらず仕事の早いことだ」
「ありがとうぞんじます」
「嫌味だ。わかっているだろう。・・・まぁいい、応接間に行くとしよう」
そんな枢機卿の言葉に表情をピクリとも動かすことなく、秘書官はキッチリ45度に腰を折る。
「お供致します」
「ああ」
秘書官の無反応に肩を竦めつつ、枢機卿は立ち上がり部屋のドアノブに手をかけ――立ち止まってニヤリと笑う。
「猊下?」
立ち止った枢機卿にわずかに眉を顰めた秘書官に振り向き、美しい笑みをうかべる。
「・・・ああ、“こんなの”で悪かったな?」
「~~~っ!?」
秘書官は忘れていた。この性格の悪い上司が枢機卿という神殿の最高位にいる理由を。
実家の権力?――違う。彼は両親を病で亡くし神殿に預けられた子どもであった。そもそも、政治的権力を使っても、世俗から切り離された神殿内で出世などできない。
そう、ただ彼は強い法力を持っていたのだ。この世に存在する法術のほぼすべてをノーリスクで扱える程の法力を。
「私の秘書官として働くようになって何年になる?」
「――3年、です」
「ああ、嘆かわしい。3年も側にいて私がこの世にある法術ほぼすべてを使うことができるということをまだ理解していないのか?それとも、法術にどのような効果の術があるか、理解していないとでも?そんな者が私の秘書官だとは・・・まったくもって情けない」
「~~~っ、すみませんねぇっ!忘れてたんですよ!!アンタが許可もなく勝手に読心術を相手にかけられる人間だっていうのをね!!」
とうとう我慢の限界を超えた秘書官は半ギレで叫ぶ。
「やれやれ、今更だろう」
呆れたようにそう言って首を振る枢機卿に、秘書官は殺意を覚える。
「あ、あ、アンタって人は・・・!!!」
「アンタではない。セヴェリオ猊下だ。ティー」
「ティーノルッツヘルトです!略さないでください!!」
「お前の名前は長いんだ。覚える気にもなれないな」
「~~~ほんっっっとに、なんでこんなのが皆の憧れの枢機卿なんだよっ!!俺の憧憬の心を返せ!!」
「憧憬、ねぇ・・・そんなものではお腹も膨れないだろう。それよりも、私と共に貯金でもしてみるか?良いぞ、銀貨は。あの音が堪らなく良い。ああ、そんなことを言っていたら、またあの音が聴きたくなった。ティー、銀貨をくれ」
フォルスト大神殿・枢機卿セヴェリオの趣味は貯金。そしてもう1つ、秘書官ティーノルッツヘルトをおちょくるというのもまた、彼の趣味であるといえるのかもしれない。
「ふ、ふっざけんなぁああああ!!!」
神殿中にティーノルッツヘルトの怒声が響き渡る。それもまた、フォルスト大神殿の日常である。
お金の価値としては・・・
金貨⇒1000円
銀貨⇒500円
銅貨⇒100円
とお考えください。
つまり、枢機卿がハマっているのは、500円貯金・・・(笑)




