やっぱり人間中身だよね
『お帰りなさい、聖夜』
そう言って私を迎えたのは、異常なまでの笑顔な母だった。
「なによお母さん?そんなにニヤニヤしちゃって…」
私は眉間に皺を寄せながら母を見た。
母はさらに笑みを深めて私の肩に手をおいた。
とりあえず早くあがらせてほしい。
まだ靴はいたままだし。
着替えたい。
そんな事を考える私にはまったく気付かずに母はどうしようかしら〜、なんて笑っている。
「じゃあ聞かなくていいや」
そういって強引に上がろうとすると母はああん、聖夜ちゃんたらつれないわねぇといいながら肩に置いた手に力を入れた。
『実はね、パパが本社に異動になったのよ!!』
「へぇ、やるじゃんお父さんてば」
『しかも部長になるの!!お母さんうれしくて仕方ないわ!!』
母は言いながら私をがくがくと揺さ振った。
「はいはい。あれ、でも本社って…」
『そう。だから引っ越すのよ。もちろん学校も変わるわ』
空が落ちてきたみたい!!!!某ジ〇リアニメの台詞が頭を過った。
こうして私は“あいつ”がいる学校へ転入する事になるのだ。━━そしていよいよ運命の日が訪れた。
そう、最低最悪な“あいつ”に。
本社がある町は以前住んでいた町に比べるとずいぶん都会だ。
私が通うこの山田高校は前の学校より敷地面積、校舎ともに比べものにならないくらい広い。
びくびくしながら門をくぐった。
まだ登校時間なため、登校してきた生徒達に見られている。
確かに見たこともない人がいたら気になるよなと思いながら校舎へ足早に向かった。
その時だった。
『いらっしゃったぞ!!』
そんな声が聞こえて私は振り返った。
すると黒塗りの車から人が降りた。
私はその人を見て一瞬動きが止まった。
だって、だって!!
その人は同じ生き物とは思えないくらい綺麗な人だったから。
なんか、王子様みたい。
実際に見たことはないけど、きっとこんな感じなんじゃないかなって。
その人が取り巻きを引きつれて歩き始めた。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。
女の人に使う言葉だけどこの人になら使っても違和感はないと思った。
しかしそんな時間は長くは続かなかった。
その人は校庭中に響き渡りそうな声でこう言った。
『道をあけろ、愚民どもぉっ!!!!』
その瞬間に、はかない恋心は脆くも崩れ去ったのだった。その自意識過剰なわがまま王子は、見事なまでの絶対王制ぶりを発揮した。
『じゃまだ愚民共!俺様の道をあけろ!!』
そう言いながら優雅に歩いている。
なんなんだ!!
さっきまでのトキメキを返してほしい。
私は巻き込まれないように急いでその場から離れていった。
「ああ〜、職員室どこだよ〜」
せっかく急いで来たのに職員室がわからないんじゃ意味がない。
苛々しながら学校中を歩き回る。
歩けど歩けど職員室は見つからない。
そして苛々が最高潮に達した時だった。
『おい、そこのお前』
忘れたくても忘れられるはずがない。
この声は…
『挙動不振な奴め。お前、見たことない奴だな?誰だよ』
それが初対面の人に対する態度かぁぁぁ!!!?
私はその男にずかずかと歩み寄り睨みあげた。
「挙動不振でわるかったわね!!」
仕方ないじゃない!!
今日この学校来たばっかりなんだから!!
『…愚民が俺に口答えとはいい度胸だな?』
綺麗な笑みに思わず見とれてしまった。
騙されるな私!!
そう自分自身に言い聞かせながらさらに睨む。
『名前は?』
「はい?!」
『名前だ。このアマ』
くっそぉ!!!!!
見た目は王子なのに!!
性格は最悪だ!!!
この絶対王制マン!!
あ、この名前いいかも。
その瞬間から王子は絶対王制マンにかわったのだった。