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覗き・盗撮事件。

 今回の事件の始まりは、朝のSHRでの佐々木先生の話からだった。

「最近、女子更衣室で覗きや盗撮があったらしいの。その犯人を特別編成隊のみんなに捕まえて欲しいらしいのよっ」

『え、噂は本当だったの!?』

『覗きとか、盗撮するなんて最低の人間ね』

『変態はこの世から抹殺するべきだ!』

『捕まえたら、みんなでボッコボコにしてやろうぜ!』

 あぁ~。確かに最近、動画サイトにウチの学校で盗撮した映像がアップされていたって噂があったな。変態を抹殺って、遠まわしに俺の事を言ってないだろうな。なんか微妙に不安なんだが。

「じゃあ、授業免除だから今から行っていいわよっ。事件解決出来る様に頑張ってね」

『頑張れ~』

『変態が変態を捕まえるのを楽しみにしてるぞ』

 くっそ。好き勝手言いやがって。今に見てろ。俺の凄さを思い知らせてやる!

「特別編成隊のみんな、捜査に行こう!」

「面倒だな~」

 かったるそうに立ち上がる純一。

「授業サボれるんだから文句言うな」

 俺の言葉で、隊のメンバーはドアを開けて廊下に出た。

「さて、今回の変態捕獲作戦なんだけど良い案がある人は居るかな?」

「オレに良い案がある。すぐに解決出来る素晴らしい案だ」

 純一が手を上げて発言する。さすが純一だ。頭が切れるのを頼ったのは正解だったな。

 教室のドアを開けて、俺の首根っこを掴み引きずって行く。

「ん?」

「先生。変態を捕まえました。事件解決です」

「いやいやいや! 純一、何言ってんの! 俺、変態だけど変質者じゃないからね!」

 確かに俺は変態だけど、覗きとか盗撮なんて非人道的な事はしないから! あ、でもやっぱり覗きはするかもしれないけど。だって覗きは男のロマンだから!

『やっぱりお前だったか!』

『噂の時点でお前が怪しいとは思っていたんだよ!』

『よし、みんなでボッコボコにしてやろうぜ!』

「ちょっ! みんな……やめ――」

 

「――なっ。すぐに事件解決しただろ」

「――なっ。じゃねえよ! 冤罪とかするのやめてもらえる?! なんか俺、最近良くボッコボコにされるんだけど」

 身体中が痛い。そして、親友に裏切られて心も痛い。まぁ、しょっちゅう裏切られてる気もするが。

「えっと、改めて変態捕獲作戦で良い案がある人? あ、俺を犯人にするのはなしね」

「とりあえず、現場に行ってみるのはどうかな?」

「小野里、ナイスバスト! じゃなくてナイスアイデア!」

 口を滑らせた俺は、小野里に思い切りビンタをくらった頬をさすりながらメンバー全員で女子更衣室に向かう事になった。


「ここが女子更衣室なの」

 こ、こ、ここが男子禁制の夢の楽園こと女子更衣室か! 合法的に入る事が出来るなんて特別編成隊になって良かった!! 横に立っている純一がワクワクしているのが解った。

「「お邪魔しま~す!」」

 純一が勢い良くドアを開ける。そして、夢の楽園に突入する俺と純一!

「キャー! 痴漢よ~!」

 そこには着替え中の臼井先生がいらっしゃった。

「うわっ! 目が腐る!」

「ひどい逆セクハラだ!」

 ――バタン! 俺と純一は勢い良くドアを閉めた。

 俺の『目が腐る』はともかく、『逆セクハラ』はどうかと思うぞ。

「ウサさん、純さんどっちもヒドいなの」

「いや、だって……なぁ」

 純一に同意を求める。

「そうだよな。いきなりあんなもの見せられたら誰だってそう言うよな……とは思わない。オレはラッキーで嬉しかったなぁー!」

「なんだ? 途中まで同意してたのに急に意見変えたりして」

 ――もしやっ! 気配で気付いたが時既に遅し。静かにドアを開け、鬼の様な形相をした臼井先生の姿があった。

「ごめんなさあぁ――」

 謝罪の言葉は間に合わなく俺の顔面に鈍い痛みを残し、臼井先生は職員室へと向かって行った。

「まぁ、自業自得ですわね」

「涼介。男前なツラになったな」

「純一てめぇ! 自分だけ危機回避しやがって!」

「ゆっくり開いたドアと殺気に気付かないお前が悪い」

 確かに、臼井先生に気付かなかったのは俺の失敗だと思うけど、鉄拳制裁を受けたのが俺だけと言うのはなんだか腑に落ちないんだよなぁ……。

 まぁ、過ぎた事をとやかく言ってもしょうがないか。気を取り直し、誰も居なくなった更衣室にみんなで入る。

「とりあえず、隠しカメラがないか探しましょう」

 小野里の言葉を受け、俺はみんなから離れロッカー周辺を探し始めた。

「オレに良い考えがある」

 ん、何かみんなが集まって話してるけどなんだろう?

「何?」

「どうしたの?」

「――――どうだ? いい考えだと思わないか?」

「いいわね」

「おーい、涼介」

「何?」

 純一に手招きをされたので近寄る。

「もし、お前が覗き穴を作ったり、盗撮用のカメラを仕掛けるのならどこにする?」

 変な奴だな。何でそんな事聞くんだよ。

「まぁ、盗撮するなら高い所から1台、目線の高さより低い所に1台かなぁ? 覗き穴なら外だと実行の時に見つかりやすいから、隣の部屋とかから安全に見えるように作るかな」

 純一が志乃とテバスチャンにアイコンタクトを送ったのが見えた。

「でも、なんでそんな事聞くの?」

 質問の意図が不思議でならない。

「見つけたなの! 窓際の鉢植えの所とロッカーの上に小型カメラが1台ずつあったなの」

「隣の第二倉庫室との壁に小さな穴を発見致しました!」

 みんなの視線が刺さる……痛いほどに。

「いやいやいや! 俺やってないって!」

 ――ピッ。

「先生。事件解決しました」

「何、電話で報告しちゃってるんだよ!」

「お仕置き班をお願いします」

「何だよ! お仕置き班って!?」

 廊下からドタドタと沢山の足音が聞こえてきた。どんどん近づいてくるのが解る。

 ガラガラッ、と勢い良くドアが開く。

『やっぱり宇佐美か』

『最低だな!』

『ボッコボコにしてやろうぜ』

『捕まえろ!』

「だから、濡れ衣だって!ちょっ! やめ――」


 またもや身体中が痛い。もう救急車呼びたい。

「あのさ、そろそろ冤罪はやめて欲しいんだけど」

「すまんすまん。つい面白くてな」

 コイツはドSなのか。はたまた、人の不幸が蜜の味な人間なのか。またハメられないように気を付けなくちゃな。

「カメラは見つかったから回収したけど、覗き穴はどうする? 埋めちゃえばいいかな?」

「いや、覗き穴はそのままで犯人が次に来た時に捕まえようと思う」

「そうだな。犯人を捕まえないと、また盗撮用のカメラ仕掛けそうだもんな」

「ってことで、涼介に頼みがある。倉庫室の鍵を借りて覗き穴がどんな感じか見て来てくれないか?」

「解った! 行ってくる! ――って、もうその手はくわないぞ! また、俺を犯人に仕立て上げようとしてたろ?!」

「バレたか」

「バレるわ」

「じゃあ、テバス。職員室で申請して鍵を借りて来てくれ」

「了解致しました」

 ウチの学校は特別教室の鍵を厳重に管理してあり、生徒であろうが教師であろうが借りる時は申請書を書かなくてはならない規則になっている。あの用紙、生徒の場合だと記入項目が多くて面倒だからテバスチャンが行ってくれて助かった。

「涼介。コーヒー飲むか?」

 純一がポケットから缶コーヒーを取り出す。

「いきなりどうした? 怪しいぞ」

「いや、飲もうと思って少し前に買ったんだが温くなっちまったからやるよ」

「あぁ、そういう事なら遠慮無くもらっておくわ」



「じゃあ、入るぞ」

 純一はテバスチャンが持ってきた鍵で解錠し、ドアをスライドさせる。

 中は倉庫室と呼ばれている割にはすっきりしていた。教室の端っこにソフトボール用具一式とサッカーボールと跳び箱とマットが置いてあるくらいだ。

「結構すっきりしてるんだね」

「あぁ。ここは『第二』と言うだけあって、ほとんど使われていないらしい」

「確かに、これなら覗きに使っていても人が来ないので見つかりにくいですわね。それを利用して覗きなんて最低の変態ですわ」

 九条院は口をへの字にしていた。そして、俺をチラッと横目で見るな。

「服部、罠を張ってくれないか?」

「どんなのです?」

 純一が耳打ちしてる。どんな罠なんだろうか?

 ……なんだか、猛烈にトイレに行きたくなって来た。

「あ、ちょっとトイレに行ってくるわ」

「しょうがねぇ奴だな」

 純一のため息混じりの声を背中にトイレに向かう。


「ごめんごめん。ちょっと遅れちゃったよ」

 そう言いながらドアを開ける。あれ? 誰も居ない。皆どこに行っちゃったんだろう? 部屋に一歩入って見渡すがやっぱり誰も居ない。見渡した際に部屋の真ん中に本を発見した。ん? それにしても、見覚えのある表紙だな。

 ――もしや、あれは! 絶版になってネットではプレミア価格で取引されている『メイドで冥土に逝かせてあ・げ・る♪ 創刊号』じゃないか! 

「何でこんな所に!? 何はともあれ幻のエロ本ゲットだぜっ!」

 空中に飛び上がるくらい勢い良く本に飛びつく。ふはははっ。もう、これは俺の物だ。誰にも渡さん! ん? 何だこの透明な糸は?

 ――バシュッ! バシュッ! バシュッ! バシュッ! 

 部屋の四方から苦無らしきものが飛んできて俺の身体を切り裂く。

「痛ってえええぇ!」

 教室の外から純一を先頭にみんなが入ってくる。

「よし! この威力ならギリギリ致命傷だな」

「よし! じゃねぇよ! 俺で試すな!」

 しかし、この罠の殺傷力は本当にギリギリ致命傷だな。死にそうで意識飛びそうなんですけど……。身体痛いけど、とりあえず起き上がろう。そして、この本を見てエロエロ――じゃなくて、色々と元気出そう。やべ、心拍数上がってきた。だってこれ、プレミアもんだぜ。唾をゴクリと飲み込み『メイドで冥土に逝かせてあ・げ・る♪ 創刊号』の初めのページをめくる! さ~て、今夜のオカズを決めさせてもらうぜ!

「最低っ」

「変態涼介!」

 オカズを決める前に、小野里とセリアによるビンタと蹴りが決まりました。――致命傷負っている身体に。まさか、エロスの世界での『冥土に行かせてあ・げ・る♪』の前に、現実世界での『冥土に行かせてあ・げ・る♪』が待っているとは……思わなかった……ぜ――ガクッ。

「罠はこれで決定だな。服部、もう一度罠を仕掛けておいてくれ」

「了解なの!」

 スルーですかい。俺が生き絶えたのにスルーですかい。お前の血は何色だ!?

「それにしても、さっきのコーヒーに入れた利尿薬はよく効いたな。服部の薬は優秀で助かる」

 ――やっぱり! 猛烈にトイレに行きたくなったのはさっきのコーヒーに薬入れてやがったからか! もうコイツから物をもらう時は用心しないとだな。

「それでは、作戦を実行に移す。まずはウチのクラスがこの後ちょうど体育の時間なので、女子更衣室にウチのクラスの女子達に入ってもらう。そして、穴の正面に例の女子生徒を配置。そして、第二倉庫室で何かしらの動きがあったらそこに犯人が居るはずだ。そして、現場を押さえて現行犯逮捕だ」

 いつになく真剣な眼差しの純一。普段は俺で遊んで面白がっているけど、作戦の時は本当に頼りになる。



 キーンコーン♪ カーンコーン♪

 クラスの女子達が女子更衣室に入っていく。事前にカメラを回収した事と、覗き穴での視認範囲を教えておき、その場所に立たなければ大丈夫と伝えたら快く協力してくれた。

「さて、女子達が入って行くな。今日も犯行に及ぶのであれば、さっきの授業中に犯人は第二倉庫室に忍び込んでいるはずだ」

「そう言えば、例の女子生徒って誰なんだ?」

「見てれば解るさ」

 女子が入って数分後。第二倉庫室から声が聞こえて来る。

「――うわ! 逆セクハラだ! 目が腐るわ!」

「女子高生のコスプレをさせた臼井先生に生着替えをしてもらった」

「やっぱりか。少し前の俺と純一と同じ反応したもんな」

「よし! 作戦成功だ。突入するぞ!」

 テバスチャンがいち早くドアに到着し解錠、純一が開けて一気にみんなで雪崩れ込む。

 そこには、目元を押さえて屈み込む用務員さんの姿があった。

「用務員さん!」

 小野里が驚きの声を上げた。それもそうだろう。この用務員さんは感じが良くて普段から紳士的な対応で皆から好かれてたから、驚くのも無理はない。俺も、純一の予想を聞いた時は耳を疑ったくらいだし。

「やっぱり、用務員さん。あなたでしたか」

「お前ら、謀ったな」

「まず、この教室の鍵を自然に持ち出す事が出来るのは体育教師か用務員さんくらいだからな。そして、体育教師だったら授業前の女子が着替えている時間に、この第二倉庫室で覗きなんてしていられないからな」

「意外と頭が切れるのですわね」

「純さんすごいなの~」

 追い込まれた用務員さんは雰囲気が急変して、敵意を剥き出しにして叫ぶ。

「お前ら全員、ここで口封じしてやる!」

「面白れぇ! やれるもんならやってみろよ!」

 純一が予想していたかの様に言い返す。

 そして、用務員さんは腰を落として空手の構えを取った。この構えをするって事は空手とかやってたのか? もし格闘技経験者だったら俺達だけで勝てるのか?!

「美咲! 頼んだ!」

「任せろ! 影山流剣術――」

 純一の声を合図に影山が勢い良く部屋に飛び込んで来る。その手には木刀が握り締められていた。そして、高く飛び上がり、下降と共に木刀を振り下ろし、用務員さんの頭目掛けて渾身の一撃が放たれる。

「――脳天割り!」

 用務員さんは、頭上で腕を交差させその技を受け止めた。

「「「――――っ!」」」

 あの、不意打ちでしかも影山の技を防ぐなんて強すぎじゃないか!? 

「うぅ」

 でも、攻撃の威力が高かった様で少しよろけた。

「続いて、服部! 頼んだ!」

「了解なの!」

 志乃って事は、さっき俺に致命傷を与えたあの罠だな。あれならどんなに強くても動けなくなるだろう。悲しいかな、威力は俺で立証済みだ。

「忍法! 滅多刺し!」

 志乃の仕掛けた罠が作動し、四方から苦無が飛んで行く。

「せいっ! せいっ! せいっ! せいやぁっ!」

 気合の入った声を発しながら人間とは思えない身のこなしで手刀を繰り出し、四本全ての苦無を叩き落とした。

「これ、人間業じゃねぇだろ――」

「涼介。あの人――」

 振り向くとセリアが難しそうな顔をして立っていた。

「――悪意(マリス)が憑いてるわ」

「マジか!?」

 俺は驚きを隠せなかった。だけど、悪意が憑いているのであればこの異常なまでな強さが納得出来る。

「さっき雰囲気が急に変わったのは、悪意が憑いたからみたいね。あれだけ人間を強化出来るって事は、おそらくAランククラスの悪意だわ」

「Aランク? それって聞いただけで予想はつくが、かなり強いって事だよな」

「多分、私の魔法だけじゃ倒せないわ。涼介の魔力変換が鍵になると思う」

「えっと、それは俺も戦うって事か?」

「そうに決まってるじゃない」

 戦いたくねぇ~! あんな化物相手に勝てる気がしない。

「せいやぁっ!」

 用務員さんもとい、悪意の気合を入れる声が部屋中に響き渡る。その目前には、影山が木刀を構え、志乃は苦無を構えていた。

「多分、このままだと誰かが大怪我をするわ。早く手を打たないと」

 ってか、もう俺が戦うしかないって事だろ?

 ――ドンッ。鈍い音が聞こえた。

「うっ!」

 影山が悪意の拳を腹部に受けて、苦しそうな声をあげて倒れこんだ。

「てめぇ! 美咲に何してんだ!」

 叫ぶ純一。いくら影山が攻撃されたとは言え、熱くなって正面から突っ込むのは危険だ!

 俺の思いは届かず、純一は正面切って殴りに行った。

「純一、マズイ!」

 拳を振り上げ、振り下ろして殴ると思いきや、拳を開き何かを投げつけた!

「ぐわっ! 目が! 目が見えねぇ!」

 あれは、砂だ! すかさず、純一は近くに転がっていた金属バットを振りかぶった。そして、目を押さえている悪意の横っ腹目がけてフルスイングを始める!

「死にさらせえええぇっ!」

 クリーンヒット! 悪意を倒すとまではいかなかったが、うずくまらせる事が出来た。

「オレが勝ち目も無く、向かって行くと思ったか?」

「それにしても、何で純一は砂を持っていたんだ?」

「オレは、基本的に真っ向から戦うつもりはない!」

「カッコ良く卑怯な事言いやがった!」

 しかし、目潰しの効果と金属バットによる一撃のダメージではうずくまっている時間は限られてる。早くどうにかしないと。

「志乃ちゃんと私で時間を稼ぐわ。涼介は魔力変換をお願い!」

 セリアが俺に言葉をかける。影山も怪我するような事態になって、これで俺が逃げているようじゃ格好付かないよな……。

 ――覚悟を決めるか!

「この前の小太郎の時みたいに『助けたい』、もしくは『倒したい』と強く念じればきっと魔力変換出来るから」

「やってみる」

「志乃ちゃん行くわよ!」

「はいなの!」

 セリアと志乃が悪意と対峙する。

「我が奥に秘めたる力、今ここに解放する――」

「忍法――」

「――爆発魔法(エクスプロージョン!》」

「――火遁の術!」

 二人の魔法と忍術により大きな爆発が起こる。これで、倒れてくれれば俺の出番はなさそうなんだが……。

「お前ら、かなりやってくれるじゃないか」

 立ち昇る煙の中から悪意の姿が現れる。

「まだ倒れないなの!?」

「やっぱり、これくらいじゃダメみたいね。涼介、魔力変換は出来そう!?」

「さっきからやってるけど、上手く出来ない! 小太郎の時は必死だったからやり方を良く憶えてないんだ」

「まぁ、初めはそうでしょうね。もう少し時間を稼ぐから頑張りなさい」

 セリアは冷静に状況を見つめつつ、もう一度詠唱を始めた。

「我が奥に、秘め――きゃあっ!」

 悪意の掌から放たれた衝撃波の様なものを受けて、セリアの身体が壁まで飛んでいく。

 ――――っ!

 頭が真っ白になった。何か不思議な感情が沸き上がってくる事だけが解った。

「何してんだよ! てめえぇ!」

 一気に悪意の懐まで飛び込んで、腹に拳を一発お見舞いしてやった。

「おぉっ! 吹っ飛んだ! 涼介やるな!」

 なんだこの力は? 身体の奥の方から熱いものが溢れ出してくる感覚。これは小太郎の事件の時と同じ感覚だ。

「ウサさんの身体が光ってるなの!」

「やれば出来るじゃないの……涼介」

 よろよろとしながらだけどセリアが立ち上がったのを見て、少し安心した。

「あの光の量、この前見た時より増えてねぇか?」

「もしかして、涼介って伝説系の力を持ってるのかもしれないわ」

 純一とセリアの会話が聞こえてくる。

「なんだそれは?」

「伝説系の力を持つ者は、大きな光を身体に纏うのが特徴なの。涼介! その状態から集中力を高めて何でも良いから武具をイメージして!」

 よく解らないが、集中して武具をイメージすればいいんだな!

「やってみる!」

 何でもいい! セリアを助けられる武器よ、出て来い!

「伝説の勇者なら、手に剣が。伝説の戦士なら、腕に盾が。伝説の盗賊なら、足に靴。のように武具が具現化されるの」

「じゃあ、涼介は伝説の何かなんだな!?」

「そうみたい。選ばれし者のみ魔力を武具に具現化出来るの」

「涼介は伝説の勇者か!? それとも伝説の魔法使いか!?」

「うおおおおおっ!」

 俺の身体を纏っていた魔力の光が一点に集中する!

 そして、魔力の剣が具現化された!


 ――俺の股間に。


「……どうやら涼介は伝説の変態だったようね」

「お前にぴったりな称号だな」

「下品ね」

「まつたけの剣だ」

「えのきカリバーなの」

 みんな、言いたい放題すぎる。

「みんなネーミング、酷いな」

 伝説の剣と言ったら《聖なる(エクスカリバー)》だよな。聖なる剣、聖剣、性剣……。

「――っ! これは……そう《性なる聖剣(エロスカリバー)》だ!」

「「「それも酷い!」」」

 この大剣、さっきまで光に覆われていたが時間と共に少しずつ全体像を現していく。

「具現化出来たのが剣なら、剣の名前を叫びながら振り下ろせば強力な技が使えるわ!」

 セリアが剣の特性を叫んでくれる。俺は剣を構え、両手に力を込め剣を振り上げる。

「エロス――」

 そして、思い切り振り下ろす!

「カリバー!」

 弱々しく細い三日月状の光の衝撃波が放出され悪意に向かっていく! ――が、弾かれる。

「技が強力で使用する力に対して魔力が足りてないんだわ」

 今ので俺の《性なる聖剣(エロスカリバー)》はしぼんで刀身が小さくなってしまった。

「伝説の変態の剣……」

 セリアは何かを考え始めた。少し考えた後、何かを閃いた様だ。

「志乃ちゃん、風の忍術って使える?」

「使えるですけど、あんまりすごいのは出来ないなの」

「それで良いわ。お願い」

「ひんふぉう、ふぅふぉんのひゅつ!」

「だから、無理に巻物くわえないの!」

 志乃は地面に巻物を投げ捨て、再度唱える。

「忍法! 風遁の術!」

 強い風が部屋中に巻き起こる。

「悪意の俺にこんな風が効くとでも思ったか!」

「涼介! 亜美の方を見て!」

 セリアの言う通り、小野里の方に目を向ける。その時、志乃の忍術で起こした風が小野里のスカートをふわりと捲り上げた!

「うっほおおおおぉ!」

 小野里のパンチラ頂きました! 俺は脳のハードディスクにさっきの映像を保存した! もちろん、保護設定も忘れずにしたのは言うまでもない!

 俺の脳は興奮した事で下半身に生理現象を起こそうとした。

 しかしその時、俺の《性なる聖剣(エロスカリバー)》が大きくなったのだ!

「え?」

 驚く俺にセリアが説明をしてくれる。

「それはきっと伝説の変態にのみ使える剣よ! その剣は体力を魔力に変換するだけでなく、あなたの変態力も魔力に変換してくれるわ!」

「すごい! 主人公にあるまじき最低な武器だ!」

「お前にぴったりじゃないか!」

 みんな言いたい放題だな。

「逞しいわ……!」

「ご立派ですわね」

 その言い方はやめてもらえませんか!? なんだか卑猥です! まぁ、卑猥っちゃあ、卑猥な武器なんだけど。

「その今の状態なら、悪意も倒せるはずよ!」

 俺は、それならもう一度! と、両手に力を込めて剣を振り上げる。

「エロス――」

 そして、力の限り振り下ろす!

「カリバー!」

 剣から大きな三日月状の光の衝撃波が放たれ、悪意に向かって飛んでいく。

「ぐあああぁ!」

 衝撃波を受けた悪意は悲鳴と共に光を発し、悪意は浄化された様だった。

 そして、そこには悪意が浄化された用務員さんが倒れていた。

「これで事件解決だな」

「あぁ。これで、みんな安心して着替えが出来……る」

 あれ? 身体の力が一気に抜ける。そして、握っていた剣がゆっくりと消えていくのが見えた。

「涼介! 大丈夫か!?」

 倒れそうになった俺の肩を純一が支えてくれた。

「さっき、大技を使ったからでしょうね。ただでさえ武器の具現化は魔力消費が大きいのに、あれだけの放出系の大技を使えば魔力消費も激しくて体力もかなり消費するわ」

「強力な賢者タイムみたいなものか」 

「純一よ、嫌な言い方しないでくれ」

 もう純一の支えがなくても、自立出来そうなので純一の肩から離れる。

「純一、サンキューな。と、まぁ用務員さんはきっと悪意の影響でエロくなっちゃったんだな」

「そうだな。今回は大目にみてやろう」

「取り憑かれていないで覗きなんかやってたらダブルラリアットの刑だよな」

「――ん? 私は何をしていたのだ?」

「元の用務員さんに戻ったみたいなの」

 意識が戻った用務員さんは立ち上がると俺達に気付く事もなく、覗き穴に向かって歩いて行った。

「ふふふ。今日も若い女子(おなご)の身体を覗かせてもらおうかのう」

「「「………………」」」

「よし、服部とテバス」

 純一の言葉に無言で頷く二人。

 そして、俺と純一はそれぞれ部屋の廊下側、窓側と、お互いが離れるように歩いて行く。志乃とテバスチャンは用務員さんに近づいて肩をポンと叩く。

「きっ、き、き、君達はなんでこんな所にいるんだ!?」

 覗くのに夢中になっていた様で、俺達の存在には全く気付いていなかったみたいで激しく動揺している。

 振り向いた用務員さんを志乃とテバスチャンが両脇を掴み部屋の真ん中まで連れて行く。当たり前だが、用務員さんの頭にはクエスチョンマークが出ている。

「純一!」

「おうよ!」

 掛け声と共に、俺と純一は同時に用務員さんを目標に走り始める! そしてお互いが交わる位置で用務員さんをラリアットで挟み込む!

「「おりゃああぁ!」」

「ぐはぁっ!」

 用務員さんはその場で崩れ落ち、泡を吹き始めた。

「カニさんみたいなの」

「当然の報いね」

「最低の人間でしたわね」

「とりあえず、校長の所に突き出しておくか」

 ――ここは、俺が決め台詞で締める所だな。

「変態は成敗される運命にある!」

「「「お前が言うな!」」」

 ふとリストバンドに目を落とすと願望魔力は半分位まで溜まっていた。

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