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動物凶暴化事件。

「――ハァハァ、セリア。俺もう耐えられないかも」

「――ハァハァ、もうなの!? 早いわよ」

「――ハァハァ、もう、ヤバイ……っ!」

「――ハァハァ、んもう、これくらい耐えられないなんてダメな男ね!」

「――俺、もう無理! 先に……!」

「――ほんとに、根性なしなんだから!」

「――ごめん。限界……!」

「――もっ、もう少し我慢しなさいよ!」

 いや、もう無理です。走れません。俺、皆ほど身体能力高くないんです。常人程度しか体力ないんですよ。

 何故、俺達が走っているかと言うと、さっき担任の佐々木先生の授業中に教室の内線電話が鳴った事が始まりだった。電話を受けた佐々木先生は少し楽しそうな表情で、

『特別編成隊の皆、学校の近所の空き地で事件よっ! 凶暴化した犬を捕獲してとの事よっ! 空き地に急行してっ』

 とまぁ、こんな感じで俺達に告げたのである。それで走っている訳なんだ。

 セリアに手を引っ張られ、限界なのにも関わらず走り続けた。

 ちなみに今回のメンバーは俺に、セリア・純一・テバスチャン・志乃・九条院の六人だ。小野里は学級代表の仕事が終わり次第で後から来るらしい。

 そんなこんなで息を切らせて現場に到着すると空き地前に、学年主任の臼井先生とガタイの良いオールバックで強面が特徴的な生徒指導の松永先生の姿が見えた。そして、先生二人の視線の先には大型犬が二匹。

 大型犬二匹は後から到着した俺たち「特別編成隊」の姿を確認するやいなや、吠えて威嚇を始めた。

「先生。特別編成隊到着しました」

「ああ、宇佐美達ご苦労」

「悪いわね」

「凶暴化した犬がいるって話でしたけど」

「そこの二匹がそうなのよ」

「最近起こっている、動物が凶暴化して人に怪我を負わせるニュースは知っているな。先程、保健所に問い合わせたらこの犬達は最悪の場合、射殺もやむなしとの事だ」

「警察も保健所も忙しくて手が足りないらしく来てくれないのよ。だから、ヘンタイのあなた達に協力を要請したのよ」

「その略称で呼ぶのはやめて下さい」

「変態は涼介だけですから」

 皆、相変わらず酷いな。しかし、動物の凶暴化って危険だよな。

「だから松永先生は、そんな物騒なもの持っているんですね」

 松永先生の手には二丁の銃が抱えられていた。

「捕獲用の麻酔銃と射殺用の猟銃だ。あとは空き地の方に捕獲した際に入れるケージが用意してある。しかし、犬達が興奮状態で我々ではどうにも出来なくてな」

「そこで、魔法の使えるセリアと忍術の使える志乃が居る、俺たち特別編成隊が呼ばれたってワケですね」

「そう言うことになるな」

 空き地から、先程より激しい犬の鳴き声が聞こえてきた。俺達を怒鳴りつけているかの様にも感じる。

「結構な興奮状態だな……怖ぇ」

 俺の弱気な言葉の後に純一が口をへの字にしながら言う。

「土佐犬とドーベルマンか。ちょっと厄介だな」

「大型犬で力が強いんですよね。以前に仕えていた家で何度か触れ合った事があります」

 テバスチャンは色んな所で執事のバイトをやっているので博識だったりする。

「それにしても二匹一緒に捕獲は難しいよな。まずは、二匹を分断しないとならないな」

 純一が両腕を組んで考え込む。

「誰か、食べ物とかボールを持っていないか?」

「志乃の持ってる煙幕はボールみたいな形なの」

「僕、食パンなら一斤ですが持っております」

 志乃の煙幕は良いとして、なぜテバスチャンは食パンをまるまる一斤持っていたのだろう? いついかなる時も、ご主人様の空腹を満たすために常備しているのだろうか? そうであるとしたら、執事って大変なんだな。まぁ、空腹のご主人様に食パンってのもおかしい気もするが。

「おおっ、このふたつは使えそうだな」

 純一は考えをまとめ始めた様だった。そして、俺はちょっと不安な事があるので先に純一に言っておかないと。

「あのさ。俺が犬苦手なの憶えてるよな」

「もちろんだ」

 自信満々に返事をする。

「って事で、今回は俺を前線から外してくれよ――」

「よし! 作戦を発表する!」

 純一が真剣な面持ちで指示を出し始める。

「まず二匹の犬を分断させるために、一匹をパンで誘い出し、もう一匹をこの丸い煙幕をボール代わりにして引き離す」

 嫌な予感がしたので聞き返す。

「誰がパンで誘い出すんだ?」

「涼介。頼んだ」

 肩にポンと手を置いてきやがった。

「だから、犬苦手って言ってるだろ!」

「松永先生!」

 純一が松永先生に目で合図を送る。

 ――パシュッ! プス。痛い! 何かお尻に刺さった! 針!? あれ……なんだか意識が朦朧として来たよ。身体に力が入らない。これ、もしかして……さっき松永先生が持っていた捕獲用の麻酔銃? 意識が遠いていき、膝から落ちて倒れこんでしまう。


 ――――はっ!


 気付くと俺は両手・両足を縄で縛られ上下に身体を伸ばされ仰向け状態になっていた。そして、身体の上にはパンが乗せられていた。

「おい! なんだよこれ! 純一! ちょっと待てよ!」

「涼介。頑張れ」

「ちょっ! 怖いんだけど! 誰か助けて~っ!」

 必死に叫ぶが誰一人助けてくれなそうだ。

「頑張ってなの!」

「骨は拾って差し上げます」

「九条院財閥の火葬場を予約しておきますわ」

「ア、アンタが死んでも悲しくなんてないんだからね」

「途中から俺、死ぬの前提になってんだけど!」

 身体の上に置かれたパンを見つけ近づいて来る凶暴化した二匹の大型犬。――ん? 二匹?

「純一! 二匹いっぺんに来たんだけど! この場合どうするんだよ!」

「そこまで考えてなかったな」

「いやいやいや! 考えておけよ! 少し考えたら想像付くだろ!」

「……冗談はここまでだな。 ほら! 犬っころ、取ってこい!」

 振りかぶって丸い煙幕を投げる。ドーベルマンのすぐ横を通過し、興味をそちらに移させる。狙い通り球体に興味を示したらしく煙幕を追いかけ始めた。

 でも、煙幕に追いついたら拾って戻って来ちゃうんじゃないのか?

「純一、大丈夫なのか?!」

「もちろん! 計算通りだ! 服部、火遁の術だ!」

「はいなの!」

 そうか! 転がっている煙幕に火を付けて煙でドーベルマンを足止めさせる作戦だな!

「にぃんほぅ、かぁとぉんのひゅつ!」

「だから、無理に巻物咥えるな!」

 志乃は、巻物を地面に投げ捨て再度唱える。

「忍法、火遁の術!」

 志乃の前に現れた炎が一直線に向かった! 俺の方に!

 ――えっ?! 俺の方!?

 火遁の術はあっという間に俺の身体と俺の上に乗っかった食パンをこんがり、といい感じに焼き上げた。

「何で、俺の方なんだよーっ!?」

「え?! 志乃はてっきりパンを焼くために火遁の術を使わせたんだと思ってたなの」

 驚く表情の志乃。悪いが俺の方が驚いているからな。

「よし、イリアス! 魔法で煙幕に火をつけてくれ!」

「我が奥に秘めたる力、今ここに解放する。火魔法(ファイアーボール)!」

 セリアがタクトを振ると、握り拳大くらいの火の玉が煙幕目がけて飛んでいく。セリアの放った火の玉は煙幕に的中し、白煙がドーベルマンを包み込んだ。

「イリアス、良くやった! こうなると思っていたからな。保険をかけておいて良かったぜ」

「予想出来るなら、始めから志乃にちゃんと説明しておけば良かっただろ!」

 無言で真顔で純一がこちらを見て、

「…………」

 そして空を見つめる。

 ――こいつ。気付いてなかったな。

 ふと、気配を感じたのでそちらに顔を向ける。目の前には今にも飛びかかって来てもおかしくない位に息を荒らげた土佐犬が立っていた。

 忘れてた! 俺のパン目がけて土佐犬が向かって来てたんだった!

 近い! ヤバい! 怖い! 助けてくれ! 昔噛まれた記憶が甦ってくる! 身体中に思い切り力が入り固まる。

「うわああぁ!」

 また噛まれる! 食べられる、もうダメだ! 俺が、諦めた瞬間だった。

 ――サクッ。ムシャムシャ。

 土佐犬は俺の身体の上の食パン(こんがり焼けたトースト)を食べ始めた。

 おおっ! なんか作戦成功してる! でも、犬が近い! 怖い!

 純一が叫ぶ!

「九条院、頼む!」

 ――ピッ!

「あ、爺や? 九条院の火葬場はキャンセルしておいて」

「何、火葬場のキャンセル頼んでんだよ!」

「いや、早くしないとキャンセル料が勿体無いだろ」

「冷静に言うな! それより、俺の心配しろよ! ――ってか、本当に予約してたのか!」

 俺の上に乗っていた食パンが全て土佐犬の胃の中に収められた。『次はお前の肉だ』と言わんばかりの視線を感じる。よだれを垂らした土佐犬のしわくちゃな顔が近づいて来る!

「助けてぇ~っ!」

 俺が叫んだとほぼ同時に土佐犬の顔が離れて行く。その直後、土佐犬がドサッと横に崩れるように倒れこんだ。俺が不思議そうにしていると、純一が松永先生を連れて近づいて来た。

「パンに強力な睡眠薬を仕込んでおいたんだ。これで一匹捕獲完了だな」

 純一と松永先生は土佐犬を「せーの」の掛け声で持ち上げてケージに土佐犬を運び収納する。

 戻って来た純一に疑問を投げかける。

「睡眠薬の効くタイミングがもう少し遅かったらどうするつもりだったの?」

「安心しろ。その時は九条院の火葬場が役に立っただけだ」

「安心出来るか!」

「安心しろ。とびきり笑顔の遺影を用意してやるから」

「だから、何で死ぬ前提になってんだよ!」

 純一は残りのもう一匹の犬が居るであろう煙幕の方を見つめ、深呼吸をして気合を入れる。

「あと一匹だ! みんな、気を緩めるなよ!」

「純一! その前に俺の手足の縄を緩めてくれ!」

「服部、苦無か何かで切ってやれ」

「はいなの!」

 志乃は俺の手足の縄に向かって苦無を投げる。

「投げんな!」

 志乃の苦無は見事に手足の縄を切り裂き、俺は縄による拘束から解放された。

 そして、その場に立ち上がり軽く身体を動かす。あ~、手足が自由なのって素晴らしい! さっき犬が近づいて来たときに、身体に思い切り力を入れたせいか脇腹辺りが痛い。

「ウサさん動かないで、今取るなの」

「ん? パンクズでも付いてた」

「苦無が刺さってたなの」

「刺さってたのか! だから脇腹痛かったんだ!」

 志乃に苦無を引っこ抜いてもらい煙幕の方を見てみると、煙が薄くなっていき犬のシルエットが現れ始めたのが解った。

「バウッ! バウッ! ウゥーッ! バウ!」

 吠え始めたドーベルマン。ひと目見ただけで解る程に興奮していた。

 なんか、こっちの方は一筋縄では行かない予感がするぞ。

「純一。今度の作戦はどんなのだ?」

「えっと。この先は雰囲気で行こうか」

「考えてないのかよ! テキトーにも程があるぞ!」

 さっきまでの作戦は完璧だった(?)のに、残りの一匹に関してはノープランかよ。

「ここは志乃のモンガちゃんに任せるなの!」

「おお! 動物には動物で説得だな!」

 純一の作戦がないから、今は雰囲気でいくしかない! ここは、モンガちゃんを信じよう。

「モンガちゃん行くなの!」

 志乃の肩に乗っていたモンガちゃんは一度身体を屈めて、空中に飛び上がる。手から足にかけて付いている飛膜を使ってスイーッと旋回し飛んで行く。そして、ドーベルマンの目の前まで滑空した。

「バウッ!」

 ――バシン! 鳴き声と共に犬の前足で叩き落とされたモンガちゃん。

「「「…………」」」

 見事すぎる撃墜シーンを目撃していまい無言になる一同。モンガちゃんは、むくっと起き上がり鼻血を出しながら【今日はこれ位にしておいてあげるわ】と、メッセージボードを掲げた。

「「「負け惜しみかよ!!」」」

 突っ込む皆の声が揃う。

【次は本気出すから覚悟しなさい!】と掲げるモンガちゃん。

「完全に負け犬の台詞でございますね」

「負けモモンガですわね」

「モンガちゃん情けないなの」

 いつも、責められる立場の自分がこう外野から見ているのは貴重だ。俺が言うのもなんだけど、アレは見てて結構可哀想だな。

「ん。あっちの犬には悪意【マリス】が憑いてるわね」

 セリアが異変に気付いて目を凝らす。

悪意(マリス)ってこの前に話してたアレか」

「そうよ。アレを浄化すればあなたの願望魔力も貯まるわ」

 これは、チャンスだ。願望魔力が貯まるのは嬉しい。

「でも俺、犬が苦手なんだけど……」

「我慢しなさい」

「無理をおっしゃいますね」

「問題はあの凶暴化ね。それがどうにかなればいいんだけどね」

 完全に俺の言葉はスルー。何か作戦がないか考え込むセリアと覚悟を決める俺。

「言いたくないが最悪の場合、松永先生に射殺してもらうのが安全な方法かもな」

 純一が割って入って来て、冷徹な意見を述べた。意見を出し合っていると、道の方から女の子の声が。

「ごめんなさい! 学級代表の仕事で遅れちゃった」

 息を切らせて小野里が走って来た。

「小野里は安全な所まで下がってて。この犬、射殺処分の許可が出てるくらい危険なんだ」

「危険な犬? ――っ!」

 小野里が驚き、両手で顔を覆う。途中で絶句したのが解った。

「もしかして……。小野里の家の犬か?」

「今朝から見ないと思ったら……! 小太郎! 何で? 何でよ~!」

 腰が抜けた様にその場に座り込んでしまい、泣き始めてしまう小野里。

「小野里……大丈夫だ。小太郎は俺がどうにかするから。射殺処分なんてさせないし元に戻してやるから。だから、泣かないで欲しい」

 小野里の頭を撫でながら少しでも安心してもらえそうな言葉を選ぶ。……とは言え、これは参ったぞ。射殺は出来ないし、悪意が憑いていてドーベルマン(小太郎)の凶暴化が激しい。そして、何より俺は犬が怖い。少しズルいかも知れないが……魔法に頼ってみるか。

「セリア、何か良い魔法ないか?」

「私、今の状況を打破できる魔法が使える魔力が残ってないの。ごめんなさい」

 これは困った。セリア、まさかの魔力切れ。

 そんな俺とセリアを目がけて小太郎がすごい勢いで走ってくる。


『――嫌だ! ご主人様とその友達を襲いたくない!』


 ――なんだ? 今さっき何か声が聞こえたぞ。

「セリア、聞こえたか?」

「聞こえたわ。多分、これは悪意の影響ね。魔力を持つ私達にしか聞こえてないと思うわ」

『身体が勝手に動く! 野生の血が騒ぐ!』

「悪意のせいで勝手に襲わさせられてるんだな。どうにかしな――」

 悪意に憑かれた小太郎はとてつもない速さで、セリアに接近し噛み付こうと大きな口を開けて牙を剥ける。

「危ない!」

 無我夢中で右手を伸ばした。セリアを危険な目にあわせたくない一心で取った咄嗟の行動だった。気付くと俺の右腕には、小太郎の牙が刺さっていた。

「うわあああぁっ!! 痛い! 怖い!」

 痛みと恐怖で足が震え出した。

「涼介!」

「宇佐美くん!」

 セリアと小野里が叫び声が聞こえた。恐怖に震えていた俺は、その声で少し冷静になる。視界の端で二人を見て心に決めた。

「小野里もセリアもみんなも傷つけさせない!」

 左手で小太郎の口を開けさせ、右腕に食い込んだ鋭い牙を抜く。

『ごめんなさい! ごめんなさい! 僕、あなたを傷つけてしまいました!』

 小太郎の心の声が聞こえる。

「俺は大丈夫だから気にするな。お前は好きで人を襲ったんじゃないんだろ。今、お前の中に居る悪いのを出してやるからな」

 両腕で小太郎を思い切り抱きしめる。

『ダメです! 僕の身体は言うことを聞きません! このままだと僕、またすぐにあなたに噛みついてしまいます!』

「お前は悪くない。今助けてやるからな」

 小太郎は、今度は俺の肩口に牙を食い込ませてくる。思い切り抱きしめているせいか角度の関係で牙は深くまで入って来なかった。

『ごめんなさい! ダメです……もう、僕を殺して下さい!』

「殺してだなんて悲しい事言うなよ。本当は、そんな事を望んでいないだろ! お前のご主人様だってな、そんな事は絶対に望んでないぞ! 助かって欲しいって思ってるに決まってるだろ!」

 叫んでいるせいか、さっきより小太郎を抱きしめる両手に力が入っていた気がする。そして、小太郎の牙が俺の肩から抜けていく。

「宇佐美くん……」

「涼介……」

 心配そうな声が聞こえる……これは小野里とセリアだな。

「あれ? なんだか、ウサさんの身体が光ってるなの!」

「あれは、魔力変換が起こってるんだわ!」

「俺はお前を助けたい……。そして、小野里を笑顔にしてあげたい。お前だってご主人様の泣き顔なんて見たくないだろうし、また楽しく遊んだりしたいだろ?」

『はい! 僕、またご主人様と遊びたいです!』

「じゃあ、戻りたいって強く願え。負けないって強く思うんだ。今の俺なら、お前の力になってやれる気がするから」

『僕は人を襲いたくない! 僕は、ご主人様に従順な誇り高きドーベルマンだ! お前なんかに負けないぞ!』

「よし! よく言った! 俺が、お前を絶対救ってやるからな! 小太郎に悪さしてるテメェ! 今すぐ中から出て行きやがれっ!」

 力いっぱいに抱きしめ、小太郎を助けたいと強く願った。

「涼介の身体の周りの光が大きくなってるぞ!」

 身体が熱い。奥の方から熱いものが溢れ出しているのを感じる。そして、それが小太郎の身体に流れていくのを感じ取る事が出来た。

「涼介の魔力で悪意が浄化されていくわ……」

『僕、元に戻れそうな気がします。この御恩は忘れません。機会があれば恩返しさせて頂きます。本当に、ありがとうございます――』

「気にすんな。その代わり、もう小野里を悲しませる事だけはするなよ。まぁ、恩返しだったら…………かな」

 抱きしめていた小太郎は、身体の力が抜けて俺に身体を預けた。そして、この会話を最後に、小太郎の心の声が聞こえることはなくなった。

「涼介! 大丈夫か!?」

「大丈夫なの?」

「小太郎っ! 宇佐美くんっ!」

 皆が、心配して駆け寄って来てくれた。小野里は安心したのか泣きそうな顔になっていた。

「大丈夫。 ちょっと怪我したけど大したことないと思うから」

 心配させないように立ち上がろうとしたが、身体に力が入らず小太郎を抱いたまま倒れてしまう。あれ? おかしいな。身体が思うように動かない。

「魔力変換で体力を使ったからでしょうね」

 見上げるとセリアが腕を組んで立っている。

「え……俺、魔力使ったのか?」

「そうよ。魔力変換をした力で小太郎の中の悪意を浄化したのよ」

「ウサさんスゴイです! 魔法使いなの!」

「涼介すげぇな! お前も魔法使えたんだな!」

 無我夢中の事だったから、どうやって魔力変換をしたのか良く解らないけど、事件を無事に解決出来た事だし、気にしないでおこう。

「宇佐美君」

 九条院が真剣な顔で話し掛けてきた。

「どうした?」

「今度の休み、九条院の研究室で宇佐美君の身体を研究させてもらえないかしら」

「嫌だよ! 何で、俺の身体で人体実験やる気満々なんだよ!」

「そう。興味深い出来事だっただけに残念ですわ」

 目が本気だっただけに、あんまり笑えないんだけど……。

「宇佐美君」

「九条院、まだ何かあるのか?」

「来月、九条院の研究室で宇佐美君の身体を研究させてもらえないかしら」

「だから嫌だって! スパン(間隔)の問題じゃないんだって!」

「宇佐美君」

「今度の休み、ウチの研究所で健康診断してみない?」

「しません! ってか、研究所で健康診断の時点でもう何されるか想像つくわ!」

「どうしても、ダメかしら?」

「どうしてもダメ」

 九条院が目を鋭くして口を開く――

「じゃあ、殺すわ」

「いやいやいや! 嫌なこと拒否した位で殺さないでくれよ!」

「――まぁ! 私としたことが研究対象を欲しがるあまり、はしたない言葉を使ってしまっていましたわ。宇佐美君ごめんなさい」

 さっきの九条院、キャラ変わり過ぎだろ……すげービックリした。

「バウ……バウ!」

 小太郎が立ち上がり、よろよろとした足取りで小野里の方に歩いて行く。

「小太郎~っ!」

「バウ! バウ!」

 泣きながら小太郎に抱きつく小野里を見て、助ける事が出来て本当に良かったって思える。小太郎も嬉しそうだしね。

「そう言えば、小太郎と何を話してたの?」

 セリアが疑問に思ったらしく、立てずに寝転がってる俺に聞いてくる。

「無我夢中だったから良く覚えてないんだけど、お礼を言われて機会があれば恩返しさせて頂きます、とか言ってた気がする」

「恩返しねぇ……。何を頼んだの?」

「えっと……」

 ――いかん! 下心満載の恩返しをお願いしたのがバレたら、また爆発オチが待っている気がする!

「バウ! バウ!」

 小太郎が俺の方を向いて吠える。そして、おもむろに小野里のスカートの裾を咥えて引きずり降ろした! そして、普段スカートで隠されている小野里の下着が露わになった。

「「「――――っ」」」

 すぐにスカートを上げて、赤面する小野里。ハプニングで言葉を失う俺たち一同。

「バウバウ!」

「もしかして、アナタの願ったお礼ってアレかしら?――」

 ヤバい! バレてる! ここはどうにかしないと――!

「そ、そそそんな事ある訳ないじゃないか」

「神に誓って?」

 どうせ、小太郎はもう喋れないだろうから何を言っても大丈夫だろう。

「ああ! 神に誓って!」

「志乃! さっきの小太郎の言葉モンガちゃんに通訳してもらって――」

 マジでか――っ!

【これでさっき言ってた、恩返し完了ですよね!】

 モンガちゃんが勢いよくメッセージボードを掲げるのを確認。さて、この後俺に神の天罰が下る予感がしてならない。恐る恐る視線をセリアの方に向ける。

 ピキピキッ、と音がしそうな位に顔が怒ってらっしゃいます! これは、ヒドい事になる! どうにかしないと!

「セリアさん。魔法だけは勘弁して下さい」

「魔法は使わないわ」

「ありがとうございます!」

「生爪を剥がすわ」

 もっとヒドい事になった!

「それなら、魔法の方が大丈夫かも知れませんので――」

「――雷鳴魔法(サンダー)!」

 俺の身体に雷が落ち、電気だと思われる激しい痛みが走る。

「ぜ、全然……大丈夫じゃなかった……」

「爆発オチじゃなくて良かったわね」

「いや、感電オチも爆発オチも出来れば今回で終わりでお願いしま……す」

 俺は薄れていく意識の中、リストバンドの願望魔力がまた少し溜まっていくのが見えた。

「セリア……」

「何よ!?」

「俺の頭の横に立ってるせいで、さっきからパンツが見えてるんだけど――」

「――っ! 変態っ!」

 セリアのパンツが見えていて、その後に靴の裏がすごい勢いで顔面に迫って来て痛みを伴い「まさかのストンピングオチか……」と思った直後、意識が吹っ飛んだ。

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