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転入生。

「う……ん」

 もう朝か。なんだか、顔が痛い……なんでだろう?

 ……昨晩セリアから顔面に素敵な一撃をもらって気絶したまま寝たからだな。

 それにしても、こんなリストバンドで魔法が使えるようになるなんてなぁ……。右手のリストバンドを見つめながら昨晩のセリアの話を思い出していた。

 モテる魔法を使うためには悪意ってやつを倒したりして魔力を貯めなきゃならないんだよなぁ~。戦うとか怖いから出来れば避けたいんだけど……そうもいかないんだろうな。

 気持ちの整理をしていたら、ドタドタと階段を登ってくる音が聞こえてきた。バタン! と勢い良くドアが開く。メイド服のセリアがベッドの横まで歩いて来る。

 母さんが入って来ると思ってたものだから、少しびっくり。そして、改めてセリアの可愛さにびっくり。不覚にもドキッとしてしまった。

「朝ごはんよ。起きなさい」

「朝ごはんはセリアがいいな」

「しょうがないわね」

「いっただっきま~す!」

「私の拳を喰らいなさい」

 セリアの迷いのない拳が俺の顔面を打つ。

「――ごはっ!」

「どう? 私の拳は?」

「はひ。目が覚めました。ご馳走様でした」

「だったら、早く起きて来なさいよ」

 要件を告げると、スタスタと部屋を後にするセリア。

 ここで起きないとセリアにまた殴られそうなので、洗面所で顔を洗って台所に向かう。

「母さんとセリア。おはよ~」

「おはよ~」

「おはようございます。涼介さん」

 セリアは家に居る時はメイドと言う事になっているから、家族が居る時は敬語なんだよな。椅子に座りテーブルの上の朝食に視線を向ける。

 ご飯に味噌汁、野菜炒めに黒焦げの目玉焼きっぽいものがそこにはあった。本日二度目となる、いただきますの挨拶をして箸を手に取る。

「母さん。この黒焦げのは……?」

「あ、それはね。セリアちゃんが頑張って作ってくれたのよ」

 セリアは台所の端の方から不安そうにこちらの様子をチラチラと覗っている。これは、食べないと駄目だよな……。

 思い切って黒焦げの目玉焼きっぽいものを口に運ぶ。

 ――これは! 美味しい! ――はずがない。

 白身の部分はかなり焦げていて、手に取るまで見えていなかった裏面は軽い炭状態で苦い。でもセリアが作ってくれたんだし、ちゃんと食べないと……。

「うん。悪くないかな」

 セリアの不安そうだった表情が、明るくなったのが遠くからでも解った。

 気を遣って我慢して食べる。ご飯、味噌汁、野菜炒めを一緒に食べてなんとか食べきろうとする。もぐもぐ……もぐもぐ。やっと食べきった! 皿が空になった瞬間、目玉焼きっぽいものが乗っていた皿の上にまた目玉焼きっぽいものが乗せられた。

「え!?」

 驚いて顔を上げると、笑顔のセリアが居た。

「おかわりどうぞ♪」

「さすがにもうこの味でこの量は食べられないって」

 ――あ、口が滑った。

「…………」

 笑顔から一転、セリアは悲しげな顔になり目に涙を浮かべた。

「不味いなら不味いって言えばいいじゃない! この変態バカ!」

 走って台所を出て行くセリア。

「俺、不味いって言ったか?」

「いいえ。でも、マズイ事は言ったわね」

 母さん。それ上手いこと言ったつもり? 

「ごちそうさま」

 食後の挨拶をして、学校の準備のために部屋に戻る。

 女の子を泣かして良い気分ではなかったので、俺の部屋の隣にあてがわれたセリアの部屋に謝りに行く事にした。セリアの部屋の前で立ち止まり、ドアをノックする。反応はないけれど、人の気配は感じられるので返事をしないだけだろう。勢いで来たけど、こんな時になんて言えば良いのか全然思い浮かばない。

「セリア、その、なんて言うか……ごめん」

 やっぱり返事はなく沈黙が返って来る。沈黙ってこんなにキツいものなのか。初めて知った。

「もう時間だから、用意して学校行ってくるよ」

 次の言葉が見つからない俺は、半ば逃げるように学校に向かった。


「涼介。おはよう」

 通学路を歩く俺の後ろから聞き慣れた声が聞こえてくる。

「あぁ、純一か。おはよう」

「どうした。朝から暗い顔だな」

「ちょっと喧嘩しちゃってさ」

「そっか。そんな時もあるわな。朝からそんな暗い顔してると今日一日つまんなくなっちまうぞ。気持ち切り替えようぜ」

「そうだな。気持ち切り替えないとな! あ~。パンチラとか見たいな」

「変態な方に切り替えるな」

「さっきのは冗談として、刺激的な日々を過ごしたいな」

「涼介が言うと冗談に聞こえないぞ。まぁ、転校生やら新任の先生とか来て刺激的ではあるとは思うが」

「そういうのとはちょっと違うんだよな~」

 純一とくだらない会話をしているうちに学校に到着した。

 玄関で靴から上履きに履き替えた所で、俺の身体に異変が。……トイレ行きたい。

「俺、トイレに寄ってから行くわ。先に教室行ってて」

 玄関で純一と別れ、急ぎ足で一階のトイレに向かい用を足す。すっきりした俺は、洗った手をハンカチで拭きながら教室へと足を向ける。

 教室に入り自分の席に向かうと、当たり前だが純一が既に後ろの席に着いていた。

「遅かったな。まぁ、座れよ」

 純一は着席したまま少し腰を上げ、俺の席の椅子を素早く引いて、執事のごとくエスコートしてくれた。……なんか怪しい。

 違和感を察知した俺は椅子を見る。椅子の上に明らかに不自然な膨らみ。なんか座ると体重によって中の空気的なものが噴出してお尻から空砲が出た際の音を再現するアレが仕掛けてあるっぽいのだ。こんなベタなのに引っ掛かるヤツいないだろ。

 そう思いつつも、これはお約束で「うわ~! 引っかかった~!」って言うのが礼儀なんだろう、と思い俺は礼儀作法に乗っとり椅子にゆっくり腰を下ろした。ブ~~。とお約束の音が鳴り始めました。鳴り始めましたでございます。ゆっくり音を鳴らしながらここでセリフだな。

「うわー(棒読み)、引っかかってしまっ――」

 セリフを途中まで言いかけたその瞬間、俺の柔らかくて形の良いお尻に激痛が走った。

「――痛ってええっ!」

 痛みで思わず椅子から飛び上がる。空気を吐き出しぺしゃんこになった椅子の上のソレを見ると表面から画鋲と思われる針が見えていた。

「お前、さっき『刺激的な日々を過ごしたい』って言ってただろ?」

「刺激違いだよ!」

「そうか。じゃあこれは?」

 純一の拳が俺の顔をめがけて容赦のない力加減で飛んでくる。

「物理的な刺激じゃないんだよ!」

 顔を横に大きく傾けて紙一重で拳をかわす。

 ――むにゅっ。

 頭部側面が柔らかいふたつのふくらみに埋まる。

 なんだ? この柔らかくて気持ちのいい未知の感触は? 顔を感触の方に向けたその瞬間。

「きゃああぁーっ!」

 学級代表でクラスメイトの小野里の悲鳴と共に、先程の拳とは違いこちらからは掌が容赦のない力加減で飛んでくる。

 まさに一瞬だった。何が起こったかすぐには理解出来ず、少し遅れて俺の頬に激痛が! 気持ちのいい未知の感触から明らかな物理的な痛み。まさに、これこそ天国から地獄。

「最っ低! この変態!」

 顔を紅潮させながら走って席に戻り、机に突っ伏す小野里。

「良かったな。刺激的な出来事が起こって」

 純一が笑いを堪えながら俺の肩にポン、と手を置いた。

「だから刺激違いだよ! こう言う刺激は求めてない!」

 今度はブーブークッションが無いことを確認して、椅子に再び座ろうと腰を下ろし始める。

「志乃も~!」

 ん? 何か聞こえた気が。しかし、気にせずにそのまま椅子に完全に腰を下ろす。

 その瞬間、お尻に何かが刺さった感触と激痛が!

「痛ってえええええっ!」

「志乃の撒菱はどうでしたか? 刺激的だったなの?」

「だから、こう言う刺激は求めてないんだってば!」

 教室に入って来る佐々木先生。

「は~い、みんな~。席に着いて~。HR始めるわよっ」

『あ、佐々木先生』

『ササエリ来た』

『ササエリおはよう~』

 二日目にして皆から渾名で呼ばれるってすごいな。

「は~い。みんな、おはよっ」

『おはようございま~す!』

「いきなりですが、昨日の服部さんに続き今日も転校生を紹介します」

「え~。志乃、昨日転校してきたばっかりで転校生キャラ持って行かれちゃうなの~」

 え……。キャラとか考えてたんだ。意外だ。

「大丈夫だよ。志乃は忍者のキャラで既に確立してるから」

『二日連続とかすごいな』

『男の子ですか? 女の子ですか?』

「女の子ですよっ」

『やった~!』

『残念~』

 男子と女子とでは反応が正反対だな。

「じゃあ、入って来てもらいますねっ。どうぞ~」

 先生が招き入れる。そこには見た事のある碧い眼の女の子が、金色の髪をふわりとなびかせながら入って来た。

『綺麗な髪!』

『可愛い~!』

 その恵まれた容姿のせいか、自然とクラスから声が上がる

「皆さん。セリア・イリアスと申します。これから宜しくお願いします」

「セリア! 何で、ここに居るんだよ!?」

『また、この変態と知り合いか』

『羨ましすぎる』

「ちょっ、頼むから今日はボッコボコにするのは勘弁してくれ」

 ボッコボコにされなかったが、シャーペンが沢山飛んで来たのは確認できた。

『彼氏は居るんですか~?』

『住んでいるところ教えて下さ~い』

『今日の下着は何色ですか~?』

 今日の下着の質問は俺じゃないぞ。

「彼氏は居ません。でも、好きな人は居ます」

 男子達から溜息が聞こえる。確かにセリアは可愛いから、その気持ち解らないでもない。

「住んでいるところは、宇佐美涼介君の家で住み込みメイドをやらさせて頂いています」

『よし! 苦痛を味合わせてやる』

『とりあえず投げられる物投げつけるぞ!』

「無差別で物を投げるのはやめてくれっ!」

 消しゴム、シャーペン、コンパス色んな物が飛んで来た。そして、今日はついに禁断のカッターナイフまでもが飛んで来た。

『下着の色は~?』

「下着の色は……そんなの恥ずかしくて言えないです」

 そりゃそうだよな。というか言う必要ないしな。

「私の口からは言えないので、涼介に聞いて下さい」

 え……? 一瞬でクラスの視線が俺に集中したのが空気で解った。

『もう、我慢出来ん』

『よし、ベランダに連れて行くぞ』

『志乃、試したい拷問があるなの』

「いやいやいや! 俺は下着なんて見てないってば! あと、俺で拷問を試さないで!」

 くっそ。セリアめ、朝食の事まだ怒ってるんだな。そして、俺はベランダに連行された。


『ふ~。すっきりした』

『変態の癖に羨ましいよな』

『次の拷問は何にしようかななの~』

 俺はベランダでボロボロにされた後に着席する。昨日に引き続き純一が笑いながら言う。

「今日も素敵な顔が出来上がったな」

「殴られ過ぎで顔が腫れ上がったわ」

「じゃあ、宇佐美君のベランダボッコボコタイム(BBT)が終わった所でセリアさんの挨拶の続きしますよっ」

 ……先生。そんな冷静に言わず、止めるとかしてくれないんですか? あと、変な名前と略称を付けるのはやめてください。

「えっと、セリアさんは特技があるのよねっ?」

「はい。私、魔法が使えます」

 ――えっ! 言っちゃって良いの!?

『すげ~!』

『忍術に続いて魔法か!』

『志乃とキャラ被るです』

 隣でわなわなと震える志乃。なんだ、この志乃のキャラへの執着心。

『魔法見せて欲しいで~す』

「じゃあ、火の魔法を見せます。我が奥に秘めたる力、今ここに解放する。火魔法(ファイアーボール)!」

 セリアの前に握り拳大の火の玉が現れた。

『すごーい!』

『出た!』

『昨日の志乃と被ってるなの』

 皆が驚いている中、志乃は頬を膨らませていた。

「だから、志乃はキャラを気にし過ぎだってば」

「ウサさんは前を気にした方が良いかもしれないなの」

 え?! 志乃の言葉を聞き、前を向くとセリアの魔法と思われる火の玉が飛んで来ていた。

「熱っちぃな!」

 小さいとは言え火は火です。

「なんでこっちに飛ばすんだよ!」

「なんか楽しそうに話してるのが、腹が立ったからよ」

 楽しそう? 志乃と話してるのがそう見えたのか? よく解らん。

「じゃあ、セリアさんの席は……宇佐美くんの隣が空いてるからそこに座って下さい」

「何で俺の隣の席いつも空いてるんですか!?」

「えっと。ご都合主G――じゃなくて、秘密ですっ」

 それ、言っちゃダメじゃないですか?!

「セリアさん、席にどうぞっ」

 セリアは、はいと返事をした後、先生に一礼をしてこちらに歩いて来る。

 俺は頬杖をついてその姿を見ていた。途中で何もないところでセリアが躓く。

「きゃっ」

「危ないっ!」

 転倒しそうになったセリアを助けようと席を急いで立とうとする。しかし、机があったせいで上手く立ち上がれず席の横にうつ伏せに倒れてしまう。

 転倒している俺の背中の上にセリアが倒れてきた。

「――ごはっ」

 女の子とは言え、倒れてくると衝撃があるんだな。まぁ、この位ならさっきのベランダボッコボコタイムと比べたら全然痛くない。

「あ、ありがと。助かったわ」

「いや、セリアが無事なら良いんだ」

 立ち上がったセリアが手を差し出してくれた。立ち上がろうとして手を掴もうとした時、セリアのスカートの中が見えた。

「あっ」

 俺の言葉の意味に気付き、どんどん顔が赤くなっていくセリア。コレはヤバい。

「いやぁ~!」

「いや、これは不可抗力で……」

「スケベ! 変態! 死んじゃえ!」

 俺の説明など聞いてくれるはずもなく、容赦のない蹴りが雨あられのように顔面へと飛んで来る。

「顔はっ、もうっ、痛っ、やめてっ、ぐはっ――」

 教室の床が俺の血でどんどん赤く染まっていく。

「大丈夫か?!」

 純一が俺を抱き起こしてくれた。

「なんで急に蹴られたんだ?! 顔面が鼻血で真っ赤だぞ!」

「ううん。俺の顔は真っ赤かもしれないけど、パンツは真っ白だったよ」

「そうか。状況は理解した」

 純一が口元を吊り上げたのが見えた。そして、大きく息を吸い込んだ。

「みんな~! 涼介がイリアスの下着見たってさ」

「純一! 大声で何言ってんの!」

 男子生徒達が俺の近くに集まって来る。

『お前の血は何色だ?!』

『よし、ベランダボッコボコタイムだ』

『志乃、新しい苦無買ったなの。見せてあげるです』

「俺の血は赤です! もうめっちゃ見えてるでしょ?! 更に見たいと申しますか?! あと志乃、苦無は殺傷能力あるから本当に見せるだけにしてくれよな」

 ベランダに連れて行かれる俺の耳に、セリアの言葉が耳に入って来た。

「最低の変態……! でも、ありがと」



「それじゃあ、みんな~! 気を付けて帰るんだぞっ」

 帰りのHRが終わり、クラスメイト達は鞄を持って教室を出て行く。

「セリア。一緒に帰ろうか」

「そうね。家一緒だものね」

 学校を出て、他愛のない話をしながら帰り道を歩く。途中でふと、疑問になった事をセリアに聞いてみる。

「でも、どうしてウチの学校に入って来たんだ?」

「アナタの近くに居たほうが、もし悪意が出て来た時に私の魔法でサポート出来るでしょ」

「確かにそれは助かる……あとさ、朝食の事なんだけど」

 セリアの表情が一瞬強張る。

「その、上手く言えないんだけど……ごめんな」

「ううん。私が料理下手なのが悪いだけだから」

「でも、俺の為に作ってくれたんだよな。ありがと」

「あっ、ああ、あれはお母様に言われて作っただけよ! ……別に、アナタの為じゃないし」

「そうか。じゃあ、後で俺の為に料理作ってくれたら嬉しいんだけどな」

「き、気が向いたら作ってあげなくもないわよ」

「よろしく頼む。楽しみにしてるよ」

 何故かうつむくセリア。

「あ、その代わり黒焦げの目玉焼きだけは勘弁な」

「何でアンタはそこで一言多いのよ!」

「悪りぃ悪りぃ。冗談だって~」

 軽くからかっただけで怒るセリアから走って逃げる。

「――我が奥に秘めたる力」

「いやいやいや! 何で詠唱し始めてるの?!」

「今ここに解放する。火炎魔法(ファイアストーム)!」

「熱っちぃ~っ!」

 大きな炎が容赦なく俺を包み込む。そして、火傷と共に黒焦げになる俺。

「黒焦げの目玉焼きが嫌みたいだったから、アナタを黒焦げにしてあげたわ」

「黒焦げの俺も勘弁して下さい」

「面白い冗談だったでしょ?」

 全然面白くない冗談です。そして、冗談じゃないくらいに熱くて痛かったです。セリアの料理についてからかうのはやめておこう、そう誓ったのだった。


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