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願望魔力。

「ただいま~」

 俺は、学校から帰宅すると真っ直ぐに自分の部屋に足を進めた。

 部屋に入ると制服のネクタイを緩めワイシャツを第二ボタンまでを外し、ベッドに飛び込み寝返りをうって仰向けになった。

「あ~。疲れた」

 かなり疲れていて無意識に言葉を口にしていた。ってか、この疲労感はボッコボコにされすぎた事にも原因があるんじゃないか?

 それにしても、今日は一日が長かった気がする。多分、忍者の転校生の志乃と新任の佐々木先生が来たからだろうな。

 ちょうどいいので、このまま少し寝てしまおうと思った時だった。

 ――コンコン。ノックの音がした。

「入るわよ」

 メイド服姿のセリアが入って来た。家事でもやってる途中だったのだろうか。

「私の課題、アナタの願いの事について話があったから来たわ」

「そうか。じゃあ、そこのクッションの上にでも座ってくれ」

 テーブル横のクッションを指差しセリアを座る様に促す。俺はベッドから起き上がり、セリア同様テーブル横のクッションの上に腰を降ろす。

「それじゃあ、これからアナタがモテるようになるための手順を説明するわ」

「え? 魔法で簡単にモテるようになるんじゃないの?」

「そんなに甘くないし、そんな風に魔法を使ったら最終試験の課題にならないじゃないの」

「……確かにそうだ」

「まず、アナタにはこの魔法道具(マジックアイテム)を着けてもらうわ。これはね、魔力を貯蓄できるリストバンドなの」

「そんな便利な物があるんだ」

「ちょうど、アナタはいつもリストバンドを着けているみたいだから、周りからも違和感を受ける事なく着けられそうね」

 セリアの手から離れ、俺の所に飛んでくる黒いリストバンドをキャッチする。

「とりあえず、それ着けてみて。その方が話が早いわ」

 子供の頃に犬に噛まれた傷跡が治らずに残ってしまい、それから周りの目を気にして俺はリストバンドを常に着用するようにしていた。

 魔法道具(マジックアイテム)のリストバンドを着けようとして、俺は自前のリストバンドを外すとセリアの驚く声が聞こえて来る。

「どうしたの!? その手首の傷!」

 まぁ、こう言う質問をみんながしてくるから常に着用してるんだけどな。

「昔なんだけど犬に噛まれちゃってさ。その時の傷跡が治らなくて」

「大丈夫なの?」

「あぁ。普通の人より握力は失くなっちゃってはいるけど、日常生活には問題ないんだ」

 右手の傷跡の事を説明しながら、魔法道具のリストバンドを装着する。

「これで良いのか?」

「そうね。問題ないわ。メーターが付いているのが見えるかしら? そのメーターは願望魔力が蓄積される度に増えていくの」

「願望魔力?」

「そう。願いを叶える時に使う魔力の事をそう呼んでいるわ」

「じゃあ、セリアが普段魔法を使っている時の魔力とは別物って事か?」

「理解が早くて助かるわ。ちなみに、周りの人からはメーターは見えなくて普通のリストバンドにしか見えないわ」

「へ~。このメーターが貯まると、どうなるんだ?」

「メーターが満タンになると、ある程度の願いなら叶えられる魔法が使えるわ」

「すげ~! これさえあれば、モテモテ確実なんだな! ん? ある程度の願いって?」

「あんまり、大袈裟な願いは叶えられないの。例えば、世界征服したいとか全ての女性を虜にするとかね。」

「魔法でモテモテになりたいは大丈夫なのか?」

「それくらいなら、大丈夫よ」

「魔法で目からビームとかは?」

「くだらない事言ってるとぶつわよ」

「魔法で鼻から牛乳は?」

「……」

「ぐぁっ」

 鼻から牛乳は出なかったけど、いっぱい血が出たよ。やっぱりセリアは魔法が使えるんだな。

「この魔法道具には、他にもいくつか機能が備わっているの」

「そんなにも、多機能なのか」

「通常、魔法は私たち魔法使いのように魔力がないと使えないんだけど、その魔法道具は体力を魔力に変換する事が出来るの」

「体力を魔力に?」

「そう。結構な体力を消費して魔法を使うって事。私たちは『魔力変換』と呼んでいるわ」

「疲れそうだな」

「魔力変換をするとね、その変換した魔力を消費して肉体や身体能力を強化する事が出来たり、更にその状態から集中力を高めれば魔力で武器を創り出す事が可能だったりするの。人によって剣だったり、槍だったり、あとは特別な所では盾とか具足や鎧とかね。手や足に胴体、武器が具現化される場所は人により様々なの」

「武器に防具に色々あるんだな」

「ちなみに、この機能は体力を魔力に変換するだけで蓄積された魔力は減らないから安心してね」

「お~。それなら、安心して使えそうだ。ところで、その願望魔力とやらはどうやれば貯まるんだ?」

「願望魔力は良い事をしたり、悪意を倒したり浄化すると貯まって行くわ」

「ふんふん。良い事をするは解るけど、悪意って何?」

 当然の疑問だ。初耳な単語の上に説明が大雑把すぎて良く解らないからな。

「簡単に言うと、人間って理性があって殴ったり、盗んだり、殺したりとかしないでしょ? でも悪意が人に憑くと、理性が崩壊しやすくなって犯罪を起こしたりするのよ」

「じゃあ、温厚な人が急に狂ったりするのは悪意の仕業って事?」

「全部が全部とは言えないけど、大抵はそうなるわね。悪意は人に取り憑くの。霊体みたいなものって言うと解りやすいわ。ちなみに、私たちはその霊体状の悪意を【マリス】と呼んでいるわ」

「その取り憑かれた人を助ければ良いわけか」

「あと、場合によっては魔力を使用し、倒して浄化しなければならないわ」

「ん? 悪意と戦う事もあるって事?」

「そう。だから少しは覚悟しておいてねっ」

 セリアのウインクが飛んで来る。しかし、嬉しくないのは何故だろう。とりあえず、俺もウインクを返して見せた。

「気持ち悪いわね」

「ヒドい事言うなぁ」

「まぁ、他の機能はおいおい説明するわ。難しいことばかりだったから疲れたでしょ?」

「確かに、難しい説明を理解するのにかなり脳が疲れた」

 セリアは俺に「ちょっと待ってて」と、告げ自身の部屋である隣の部屋に戻って行った。

「疲れた時にはね、甘いものが良いのよ」

 戻って来たセリアの手元には、小さめで形が綺麗に揃った、星型や花型のクッキーがあった。

「おぉっ! すげー! 売ってるクッキーみたいだな!」

「これ、買って来たやつ」

「だからか! だから綺麗な出来栄えなのでございますね!」

「私が買って来たんだから、ありがたく食べなさい」

 俺は、ありがたや~、と両手を合わせて頂く事にする。

「これ、普通のじゃないのよ」

「もしかしてスゴイ高いとか?!」

「そうね。パッケージには、超高級――」

 高級品だと思い、俺は口いっぱいに勢い良く頬張る!

「――超高級! 愛犬大満足クッキー!」 

 そして、勢い良くリバース!

「それ、普通じゃねぇよ! 犬用は普通のクッキーじゃねぇから!」

「高かったのに……」

 値段の問題じゃないですよ。種族的な問題ですから。口の中が気持ち悪い。

「わがままね。じゃあ、もうひとつのクッキーよ」

 後ろからお皿に乗った、新しいクッキーが出てくる。

「もしや、このクッキーは手作りってやつですか?!」

「ううん。コンビニで買って来たやつ」

「いやいやいや! ここは、手作りクッキーが出てくるのがお約束だろ!」

「なんで、アンタに手作りクッキーなんて作らなきゃならないのよ」

 うは~っ! 何この冷たい視線ア~ンド冷たい口調! ちょっと気持ち良い!

「ニヤけて気持ち悪いわね。食べないなら私が食べちゃうわよ」

「え、俺を食べるんですか!?」

「クッキーよ」

 またも、冷たい視線。そろそろ怒られそうだから普通にクッキーを頂こう。

 もぐもぐ。うん。普通に美味しい。

「あと、もうひとつ私用に買ったんだけど、思ってたより沢山入ってたからあげる」

 個包装のクッキーを渡され、開封して食べる。あ、こっちのクッキーはかなり美味しい。

「甘いもので少し疲れも取れたでしょ。今日はもう遅いし、そろそろ寝ましょうか」

「そうだな」

 俺はベッドに飛び込み、セリアを手招きする。

「よし! じゃあ、俺の隣に来いよ!」

 近づいてきたセリアを俺の素敵な低音ボイスで誘惑だ。

「今夜は……寝かさな――ぐはっ!」


 俺の顔面に決まったセリアの一撃により、薄れていく俺の意識。

 ――おやすみなさい。


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