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登校。

 ――カンカンカン!

 フライパンをお玉で叩く音が、けたたましく家中に鳴り響く。

 そんな、漫画の様な母親の朝の合図で俺の朝はここから始まる。

 重い目蓋をなんとか開き目をこすってベッドからむくり、と起き上がる。

 俺の名前は宇佐美涼介。モテたい盛りのエロ盛りの高校二年生の十七歳だ。

「朝よ~。ゆっくりしてると遅刻するわよ~!」

「解ってるよ~」

 まだ、ハッキリしていない意識の中、ドア越しの母親の言葉に返事をしながら七時を示す時計を確認する。そして、無意識で再度ベッドに身体を沈める。

 ――あぁ。布団って気持ちいいなぁ。


「涼介、大丈夫なの~!?」

 母親の声でハッとする。お約束の二度寝をしてしまっていたようだ。時計を見ると八時過ぎを示していた。

「やっべ! 遅刻じゃん!」

 睡眠という幸せな時間を与えてくれていたベッドから飛び起きる。すぐに制服に着替え階段を駆け降りキッチンへ。

「お弁当忘れちゃダメよ~。あと、テーブルの上に朝ごはんあるからね」

 母親は流し台でお茶碗やお皿を洗っている。

 まぁ、ここまではいつもと変わらない朝の光景なんだが、昨晩の出来事によって、そのいつもと変わらない朝の光景が変わったのであった。

 流し台に居る母親の隣には、メイド服の可愛らしい女の子が居る事である。

 しかも、これが本物の魔法使い(研修中)って事だから驚きだ。

 そして、今日も絶対領域が素晴らしい事に驚きだ。

 もひとつおまけに、朝からこんな事を考える俺の思考回路に驚きだ。

「おはようございます。涼介さん」

 ニコッ、と微笑みながら挨拶をしてくるセリア。

 あぁ~、昨日の出来事は嘘じゃなかったんだな……。

 俺は改めて実感した。なんとも言えない不思議な感覚だけど、家に可愛い女の子が居るって言うのは嬉しいもんだね。

 しかしどうにか、あのメイド服のスカートの中を覗けないだろうか……。無意識にそんな事を考えていた。

 俺の思考回路は要注意だと自分でも思う。

 俺はテーブルに置かれていたバターの塗られたトーストをくわえて、急いでそのまま玄関に向かい靴を履き、学校へと足を向ける。

「まさか、漫画みたいにトーストをくわえてリアルに登校するなんて思っても見なかった」

 ぶつぶつとひとり言を言いながらも走って登校する。

 今日は衣替えが始まった六月初旬。まだ、寒かったり暖かかったりするけれど、今日はちょうど良い気温で過ごしやすそうだ。

「そう言えば、セリアはモテるようにしてくれるって言ってたけど、もう何かの魔法が俺にかけてあるのかな? だったら、すぐに彼女出来るかな? どうせだから運命の出会いがあるように、運命の神様にも祈っておくか」

 気持ちが良いくらいに晴れあがった朝の通学路を走りながらそんな事をふと思った。

 少し走ると、コンクリートで作られた塀のある見渡しの悪い曲がり角に差し掛かる。

「まさか、こんな所で転校生の女子とかにぶつかったりする運命の出会いがあったりして」

 ろくでもない妄想しながら、ろくに減速もせずに曲がり角を曲がる。

 注意せず曲がったせいで、誰かと激しく衝突した!

 衝撃で少しよろけたものの、俺は運命の相手と思われる人に反射的に聞いていた。

「大丈夫!?」

「大丈夫よ。それよりお弁当忘れちゃダメじゃない!」

 母親が弁当を差し出す。

「母かよっ!」

(前言撤回だ。運命の人が母親のはずがないからだ。いや、まぁ、俺を産んだからには違う意味で運命の人である事は間違いないんだが……)

 今は、そう言う意味での運命の人を探してるわけではない。

 …ん? お弁当届けようとして後から俺を追いかけて来た母親に曲がり角でぶつかるのっておかしくないか!? という疑問はとりあえずここに置いておいて、母親にお礼を言って弁当を受け取りまた学校目指して走り出す。

「やっぱり、運命の出会いなんてないよなぁ……」

 改めて現実を痛感しながら、また走り出す。


 母親から弁当を受け取りしばらく走った後、曲がり角に差し掛かる。

「また、母親が居たりしないだろうなぁ。もしくは今度は父親じゃ……」

 などと色々考えつつ急いで曲がり角を曲がる。

 またもや接触。しかも、先程よりも激しく衝突! そして、激しい痛みを伴い転倒!

 倒れた俺は身体を起こし顔を上げると、今度は知らない大人の女性が立っていた。

 運命の相手と思われる女性に心配そうに聞かれた。

「君、大丈夫?!」

「あ、僕は軽く膝をすりむいた位ですから全然大丈夫ですよ。そちらは大丈夫ですか?」

「私の自動車の方はフロントバンパーがブッ壊れたくらいだから大丈夫よ」

「俺スゲー丈夫じゃねっ!? 車のバンパーはブッ壊れてるのに俺は膝をすりむいただけって俺スゲー丈夫じゃねっ!?」

 自分の頑丈さに驚きながら、自然と叫んでいた。

「大丈夫みたいだから私はこの辺で行くねっ。気をつけるんだぞっ――チュッ」

 笑顔で言いながら俺の頬に軽く口付けをしてその女性は颯爽と車で去って行った。

「え……俺、キスされちゃった」

 頬が感じた未知の感触に俺は呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。

「あれ? 俺、事故られてキスひとつで示談?! むしろ気を付けるのはお姉さん、あなたじゃないですか!?」

 若干の怒りも覚えたが、初めてのキスの感触でそんなことはどうでも良くなっていたようだ。頬に残る唇の感触を思い出しニヤけたがる頬の筋肉を抑え、学校を目指して再度走り出す。


 その先の曲がり角で、再度誰かと激しくぶつかる!

「きゃっ」

「!」

 今度の衝撃はさっき程ではなく、(ってか、自動車は反則だよな)わりと軽いものだったので倒れず立っていることが出来た。

 そして、目の前には俺との体格差により、ぶつかった衝撃で座りこんでしまっている小柄で可愛いらしい子が居た。この辺では見たことのない制服姿で、ポニーテールが印象的だった。

「鞄が……」

 鞄は彼女の手から離れ、口が開き中身が散乱し地面に転がっていた。

「ごめんね。俺が急いで走ってたばっかりに」

「いえ、志乃もボーっとしてたのが悪いですからぁ」

 辺りに散らばる鞄の中身。俺は急いで拾い集める。

 彼女が申し訳なさそうに言う。

「尖ってて危ないから、志乃が自分で拾うから大丈夫なの」

 俺は急いで散らばったモノを拾いながらこう言う。

「大丈夫。俺が悪いんだから、俺が拾うよ。尖ってるってコンパスとか?」

「うぅん。撒き菱」

「痛ってええぇぇぇ! 俺スゲー握っちゃったんだけど! 撒き菱スゲー握っちゃったんだけど!」

 ぐっさり刺さった撒菱により激しく出血する俺の右手。

 それは、『撒菱を思い切り握ってしまい、血溜まりが出来そうなくらい出血したんですが大丈夫でしょうか?』という疑問をネットのどこぞの知恵袋に相談したくなるくらい不安な出血量だった。

 出血のしてない左手で、拾った撒菱をこぼれないように彼女の鞄に奥まで手を突っ込んで入れてあげた。

「撒き菱拾ってくれてありがとうですぅ! それじゃ、志乃は行きますなの!」

「うん。じゃあ車に気を付けてね」

『あと、撒菱も撒き散らさない様に気を付けてね』と思ったが、その事は告げずに手を振って彼女を見送る。

 おっと、俺も急がなきゃいけないんだった! 学校まであと少し、急がないと!

 全力で通学路を駆ける。最後の曲がり角を曲がれば学校まであと少し。ラストスパートで最後の曲がり角を曲がると、またも誰かと衝突!

 今日はぶつかり過ぎだろ! 今度はどんな女の子だろうか? 今度こそ、運命の神様お願いします!

「痛たたた。ごめん、大丈夫?」

「ワシは……運命の神様じゃ」

 ヤバいヤバいヤバいヤバい。ヤバい人出てきた! コイツ絶対ヤバい人だ!

 白髪に白い髭をたくわえたその老人は目をカッ、と見開き俺に告げた。

「田中一郎よ。お前の運命はこれから大きく変わるであろう!」

 名前違うし! 大雑把すぎてよく解らんわ!

「お前の事ならなんでも解るわ」

 なら俺の名前を間違えないで頂きたい! このボケじじいが。

「ところで、ワシのご飯はまだかのぅ?」

本当にボケんな! 意味が違うよ! お前の風体じゃ年齢由来の天然のボケか、笑いを求めたボケか解らないんだよ!

「さて、帰るとするかのぅ」

お前、何しに来たんだよ!

「最後になるんだが……ワシのご飯はまだかのぅ?」

 さようなら。全力疾走でさようなら。

「学校遅刻しちゃうので、これで失礼します!」

 俺は、自称運命の神様から逃げるように走った。

 そのおかげか、予想よりも早く俺の通う学校『緑ノ学園(みどりのがくえん)』が見えて来た。

 学校の大時計を見ると八時四十分。その時、ちょうどHR開始の予鈴が鳴り始める。

 急げ、俺の足よ! 遅刻はしたくない!


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