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誘拐事件。

「補習だりぃな」

 後ろからやる気のない無気力な声が聞こえる。その声の主は純一だ。

「しょうがないだろ。俺達テストの点数低かったんだから」

 そんなの俺だってダルいわ。俺と純一はテストの結果が散々だったせいで、放課後に行われた補習の終了後、更に居残り勉強でプリント十枚と言う拷問を課せられていた。

「ほ~ら、早くやりなさい。待ってる私達の身にもなってよね」

 隣の机に腰掛け、足をぶらぶらさせているセリア。しかも、笑顔で。これは完全にバカにして面白がってる。

「純。早く終わらせて一緒に帰るぞ」

 セリアの横で、影山が木刀で自身の肩をトントンと叩いていた。

「そう言えば、セリア。今日遅刻して昼から来てたけど、どうしたんだ?」

「べ、別になんでもないわよ! ちょっと二度寝しちゃってただけよ! バカ! 早くプリントやりなさい」

 なんで、バカ呼ばわりされたんだ。まぁ、罵声を浴びさせられるのは今に始まったことじゃないしな。それにしても、プリント十枚は多いな。

 俺と純一は、外が暗くなり見回りの先生が『学校を閉めるからもう下校しなさい』と促しに来るまで時間をかけたが大量のプリントは終わらなかった。残った分は、家でやって来て提出との事だったので、今日はゆっくり休めなさそうで憂鬱だ。


 玄関を出て俺・セリア・純一・影山の四人で並んで歩く。このメンツで揃って歩くのは珍しいかも知れない。

 外灯程度しか明かりのない、うす暗い校庭を歩いて校門を目指す。それにしても、暗い学校ってなんかドキドキするな。

「アタイ、暗いの怖い」

「オレは美咲の木刀の方が怖いわ――痛っ!」

 純一の頭に綺麗なたんこぶが出来た。

「私は暗いと変質者が怖いわね」

「セリアなら大丈夫だろ。変質者が出ても魔法でやっつければいいんだし。まぁ、そんなセリアを襲う物好きなんて居ないと思うけどな。ははっ――ぐへぇっ!」

「変質者が居たから魔法でやっつけてやったわ」

 ついに、セリアがノーモーションで魔法を使える様になったみたいだ。

「俺は変態だけど、変質者じゃない!」

 必死に弁明するが、セリアを始めみんなは真面目には取り合ってくれなかった。

 校庭の真ん中に差し掛かった位の場所で、

「なんか、あそこ光ってないか?」

 純一が上空を指差す。確かに、遠くに小さな光が見える。そして、徐々に近くなり光が大きくなってくる。

「UFOじゃね?」

 純一が冗談交じりで言葉を言い終えた時には、光はかなり近くの上空にあった。影山がふと呟く。

「あの光。宇佐美が魔力変換とか言うのをする時に、出る光と似てないか?」

 そう言えば、自分では魔力変換の時の光って見たことないからな。あんな感じで光るのか。俺達の少し離れた上空で光は停止した。本当にUFOだったりするんだろうか?

「あの光――!」

セリアの目が丸くなったと思った途端、すぐに顔が一気に強張った。その表情からこの場に居た全員が、この状況が只事ではないと感じ取った。

「皆、気を付けて! 多分だけど、攻撃魔法が来るわよ!」

 え? 魔法? セリア以外で魔法使える奴なんているのか!?

「我が力、ここに示せ。氷槍魔法(アイススピア)

 空中で停止していた光の周りに氷の槍が四本現れた。ソレは俺たち四人それぞれに向かって勢い良く飛んで来る――。

「――影山流剣術! 露払い!」

「――吉原流! 真剣白刃取り!」

「――爆発魔法(エクスプロージョン)!」

「――性なる手鏡(ハンドミラー)!」

 各々の技で、飛んで来た氷の槍を砕く。氷はバラバラになり、地面に落ちる。

 何だ、今の魔法は。完全に俺達を殺そうとした攻撃。

「ほう、今のが防げるのか。ゴミ虫にしては良くやった方だな」

 鼻につく喋り方と言葉が耳に入って来る。俺達の上で滞空していた光がゆっくり地上に降下し、近付いて来た。

「御機嫌よう。ゴミ虫共」

 そこには短めの金髪を立ち上げた、青眼で貴族の様な出で立ちの男が立っていた。

「やっぱりアランだったのね!」

 セリアの知り合いか? それにしても、ここまでいけ好かない喋り方の奴は久しぶりに見る。セリアに『私の友達だから、仲良くしてね』と言われても素直に仲良く出来ない予感がする。

「久しぶりだな。こんな汚い人間界なんぞに居ないで、俺様の元へ来いと言っておろうが」

「イリアス。誰だ、あいつ?」

「アラン・クリスフォード。天界での私の許嫁よ」

 ――許嫁!? 予感じゃなくて、確実に仲良く出来ないと思う。

「そんなゴミ虫達と一緒に居ると、お前までゴミ虫になってしまうぞ」

 ダメだ。コイツ嫌いだ。ムカつく。

「なぁ、何でこの金髪はオレ達を攻撃してくるんだ? イリアスの許嫁だろ?」

 確かに純一の言うとおりだ。許嫁が攻撃なんてしてこないよな。

「許嫁でも、親が勝手に決めた許嫁よ。まぁ、親って言っても、天界での育ての親だけどね」

 そっか。セリアは昔の記憶を失っているから産みの親はどこに居るか解らないし、顔さえも憶えてないんだよな。

「アランは天界では名家のご子息なのよ。簡単に言うと貴族みたいなものね。だから、私は親にアランと結婚するように命じられたの」

 純一が疑問をもったらしく、聞き返す。

「天界では普通の人間が貴族と結婚するなんて事があるのか? そう言うのは貴族同士が相場なんじゃないのか?」

「吉原君の言う通りなんだけど、クリスフォード家の話によると私には特別な力があるらしいの。特殊な魔法の契約にその力が必要らしいわ」

「じゃあ、さっきの魔法でイリアスが死んでたらどうするつもりだったんだ?」

「多分、私が死んでも身体があれば契約には問題ないんでしょうね」

 ――ダメだ。話聞いてるだけで腹が立ってきた。

「そんなの、許嫁でも何でもないだろ!」

 セリアが悪い訳でもないのに、つい声を荒らげてしまった。

「しょうがないじゃない。親が決めた事だし、それで結婚して家族が裕福になって、みんなが幸せになれるんだったら私が我慢すれば良いだけの話だから」

「良くない! 俺はセリアが辛い思いするなんて嫌だ!」

「涼介……。ありがと。でもね、これはしょうがない事なの」

 純一と視線を交わし、二人でセリアの前に出る。

「おい、そこの金髪野郎。イリアスを連れて行きたかったらオレ達を倒してからにしろ」

「残念ながら、セリアは俺の家のメイドさんなんだよ。居なくなったら家事が大変になっちまうだろ。だから、連れて帰らせない」

 アランに敵意を持って睨みつける。しかし、俺達の視線を気にすることもなくアランは不敵に笑った。

「良いだろう。俺様とゴミ虫との力の違い見せてやろう」

「やめて! アランは魔法学校をトップの成績で卒業したレベルの魔法使いよ。アナタ達二人じゃ絶対勝てないわよ!」

 セリアが警告をしてくれるが、そんな事は関係ない。俺と純一は目を合わせ、

「「やってみなきゃ、わかんねぇよな」」

 声を揃えていた。純一は影山から木刀を受け取り、握り締める。俺は、魔力変換で戦闘態勢を整える。

「トランス! ――メフォゼ!」

 光が股間から放出され、大剣が現れる。それを両手で取って構えた。

 日々の練習のおかげで、あっと言う間に武器の具現化は問題なく出来るようになった。

「なぁ、その股間から出るのはどうにかならないのか。緊張感のかけらもないぞ」

「ああ、無理だ。どれだけ練習してもここから出てくる」

 これとないくらい、真剣な顔で答えた。

「ふっ。ふははははっ」

 アランの嘲笑が聞こえる。

「なんだそれは。ゴミ虫は大層下品な所から武器を出すんだな」

「コイツだけだ」

 純一が即答した。本当の事とはいえ酷いな。

「お前は、この下品な所から出た武器で叩きのめされるんだよ」

「面白い。やってみろ。――行くぞ、ゴミ虫共」

 アランは右手を前に出し、魔法の構えを取る。

「行くぞ、純一!」

「おうよ!」

 俺達は武器を構えながら、走って一直線にアランの元に向かう。アランの少し手前で純一は一度膝を曲げ、反動を付け大きく飛び上がる。

「影山流剣術――脳天割り!」

 純一が上から、俺が正面から攻撃する。

「くたばれえぇ! このキザ野郎!」

 走りながら剣を横に振りかぶり、横っ腹を狙う。

「我が力。ここに示せ。氷鎚魔法(アイスハンマー)

 アランの周りから現れた、ふたつの氷の塊が俺と純一を襲ってきた!

「ごはっ!」

「ぐはっ!」

 氷の塊が勢い良く向かってきて、俺と純一の腹をえぐる。

「純っ!」

「涼介ぇっ!」

 セリアと影山の悲鳴に近い叫び声が聞こえた。

 ――すげぇ痛ってぇ。衝撃で息が止まり、地面に倒れ込んだ。横を見ると純一も同様に倒れていた。

「たわいもない! この程度で倒れるなぞ、やはりゴミ虫だな! ゴミ虫には地べたがお似合いだぞ!」

「このキザ野郎……」

 ぶん殴ってやりたいけど、さっきの攻撃が強力だったため身体が自由に動かない。

「涼介、大丈夫!?」

 セリアが駆け寄って身体を起こしてくれる。自分の無力さがこんなにも悔しいと思ったのは初めてだった。

「私の為にこんなに目に遭うなんて……」

「気にするな。セリアだってあいつあんまり好きじゃないだろ?」

 なんで解るの? と疑問の表情を浮かべた。

「そりゃ、解るさ。セリアとは出会ってからずっと一緒に居たからな。まぁ、本当はなんとなくだけど」

 アランが左腕をさすりながら俺に提案してくる。

「そこのゴミ虫。俺様に一撃食らわせるとは、褒めてやろう」

 俺と純一の攻撃は微かではあるが、アランに届いていたようだ。

「面白い事を思いついた。そんなにそこの女が大切ならもう一度チャンスをやろう。そうだな……明日の昼、そこに見える高台の頂上まで来い」

 その指差す方向には、九条院財閥が土地開発をしている高台があった。今は、何らかの事情で土地開発は中止されているらしいが。

「ゲームをしようじゃないか。高台の一番上まで辿り着いて、俺様を倒せたらそこの女は諦めてやろう」

「やめて! 涼介、殺されちゃうわよ! 私の事はもういいから!」

 セリアが俺の袖を掴み大声を上げる。その手にはセリアの心境を表すかの様に、強く力が入っていた。このキザ野郎、面白がってやがる。でも、今の状態だと勝てそうにない。ここは、セリアの為にも条件を飲もう。

「いいぜ。受けて立つ」

「では、交渉成立だ。死んでも構わない覚悟で来い」

「逃げるんじゃねーぞ、キザ野郎」

「それは俺様の台詞だ。お前が逃げないように、そこの女は預かって行くぞ。――氷鎖魔法(アイスチェーン)

「――きゃっ!」

 魔法により、氷の鎖でセリアが捕縛され一瞬でアランの元に引き寄せられた。

「待てよ! セリアを連れてくな!」

「涼介!」

 俺は直ぐに手を伸ばしたがセリアに届かなかった。

「さらばだゴミ虫」

 そして、大きな光を纏い二人は消えて行った。

「ちくしょう! セリアを守れなかった!」

 悔しさで地面を殴りつける。何度も何度も。悔し過ぎて痛みを感じやしない。

「涼介。悔しいのは分かるが、今は帰って休め」

 純一が影山の肩を借りて立っていた。

「純一。……俺、悔しいんだ。セリアを守ってやれなかった事が。頼ってもらえなかった事が。あいつ、連れて帰られたらきっと苦しくて辛い思いをする。最後は『私の事はもういいから!』なんて言わせちまったし。情けねぇよ」

「元気出すんだ。どうしても悔しいんなら泣いちまえ。スッキリするぞ」

 純一の言葉で、我慢していた悔し涙が溢れてきた。

「うっ、うっ――」

「泣きたい時は思いっきり泣け。好きな人の為に泣くお前を笑う奴はオレがぶっ飛ばしてやるから」

 好きな人? あぁ、もしかしたら俺、セリアの事好きだったのかな。だから、こんなに悔しいのかもしれない。なんだかこんな場面、昔にもあった様な気がした……。

「少しは落ち着いたか?」

 涙を流したからだろうか。そのおかげで少しスッキリした。

「ありがとう。少し気が晴れたよ。明日はあのキザ野郎ぶっ飛ばしてくるわ」

「ああ。思う存分ぶっ飛ばしてこい」

「そんで、必ずセリアを連れて帰ってくるわ」

 学校を出た時から一人少なくなった、俺と純一、影山の三人は暗い道を帰って行った。



 純一と影山の二人と別れ、母親にセリアが帰って来られない言い訳を考えていながら歩いていたら、家のすぐ近くまで来ていた。しかし、家に着くと明かりは灯っていなかった。玄関の鍵を開けて、キッチンに向かう。そこには母親からの書置きとバターロールがあった。

【三日程、近所の方と旅行に行ってきます。お母さんが居ないからって、セリアちゃんを襲っちゃダメだからね(笑)】

 こんな冗談交じりの書き置き、普段なら微笑ましいんだけどセリアが居ない今日は笑えない。まぁ、セリアが帰って来られない言い訳を考えずに済んだのが唯一の救いかな。

 ……とりあえず、シャワー浴びて何か食って寝よう。


 シャワーを浴び終わり、キッチンに向かう。ちなみにシャワーは、身体の切り傷がお湯で染みて痛かった。

 棚からコーヒーを取り出して淹れる。今日はブラックでいいかな。あとは、テーブルの上のバターロールで済ませよう。ってか、食べ盛りの男子高校生の夕飯をバターロールだけで済まそうとするウチの母親の思考が解らない。普通、もっと気を遣って用意するだろ。

 コーヒーとバターロールをトレイに乗せて、部屋に向かう。

 ――ガチャ。パチッ。

 ドアを開けて電気を付ける。部屋を見るとテーブルの上に見覚えのある可愛らしい容器とメモが置かれていた。

【またクッキー作ったの。別に、涼介が食べたいって言ってくれたから作ったんじゃないわよ! 気が向いたらから作っただけなんだからね! 食べたら感想聞かせてね☆】

 今朝はこんなの置いてなかったよな……。って事は、昼間に作ったのか?

 ――あ! これを作ってたからセリアは学校に遅刻して来たのか!

 俺がまた作ってくれって言ったから、すぐに作ってくれたのか。……やばい。こんな状況なのに嬉しくて涙が出そうだ。

「また、甘すぎたりしなだろうな」

 ドキドキしながら蓋を開けると、星型やハート型の可愛い形のクッキーがそこにはあった。甘すぎた時の為にブラックコーヒーしておいて良かったかも、なんて思いつつクッキーを口に運ぶ。

 もぐもぐ。丁度いい甘さですごく美味い! セリア、料理苦手なのに頑張ってくれたんだな……。お礼言わなきゃ。そう思った時、頬に何かが流れるのに気付いた。

「あれ? 俺、泣いてる」

 クッキーを俺の為に作ってくれた嬉しさ。ここにそのセリアが居ない寂しさ。お礼が言えない寂しさ。そんな、セリアを守れなかった悔しさ。色んな感情が溢れて出て来たからだろう。クッキーを食べ終わり、ここには居ないセリアに心の中で『ご馳走様』と告げる。

 ――明日、直接『美味しかったよ』言ってやらなきゃな。

 俺は、ベッドに倒れ込んだ。横になるとすぐに意識が薄れていった。



 窓から入って来る陽の光で目を覚ます。伸びをすると身体が痛い。昨日の傷と特訓の疲れが残ってるからだろう。時計を見ると針は十時を示していた。

「朝か。もうこの時間だと学校始まってるな」

 まぁ、今日は学校になんて行ってる場合じゃないから休むからいいけど。さて、着替えて九条院財閥の高台まで行って、あのキザ野郎をぶっ飛ばして来るか! 着替えを終えるとドアをノックする音が聞こえてくる。

 コンコン。ん!? セリアも母親も居ないはずだけど。それに、玄関って鍵掛けてあるぞ。もしかして、泥棒!? いや、泥棒はノックしないか。とりあえず、万が一襲って来られても大丈夫なように身構える。何者かによってドアが開かれる。

 ――ガチャ。

 ドアが開くとそこには、純一・志乃・影山・テバスチャン・九条院の特別編成隊(ヘンタイ)のメンバーの姿があった。

「ヘンタイのみんな、どうしてここにいるんだよ」

 驚いて声を出すと、純一が片手で頭を抑え苦笑いしながら言う。

「お前にヘンタイって言われるとなんか複雑な気分だな。特別編成隊の仕事って事で授業を抜けて来たんだ。小野里は学級代表の仕事があって学校に残ってるけどな」

「それはそうと、どうやって入って来たんだ? 鍵掛かってただろ? もしかして、鍵をぶっ壊して入って来たんじゃないだろうな」

「志乃が忍術で開けたなの」

 そんな忍術もあるんだ。忍術すげぇな。

「忍法 鍵穴に苦無を無理矢理突っ込んで強引に開ける! の術なの」

「それ、ぶっ壊してるから! ただの豪快なピッキングだよ! もう犯罪だからね!」

 あぁー。出て行く時、家の鍵どうしよう。でも、志乃のおかげで良い感じに肩の力が抜けたような気もする。

「今日はあの金髪野郎をぶっ飛ばしに行くんだろ? だから、みんな協力しに来た」

「いや、それは嬉しいんだけどさ。多人数で行くのは卑怯じゃないか?」

「涼介、憶えているか? あいつは『ゲームをしよう』と言った。ただ、高台でお前と戦うだけで『ゲーム』なんて単語が出てくると思うか?」

 言われてみると、確かにそうだ。

「高台の頂上への道は開発途中のため細くなっていて一本道ですのよ。多分、そこに罠あるいは刺客みたいなのを配置してると思われますわ」

 土地の持ち主の九条院が言うんだから間違いなさそうだな。

「志乃もウサさんを手助けするなの」

「僕も、援護程度ですが手助けさせていただきます」

 この状況では、本当にありがたい。

「あとはオレと美咲で協力する。九条院と小野里は戦闘向きじゃないからな」

「ウサさんは、セリアさんを助ける為に体力を温存しておくなの!」

「ワタクシの方から、従業員には高台に近づかないように連絡しておきますわ」

「ありがとう。本当に助かる!」

 これでもか、って位に頭を下げる。俺は今日ほど、良い仲間を持った事を嬉しく思った事はない。本当に感謝してもしきれない。

「よし! じゃあ、みんな! セリアを助けにあのキザ野郎をぶっ飛ばしに行くぞ!」

「「「お~っ!」」」

 玄関に行くと、鍵が盛大にぶっ壊れていた。志乃……派手にやり過ぎだって。

「これどうしよう。鍵掛からないぞ」

「じゃあ、ワタクシが修理業者を手配しますわ。それまで、留守番してますからご安心なさい」

「じゃあ、留守番なんて申し訳ないんだが、宜しく頼むよ」

 九条院を家に残し、俺達は玄関を後にする。高台に向かい歩き始めると後ろから小野里の声が聞こえてきた。

「宇佐美くん!」

「あれ、小野里。学級代表の仕事はどうし――」

 ――ガシッ。思い切り抱きつかれる。

「宇佐美くんが心配で抜け出して来ちゃったの! ……無事に帰ってきて! ……お願いだから」

 少し涙声だった。俺は小野里の両肩を掴んで抱きつかれた身体を少し離し、顔を見つめる。

「絶対、無事に帰ってくるから。もちろんセリアを連れて。だから、安心して学校で待っててくれ」

「うん。約束だよ」

 そこに、純一が控えめな声で割って入ってくる。

「涼介、そろそろ行かないと」

「そうだな」

 小野里を置いて、俺達は高台を目指し歩き出した。

「やっぱり、セリアさんなんだね……」

 小声で何か聞こえた気がしたので振り返ると、小野里は背中を向け学校に戻って歩き始めていた。

「お前は変態なだけじゃなく、罪作りな男だな」

「ん?」

 俺には、純一に言われた言葉の意味が良く解らなかった。

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