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魔力変換の練習。

「ご馳走様でした」

 夕飯を食べ終え、流しに食器を置いて部屋に戻る。

「あ~、この前は無我夢中で魔力変換が出来たけど、これからは自由自在に出来るくらいになっておきたいな」

 また、セリアや皆を危険な目に合わせたくないし、守れるのなら守ってやりたいし。そんな理由もあって、ここ一週間くらい一人で毎日練習をしている。

「さて、今日も始めるか」

 部屋の真ん中まで行き、肩幅程に足を広げる。腰を落とし脇を締めて拳を握り力を入れ、そして集中する――。

「うおおおっ!」

 う~ん、ダメだ。全然出来ん。うんともすんとも言わない。魔力変換は難しい。

 結構な時間練習してるんだけど上手く出来ない。小太郎の時と、用務員さんの時は必死でやってたから魔力変換の仕方がイマイチよく解らないんだよな。もう少し自分だけでやってみて、ダメだったらセリアにコツでも聞いてみるか。

「ふおおおおおっ!」

 ダメだ。掛け声の問題じゃなかったらしい。

「ブラジャーッ!」

 やっぱり、掛け声の問題じゃないな。

 ――ガチャッ!

「――なんて言葉叫んでるのよ!」

「ぐはっ!」

 勢い良く部屋のドアが開く。それと同時にメイド服のセリアが、俺の顎にグーパンチを浴びせたのだった。

 メイド服だったのは家事をしていたからだろう。それにしても、コツを聞きに行く手間が省けた。

「セリア。教えてくれ」

「何をよ」

「パンツの色を――」

「変態!」

 ――ぐしゃ。

 鼻に拳が飛んで来た。なんだか、俺の鼻が人間の身体にあるまじき音を立てなかったか?

「すまん。今のはちょっとした下心だ」

「それを言うなら出来心でしょ! なにストレートに変態アピールしてるのよ!」

 鼻血が止まらない。それはそうとそろそろ本題に移らねば。

「魔力変換ってコツとかないのか?」

 セリアは顎に手を当てて考え込んでしまった。

「あったかしら?」

「さっきから魔力変換の練習してるんだけど、上手くいかなくてさ」

「魔力変換の発動する時に声を出して補助するっていうのはどうかしら?」

 やっぱりそうか。

「ブラジャー!」

 ――ごふっ!

 顎にパンチが再来。

「いや、発動のための掛け声なんだけど」

「なんでそのチョイスなのよ!」

 しょうがない。他のにするか。

「パンティ――」

 ――がふっ!

 いや、別に俺は顎にパンチが欲しいって言ったわけじゃないんだが。

「何で下着シリーズなのよ! もっと他にもあるでしょう?」

 他か? じゃあ、これかな。

「おっぱ――」

 ――ぐぶっ! ごはっ! ぐほっ!

「あれ? いっぱい殴って欲しいって言ってるのかと思ったわ」

 そんなわけないだろ。俺は変態だがドMではないんだぜ。Mだけど。

「どんな掛け声が良いと思う?」

「変換が英語でトランスフォームだから『トランス!』とか、どうかしら?」

「それ、カッコイイな。それでやってみようかな」

 腰を落とし、脇を締め拳を握り力を込める。

「トランス!」

 身体の奥から熱いものが溢れ出す感覚。……これだ、この感覚だ。

「身体が光り始めたわ。魔力変換が成功したみたいね」

「今の俺、なんか強くなってる気がするんだけど」

「その通りよ。魔力変換で身体に光を纏っている状態だと、攻撃力・防御力や敏捷性等の身体能力が飛躍的に上がるわ。その証拠にこの前、素手で悪意をぶっ飛ばしたでしょ?」

「確かにぶっ飛ばした気がする」

「魔力変換時は、強くなる代わりに時間と共に体力を消費するから気を付けるのよ」

「ああ、だから用務員さんの時、戦いが終わった後に身体の力が抜けて倒れそうになったのか」

「そうよ。あの時も言ったけど、魔力変換中に出来る武器の具現化をすると体力の消費は更に激しいし、その武器による技を使うとそれよりも大きな体力の消費をする事になるわ」

 なんか、考えるだけで物凄い体力が必要になるんだな……恐ろしい。

「じゃあ、次は今の魔力変換中に出来る、武器の具現化をやってみましょうか」

「このまま集中力を高めて、武器をイメージすればいいんだったよな」

「そうなんだけど、これも掛け声があった方が武器の具現化が容易になるかもしれないわね。なんか良さそうなのあるかしら?」

 そうか。これも掛け声か――。

「おっぱ――」

 ――ぐしゃ。

 セリアの拳により、俺の鼻が本日二度目の奇っ怪な音を立てた。――ってか、今の俺って魔力変換中で防御力上がってるんじゃなかったっけ?

 これから、もう少し掛け声の相談になるだろうから、一旦、魔力変換を解除しよう。

「真面目な掛け声は思い浮かばないの?」

「えっと……。『元気ですか~!』とかどうだ?」

 某プロレスラーとかなんて、挨拶の代わりに言ってるくらいだし。

「却下ね。アナタの武器の出どころと掛け声の相性を考えてみなさい」


 出どころ ―― 股間

 掛け声  ―― 元気ですか~!

 

 あぁ。捕まりかねないな。捕まらないにしても非常に卑猥だ。

「適当に言ってしまい、すみませんでした」

「解ればいいのよ。変換した魔力を武器に変形させる……か。じゃあ『メタモルフォーゼ!』にしてみましょうか」

「どう言う意味なんだ?」

「単純に『変形』って意味よ。」

「そうなのか」

「あとは『変態』って意味もあるわね。――あっ! ちょうど良いじゃない。アナタ『変態』だし」

「酷いこと言うなぁ。それにしても『メタモルフォーゼ!』って長くないか?」

「なら、アナタなりに略しちゃっていいわよ」

「じゃあ……『モフォー!』で」

「却下よ。アナタのセンスが正反対に素晴らしくてびっくりしたわ。ただ単に、変態が叫んでるみたいだから、もう少しマシなチョイスでお願いね」

「了解。じゃあ『ブラジャー!』で」

「もう、『メタモルフォーゼ』一文字も入ってないわよね。入ってるのは『変態』って意味だけじゃない。次ふざけたら刺すわよ」

 セリアが鋭い目つきで睨みつけてきた。刺すとか怖い。

「はい。『メフォゼ!』辺りにしておきます」

「解ればよろしい」

「じゃあ、魔力変換して集中力を高めたら武器をイメージするんだよな」

「そうね。涼介はこの間、大剣をイメージしたわよね」

「あぁ。『何でもいいから、セリアを助けられる武器出て来い!』ってイメージした気がする」

「そ、そ、そんな途中の事はどうでもいいの! じゃあ、今日も大剣――じゃなくて、今日は盾をイメージしてみましょうか」

「あれ? でも、盾って伝説の戦士が具現化するんじゃなかったっけ?」

「ものは試しよ」

 何かを思いついたように、ニヤリとするセリア。

「じゃあ、行くぞ」

 まずは、構えて魔力変換。

「トランス!」

 身体の奥から熱いものが溢れてきた。

「魔力変換は容易に出来るようになったみたいね、上出来だわ」

 いつも怒られてばかりだから、褒められると異様に嬉しいな。

「じゃあ、そのまま集中力を高めて。右手を前に伸ばして左手で右手首を掴んで固定する。そして、盾をイメージして掛け声よ!」

 盾をイメージだな。――よしっ!

「メフォゼ!」

 俺の右手には掌より、一回り大きい位の盾が姿を現していた。それにしても、小さいなコレ。

「やっぱりね」

 セリアがうんうんと頷き一人で納得している。

「どうしたんだ?」

「この前、私はアナタに『伝説の変態』って言ったわよね」

「確かに言ってたな」

 忘れるはずないだろ。『伝説の変態』なんてインパクト特大すぎるし。

「さっき思ったんだけど、どうも『変態』って『変形』って意味も含んでたみたいね」

「どう言う事?」

「アナタは単純に伝説の変態。でも、魔力を『変形』させる事にも秀でてるって事っぽいのよね」

「じゃあ、魔力をエロスカリバーよりも強い武器に変形させる事も可能って事か?」

「いいえ。武器に関しては多分、エロスカリバーが一番強い武器だと思うわ。魔力を変形させる事が出来るけど、本質は変質者の方の『変態』だと思うのよね」

 そうか。じゃあ、股間から出現する大剣が俺の最強武器なのか……。複雑な気分だ。

「でも、大剣だけでなく盾も出せるって事はスゴイ事なのよ。基本的にはひとつしか出せないはずなんだから。複数種の武具が出せるのは伝説の勇者くらいだったような気がしたわ」

「『伝説の勇者』クラスの『伝説の変態』か。どうせなら、勇者が良かったぜ」

「すごいんだから文句は言わないの」

「この盾、ピカピカに光ってて何か跳ね返せそうじゃないか」

「もしかしたら、これってメデューサを倒す時に使われた盾じゃないかしら?」

「ペルセウスがメデューサの姿を直接見ないように、盾に反射させて退治したってやつ?」

「まぁ、私の予想でしかないんだけどね」

「すげーな」

 ――っ! 俺に素敵なアイデアが浮かんだ。

「セリア、そこの本棚の上の方に神話について書いてある本があったような気がするから探してくれないか?」

「意外、そんなの持ってるんだ。解ったわ」

 セリアは本棚の前に行き、背伸びをして高い位置の本を探し始めた。

 残念でした! 神話の本なんて持ってませんから!。

 全てはセリアの意識を本棚に集中させるため。本を探している時って、周りの事は意外と見えないもんなんだぜ。

 ――って事で、無防備なセリアのスカートの中が見える反射角に、このピカピカの盾を持っていけばパンツが見えるはず! 高鳴る胸の鼓動。興奮を抑えつつ、ゆっくりと盾をスカートの入射角の位置へと動かしていく。あと、もう少し! 後もう少し頑張れば見える!

「ねぇ、どこにもないわ――よ」

 振り向いたセリアとガッツリ目が合う。

「何してるのかしら?」

 やばい。明らかに怒ってる表情。

「正直に言えば許してあげなくもないわ」

 ここは正直に言った方が良いな。

「えっと、パンツをみようとしまし――」

 ぐしゃ。

 鼻が本日、三度目の崩壊を迎えた。

「いや、正直に言えば許すって言ってたじゃん」

「だから拳一発で許したのよ。感謝はされても文句言われる筋合いはないわ」

 くっそ。言葉の魔術師めが。

「そう言えば、セリアって天界から来たんだよな?」

 以前から気になっていた事を聞いてみた。

「そうよ」

「天界で生まれて育ったのか?」

「ううん。多分違うと思うわ」

「多分?」

「実はね、私って七歳位から前の記憶がないんだ……」

「ごめん。変なこと聞いちゃって」

 セリアは首を横に振って話を続ける。

「気にしないで。天界には、小さい時の記憶がない人が多いらしいのよ」

「みんな、共通して記憶がないって事か?」

「理由は解らないんだけど、そうみたい。そして、ちょうど記憶の空いた部分に魔法の知識を詰め込むの」

「無理矢理に魔法の知識を叩き込むのか」

「う~ん。無理矢理叩き込むって言うより、魔法が使えるようになることが義務みたいなものだから入れる感じってかな。天界だと魔法は生活する上で必要な力なの」

「そうなんだ」

「日常生活では人間界と同じで電気みたいなエネルギーで動く物が多いんだけど、車とか便利な物を動かすのに大抵魔力が必要だったりするのよ。まぁ、一番の理由は魔法が使えると便利だから発展していった感じかしらね」

「天界ってなんかすごそうだな。俺なんかじゃ生活出来なそうだ」

「天界も人間界もあんまり変わらないわよ。ただ、魔法があるかないかの差くらいだと思うわよ」

 いや、その差がとてつもなく大きいと思うんだが。

「ところで、セリアの無くなった記憶って戻ったりしないのか?」

「天界の図書館で調べたんだけど、人によってそれぞれらしいわ。断片的に記憶が戻ったりはするんだけど、記憶が繋がらなくてハッキリ思い出せない事が多いかしらね。思い出す時に決まって頭痛が起こるってのも書いてあったわね」

「最近その頭痛は起こったりしたか?」

「かなり前に一度だけあっただけで、最近は全然ないわ」

「一度はあったんだ」

「小さい頃に公園で遊んでたって言う、すごく断片的な記憶だけだったけどね」

「記憶の戻る時の条件とかあったりしないのか?」

「その人が以前に住んでいた場所、記憶に強く残っている特定の人の言葉とかがキッカケで思い出す事もあるらしいの。でも、あくまでもそういう事もあるって程度らしいわ」

「そっか。記憶が戻る方法があるんなら手伝おうと思ってたんだけどな」

「な、なな何を言い出すのよ! いきなり」

「いや、小さい頃の思い出があるのに思い出せないのは少し寂しいかな? って思ったからさ」

「き、気持ちだけは有り難く受け取っておいてあげる」

 相変わらず、素直じゃないな。まぁ、それがセリアらしいけど。

「記憶戻ると良いな……」

「うん」

 きっかけか……。――っ!

「セリア! もしかしたら記憶が戻るかも知れないぞ!」

「何か思いついたの?」

「ああ! セリアは昔にキスをしていたかも知れない! そう、とびっきり熱いキスを! だから、今ここで俺と熱いキスをすれば記憶が戻るかも知れないんだ! だから、俺と熱いキスをしよ――」

「――爆発魔法(エクスプロージョン)!」

「ぐはっ!」

 セリアの記憶が戻る以前に俺の記憶が飛びそうだ、しかし熱いキスを諦めるわけには行かない!

「セリア、熱いキスを……!」

「じゃあ、とびっきり熱いのをね――火炎魔法(ファイアストーム)!」

「熱い! けど、こういう熱いのは望んでいない!」

 しかもこの火属性の魔法、今までより凄い火力なんですけど!

「満足したかしら?」

「はい。とびきり熱いのをありがとうございました……ガクッ!」


 ――ここから先、俺の記憶は飛んでいた。

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