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プロローグ

MF文庫Jの新人賞応募作品です。全部削除出来なかったので、プロローグのみ残っております。 落選が解り次第再度掲載しますので、その時はよろしくお願いします。

【プロローグ】


 極寒の冬が終わり、暖房器具も不必要な気候になって快適に過ごせる春がやって来た。

 そんな、ある日の。ある高校生の。ある夜の出来事。


 「ティッ、ティッ、ティッシュ~ッ!」

 まさか、深夜二時に叫ぶとは思わなかったぜ。こんな台詞。

 まぁ、そのなんだ。言い訳しているわけじゃないんだが、単純に思春期にありがちな家族の寝静まった頃に秘密裏に遂行する、深夜の一人作業用のティッシュを用意していなくて慌てたわけじゃない。

 なんか、もっとスゴイ出来事が俺の目の前で繰りひろげられたのだった。

 女の子が突然、目が眩む程の閃光と共に空中から姿を現したからである。しかも、メイド服姿でというオプション付きで。

 これだけなら驚くだけで済むんだけど、俺のベッドの上の掛け布団に顔を突っ込んだ状態で着地し、こっちにお尻を突き出した状態でってのはいかがなものか……。しかも、これに関してはパンツ丸見えのオプション付きで。

 普段クラスの友達で回し見しているエロ本やエロDVDで見るパンツとは違って、生で見るとこんなに破壊力があるのか! 胸を張って言う気はないが、興奮した! 

 これは、思春期真っ只中の高校生だったら鼻血も出るわ。それもたっぷりと。

 まさか一人作業の後片付け用のティッシュが鼻血を拭くためのものになるとは思いもよらなかった。

 さて、今、何故こんな状況になったか冷静になって思い返してみる。

 その前に、性的興奮によりこの鼻から流れている血をどうにかしないと。

 先程用意していたティッシュだけでは足りなくて、新たにとった数枚を鼻にあて、流れ出た血を拭う。そして、更にティッシュ数枚を取って棒状に丸めて鼻に詰めた。


 俺は、風呂上がりに音楽を聴きながら過ごすのが毎日の楽しみだったりする。今日は学校帰りに買って来たファッション雑誌を、うつ伏せの状態でクッションを胸の下に敷いてリラックスして読んでいた。

【モテる男子特集! モテたいやつはコレを読め!】

 表紙にデカデカと目立つ色でこんな見出しがあり、つい買ってしまったのは内緒だ。

【モテるためにはファッションセンスや女の子に対する気遣い・優しさが大切だ】

 どこでも言ってる決まり文句じゃねぇか。その気遣いの仕方を教えてくれって言いたいもんだ。

【気遣いその一。門限などをさりげなく聞け!】

「微妙じゃね? さりげなくじゃなくて普通に聞けばよくね? その一から疑問の残るアドバイスだな」

【気遣いその二。身につけている物をさりげなく褒めろ!】

「また、さりげなくか! これも普通に褒めればよくね? なんか、この記事を書いてる人がモテているのか不安になってきたわ」

【気遣いその三。今日が女の子の日じゃないかさりげなく聞け!】

「無理だよ! どうしたって不自然になるだろ! 『いや~、今日は天気いいよね。そう言えばさ、今日ってあの日?』って絶対無理だろ!」

 この記事を書いてる人間がモテているのか? と言う疑問が、モテていないと確信へと変わった瞬間だった。

 俺は本を放り投げ、胸の下に敷いていたクッションを枕にしてその場に仰向けで寝転がった。

「あ~モテたい。可愛い子彼女にしたいな~。そんで、キスしちゃったり、あんな事しちゃったり……むふふふふ」

 くだらない妄想していたら、男の欲望が溜まって来たのだった。それで、さっきのファッション誌にちょっとエッチなページがあったのを思い出した。

 立ち上がって先程放り投げた雑誌を拾い、一人作業の後片付け用のティッシュを数枚重ねて折りたたんだ。あとは雑誌の使えそうなページを決めて、準備をするだけだった。

 雑誌をめくって色々なページを見ていると可愛い子を次々と発見。

「可愛い子と付き合ってみたいな~。モテたいな~」

 そんなひとり言をつぶやいた後に閃光と共に空中から現れたんだよな……。

 そうだ! やっと思い出した!

 

「ティッ、ティッ、ティッシュ~ッ!」

 目の前で、しかも至近距離でパンツを見た事による興奮で鼻から飛び出した血は、一人作業用に用意していたティッシュでは足りなくて新たなティッシュを数枚取った。そして、新たに数枚取って棒状に丸めて鼻に詰めた。

「いたたた」

 彼女はパンツ丸見えで掛け布団に突っ込んでいた顔を上げ、身体をこちらに向けた。

「見てたでしょ!」

「え、ファッション誌?」

「そっちじゃないわ! パンツの事よ!」

「うん。見えた」

「スケベ! 変態!」

「いやいやいや! どっちかって言うと見せられた感じになってたから!」

 ってか、この女の子可愛いな! 眼の色も青くて澄んでるし。 俺と同い年くらいかな? 彼女は背中にかかるくらい長く、綺麗でやわらかい金色の髪を直しながら話を始めた。

「まぁ、過ぎた事はもういいわ。私はね、あなたの願いを叶えに来た魔法使い(研修中)なの」

 え!? 魔法使い!? 願いを叶える!? 突然の出来事で驚くしか出来なかった。

「叶えに来た願いってのは、アンタがさっき言ってた事ね」

「さっき……? あ!」

 その内容を思い出して、鼻に詰めたティッシュが飛んでいく。ちなみに鼻血は止まっていた。

(『可愛い子彼女にしたいな~。そんで、キスしちゃったり、あんな事しちゃったり……むふふふふ』か!)

「では、遠慮無く……いっただきま~す!」

 俺はベッドの上のメイド服の女の子に飛びつき抱きついた!

「何すんのよ! この変態!」

 叫び声と共に俺の腕を振りほどく彼女。

 あれ!? キスとかしていいんじゃないのか?

 ――あ。モノには順序があるんだな! ――ここはさっきの雑誌のモテる気遣いをすればいいんじゃないのか!

「今日は何時までに帰れればいいの?」

「私に、何する気よ!」

 俺の頬に平手がヒットした! おっと、これは違ったか。じゃあ、その二だな。

「今日のパンツ素敵だよ」

「いやらしいわね!」

 またもや平手がヒット! これでもなかったか、じゃあその三だな。

「あれ、今日ってあの日?」

「最悪の変態ね!」

 素敵な平手がまたもヒット! 見事なまでの平手のスリーコンボです。

「いや、さっき言ってた事だよね?」

 頭上にクエスチョンマークを出しながら聞いてみた。

「『可愛い子と付き合って見たいな~。モテたいな~』って事よ!」

 そっちか。確かにそう言ったなぁ。しかし、そっちの言葉だったか…『むふふふふ』の方じゃなくてちょっと残念だ。

「でも、なんで俺の願いを叶えてくれるの?」

「とと、と、とにかく、近いからすこし離れてちょうだい! 私は魔法使いの研修中で、その最終試験が『人間の願いを叶える事』なのよ。それで天界からこの世界を覗いて、願いを叶える人間を選定してアナタの所に来たって事なのよ」

 ふ~ん。っていきなりで信じられるか! 確かに光って空中から出てきたけどさ……。

「夜中にうるさいわね~」

 廊下から母親の声が聞こえて来た! 騒いでたから起きてきたんだ! やべぇ、この女の子とベッドの上に居る状況はどうやっても上手く説明出来ないぞ!

 俺がうろたえていると、彼女は指揮者が使うタクトの様な棒を取り出し何かを呟き始めた。

「――我が奥に秘めたる力、今ここに解放せよ」

「えっ? 何言ってるの?」

「こんな時間にうるさいわよ! えっ、その女の子は誰な――」

洗脳魔法(ブレインマジック)!」

 ドアが開いて母親がしゃべっている途中で彼女は呟き終わり、タクトを振った。

「……あれ? 私、何しに来たのかしら? あ、そうそう涼君。あのね、言い忘れていたんだけど、今日からそこのメイドさん、家で住み込みで雇うことになったから仲良くしてあげてね」

 え!? 何これ?! マジで魔法?!

「こちらこそ宜しくお願い致します。お母様」

「ええぇ~! マジですかぁ~っ!」

「これで信じてもらえたかしら?」

 得意気な顔でこっちをチラっと見る彼女。

 本当に魔法使いなんだ……目の前で起きた出来事を見て改めて実感し驚く。

「もう遅いんだから、早く寝なさいよ~」

 母親が俺達に就寝を促し部屋を出て行く。

「ってことで、今日から宜しくね。私の名前は、セリア」

 ニコッ、っと可愛い笑顔からウインクが飛んできた。

 そして、セリアの右手が差し出された。

 予想以上に可愛いかった彼女の笑顔にドキッ、としながらも平静を装う。

「俺は、涼介。宇佐美涼介(うさみりょうすけ)だ。こちらこそ宜しく」

 セリアの差し出した手を握った。

「それにしても、この状況を予測してメイド服を着てたの?」

 ちょっと疑問なので聞いてみた。

「あ、これ……趣味」

「……そうでしたか」

 特に計算してたわけではないみたいだった。しかし、その趣味大歓迎です! 黒のニーソックスがたまりません!

「可愛い彼女を作るんなら、セリアが彼女になってくれれば願いが叶うんだけど……」

「う~ん。顔は悪くないんだけど、私アナタに興味沸かないから嫌」

 なんか見事なまでに拒否られたな。さすがの俺でもちょっと傷ついたかも。

「あと、私には好きな人がいるから……片想いだけど」

 こりゃ、セリアを彼女にするのは無理っぽいな。

「今日から涼介の事、ビシバシ鍛えて行くからね!」

「おう。宜しく頼む」

「じゃあ、今日は寝ましょうか」

「一緒の布団で一夜を共にしようか」

「アンタは床で寝なさい! この変態!」

 握り拳が迷う事無く俺の鼻に飛んできた。痛みと共にまた鼻血が――。


「ティッ、ティッ、ティッシュ~ッ!」


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