『私はロボットではありません』
Webサイトにアクセスするとき、その表記を目にするようになったのはいつ頃からのことだったか。調べてみたところ、悪意ある自動プログラムによる不正アクセス防止のために導入されたものらしい。人間かプログラムかを判別する方法は、『私はロボットではありません』の表記の頭についているチェックボックスをクリックするだけの簡単な物から、複数のイラストの中から『本はどれ?』『車はどれ?』などの質問に回答するものまで様々だ。最初は小さな子どもへのテスト問題みたいだと半分面白くやっていたが、あまりにも何度も続いてくると面倒だなと思うことも増えてきた。
ある日、ネットサーフィン中にまた問われた。『私はロボットではありません』の画面表示を前に、
「ロボットじゃないに決まってるだろ」
と呟き、チェックボックスをクリックして画面を進めた。すると、
『本当にそうですか?』
と、新たな文言が表示された。
「は…?」
一瞬戸惑ったが、思い直し、改めてチェックボックスをクリックした。
その後サイトに無事にアクセスすることは出来たが、私の脳裏には先ほどの文言が焼き付いていた。
『本当にそうですか?』
当たり前だ。私には物心ついた時から両親がいて、段々と成長して背も伸びて、大人になり社会の荒波に飲まれ、働いて疲れては眠る。ロボットというのは作られたときのまま背も伸びない、疲れることなく働き続けられるものだ。自分が人間だということは疑いようもない事実のはずなのに、どうしてこんなにざわざわするのだろう。
それから数日たったある日の夜、なんだか周りが騒がしかったので目を開けると、見覚えのない天井が見えた。
「この機体も相当古くなってきたな」
寝転がった頭のほうから声がしたので、見上げると、そこには全身青色と銀色を混ぜたような色をした、人型のような物体—。昔テレビで見たエイリアンそっくりであった。しかも一体だけではない。五、六体のエイリアンが次々と私を覗き込んできたのだ。
「とにかく一度中身をチェックしてみましょう」
「そうですね」
一体のエイリアンがそう答えると、ドライバーのようなものを手に持ち、私の胸に突き刺した。
「!?」
私は思わず息を飲んだ。しかし何故か痛みは無かった。エイリアンは場所を変えながらドライバーをくるくると回し、ようやく終わったかと思うと私の胸に再び手を置いたかと思うと、なんとそこを扉のように開いたのだ。驚きのあまり声も出せない私をよそに、エイリアンたちは話を続ける。
「あー、だいぶ来てますね、これは」
「部品交換でもダメか?」
「今まではそれで大丈夫だったんですけど、今回は根本がやられちゃってるので」
「まぁ製造年を考えると仕方がないですよ」
「そうか、それは残念だが…」
「では、本機体は分解し、スクラップ処分するということでよろしいでしょうか」
スクラップ…?私は思わずつぶやいた。なぜだか背筋がぞわっとする。
「うむ、そうしてくれ」
「承知しました」
そう言った次の瞬間、エイリアンは私の開いた胸の中に手を突っ込み、手のひらサイズの機械のような物を取り出した。機械には線が無数に繋がっており、取り出した瞬間ブチブチブチブチッと線が引きちぎれ、同時に激しく火花が散った。私は恐怖のあまり叫んだ。
「や、やめろ!やめてくれ!」
しかしエイリアンたちには私の声が聞こえていないようだった。必死に振り払おうとしたが、なぜか手足が動かない。そうしている間にも私の体はどんどんバラバラにされていく。バチン、バチンと火花が一層激しくなり、ついにエイリアンの手が私の顔を掴んだ。
「うわあああああああ!」
痛い!と思って目が覚めた。やっと手が動かせるようになったことに気づき、体を持ち上げると、そこは見慣れた私の寝室だった。横を見るとベッドの足があった。どうやら私は、ベッドから転げ落ちたらしい。はぁ、と息をつき顔を触ると何かベチャっとした物に触れた。見ると、手のひらが赤くなっていた。血…。そうか、ベッドから落ちて鼻をぶつけて、鼻血が出たんだ。
「はっ…はは…」
私は力なく笑った。血が出ているということは、紛れもなく人間であるということに他ならない。私は鼻血を垂らしながら、一人笑い続けた。
今度から自信を持って言える。『私はロボットではありません』と。
END




