ope.8 美の追求は種族の壁を越える。
その日。
異世界美容整形クリニックは、珍しく少し落ち着いていた。
須高は椅子に座り、カルテを整理している。
「……患者も増えてきたな」
野高は机を拭きながら言った。
「オーク、エルフ、ゴブリン、ドワーフ……」
「すっかり人気病院ですね」
その時だった。
入口から、遠慮がちな声が聞こえた。
「……あの」
野高が振り向く。
そこに立っていたのは──
オークの雌だった。
他のオークより少し小柄で、どこか恥ずかしそうにしている。
野高は優しく声をかけた。
「どうしましたか?」
オークの雌は周りを気にしながら、小さな声で言った。
「先生は……いらっしゃいますか?」
野高は須高を見る。
須高はカルテから目を離さず言った。
「座れ……どうした?」
椅子に座ったオークの雌は、少し恥ずかしそうに言った。
「私……綺麗になりたいんです!」
須高は腕を組んだ。
「ほう……どうなりたい?」
オークの雌は、自分のお腹を触った。
そこには──
ぽよんとしたお腹。
「最近……太ってしまって」
須高は一度見て、すぐに言った。
「……なるほど。だが専門外だ」
オークの雌は肩を落とした。
「……そうですか……」
立ち上がり、帰ろうとする。
その背中に──
須高の声がかかった。
「……待て」
オークの雌が振り向く。
須高はカルテをめくりながら言った。
「誰が無理と言った?」
オークの雌の目が大きくなる。
「え!?で、できるんですか!?」
須高は野高を見た。
「野高くん」
「君の専門だ」
野高はすぐに頷いた。
「はい、分かっています」
そしてオークの雌に優しく微笑む。
「大丈夫ですよ」
「綺麗になれます」
オークの雌の目が輝いた。
「本当ですか!?」
野高は言った。
「でも手術じゃありません」
「もっと健康的な方法です」
オークの雌は首を傾げる。
「健康的?」
野高は立ち上がった。
「まずは運動です」
その日から──
クリニックの裏庭で奇妙な光景が始まった。
「いち!」
「に!」
「さん!」
オークの雌が腕を上げたり下げたりしている。
野高が元気よく指導していた。
「はい!もう一回!」
周りで見ていたオークの雌たちがざわめく。
「何してるの?」
「踊ってる?」
須高は遠くからその様子を眺めていた。
そして小さく呟く。
「ふっ……痩身エステか」
それから数週間。
オークの雌は毎日通った。
運動。
食事の見直し。
体のマッサージ。
そして──
一ヶ月後。
オークの雌が再びクリニックに現れた。
そこにいたのは──
以前とは別人のような姿だった。
引き締まった身体。
くびれた腰。
脱毛され、なめらかな肌。
オークたちが驚いた。
「おお!?」
「細くなってる!」
「腰がくびれてるぞ!」
「何より……美しい!!」
オークの雌は嬉しそうに言った。
「先生……見てください!」
野高は笑顔で言った。
「すごいです」
「努力の結果ですね」
そこへ須高が歩いてくる。
腕を組み、じっと観察する。
そして一言。
「……パーフェクトだ」
オークの雌の顔が輝いた。
「本当ですか!?」
須高は頷いた。
「美しくなった」
オークの雌は涙ぐんだ。
「ありがとうございます……!」
その光景を見ていたオークの雌たちが騒ぎ始める。
「私も痩せたい!」
「腹引っ込めたい!」
「私も綺麗になりたい!」
須高はため息をついた。
「……また患者が増えるな」
野高はくすっと笑った。
こうして──
異世界美容整形クリニックには
“痩身エステ”
まで誕生したのだった。
患者第五号
オーク雌 ミラ(痩身エステ)




