ope.6 ゴブリンも歯が命。
それから数日後。
異世界美容整形クリニックは、すっかり賑やかになっていた。
外には行列ができている。
エルフ。
オーク。
そして──
小さな緑の影。
「次の患者どうぞ」
野高が声をかける。
すると、ぴょこぴょこと小さな影が入ってきた。
身長は人間の胸ほど。
緑の肌。
とがった耳。
そして口から飛び出す──ガタガタの歯。
須高は腕を組んだ。
「……ゴブリンか」
ゴブリンは緊張した様子で頭を下げた。
「ゴ、ゴブリンの……グギです。
実は相談がありまして」
須高は椅子に座ったまま言った。
「……言ってみろ」
ゴブリンは口を大きく開けた。
「歯を……治したいんです」
その瞬間。
オークたちがざわついた。
「歯?」
「ゴブリンが歯を気にするのか?」
「いつも肉そのまま食ってるだろ」
ゴブリンは少し落ち込んだ顔で言った。
「最近……固い肉が噛めなくて……」
須高はゴブリンの口を覗き込んだ。
そして眉を上げた。
「……ひどいな」
歯はバラバラの方向に生えている。
前歯は外に飛び出し、奥歯は傾いている。
明らかな──歯列不正。
野高も驚いた。
「先生……これは……」
須高は腕を組む。
「……歯並びが崩壊している」
ゴブリンは不安そうに聞いた。
「治せますか……?」
須高は即答した。
「治る」
ゴブリンの目が輝いた。
「ほ、本当ですか!?」
須高は言った。
「だが、少し時間がかかる」
「時間……ですか?」
須高は器具を手に取った。
「……歯は骨の一部だ。
少しずつ動かす必要がある」
オークたちは困惑している。
「歯って動くのか?」
「知らなかった……」
須高は鍛冶屋が作った細い金属線を見た。
そして小さく笑った。
「……使えそうだな」
野高が聞く。
「先生、何を?」
須高は答えた。
「矯正装置だ」
オークたちはまた困惑する。
「きょうせい?」
須高は説明した。
「……歯を少しずつ引っ張る、そうすれば──正しい位置に並ぶ」
ゴブリンは感動していた。
「歯が……綺麗になる……」
須高は言った。
「口を開けろ」
ゴブリンは大きく口を開けた。
須高は慎重に金属線を歯に固定していく。
数分後──
須高は言った。
「……よし」
ゴブリンは聞いた。
「終わったんですか?」
「装置は付けた。これから歯が動く」
ゴブリンは驚いた。
「歯が……動く……」
須高は頷いた。
「一ヶ月後にまた来い」
ゴブリンは深く頭を下げた。
「ありがとうございます!!」
帰ろうとした時、須高が言った。
「……待て」
ゴブリンが振り向く。
須高は真剣な顔で言った。
「……歯を磨け」
ゴブリンは首を傾げる。
「……歯を?」
須高は野高を見る。
「野高くん」
「はい」
「歯ブラシを作る」
オークたちがざわめいた。
「歯を磨く!?」
「そんな文化あるのか!?」
須高は言った。
「……口は健康の入口だ」
そして小さく呟いた。
「この世界、医療レベルが低すぎる」
こうして──
異世界美容整形クリニックは
ついに歯科医療にまで手を広げたのだった。
患者第三号
ゴブリン グギ(歯列矯正)




