ope.3 族長◯◯◯◯に。
三日後。
オークの倉庫は──見違えるほど変わっていた。
床は何度も水で洗われ、泥は完全に消えている。
中央には木の板で作られた即席の手術台。
横には鍛冶屋が作った金属器具が整然と並んでいた。
簡素だが──
確かにここは手術室だった。
そして手術台の上には、族長が横たわっている。
巨大なオークが乗ると、まるで岩の塊のようだ。
周囲にはオークたちがぎっしりと集まり、固唾を呑んで見守っていた。
「族長……」
「顔が戻るんだな……」
「ドラゴンに殴られる前の顔に……」
皆、真剣な表情だ。
──だが。
須高だけはいつも通り冷静だった。
「野高くん」
「はい、先生」
「麻酔」
須高の言葉に、野高は困った顔をする。
「先生……それが……」
「無いのだな」
須高は静かに頷いた。
「分かった」
そして族長を見る。
「……痛みに強いか?」
族長は潰れた鼻で笑った。
「ドラゴンに殴られても死ななかった俺様だ」
「痛みなど気にしない」
須高は小さく頷く。
「……始める」
オークたちが一斉に息を呑んだ。
須高は鍛冶屋が作った器具を手に取る。
重さを確かめるように軽く振る。
「……思ったより悪くない」
そして族長の顔に触れた。
「鼻骨……完全に曲がってるな」
族長が少し不安そうに言う。
「本当に治るのか?」
須高は即答した。
「任せろ」
次の瞬間。
──ゴキッ!!!
鈍い音が響いた。
「ぐああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
族長の絶叫が村中に響き渡る。
オークたちが青ざめた。
「族長!!」
「死ぬ!!」
だが須高は冷静だった。
「……静かに」
族長の顔をじっと観察する。
「……鼻は戻った」
野高が驚く。
「先生……本当に……」
「次は頬骨だ」
再び──
ゴキッ!!!
「うぎゃあああああぁぁぁぁ!!」
須高は淡々と作業を続ける。
「ふむ……」
「顎の位置もズレているな」
「これは少し大きい」
須高は両手で族長の顔を掴んだ。
族長の目が大きく見開かれる。
嫌な予感しかしない。
「ま、待て……く……れ……」
須高は鋭い目で言った。
「……動くな」
そして──
ゴゴキッ!!!
村中に響く、今までで一番大きな音。
族長はその瞬間──気絶した。
オークたちは完全に凍りつく。
だが須高は静かに言った。
「……パーフェクトだ」
野高が淡々と告げる。
「先生、お疲れ様でした」
しばらくして、族長がゆっくり目を開けた。
「お……終わったのか?」
「……ああ」
須高は鏡を差し出す。
「見てみろ」
族長は恐る恐る鏡を見る。
そして──固まった。
「……!!?」
オークたちが不安そうに聞く。
「族長?」
「どうだ?」
族長は震える声で言った。
「……俺の顔が……」
「左右対称だ……」
村が一瞬、静まり返る。
そして次の瞬間。
「おおおおおおおおおお!!」
大歓声が爆発した。
「族長がイケメンになっている!!」
「ドラゴン以前よりカッコいい!!」
「人間の医者すげえ!!」
族長は鏡を見つめながら、小さく呟いた。
「……俺……こんな顔だったのか……?」
須高は腕を組んだ。
そして一言。
「……いや」
「以前より良くした」
再び歓声が上がる。
「神の医者だ!!」
「顔の神だ!!」
須高は小さく鼻で笑った。
「……次の患者は誰だ?」
その時だった。
村の入口から声が聞こえた。
「すみません」
全員が振り向く。
そこに立っていたのは──
金髪の女性。
透き通るような肌。
そして、長い耳。
「……エルフ?」
彼女は恥ずかしそうに言った。
「鼻を……少し高くできますか?」
須高は即答した。
「任せろ」
なぜエルフが噂を知っているのか。
そんなことは須高にはどうでもよかった。
患者が来るなら、治すだけだ。
こうして──
異世界美容整形クリニックの噂は、
ついに他種族にまで広がり始めたのだった。




