ope24 美容は終わりがない。
それから数週間後。
異世界美容整形クリニックは、以前にも増して忙しくなっていた。
エルフ、オーク、ゴブリン、そして──人間。
野高がカルテを見ながら言う。
「完全に広まりましたね……」
須高は淡々と答える。
「……患者が増えただけだ」
その時だった。
入口が、静かに開いた。
ギィ……
騒がしい院内に、すっと冷たい空気が流れ込む。
オークたちが振り向く。
そして──ざわついた。
「……あの人」
「前に来た……」
そこに立っていたのは
王国調査官セリスだった。
だが前とは違う。
整えられた目元。
洗練された雰囲気。
以前よりも、明らかに美しい。
野高が少し嬉しそうに言う。
「セリスさん」
セリスは軽く頷いた。
「……来たぞ」
須高は椅子に座ったまま言う。
「……患者か」
セリスは少しだけ間を置いた。
そして言った。
「そうだ」
オークたちがざわつく。
「また来たぞ!」
「王国の偉い人なのに!」
セリスは椅子に座る。
そして──珍しく、少しだけ言いにくそうに言った。
「……あの手術の後」
須高は黙って聞く。
「周囲の反応が変わった」
野高が微笑む。
「ですよね」
セリスは続けた。
「警戒はされる。だが……話しかけられることが増えた」
一瞬、言葉を選ぶ。
「……悪くない」
須高は短く答える。
「……そうだろう」
セリスは須高を見る。
「だが」
須高が聞く。
「……何だ」
セリスは、自分の目元に触れた。
「左右で、わずかに違和感がある」
野高が少し驚く。
「えっ……?」
須高は立ち上がった。
そしてセリスの顔をゆっくりと覗き込む。
数秒。
沈黙。
そして言った。
「……0.5ミリだ」
野高が思わず吹き出しそうになる。
「またミリ単位……」
セリスの目がわずかに見開く。
「やはりか」
須高は言った。
「……左がわずかに高い。誤差だ。……だが気になるなら──」
一言。
「……直す」
セリスは迷わなかった。
「頼む」
───────────
その日。
再び手術台に横たわるセリス。
オークたちがひそひそ話す。
「王国の人、また顔いじってる……」
「金持ちはすげえな……」
野高が準備する。
「今回は微調整ですね」
須高は言う。
「……最も難しい。完璧に近いものを、さらに整える」
セリスが小さく言う。
「任せる」
「……野高くん、麻酔」
「はい」
そして、極小の処置が始まる。
ほんのわずか。
だが、確実に。
左右差を消す。
ラインを揃える。
“違和感”をゼロにする。
数十分後。
須高は言った。
「……終わりだ」
野高は鏡を差し出す。
セリスがゆっくり見る。
そして──固まった。
静かに息を吐く。
「……完璧だ」
野高が笑う。
「やっぱり分かるんですね」
セリスは小さく頷く。
「違和感がない……自然だ」
須高は腕を組む。
「……当然だ」
セリスは立ち上がる。
そして須高を見る。
少しだけ間を置く。
「……不思議だな」
須高は無言。
セリスは続ける。
「顔が変わっただけで、世界の見え方が変わる」
野高が静かに聞いている。
セリスは言った。
「……だが」
ほんの少しだけ、口元が緩む。
「悪くない」
須高は短く答える。
「……そういう医療だ」
──帰り際。
セリスは扉の前で立ち止まる。
そして、振り返らずに言った。
「……また来る」
野高が笑う。
「いつでもどうぞ」
須高は椅子に座りながら言う。
「……次はどこだ」
セリスは少しだけ考えた。
そして言った。
「……足の太さが気になる」
扉が閉まる。
静寂。
オークたちが一斉に騒ぐ。
「常連じゃねえか!」
「王国の人がリピーター!」
野高が笑う。
「すごいですね……」
須高はカルテに書く。
患者番号──王国調査官セリス
(二重微調整・左右差修正)
そして一言。
「……次」
─────────
こうして
異世界美容整形クリニックにはついに“王国の常連患者”が誕生したのだった。




