ope23 このまま返すとでも思っているのか?
王国騎士団が帰還する直前。
須高はふと、言った。
「……待て」
セリスが足を止める。
振り返る。
「何か」
須高は腕を組み、じっと彼女の顔を見ていた。
鋭い目つき。
隙のない表情。
鍛えて上げられた身体。
冷静で、強い女。
だが──須高は言った。
「……損をしている」
セリスの眉がわずかに動く。
「何の話だ」
須高は指で自分の目元を示した。
「……目だ」
騎士たちがざわつく。
「目?」
野高が小さく息を呑む。
須高は続けた。
「一重だな」
場の空気が一瞬止まる。
騎士の一人が焦る。
「き、貴様……セリス様に!」
しかしセリスは手で制した。
「続けろ」
須高は淡々と言う。
「……悪くはない、だが」
一歩近づく。
「威圧感が強すぎる」
セリスは黙って聞いている。
須高は続ける。
「……調査官としては優秀だろう。だが人間関係では損をする顔だ」
野高が小声で言う。
「先生、結構言いますね……」
セリスはしばらく黙っていた。
そして聞く。
「……それで?」
須高は言った。
「……二重にする」
騎士たちが一斉に反応する。
「は!?」
「目を変えるだと!?」
セリスの目がわずかに細くなる。
「……そんなことが可能なのか」
須高は即答した。
「可能だ」
「印象が変わる」
「柔らかくなる」
「だが、強さは残す」
セリスは少し考えた。
そして静かに言う。
「……メリットは」
須高は答えた。
「“舐められず、嫌われない顔”になる」
その言葉に──セリスの目がわずかに揺れた。
野高が気づく。
(刺さった……)
長い沈黙。
そしてセリスは言った。
「……条件がある」
須高は頷く。
「……言え」
「自然であること。弱く見えないこと」
須高は即答した。
「……当然だ」
セリスは目を閉じた。
そして開く。
「受ける」
騎士たちが驚く。
「本気ですか!?」
セリスは短く言う。
「命令だ。下がっていろ」
───────────
その日。
再び手術が始まった。
患者は──王国調査官セリス。
野高が準備を進める。
「麻酔、いきます」
セリスは静かに言う。
「任せる」
スライム麻酔。
ゆっくりと効いていく。
須高は目元を観察する。
「……ラインはここだ」
極めて繊細な作業。
わずか数ミリ。
だがその数ミリが──印象を変える。
須高は迷いなく処置を進める。
左右のバランス。
ラインの自然さ。
強さを残す角度。
すべて計算された手術。
数十分後。
須高は手を止めた。
「……終わりだ」
────────
セリスがゆっくりと目を開ける。
野高が鏡を差し出す。
「どうぞ」
セリスは自分の顔を見る。
そして──固まる。
「……美しい」
そこに映っていたのは、以前の鋭さを残しながらも、
どこか柔らかさを持った目。
威圧ではなく
“威厳”を感じさせる目元。
騎士たちがざわつく。
「雰囲気が……違う」
「綺麗になってる……」
須高は腕を組んだ。
そして一言。
「……パーフェクトだ」
セリスは鏡を見つめたまま
静かに言った。
「……素晴らしいわ」
だがその頬が、ほんの少しだけ赤みがかかっていた。
野高が微笑む。
「とてもお似合いです」
セリスは立ち上がりこほん。と咳払い。
そして須高を見る。
「礼を言う」
須高は答えない。
セリスはマントを翻した。
「帰還する」
騎士たちが後に続く。
去り際。
セリスは振り返らずに言った。
「……また患者として来る」
須高は小さく言う。
「……最初からだ」
────────────
数日後。
王都。
王城の廊下をセリスが歩く。
周囲の貴族や騎士たちがざわつく。
「誰だ……?」
「いや、セリス様だ……!」
「雰囲気が違う……」
セリスは立ち止まらない。
ただ前を向いて歩く。
その目は──以前よりも強く、そして美しかった。
そして王の前に立つ。
王が言った。
「……セリスか?」
セリスは静かに答える。
「はい」
王はしばらく見つめていた。
そして言った。
「……その医者、必ず呼べ」
セリスは小さく笑った。
「……来ませんよ」
──────────
こうして
異世界美容整形クリニックはついに王国中枢にまで影響を与える存在となったのだった。




