ope.2 開業!異世界クリニック
オークの集落は、想像以上に騒がしかった。
「族長を治してくれる人間の医者だ!」
「顔が治るぞ!」
「本当に治るのか!?」
巨大なオークたちが須高と野高の周りに集まり、口々に叫ぶ。
圧がすごい。
身長二メートルを超える怪物が十人以上。
普通の人間なら腰を抜かしているところだろう。
しかし須高は腕を組んだまま、冷静に言った。
「……まず患者を見せてくれ」
オークたちは道を開けた。
そこにいたのは、他のオークよりさらに巨大な男だった。
「族長だ」
「人間の治療師よ、頼む」
族長が一歩前に出る。
そして須高は顔を見た瞬間、眉をぴくりと上げた。
「……なるほど」
顔面は大きく歪んでいた。
鼻骨は完全に曲がり、頬骨は陥没。
顎の位置もズレている。
明らかな──重度の顔面骨折後遺症だ。
須高は顎に手を当て、眉間にシワを寄せた。
「……ドラゴンに殴られたと言ったな」
「あ、ああ」
族長は頷く。
「約十年前にだ」
「……生きてるだけ奇跡だな」
須高は淡々と診断する。
──鼻骨骨折。
──頬骨骨折。
──下顎のズレ。
オークたちがざわつき始める。
「おお……すごい……」
「全部わかるのか……」
須高は続けた。
「……手術すれば治る」
その瞬間。オークたちが歓声を上げた。
「おおおおお!!」
「族長の顔が戻る!!」
「人間の医者すげえ!!」
しかし須高はバッ!と手を上げて歓声を止めた。
「……ただし」
静かに言う。
「条件がある」
「条件だと…?」
族長が首を傾げる。
すると、須高は周囲を見渡した。
石の家。
泥の地面。
松明の火。
そして言った。
「……ここでは手術できない」
「なぜだ?」
「……衛生環境が最悪だ」
オークたちは顔を見合わせる。
「……え・い・せ・い……?」
須高は指を立てた。
「まず必要なのは三つだ。
……水
……清潔な部屋
……そして手術台だ」
オークたちは真剣に聞いている。
須高はさらに続けた。
「それから器具。
……メス
……鉗子
……縫合糸
……骨を固定する道具」
オークたちは、須高の言葉を理解できず困り果てる表情をしていた。
そこで一人のオークが須高に向け言葉を投げる。
「斧ならある」
須高は即答した。
「それは使わない」
野高が隣りで小さく笑った。
「先生……」
須高は周囲の建物を見渡す。
そして、ある建物を指差した。
「……あれは何だ?」
オークが答える。
「倉庫だ」
須高は言った。
「今日からそこは」
一拍置き、目に力を込め言った。
「病院だ!!」
オークたちが一斉にざわめいた。
「びょういん……?」
「なんだそれ……?」
須高は胸を張った。
「……患者を治す場所だ」
そして族長を指差す。
「……安心しろ。
この程度、俺に掛かれば三日で治してやる」
その瞬間。
オークたちが大歓声を上げた。
「おおおおおお!!」
「族長の顔が戻る!!」
「人間の医者すげえ!!」
須高は静かに呟いた。
「まずは……
手を洗うところからだな」
そしてこの日。
倉庫は改造され、世界初の"異世界美容整形クリニック"の建設が始まった。




