ope15 お清めは塩にかぎる。
ある日の夕方。
異世界美容整形クリニックの前に、黒いマントの男が立っていた。
長い黒髪。
赤い瞳。
青白い肌。
そして無駄のない筋肉質な身体。
オークたちがざわつく。
「なんだあいつ……」
「人間じゃないぞ」
「牙がある!」
野高が入口から顔を出す。
「どうしましたか?」
男は静かに言った。
「医者を呼べ」
低く、威圧感のある声。
須高が奥から出てくる。
腕を組んだまま男を見る。
「……患者か?」
男はゆっくりマントを外した。
「俺は──魔王軍幹部 ドラキュラ」
オークたちが凍りつく。
「魔王軍!?」
「幹部!?」
「逃げろ!!」
しかし須高はまったく動じない。
「……それで?」
ドラキュラは少しだけ恥ずかしそうに言った。
「相談がある」
そして小声で続けた。
「魔王様に……」
少し間を置く。
「臭いと言われた」
クリニックが静まり返る。
野高が思わず聞き返す。
「体臭……ですか?」
ドラキュラは腕を組んだ。
「俺は夜に活動する。戦いも多い、汗もかく」
そして悔しそうに言った。
「だが魔王様が……『お前、ちょっと臭うぞ』と……」
オークたちが小声でざわつく。
「魔王様ストレートだな……」
須高は腕を組んだ。
「……なるほどな」
そして言った。
「……野高くん」
「はい」
「……塩マッサージだ」
野高が頷く。
「体臭改善ですね」
ドラキュラが聞く。
「それで治るのか?」
須高は言った。
「皮膚の汚れと脂を落とす。
「汗腺も整える」
「そして、匂いは減る」
ドラキュラは頷いた。
「頼む」
その日。
クリニックの裏庭。
ドラキュラは上半身裸で横になっていた。
オークたちが遠くから見ている。
「魔王軍幹部がマッサージ受けてる……」
「すごい光景だ」
野高が塩を手に取る。
「少し染みますよ」
ドラキュラは余裕の笑みを見せた。
「俺は吸血鬼だ。痛みなど……舐めるな」
野高は塩を身体に塗り、マッサージを始めた。
……ゴリゴリ。
……ゴリゴリ。
老廃物を流していく。
ドラキュラが言う。
「……少し痛いな」
野高は笑う。
「効いてます」
須高は腕を組んで見ていた。
「脂肪も落ちているな」
数時間後。
マッサージが終わった。
ドラキュラが立ち上がる。
そして鏡を見る。
沈黙。
長い沈黙。
そして──ドラキュラの目が見開いた。
「……俺の身体」
そこには──以前の筋肉質な身体ではなく、異常にシャープな身体。
脂肪が落ちすぎて
モデルのように細い体型になっていた。
オークたちがざわつく。
「細い!!」
「ガリガリになってる!」
「さっきまで筋肉すごかったのに!」
ドラキュラが震える声で言った。
「俺の……筋肉が……」
野高が焦る。
「先生、脂肪落ちすぎました!」
須高は腕を組んだ。
そして言った。
「……健康的だ」
ドラキュラは鏡を見続ける。
そして静かに言った。
「だが……」
鼻を動かす。
「臭くない」
野高が笑った。
「成功ですね」
ドラキュラはしばらく考え、マントを羽織る。
「……悪くない」
去り際に言った。
「魔王様が気に入ったら……」
振り返る。
「また来る」
そう言って夜の闇に消えていった。
須高は腕を組んだ。
「……次は、魔王本人かもしれんな」
こうして異世界美容整形クリニックには、ついに魔王軍の患者まで現れるようになったのだった。
患者第九号。
魔王軍幹部 ドラキュラ(塩マッサージ)




