ope.1 神の手、異世界へ。
手術室には、いつも通りの静かな緊張感が漂っていた。
無影灯の白い光。
規則正しく鳴る心電図の電子音。
そして──日本一の美容外科医と呼ばれる男。
「メス」
低く落ち着いた声。
助手が即座に器具を手渡す。
男の手は迷いなく動く。
俺の名は──
須高 克也。
年間三千件以上の美容手術をこなす、美容外科医だ。
「鼻尖形成。あと三ミリ。自然なラインで整える」
「はい、先生」
優秀な助手、野高 友梨が頷く。
患者は人気モデル。
この手術が成功すれば、また一つ雑誌の表紙が決まる。
須高はメスを構えた。
その時だった。
──バチッ!!
突然、無影灯が激しく明滅した。
「停電だと……?」
手術室が一瞬、暗闇に沈む。
須高は野高に視線を向けた。
「バックアップ電源を──」
だが次の瞬間。
ゴオオオオオッ!!
眩い光が手術室を飲み込んだ。
──────────
───────
────。
静寂。
須高はゆっくりと目を開けた。
「……何だ?」
そこは手術室ではなかった。
石造りの天井。
壁には揺れる松明。
床は粗い石。
まるで──中世の城の中だ。
「せ、先生……」
震える声が聞こえた。
「この声は……野高くんか」
「は、はい……」
須高は上体を起こす。
「先生……周りを……」
「……ん?」
須高はゆっくりと視線を巡らせた。
そこにいたのは──
緑色の肌をした、巨大な男たちだった。
身長は二メートル以上。
剥き出しの牙。
筋肉の塊のような体。
そして、獣のような目。
彼らは須高たちを囲み、歓声を上げていた。
「おお!起きたぞ!」
「人間の治療師だ!」
「これで族長の顔も治る!」
須高はゆっくり立ち上がる。
そして目の前の存在を観察し、静かに呟いた。
「……オークか」
目の前にいる巨体の男。
潰れた鼻。
歪んだ顎。
左右非対称の顔面骨格。
須高は数秒間じっと観察した。
そして冷静に言う。
「なるほど」
「これは……骨格から直した方がいいな」
オークたちがざわめく。
「族長は昔、ドラゴンに殴られて顔が歪んだんだ!」
「助けてくれ!!」
須高は腕を組み、少し考えた。
「ふむ。麻酔は?」
「ない!」
「手術室は?」
「ない!」
「器具は?」
「斧ならある!」
数秒の沈黙。
須高は小さく息を吐き──
そして言った。
「よし」
「まず病院を作ろう」
─────────
その日。
世界初の
『異世界美容整形クリニック』
が誕生した。
患者第一号──
オーク族長(ドラゴンパンチによる顔面骨折後遺症)




