偶然その道を通っただけですわ
読んでいただきありがとうございます。
「そうですか、急な体調不良では仕方がありませんね。風邪に良い煎じ茶がありますから、持って行っていただけるかしら、準備するから少し待っていて」
「畏まりました」
今日は、婚約者であるマテオ様と、お買い物デートに出かけるはずだったのですが、マテオ様が急な熱と咳で、お出かけはキャンセルになりました。
「ねえ ララ。マテオ様とのお出かけは無しになったけど、私ね買いたいものがあるの、一緒に出掛けてもらってもいいかしら」
「はい。お嬢様、旦那様のお誕生日プレゼントですか?」
「ええ。マテオ様が、婿に入る自分も選びたいと言うので、今日のお買い物まで買わずにいたのだけど……。お父様の誕生日は明後日ですもの」
「さっそく出かける、準備をしますね」
ララと馬車に乗り、商店街に向かう道を進んでいると、牛が街道の真ん中に居座り、隣に立つおじさんが困り果てていた。
「やーすみません。牛が言うこと聞かなくなっちまって、びくともしないんで、当分動いてくれそうにないんです」
おじさんが、申し訳なさそうに頭を下げる。
「ララ。少し回り道だけど、右の道に進みましょう」
「はい。お嬢様」
右の道に入り少し進むと、今度は豪華な馬車が、路肩に脱輪して斜めになっている。
「お嬢様、あれはクロセル侯爵家の馬車ですね。バラと剣の家紋です」
「まあ。お困りでしょうね、声をかけましょう」
馬車を下り侯爵家の馬車に近づくと、馬車の陰からアメリア様が顔をのぞかせた。
お話しした事は無いけれど、アメリア様の美しさは、学院内で有名だ。
第三王子殿下との婚約が、もうすぐ発表されるのではないかと言われている。
私はドレスを少し持ち上げ礼を取る。
「下位の者から、突然にお声掛けしてすみません。クロセル侯爵令嬢様とお見受けいたします。私、アルバン伯爵家の娘、ルイーズと申します。お困りでしたら、私でないかお役に立てることはありますでしょうか?」
「まあ。声をかけてくれてありがとう。ルイーズ様の事は、学院でお見掛けしたことがあり、知っていますわ♪商店街にお買い物に行こうと思ったら、こんなところで脱輪してしまって困っていたの」
「私もちょうど商店街に向かうところです、伯爵家の馬車で手狭ではありますが、よろしければ一緒に行きませんか?」
「わあ嬉しい。母へのプレゼントを選ぶのに、相談に乗ってくれる人が欲しかったの、一緒に選んでいただけると嬉しいわ」
馬車の対応は御者に任せ、アメリア様とお付きの侍女を乗せ、商店街へと向う。
「私も父の誕生日プレゼントを、選ぼうと思ってきたんです。侯爵夫人へはどのような贈り物ですか?」
「まあ私も母の誕生日プレゼントよ、明後日が誕生日なの」
「まあ父と一緒です」
「あら素敵、これも何かのご縁ね、今まで学年も違って、話したことが無かったけれど、仲良くしてもらえると嬉しいわ。私のことはアメリアと呼んで、私もルイーズとお呼びしてもいいかしら」
「もちろん私のことは、ルイーズとお呼びください。私などが、お名前をお呼びしても、本当にいいのでしょうか?」
「もちろんいいわ」
「では、よろしくお願いします、アメリア様」
馬車の中は会話が弾み、アメリア様のいろんなお話を聞くことが出来た。
商店街でも、父と公爵夫人への誕生日プレゼントを相談しながら選び、自分達のドレスや、アクセサリーも選んで、いろいろなお店をめぐり、兄しかいない私は、姉ができたようでとても楽しかった。
いっぱいお買い物をして疲れた私たちは、カフェでお茶をして帰ることになり、川が見渡せるテラス席に座り一息ついた。
「アメリア様。思わぬ事故で大変でしたが、こうしてお買い物を一緒にしていただき、私はとても楽しかったです。よかったら今日の記念に、これを受け取っていただけますか?安いもので恥ずかしいのですが、きれいな石だったので私と色違いに……。」
私は、アメリア様に小さな包みを差し出した。
「わあ。うれしい、開けてもいいかしら?」
「はい」
アメリア様は包みを開けて、ブレスレットを光にかざした。
「綺麗な青ね~。キラキラして綺麗。ありがとう」
「喜んでいただけて良かったです。見つけた時に、アメリア様の瞳の色みたいだと思って」
「私の瞳、こんなに綺麗かしら~。そういえは色違いって言ってたわね、ルイーズは何色にしたの?」
「私はこれを」
隣に並んでいた同じデザインで、私の瞳と同じ、ライトグリーンの石が付いたブレスレットだ。
「まあきれいなライトグリーン。まるでルイーズの瞳みたいね。ねえねえ。交換して、お互いの瞳の色を持たない。私、グリーンが好きなの」
「それにっしてもルイーズは、遠くから見ていた時も、きれいな令嬢だと思っていたけど、近くで見れば見るほどきれいでだわ~。そのつやのあるチャラメルブラウンの髪、若葉色の瞳。侯爵家はみんな黒髪じゃない、プラチナブロンドは奇麗だけど、なんだっか軽い感じがするし。だから少し明るめの、ルイーズのブラウンの髪にあこがれるわ~。なにより、あまりのかわいらしいお顔に同性の私も、食べちゃいたいくらいだもの」
「アメリア様のように美しい方に比べたら、私など足元にも及びません。今日は一緒にお買い物していただき、姉ができたような気持になり、嬉しくてついお揃いの物を買ってしまいました。良いのであれば、交換して、アメリア様の色を持たせてください」
「まあうれしい。本当に姉妹になって欲しいわ、私には、もうすでに結婚して、侯爵家を継いでいる兄のほかに、もう一人騎士団に兄がいるの~。20歳にもなるのに、いまだに婚約者も居なくて!ルイーズは婚約者が居るんだったわよね、残念だわ~」
「はい。今日も、本当はその婚約者と出かける予定でしたが、急に体調を崩したと使いの者が来て、一人で出かける事になりました。でもそのおかげで、アメリア様と、楽しい時間を過すことができました」
「あなたの婚約者は、ライド伯爵令息だったわよね、ルイーズ」
「はい」
急に声のトーンが落ち、なぜかアメリア様は、私を通り越してさらに遠くに視線を向けている。
振り返ると川のほとりに、小柄なかわいらしい令嬢を連れた、マテオ様が居た。
「マ マテオ様」
驚いて固まる私とは反対に、アメリア様は顔を真っ赤にして怒り出す。
「ライド伯爵令息!体調が悪くなったのではなくて!」
アメリア様の声は、そんなに大きな声では無いのに、遠くまで良く響き、カフェの中も外の通りを歩く人も、皆が私達を振り返る。
「な!ルイーズどうしてここに」
「体調の悪いライド伯爵令息こそなぜここに?隣の方は、アクト子爵家のご令嬢かしら? 婚約者との約束をキャンセルし、お二人で逢瀬を楽しんでいらっしゃるのかしら?」
アメリア様が、マテオ様を問い詰める。
「いやこれは、たまたま商店街で一緒になっただけだ、違うんだルイーズ」
「ライド伯爵令息様、今朝、我が家から送った煎じ茶を、受け取っていただけましたでしょうか?熱と咳によく効くお茶です」
「いやルイーズ、誤解しないでくれ……これは」
カフェのテラスに駆け寄り、弁明するマテオ様の裏切りに、めまいがしてよろめく。
アメリア様は、ふらつく私を支えながら、一歩前に出る。
「ライド伯爵令息、わたしのかわいいルイーズを悲しませたこと、クロルセ侯爵家が、全力で後悔させて差し上げますわ!さあ。ルイーズ、頭がお花畑と一緒にいると、バカが感染するから帰りましょう。そしてそのままアルバン伯爵に報告よ」
「待ってくれクロセル侯爵令嬢、いや誤解だ ルイーズ!ルイーズ!」
どこから現れたのか、アメリア様の護衛の方に、マテオ様は取り押さえられ、私の名前を連呼するマテオ様を残し、メリア様と伯爵家に戻った。
そのあとは嵐のような勢いで、アメリア様が父に詰め寄り、婚約はマテオ様の有責で破棄された。
高額な慰謝料を払うため、マテオ様ライド伯爵に鉱山に売られ、逢瀬のお相手だったアクト子爵令嬢も、修道院に入れられたらしい。
ライド伯爵も、アクト子爵も子供達を犠牲にしたが、あのカフェでの出来事は、アメリア様の宣言と共にすぐに社交界に広がり、クロセル侯爵を敵に回した家門として、肩身が狭い思いをしている。
そして私はと言うと、婚約破棄から数日後、アメリア様が二番目のお兄様である、レオン様を伴い伯爵家にやってきた。
「ルイーズ。元気にしてる?今日は、レオン兄様から発表があってまいりました」
レオン様は、グレーの正装に身を包み、大きなバラの花束を抱えている。
初めてお会いするが、アメリア様が、男性になったみたいに綺麗な顔立ちで、騎士様と聞いていたがすらっと細身で背が高く、黒い長髪を後ろでひとつに結んでいる。
あまりに美しい兄妹に、眼を奪われていると、レオン様が私の前で膝をついた。
「ルイーズ嬢。 私は10歳の時に参加した、王宮の茶会であなたに一目ぼれした。それいらいずっとお慕いしていました。どうか私とこれからの人生を、共に歩んでいただけないでしょうか」
直球な婚姻の申し込みに、心臓が高鳴る。
レオン様の真剣なまなざしに、耐えかねて周りを見回すと、アメリア様は両手の拳を握りしめて、前のめりに早く返事をしなさい!と言わんばかりのまなざし、アメリア様の後ろに控える、ララとアメリア様の侍女達も同じポーズ。
「ああの 突然の事で、何とお答えしていいか…………。まずはお互いを、知るところから始めさせていただいてもいいでしょうか?よろしくお願いします」
私も、レオン様と同じ目線の位置に腰を落とす。
数えきれないバラ花の向こうで、レオン様がにっこり笑った。
「こちれこそ よろしくおねがいします」
美丈夫とバラの攻撃!
「あーもう。ルイーズったら、そこは はい!結婚しますでしょ~。でも用心深いところも、さすが私の妹だわ。レオン兄様!後はお兄様の頑張り次第よ!」
アメリア様が、レオン様の肩をバチンと叩く。
「ああ。全力で頑張るよ」
「ひとまず作戦成功ね~! ルイーズが、本物の姉妹になる日も近いわ~」
✿ ✿ ✿
それから毎日レオン様は私に会いに来て、いっぱいお話をした。
私が10歳で婚約してしまい。
レオン様は、悲しみのどん底に落ちたこと、それでも私のことを思ってくれていて、婚約者を作らなかったこと、などなど。
正直に話してくれる、誠実なレオン様に、私の気持ちはあっという間に掴まれた。
ほどなく、正式にレオン様と私の婚約は結ばれた。
「ルイーズの隣に立つことが出来るなんて、アメリアには頭が上がらないよ」
そういって、レオン様は私の髪にキスを落とした。
あの日 偶然あの道を通って私は幸運でした。
偶然が重なり、新しい道が、こんな形で、開けていくのですわね♪
レオン様と、これから先の未来を描けくことが出来て、今はとても幸せです。
~ 終わり ~
アメリア様はどこから作戦をたてていたのでしょう。
( *´艸`)
皆さんどう思われますか?
初めから? 馬車の事故から? マテオの不貞を見つけてから?




