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アラフォー、若返って魔法少女となり、デスゲームに巻き込まれる  作者: 天原 重音


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8/10

それからの日々と継承の儀式

 料理に関する軽いドタバタが終わった頃、コリフェーオが待ち焦がれていた、クレリーカなる人物が帰って来た。

 その時のコリフェーオの喜びようは凄かった。四面楚歌状態のところへ、『助けが来たどー!』みたいな感じの喜びようだった。コリフェーオはグーフォを持ち上げて、ボールのようにグーフォを上に投げて、ヨギーストに怒られていた。

 それで、クレリーカと言う人物は……ヨギースト同様に、外見が変わっていた。

 顔はファンタジー系の創作作品でよく見るドワーフに似ている。でも、ドワーフと言うには身長が高い。ヨギーストと比べると低いが、目算で身長は二メートル前後だろう。

 そして何より目を引くのが、背中から生えている八本の腕だ。

 クレリーカを見て、私はギリシャ神話のヘカトンケイルを連想した。ギリシャ神話に登場するヘカトンケイルは『百の手と五十の頭を持つ巨人』の名前だ。だけど、目の前にいるクレリーカは、頭は一つだし、腕は背中と両腕を足して合計十本だ。

 他腕の部分だけを見て、連想したのかもしれない。

 そんな事よりも、どうしてクレリーカが返って来た事をコリフェーオが喜んだのかと言うとね。

 ここにいるメンバーの中で唯一『医学の心得』があるそうだ。

 つまり、『医者の代わりを務めていた』人物だった。

 ……そりゃあ、帰還を喜ぶわ。

 デトルゥーオから理由を聞いて私は納得し、クレリーカに軽く自己紹介だけ行った。



 クレリーカはグーフォの診察を行った。

 グーフォの診察結果は外見の通りに、栄養失調だったが、その他にも幾つかの症状を抱えていた。一つだけ教えて貰ったが、それは声帯の損傷だった。

 これを聞き、『だから喋り方がおかしかったのか……』と、己が抱いた疑問が一つ解消された。

 グーフォの治療は、クレリーカが魔法で治せるものだけを治した。

 私は気になったので、クレリーカに質問をして色々と教えて貰った。クレリーカが言うには、声帯の損傷のような『怪我』に相当するものは魔法で治せるらしいが、流石に『風邪』を始めとした病気は治せないらしい。

 感心していたら、今度は私がクレリーカから質問を受けた。

 質問内容は、クレリーカが来るまでの『グーフォの食事内容』だった。

 質問を受けて私は思った。『コリフェーオからある程度の事は知らされているのね』と。

 グーフォの食事内容は私とほぼ同じだ。少しグーフォに食べさせて、余裕がありそうなら、肉や魚などの具材を少量足す程度にしている。


 困った事に、私も未だに雑炊をメインにした食事しか取れていないのだ。

 ここに来るまでの事を、夢で何度も見てしまったせいか、食欲が湧かないのだ。それでも、食べなければ体調が回復しないので、雑炊を中心とした食事を三食取っている。

 焼いた肉が食べられるようになるまでは、まだ時間が掛かる。


 私の回答を聞いたクレリーカは『そうか』しか言わなかった。ただ、私だけには『もう少し肉か魚を食べた方が良い』と追加の言葉を貰った。

 これは医者だから判るのかな?

 それはそれとして、アヴァレーソはクレリーカから滅茶苦茶怒られていた。アヴァレーソが怒られた理由? グーフォに生焼けの肉を食べさせて寝込ませた事についてだよ。 



 クレリーカが帰還してから幾日か経過し、デトルゥーオから教えを受ける内容が減った。

 そんなある日に、私はコリフェーオと一緒にとあるところへ移動する事になった。

 急に『ちょっと行くぞ』と言われて、私は思わず頭に疑問符を浮かべた。

 どこへ行くのか教えて貰えないまま、私はコリフェーオに手を引かれて移動した。



 コリフェーオに手を引かれて、長い廊下を歩き、幾つもの扉を通り、到着した先は――真っ暗な空間が広がっていた。暗い空間だが、外と繋がっているのか僅かに風を感じた。

 コリフェーオに『外に繋がっているのか?』と尋ねると、『空気が循環しているだけだ』と納得出来るようで、納得の行かない回答を得た。空気が循環しているにしては、ほんの僅かだが風に匂いを感じた。

 コリフェーオの先導で、空間内を歩く。足音が反響するから、多分室内だ。

 暫く歩くと、前方に少量の白い光源を発見した。

『連れて来たか』

「はいはい。連れて来たぜ」

 空間に響いた男でも女でも無い声は、どこから聞こえて来るのか分からない程に空間内で反響した。立体音響を聞いた気分になった。

 コリフェーオはその声に軽い調子で対応した。

 声が聞こえたから『ここが終点か?』と思ったが、まだ歩く。あの光源のところにまで行くのか?



 もう少し歩き――私の推測は正しく、光源の傍にまで来た。

 白く淡い光源の下には、久しく見ていなかったマスケット銃が宙に浮いていた。

『ではこれより、継承の儀を始める』

 ――継承の儀。

 その言葉を聞き、私はハッとした。

 体調を考慮して、先送りにされていた『私が審判者になる儀式』が、これから始まろうとしている。

「ユカリ、身構えなくて良い。声の主はここの派閥の代表だ」

 小声でこっそりと、コリフェーオが声の主について教えてくれた。

 ……いや、身構えるなと、言われても、所属する組織の代表相手に、緊張するなと言っているも同然じゃない。

 私の感覚からすると、平社員が大きなグループ会社の会長に会うようなものだ。慣れが無いと無理。就活の面接よりもプレッシャーが重い。

『さて、チィエラルコを継承させよう』

 けれど、感じていたプレッシャーを忘れる程の疑問を抱いてしまった。

 能力の継承だよね? どうして『能力を』と言わないの?

『些末な疑問だ。今は、新入りに教えないのだったな。……まぁ、良い。我ら審判者の名は各々の力に通じる。『名は体を表す』と言う奴だ』

 思考を読まれた事にも驚いたが、同じ内容の格言が他の世界にも存在するのか。親しみは感じないが、感心はした。

 名は体を表す。ならば、私は継承する『チィエラルコ』の意味は何?

『チィエラルコは『虹』を意味する。人の子が作れる幻にて空想。目の錯覚と理解しているにも拘らず、空想を抱く対象。その力は『空想の具現化』だ」

 空想の具現化。言葉にすると簡単そうに思えるが、現実にするのは難しい。チィエラルコの力はそれを可能とする。でも、『虹』の意味との関連が分からない。

『虹は視るものによって見える色が違うからか、歴代のチィエラルコは他者に色の名を与える事で、色に関連する己が能力の劣化能力を授ける事を可能とする』

 他者に色の名を与える。この文言を聞いて、私はとある言葉を思い出した。

『おかしい。ここに招いた人間には『いっしょく分』の力しか出せないように設定したのに……』

 あの白い怪生物はそう言った。

 白い怪生物が言っていた『いっしょく分』は、私の推測通りに『一色』だった。私のは色の名前を二色――『黒』と『紫』を持つから、あの白い怪生物を()れた。

『ほう。心当たりがあったか。ならば、話は早いな』

 宙に浮いていたマスケット銃が七色――虹色に光輝いた。そのまま私の目の前にまで移動して来る。

『同調は完了した。それを手に取れ。それで儀式は終わる』

 そう言われて、私はマスケット銃を注視した。

 マスケット銃を手に取ったら、私は審判者になる。それは、人間ではなくなる事を意味する。

 ……でも、私には行く当てが無い。それに、紫藤さんとの約束だけは可能な限り果たし続けたい。

 約束に縛られている気もするが、今はそれで良い。縛られていなければ、私には生きる目的も理由も残っていない。

 私は右腕を伸ばして、マスケット銃を掴んだ。

 掴んだ瞬間、体の中に何かが流れ込んで来る感覚があった。拒絶せずに、目を閉じて流れ込んで来るものを受け入れた。

 


 そして、どれ程の時間が経過したのか。何かが流れ込んで来る感覚が治まった。

 私の体感で五分程度だ。でも、目を開いた時にコリフェーオの心配そうな視線を貰ったので、もっと長かった可能性が高い。

「ユカリ、大丈夫か? 変な感覚とかは無いか?」

「大丈夫だよ。完全に落ち着いた」

 体に異常は無い。それは確かな事だ。

 右手で掴んだマスケット銃は光ってはいないものの、手に持た感触も重さも、かつての死闘の時と同じままだ。

 これより『黒羽紫』の名は使わなくなる。ちょっとした寂しさを感じて、私はマスケット銃を抱えた。同時に声が響く。

『継承の義は完了した。これよりお前の名は『チィエラルコ』になるが、人間だった頃の名を使い続けるか?』

「使っても良いの?」

『構わぬ。過去に拒んだ奴は何人もおる。人間だった頃と審判者としての名を使い分けた方が、能力を隠しやすい。それに、お前のように、審判者としての名を名乗る事に抵抗心を持つものは一定数いる』

 思いもよらない提案に、私は敬語を使う事を忘れて尋ねた。デトルゥーオから教えられた事の一つ、『敬語を使うのは派閥の代表ぐらい』を忘れる程の衝撃があった。

 派閥の代表――緑の中の緑は、私の言葉遣いを気にせずに鷹揚に回答した。

 予想外の回答を聞いて、私は内心で喜んだけど、私と同じような反応を示す人もいる事に対しても驚いた。

 私が今後名乗る名前を確認した緑の中の緑は、『儀式は終わった。早々に去れ』と言った。その言葉を受けたコリフェーオに再び手を引かれて、私は部屋から出た。



 こうして私、黒羽紫は審判者の一人になった。

 審判者としての名は『チィエラルコ』だ。でも、普段使用する名前は『ユカリ』だ。

 本当ならば、もっとよく深く考えるべきなんだろうけど……私には心配したり、不安になる点が少ない。

 血生臭い殺し合いは既に経験した。

 帰るべき場所は、もう存在しない。これはコリフェーオに頼んで確認して貰ったので事実だ。帰る場所が存在しないと言う事は、『家族もいない』と言う事になる。

 家族は死んだ。帰る家は無い。この二点を聞かされても、取り乱さない私が異常なのだ。あるいは、感覚が麻痺しているのかもしれない。


『恥ずかしい』


 数年前、手術を受けに病院へ行く前日、母は私にそう言った。

 他の入院者患者が荷物を何に入れて持って来ているのか。病院の入院説明担当者に私は尋ねて、『殆どの人は旅行用のスーツケースを使用している』と聞いたから、私もそれに倣った。

 手術の進み具合によっては、開腹手術に切り替わり、入院期間が一週間に伸びるかもしれないと言われていた事もあり、私はスーツケースに一週間分の荷物を入れた。

 けれど、母は前日になって『一泊で終わるかも知れないのに、そんな大荷物で病院に行くのは恥ずかしい』と言い出した。もう唖然とするしかなかった。

 入院が一週間に伸びるかもしれないから、医者からも『一週間分の荷物を持って来るように』と言われているのに、何を言っているんだと思った。

 しかも、少し大きめのトートバッグに必要な一泊分だけを入れろとか、一緒に説明を聞いていたのに、何を言い出すんだと呆れた。

 足りない荷物は面会時に渡せば良いとか、医者の話を忘れたのか。

 余りにも騒ぐからしょうがなく荷造りをやり直したけど、いざ病院に行ったら、世界的なパンデミックが原因で面会の制限は厳しく、安易に会えない状況だった。

 その結果、スーツケースも病室に持って行く事になり、荷物が一つ増える謎の状況になった。

 ……一度家から出たら二度と戻らない気がしたから、家を出るタイミングをずっと計っていたけど、こんな事になるとは思わなかったな。

 入院前に聞かれた食べ物アレルギーについて母の前で言ったのに、退院三日後の夕食に出て来たから失望したんだっけ?

 私の名前もそうだけど、良い思い出が無いから、深く悩まないのかもしれない。

 名前の表記も中学校側に『虐めの原因になったからひらがな表記を認めて欲しい』とお願いしたけど、却下された。高校時代以降は理解が得られたから、入学してから最初に一ヶ月間はひらがな表記が可能だった。

 中学時代の同級生が、推薦入試に落ちた逆怨みで広めたせいで、ひらがな表記が出来なくなったのは嫌な思い出だ。でも、当人が『虐めが原因で推薦入試で落ちた』事と、『安易に他者に向かって死ね死ね言うクズ』って言う二点が逆に広まり不登校になった。部活内の憧れの先輩に叱られただけでなく、こっぴどく振られた事も原因の一つらしい。

 思い出すと、本当に良い事って少ないな。良い思い出が少ないから、未練が残っていないのかもしれない。

 何にせよ、悩まなくて済んでいるのだ。悪い事だけではない。

 それ以上に、コリフェーオに拾われてから、落ち着いた日々が送れている、と言うのも大きい。

 すっかり忘れていたけど、抱えていた持病は肉体が若返った時点で無くなっていた。審判者になったら、この手の病気とも無縁になる。

 これからの事を考えると、審判者になってからの方が良い事が多いかもしれない。

 

 

 一足先に正式な審判者になった事で、グーフォからは言葉では表現しにくい視線を貰った。一緒にいたクレリーカは『もうちょうデカくなってからだ』と、グーフォの頭を撫でて慰めていた。

 皆には、改めて『呼び名はユカリでお願い』と言った。緑の中の緑の言う通り、皆は何も言わずに受け入れてくれた。

 

 さて、早く審判者としての日々に馴染めるように努力しよう。


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