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アラフォー、若返って魔法少女となり、デスゲームに巻き込まれる  作者: 天原 重音


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7/10

新しい場所での初日 ③

 デトルゥーオと私が四回ずつ、グーフォが三回、卵雑炊のお代わりをした頃。仲裁に入るも、噛み付かれたコリフェーオが戻って来た。

「お、ちゃんと食っているな」

 コリフェーオは『偉いぞ』と言って、グーフォの頭を撫でた。一方、丸スプーンを咥えている時に頭を撫でられたグーフォは不服そうに唸った。

「どうしてなの? 愛情を込めて焼いたのに」

「焦げている時点でそんなもんは残っとらんわ」

「アレは無視して良い。ユカリ、俺も一杯貰うぜ」

 卵雑炊を自らお椀に取り分けたコリフェーオがちらりと見た先には、床上に座り高周波を漏らしながらハンカチを噛む嫉妬心丸出しの美女と、素っ気無く切り捨てた一つ目の男がいた。


 一つ目で巨体を誇る禿頭の男。ギリシャ神話に『キュクロプス(英語読みでサイクロプス)』か? そんな名前の単眼の巨人がいたよね? そんな感じの見た目だ。ギリシャ神話に登場する巨人族には『ギガース(複数形でギガンテス)』もいたが、単眼の巨人は『キュクロプス』だ。

 そんなキュクロプスを連想させる程に、やって来た男は大きかった。身長は三メートル以上もありそうだ。

 

 そんな神話の巨人族を私に連想させた男は、背後でハンカチを噛む美女を無視してデトルゥーオに声を掛けた。

「デトルゥーオ、お前は何を食っとるんだ?」

「卵雑炊と言う料理ですわ」

「タマゴゾウスイ? 粥ではないのか?」

「見た目は似ていますが、食べて見ると全く違いますわ。粘り気は少なく薄味ですが、物足りなさは感じません」

「ふむ。具材は何だ?」

「すりおろした根菜二種類とみじん切りにしたキノコと海藻に、卵ですわ」

「すりおろした根菜?」

「詳しい理由を知りたいのなら、わたくしではなく、作ったユカリに聞きなさい」

 そう言って、デトルゥーオは私に水を向けた。

 いきなり話を振られたので、卵雑炊を危うく詰まらせそうになった。

「ふむ。新入りか。俺はヨギーストだ。出身は巨人族だが、部族の中では最も小さかった」

「そうですか。私はゆかり、黒羽紫です」

「ん? 見た目はガキなのに、敬語が使えるのか」

 思わず敬語を使って名乗ったら、ヨギーストは怪訝そうに首を傾げた。間髪入れずに、デトルゥーオから補足が入った。

「ヨギースト。ユカリはチィエラルコが引き起こした騒動に巻き込まれた際に、体だけ若返っているそうです」

「そうなのか」

「うん。だから、中身は三十代後半の大人だよ」

 カミングアウトに近い発言だけど、まぎれもない真実なので私は口にした。けれど、ヨギーストは『そうか』と言うだけで、他に何も言わなかった。

「それで、何故お前はこの、タマゴゾウスイだったか? この料理を作ったんだ?」

「実は――」

 私は事件に巻き込まれた時の事を簡単にヨギーストに話した。

 現在食事中なので、グロイ部分は省いた。『長期間疲労と空腹を感じない場所にいた』事と、『デトルゥーオの話を聞いていた最中に空腹に襲われた』事が伝われば良い。

 最後に、『久し振りに固形物を食べると腹痛になりかねないから、消化に良いものを作った』と言って、締め括って食事を再開させた。

 視界の隅で、体が温まり、満腹になった事が原因か。グーフォが丸スプーンを咥えた状態で半目になって舟を漕いでいた。デトルゥーオが椅子ごと身を寄せて、グーフォの頭を己の左肩に寄り掛からせた。嫉妬の高周波が響くも、誰も気にしない。

 その証拠に、コリフェーオは卵雑炊を無心で食べている。ヨギーストは一瞥すらもせずに、自分の話を聞いて大きく頷いた。

「成程。元は個人で食べる用だったのか。これだけ大量に作った事にも、理由が有るんだな?」

「食糧庫へ移動途中で、コリフェーオに会ったの。『これから食事を作る』って言ったら、『複数人分作って欲しい』ってその場で頼まれた」

「そうだったのか。グーフォの事を考えると、当然の選択肢だな」

 ヨギーストの視線は、デトルゥーオの左肩に寄り掛かったまま眠ってしまったグーフォに向いた。

「久し振りに普通の飯を食って、気が抜けたみたいだな」

「クレリーカが戻って来るまでに時間が掛かりそうだったから、本当に助かったぜ」

 二人の男性が微笑ましそうにグーフォを見た時、高周波が響いた。

「どうしてなの!? 膝なら何時でも貸すのにぃいいいいっ!!」

 無視し難くなって来たので、私はコリフェーオに赤いドレスの女性の紹介をお願いした。紹介が始まる前に、ヨギーストとデトルゥーオはグーフォを抱えて移動してしまった。逃げたね。 

「あいつはアヴァレーソだ。外見も声も女だが、完全な男だ」

「私やデトルゥーオと変わらない高さの声が出せるのに、男?」

「男だ。同性愛主義者で、年下好きっている欠点はあるが、戦闘で困った時には頼りになる」

 アヴァレーソに関する意外な情報を聞き、デトルゥーオが『心に深い傷を~』云々と言っていた事を思い出した。あの発言は、グーフォの身を『別の意味で案じて』の事だったのか。

 それにしても、コリフェーオは『戦闘で困った時には』と言った。わざわざ戦闘ではと言う事は……確認した方が良いな。

「日常生活では?」

「全く頼れん」

「ちょっと、その言い草は何!?」

「事実にケチをつけるな」

 ドレスの美女こと、アヴァレーソは床の上でよよよっと泣いた。コリフェーオはアヴァレーソを無視して卵雑炊を食べる。この状況で、私はどう反応すれば良いのか分からなくなる。

「アヴァレーソは無視して良い。ユカリ、頼みが有るんだが良いか?」

「内容にもよるけど、何?」

「難しい事じゃない。飯についてだ」

 コリフェーオは食事の手を止めて、説明を始めた。重要そうな内容だと思ったので、私も食事の手を止めた。

 その説明の内容はグーフォに関するものだった。


 先程一緒に食事を取ったグーフォだが、体が出来上がっていない。年齢は十三歳らしいが、コリフェーオに拾われるまでの環境が悪過ぎた。食事も殆ど取れていなかったせいで、成長が止まっている。

 このままグーフォを審判者にする訳にはいかない。

 体が出来上がってから審判者にならないと、過酷な任務に体が追い付かない。覚える事が山のように存在するので、ついでに戦闘に関する事も叩き込むらしい。

 ここまでは『コリフェーオ以外のものでも教育可能』だが、食事に関してはそうも行かない。


「要するに、毎日食事を作って、グーフォと一緒に食べろって事?」

 コリフェーオの説明で『食事』と言う単語が出て来たので、私は何となく言葉を先取りして尋ねた。コリフェーオは頷いてから続きを口にする。

「そう言う事だ。今のグーフォは、とにかく覚える事が多過ぎる。手始めに、人間としての日常生活が送れるように指導する。喉を傷めているのか、グーフォが上手く喋れない点は気になるが、医者の代わりが務まる奴がまだ帰って来ない。戻って来たら即座に見せる予定だ」

 説明はここまでなのか、コリフェーオは食事を再開した。

 私はコリフェーオから聞いた説明に着いて少し考える。

 要約すると『三食食事を作って誰かと一緒に食べる』だけにも思える。しかし、グーフォのあの様子を考えると『食事に関する教育を私にやれ』と言っているようにも取れる。グーフォのこれまでを考えると、忘れてしまった事の方が多いだろう。

 それよりも気になったのは、グーフォの年齢だ。

 これだけはコリフェーオに確認を取った方が良い。

「コリフェーオ。私、デトルゥーオからグーフォの年齢は『十歳』って聞いたんだけど?」

「あ~、見た目が幼いし、精神も幼児返りしているから、そう取られるのはしょうがないか。けど、年齢は十三で合っている。グーフォを拾った時に、近くにアイツの父親っぽい奴がいたんだ。そいつを問い詰めて、色々と吐かせたんだ」

 コリフェーオがどうやってグーフォの父親を見つけたのか気になるけど、親族から得た情報ならば信用しても良いだろう。何より、グーフォが選んだのはコリフェーオだ。ここにいない人物について考えても仕方が無い。

 コリフェーオからの依頼に了承すると、話題が変わった。

 話題が変わったと言っても、次の話題は私に関するものだ。


 その話題は、私がここに運ばれた時の体の状態を考えて、『能力継承の儀式を先延ばしにする』と言うものだった。


「ここに来る奴は、大体フラフラな奴が多い。ユカリの症状は軽いから、体調が回復したらすぐにでも儀式が行える。グーフォは重症過ぎるから、十年掛かるかもな」

「そんなにバラバラになるの?」

「これがなるんだよ。あ、ユカリは暫くの間、療養だ。ここに慣れるまで、ユカリにはデトルゥーオが付くから心配はいらん」

「分かった。ありがとう」

 正直に言うと、眠っていた部屋までの道を覚えていない。デトルゥーオがいない今、コリフェーオの言葉はありがたい。

「それと、グーフォの事も頼むかもしれないが、その時は頼むぜ」

「その方が良さそうだね」

「ちょっと! 私が担当するって言ったじゃない!」

「寝込ませた奴の言う台詞か!?」

 ハンカチを噛んで高周波を漏らしているアヴァレーソには悪いが、これに関してはコリフェーオが正しい。

 コリフェーオがアヴァレーソを宥め始めた。

 その間に、私はお椀の卵雑炊を食べながら、寸胴鍋に残った卵雑炊をどうするか考えた。寸胴鍋で作ったのに卵雑炊は半分も無くなっていた。コリフェーオが一人で大量に食べていたにも拘らず、半分も残っている方がおかしいのか。

 作った以上は全部食べる予定だ。胃の状態が良くなって来たら、ここに何かの食材を追加すれば良いだけだし。

 お椀の卵雑炊を食べ終わるまでに私はそう結論付けた。



 アヴァレーソがめそめそと泣きながら部屋から去った。その背中は『袖にされた美女』そのものなんだが、本当に男なのか?

「世の中って不思議だね」

「たまに俺もそう思うが、アヴァレーソの場合は種族特性だ。そいつはその日の気分で、己の体の性別を変えられる」

「どんな種族特性か聞いたら、日が暮れそう」

 コリフェーオの口から出て来たとんでもない情報に目を丸くし、詳細が聞きたくなるが我慢した。

 ここで会話が途切れたので、コリフェーオに卵雑炊のお代わりが必要か尋ねた。

「ん~、今食っている分で十分だ。残りはどうするんだ?」

「次の食事に回すよ。胃が回復したようなら、追加の具材を作れば良いだけだし」

「へぇ、そんな風にも出来るのか……」

 卵雑炊のアレンジについて少し言ったらコリフェーオに感心された。単純に料理の知識と経験が無いからかな?

 

 

 食事の時間はこうして終わり、来た時と同じようにカートに使った食器類を乗せて厨房に戻った。

 残されていたデトルゥーオとグーフォのお椀は、ありがたい事に空だった。そのまま私の分と一緒に洗おうとしたら、コリフェーオから食洗機の存在を明かされて吃驚した。

 食洗機が存在する理由をコリフェーオに尋ねると、簡単な料理は出来ても、皿洗いは苦手と言う人物が過去にいたらしく、その人物がどこからか『自動で食器を洗浄・乾燥する道具』を持ち込んだらしい。

 使い方も外見も違うが、コリフェーオから教えられたとおりに使用すると、私が知る食洗機そのものだった。

 残った卵雑炊が入っている寸胴鍋以外の食器を全て食洗機に入れた。お玉も一緒に入れた。

 寸胴鍋をコンロの上に置き厨房を出て、コリフェーオにお願いして元いた部屋にまで案内して貰った。

 戻った部屋のベッドの端に腰掛けて、得た情報を整理する。

 私が審判者になるのは、体調が回復してから。食事はなるべくグーフォと一緒に取る事。状況によってはデトルゥーオと一緒にグーフォの対応を担当する。

 ……怒涛の展開ですっかり忘れていたけど、帰る場所はもう無くて、ここが新しい居場所になる。

 改めて考えると、とんでもない状況だ。

 家に帰る途中に公園に寄っただけで、凄い事になった。大きな自然災害に遭遇したような気分になるが、生きる事を選んで来た以上、ここでやって行くしかない。

 不安はあるが、頑張ってみよう。



 この日以降、私はグーフォと共にデトルゥーオから沢山の事を学ぶ事になった。

 料理に関してのみ、求められてデトルゥーオにあれこれと教えているので、互いに教え教えられと言った状態だ。

 たまにアヴァレーソも『上手に肉を焼く方法を教えて』と、教えを乞いに来るのだが……何度教えても『黒焦げ生焼け』と言う、奇妙な焼き上がりになる。厚さ五ミリ以下の肉でこの焼き具合になるのは何故なんだろう?

 数年後、完全に回復したグーフォにも、試しに指導しながら肉を焼かせてみたが、表面を少し黒く焦がすだけで終わった。

 この差は一体どこでつくのかな? 

 あ、アヴァレーソが焼いた肉には本人に食べさせたよ。失敗しただけで食材を捨てるのは、生産者に対して失礼な行為だ。『食材が大切にしないと、料理の腕は上がらない』と言い聞かせて、涙目のアヴァレーソに完食させた。


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