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アラフォー、若返って魔法少女となり、デスゲームに巻き込まれる  作者: 天原 重音


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新しい場所での初日 ②

 食糧庫へ移動中、私はコリフェーオから『何か作るんだったら、複数人分を作ってくれ』とお願いされた。

 私の作りたいものを考えると、多めに作る分には困らない。事前に『多めに』の注文を聞いていなければ、その要求に応えるのは難しい。事前に聞けて良かったよ。

 到着した食糧庫だが、予想以上に内容が充実していた。何より、玄米以外に精米済みのお米がある事が嬉しい。鰹節は無いが、昆布があり、調味料も充実していた。意外な事に、味噌と醤油があったよ。

「必要なものは足りるか? 無いなら言ってくれ。こっちで用意する」

「これだけ揃っていれば十分だよ。私の故郷の料理はちょっと珍しい調味料を使うんだけど、それもあるから大丈夫」

 コリフェーオの言葉に答えながら、私は野菜を物色した。おお、人参・蓮根・大根・ジャガイモ、蕪とサツマイモまである。無難に人参と蓮根を使おうと決めて、持って来た三段のカートに食材を載せて行く。

「そうなら良かったぜ。手伝う事はあるか?」

「ん~。根菜の皮剥きとすりおろしをやって貰おうかな」

「すりおろし?」

 コリフェーオからの申し出に、作る料理で最も腕力を必要とする工程を思い浮かべた。根菜のすりおろしは意外と大変なので、やってくれるのならばありがたい。

「ユカリ、貴女は何を作るつもりですの?」

「卵雑炊。私は一応絶食明けだから、胃が固形物を受け入れるか怪しいの。だから、軟らかくて消化の良いものを最初に食べて、胃の調子を整えようかなと」

「胃が固形物を受け入れないだなんて、そんな事がありますの?」

「あるんだよね、これが」

 胃腸の調子が悪い時、日本人ならば雑炊かお粥が鉄板だろう。うどんでも良いが、白くて細長いものを『食べ物』と認識してくれるか怪しい。そんな心配をするのならば、雑炊にするのが良い。歴史の勉強で知ったが、海外には麦粥なんてものが存在した。お粥に近い雑炊ならば受け入れられるだろう。お粥と雑炊は『確りと味が付いているか、否か』程度の違いしかないし。

 カートに根菜、乾燥昆布、舞茸、卵を容器ごと載せる。空きスペースにはお米の袋と調味料に、鍋などの調理器具を載せた。

 全てを載せた状態でカートを押したが、私の力では動かなかった。代わりに、コリフェーオにカートを押して貰い、厨房へ移動した。興味を持ったデトルゥーオも手伝いを申し出てくれたので、早くに終わりそうだ。



 厨房は予想以上に広かった。

 調理器具が収納されているスペースを見ると、ハンドミキサーなどの電動調理器具は無いが、思っていた以上に調理器具の種類は充実している。無いと思っていた、ピーラーがあるのが何よりも嬉しい。土鍋はあったが、羽釜はなかった。そして、意外な事に蛇口があった。

 コリフェーオとデトルゥーオにピーラーを渡し(使い方はコリフェーオが知っていた)、根菜の水洗いと皮むきを頼み、私はボウルを使いお米を研ぎ始めた。計量カップは無いが、手を使えば炊飯する時に使用する水の量を計る事は出来る。家庭科の授業で学んだ事が役に立つ日が来たよ。

 手早くお米を研ぎ、引っ張り出した大きめの鍋にお米を入れて水に浸す。本音を言うと土鍋を使いたい。でも、コリフェーオに使って欲しいお米の分量は一升ぐらいはあった。羽釜が無い以上、大きい鍋を使うしかなかった。土鍋から大きい鍋に変わっても、お米を炊く時に浸水の時間を忘れてはいけない。

 お米の浸水が終わるまでの間に、私は新しく引っ張り出した大きい鍋に水を張り、持って来た乾燥昆布を入れた。うろ覚えだが、三十分程度の時間、昆布を水に浸してからが良かった筈。今回はお米の浸水が終わった頃ぐらいで良いな。

 ここで『根菜の水洗いが終了した』と、コリフェーオに呼ばれた。『ピーラーを渡した筈なのに』と一瞬だけ思ったが、何かが起きてからでは遅いので、二人の許へ移動した。 

 三人で手分けして、ピーラーを使い根菜の皮を剥く。

「ユカリ、水に浸していただけに見えましたが、あの二つの鍋はあのままで良いんですの?」

「あのままで良いの。本当は省いても良いんだけど、失敗を減らす為にやるの」

「へぇ、水に浸すだけで失敗が減るのか」

 感心している二人には悪いが、本音を言うと『久し振りにやるから』なんだよね。

 三人で皮を剥いた人参と蓮根をすりおろしを二人に任せて、私はお米の浸水具合を確認してから、まな板の上で舞茸をみじん切りにする。これも終わったら、今度はお米の浸水具合を確認。お米が大分白っぽくなって来たから、そろそろ火に掛けよう。コリフェーオとデトルゥーオにコンロの使い方を教えて貰い――たまにお茶を飲むデトルゥーオがコンロの使い方を知っていた。コリフェーオは知らなかった――二つの鍋を火に掛けた。

 炊飯器以外でお米を炊く時、お米を炊く時の歌を思い出すが、私はあの歌を最初のところしか覚えていない。強めの中火で沸騰させ、弱火に火加減を変えて行き、そのまま水蒸気が出なくなったら火を止めて蒸らすようにしていた。おこげが欲しい時には、蒸らし終えてから何秒か強火で水分を飛ばせば良かった筈。今回は雑炊にするのでやらない。

 そもそも、『米を炊かないでリゾットにすれば?』と言われそうだが、私の気分的には雑炊なのだ。リゾットは牛乳とチーズを使うので、胃に重く感じる。

 米を炊いている間に、昆布を入れた鍋の方を見る。中火でゆっくりと沸騰させてから、昆布を引き上げて、酒と醤油と塩で味を調える。使いたい調味料の中でみりん(白ワインと砂糖で代用品は作れるが、今はやらない)だけなかったが、無いものはしょうがない。引き上げた昆布はみじん切りにして、雑炊の具材にする。

 米を炊き、昆布で出汁を取った。コリフェーオとデトルゥーオの二人は根菜のすりおろしを終わらせた。

 雑炊を一度大量に作る前に、小鍋で少量の卵雑炊を作る。他の人に作って食べさせる前に、『こんなのだよ』と二人に味見させるのだ。ついでに私の作る練習にもなる。

 小鍋に、炊いたばかりのご飯、具材の人参と蓮根のすりおろしと、みじん切りにした舞茸と昆布を投入し、最後に昆布出汁を注いで、火に掛けてお玉でかき混ぜ、味見をして調味料を足して、味の濃さを調整する。

 舞茸に火が通ったら溶き卵を回し入れて完成だ。根菜はすりおろしているので、舞茸よりも先か同じ頃に火が通る。乾燥昆布は出汁を取った事で既にある程度の火が入っている。

 完成した卵雑炊を器に盛り、手伝ってくれたコリフェーオとデトルゥーオに食べて貰う。

「薄味だけど美味いな。あと、凄く熱い」

「確かに熱いですが、美味しいですし、お腹から温まるようで良いですわね。ユカリ、味の濃さはこれで良いんですの?」

「私も久し振りに食べるから、これぐらいの薄味が丁度良いかな」

 私も卵雑炊の味見をした。ほんのり味を感じる程度の薄味だ。でも、絶食明けだから、これぐらいで良いな。

 二人に今作った卵雑炊を出しても良いか尋ねて許可を貰い、改めて複数人分を寸胴鍋で作った。



 厨房から寸胴鍋を食器と共にカートに乗せて移動する。カートを押しているのはコリフェーオだ。寸胴鍋を乗せているからか、カートは重かった。

 何だかんだで興味を持った二人の分も含めて、結局、寸胴鍋で卵雑炊を作る事になった。最初は卵雑炊を味見として小鍋で少量を作ったが、最終的に寸胴鍋で作る事になった。

 その途中、コリフェーオとデトルゥーオに卵雑炊を作った理由を教える。

「絶食明けだったり、お腹の具合が悪い時とかには、胃が消化しやすい軟らかいものを食べた方が良いの。絶食明けで肉とかの固形物を食べると寝込むのは、胃の調子が悪い証拠だよ。味付けも薄くした方が食べやすいかな」

「そうでしたの」

「へぇ~、ユカリは医学の心得とか有るのか?」

「持っていないよ。こんなの家庭医学の初歩だよ。風邪を引いて調子が悪い時に、お粥とか食べた事ってない?」

「わりぃ、覚えてねぇわ」「わたくしも覚えていませんわ」

 同時に返って来た言葉を聞き、この二人はどれだけ長生きをしているのか、ちょっと気になったけど、聞かない事にした。

 デトルゥーオが移動先の扉を開けた。カートを押すコリフェーオに続いて私も入った。


「いいかアヴァレーソ! その焦げた肉を食わせたら、こいつはもう一度寝込むぞ!」

「そう言われてもね。その子が何日、水と塩しか口にしていないと思っているのよ? ここはちょっと焦げていても、何か食べさせるべきでしょう?」

「生焼けで黒く焦げている肉を食わせるなと言っているのだ! せめて軟らかいパンを持って来い!」


 室内に入ると同時に、耳を疑うそんなやり時が聞こえて来た。

 会話を聞いて、コリフェーオは呆れて、デトルゥーオは『またか』みたいな顔をする。

 室内にいるのは三人だが、言い合っているのは二人だ。

 黒く焦げた何かを乗せた皿を持っているのは、褐色の肌を持った赤髪赤目の美女だ。デトルゥーオと違い、こちらは真っ赤なドレスを着ている。

 その対面にいるのは、背後に子供を庇った禿頭人物だ。私達に背を向けているので顔は見えないが、声音を考えると男性だ。

 その男性の腰の辺りにしがみ付いているのは、灰色の髪の子供だ。事前にデトルゥーオより年齢は十歳だと聞いていたが、実際に見ると更に幼く見える。男性の背中にしがみ付いているだけでなく、足元が見えない程に長いローブのようなものを羽織っているので、幼さが強調されているようにも見えた。この子供がグーフォなのか。

「またやっているのか。二人は先に食べてて良いぞ」

 最も近くのテーブルの傍にカートを移動させたコリフェーオが、未だに言い争いをしている二人の間に入った。

「どうする?」

「放っておいても大丈夫ですが、グーフォだけは回収した方が良いでしょうね」

 言い合う二人の仲裁に入ったコリフェーオだったが、入った瞬間に、双方から噛み付かれてしまった。長引きそうな予感がしたのでデトルゥーオに確認を取ったら、子供――グーフォだけを回収する事になった。

 デトルゥーオが気配を消してグーフォの傍に近づき、肩を叩いて振り向かせた。

 ……瞳が、光っている!?

 振り向いたグーフォの顔を見て、私は驚いた。驚きの余り声が出なかったので、グーフォを驚かせる事も無かった。デトルゥーオが手際よく、グーフォの手を引いて戻って来た。

 近くにやって来たグーフォを私はまじまじと観察した。グーフォは思っていた以上に背が低くく、男の子だった。十歳の児童と聞いていたが、身長は百五十センチも無い。グーフォの身長は、百四十センチは超えているだろうけど、ヒール付きの靴を履くと身長が百七十センチを超える私の肩にも届いていない。確実に身長は百五十センチを超えていない。十歳の男児でこの低身長は無いだろう。私が十歳の頃、身長は既に百五十センチを超えていたし、周りの男子も同じぐらいの身長のものが多かった。

 包帯が巻かれた手指は細いし、正面からグーフォを見ると、全体的に痩せ細っていた。

 ここで、私はデトルゥーオから聞かされたグーフォに関する内容を思い出した。

 一時的に奴隷にされていたのならば、食事は満足に取れなかった、いや、毎日食事を取れたかすらも怪しい。

 ……こんな状態の子供に焼いただけの肉を食べさせたら、確かに寝込むわ。

 グーフォが寝込んだ理由に一人納得し、ここでふと別の事に気づいた。

 こっちに背中を向けている男の身長だ。グーフォは男の『腰の辺り』にしがみ付いていた。腰は人間の体の上下の分かれ目、半分ぐらいの位置にある。その辺りにしがみ付いていたと言う事は、男の身長は軽く見積もってもグーフォの二倍前後あると言う事になる。非常に気になるが、空腹を訴える音が鳴りそうなので、後回しにした。

 これから席に着く予定のテーブルにグーフォを招き、椅子に座らせた。席の位置は私の正面にデトルゥーオが座り、右手側にグーフォが座っている。

 さて、これから食べる卵雑炊は熱い。食器が陶器だとその熱が直に伝わる。そこで、器を持った時に熱を感じないように、木製の器と丸スプーンを持って来た。木製の器は味噌汁用のお椀ぐらいの大きさだ。

 三つのお椀に卵雑炊を取り分け、グーフォの前にお椀と丸スプーンを置いた。

「はい。熱いから、少しずつ食べてね」

「……?」

 グーフォは困惑顔で私とお椀を交互に見た。

 ここで『まさか、スプーンの使い方を知らないんじゃ……』と、疑問が浮かんだ。私と同じ疑問を抱いたデトルゥーオが、グーフォに食べ方を見せた。デトルゥーオは丸スプーンで少量の卵雑炊を掬い取り、息を吹き掛けて冷ましてから口に運ぶ。デトルゥーオは卵雑炊を試食した時に熱い思いをしたので、火傷に注意しながら少しずつ食べる。

 グーフォはデトルゥーオの真似をして、卵雑炊を少しだけ口に運ぶ。

「!? ぁふっ!?」

 だが、想像以上に熱かったらしく、卵雑炊を口に含んだ瞬間、グーフォは目を見開いて驚いた。グーフォが驚いた瞬間、肩まで上下に動いたので、『もしかして熱い食べ物を、口にした事が無いんじゃないか』と心配した。

 私と同じ心配をしたのか、デトルゥーオがグーフォに『大丈夫か』と声を掛けた。

 しかし、私とデトルゥーオの心配を他所に、グーフォは目を輝かせて卵雑炊を食べ始めた。

「大丈夫みたいだね」

「そうですわね」

 グーフォの反応から、私とデトルゥーオは大丈夫だと判断し、それぞれで冷めていない熱々の卵雑炊に手を伸ばした。

「熱いので少し苦労しますが、美味しいですわ」

「やっぱり雑炊って良いなぁ」

 熱々の卵雑炊を口に運び、暫しの間無言で食べる。食べて確信した。今の胃腸の状態で、肉類を食べたら絶対に吐く。

「ん?」

 食べている最中に袖を引かれた。何かと思えば、右隣に座っていたグーフォが私の袖を引っ張っていた。グーフォのお椀を見れば、空になっていた。

「あ、えと……」

「お代わりが欲しいの?」

「ん!」

 元気の良い返事だが、グーフォの発声がちょっと気になった。でも、それは食後にコリフェーオに聞けば良い。

 グーフォからお椀を受け取り、卵雑炊を取り分けてから渡した。

「あひかと」

「?」

 舌足らずなグーフォの物言が気になったが、多分『礼を言った』と判断した。


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