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アラフォー、若返って魔法少女となり、デスゲームに巻き込まれる  作者: 天原 重音


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5/10

新しい場所での初日 ①

 私はベッドの端に座り、隣に座るデトルゥーオと名乗った女性と向き合った。

 ドレスと見まがう膝丈で袖無しの赤いワンピースの裾を気にしながらベッドの端に腰掛けたので、肌が白い事もあり、印象的にはお嬢様っぽい。赤いショールと黒い長手袋を身に着けているので、尚更そう見える。

 デトルゥーオは土器と見まがう程に太い縦ロールに目が行きがちだが、タレ目気味の瑠璃色の瞳も印象的だ。身長も私と同じぐらいなので、デトルゥーオも女性としては高身長の部類に入るだろう。顔立ちはキツメだが、髪と瞳の色のお陰か、そこまでキツイ印象は無い。

 そんなデトルゥーオに対して、私は気絶する前の事を含めた自己紹介をしてから現状の説明を求めた。

「コリフェーオから聞いた時には、『またか』と思いましたが、そんな状況では仕方がありませんわね」

「またって、何?」

 私は名乗った際にデトルゥーオに対して敬語を使ったが、ここでは上下関係が殆ど無いらしく『敬語は不要』と言われた。敬語が必要になるのは、派閥代表だけらしい。

 そんな事を聞かされたので、私はデトルゥーオに対してため口を使用している。

 なお、デトルゥーオがお嬢様言葉なのは『地元の言葉遣いの一種だから変えられない』からなんだとか。お嬢様言葉を方言みたいに言われても困る。

「実は、少し前にコリフェーオが十歳ぐらいの子供を拾って来ましたの。元いた世界では、幼い頃に父親が原因で奴隷として売られて、霊力を崇める教会に戦闘奴隷として売られるなどの散々な目に遭っていたとかで……。一体どのような経緯で、そんな子供を拾ったのか分かりませんが、別派閥の審判者との戦闘が原因と言われました。コリフェーオが拾うに値する理由があったのならば、私達からは何も言えません」

 いきなりデトルゥーオから重い話をさらりと聞かされて私は戸惑った。

 奴隷なんて単語は、歴史の授業でしか聞かない単語だ。現代で聞く事は滅多に無い。

 そして、気にする余裕が無かったと言うのもあるが、やっぱり私の外見はかなり若返っているようだ。紫藤さんが私を見て『同学年の人がいて良かった』と言ったので、二十歳近くは若返っていると見て良いだろう。単純計算で、私は高校生にまで若返っている事になる。日本人は若く見えると言われるので、子供呼ばわりされるのは諦めよう。悪い事だけじゃないしね。持病のストレス性蕁麻疹が発症しないのがその良い例だ。

 事件に巻き込まれた際に若返ったと言ったら、デトルゥーオは目を丸くした。同時に、敬語が使える理由も納得したらしく、デトルゥーオは何度も頷いていた。

「ユカリ、貴女には悪いですが、子供の教育は難しいので、二人に増えたら大変だと思っていました。杞憂で良かったですわ」

 デトルゥーオはそう言って微笑んだ。子供の教育が大変なのはどこも共通か。

 話を聞いた限りだが、奴隷にされるなどの特殊な状況を体験したのならば、ものを覚えるのは苦労するだろう。本人にやる気が無ければ、『物覚えが悪い』とレッテルを張られかねない。教育担当が誰だか知らないが、大変そうだな。

 追加で詳細を聞くと、その子供は男の子で、教育担当者も男らしい。私の教育担当者はデトルゥーオだ。同性同士の方が教えやすいと判断されたのか。

 話しは逸れたが、改めてデトルゥーオから様々な事を教えて貰う。

 世界の本当の在り方と、世界樹。審判者なる存在。審判者が所属する五つの派閥。今ここにいる場所は、緑のヴェーダと呼ばれる派閥の拠点の一つだと言う事。


 デトルゥーオの話を聞いて、私は思った。

 ……これ、絶対にサブカルチャーの知識が無いと理解出来ないぞ。

 特に必要なのは世界各国の神話の知識か。世界樹は北欧神話のユグドラシルが有名だ。一つの末端の枝先に九つの葉が付いており、この葉一つ一つが世界なのだと説明を受けた時、ユグドラシルが九つの世界に分かれている事を思い出した。

 世界を支える柱は、ギリシャ神話にも登場している。私の記憶が正しければ、ヘラクレスの十二の試練だったか、メドゥーサの首を狩ったペルセウスの逸話のどちらかに登場していた筈。一時的に柱を支える役目を肩代わりしたとか、メドゥーサの目を見て石になったとか、そんな内容だ。

 

 デトルゥーオの話が五派閥の一つ『緑のヴェーダ』関連になり始めたところで、きゅ~と、音が鳴った。恥ずかしい事に、音源は私の腹だ。しかし、よくよく考えると長時間、空腹状態だった。

 私は素直にデトルゥーオに食料の存在を尋ねた。審判者は大気中の魔素を吸収する事で、生命維持に必要なもの(主に食事とか)が不要になるらしいが、ここに来る途中で気絶した私は、まだ審判者になっていない。

 デトルゥーオは私のお願いを聞き、始めこそ怪訝そうな顔をした。けれど、私がここに来るまでの経緯を思い出したのか、すぐに納得顔に切り替わった。

「食糧はありますわ。私達は人だった頃の名残で、嗜好品のように食事を取る事がありますのよ」

「そうなんだ」

「ただし、ここには料理が出来る人が少なくて、出来ても簡単なものしか作れる人しかいませんの」

「……そうなんだ」

 デトルゥーオの説明を聞いて思った。

 これは自炊した方がマシだな、と。

 私はデトルゥーオにお願いして、食糧庫に案内して貰った。空腹が原因で、彼女の話に集中出来ないのは流石に駄目だ。デトルゥーオの話は私の今後の人生に必要なものだ。身が入らない状態で聞いてはいけない。

 デトルゥーオの案内で部屋を出たが、移動先は衣装部屋だった。

「食事の前に、そのボロボロの衣服を交換した方が良いですわ」

 デトルゥーオにそう言われて、私は己の体を見下ろした。

 現在着ている衣服は、ボロ布と言う程に酷くは無いが、全体的にこのまま着続けるのは無理と判断するしかない状態だった。デトルゥーオの気遣いに感謝し、私は衣装を物色した。ありがたい事に下着と靴まであった。

 種類が多くて悩んだが、無難に茶色の長袖のブラウスと、カーキ色のゆったりとしたパンツを選んだ。下着は無難に白色系でサイズの合うものを選んだ。地味だけど、当面の間はこれで良い。

 靴はブーツ系しかなかったので、黒いヒール付きのショートブーツを選ぶ。

 私は身長が高めなので、衣類はサイズが合うものを選ぶようにしていた。就職活動中は身長が高めに見えるのはアレかと思い、ハイヒールを避けてパンプスを履いていた。そうしないと、私の身長は百七十センチを超えてしまうのだ。

 布で仕切られた場所の中で私は着替え、これまで着ていた服の処分をデトルゥーオにお願いした。

「ユカリはスカートを穿きませんの?」

「スカート? 脚に絡まるから、あんまり好きじゃないんだよね」

「ああ、それはそうですわね。わたくしも裾が足に絡まないように膝丈にしましたし」

 着替えが終わったら、デトルゥーオの案内で屋内を徒歩で移動する。

 建物の外観は分からないが、内装は西洋風だ。

 壁に絵画は飾られていないし、花が活けられた花瓶がある訳でも無い。壁の無い通路を明るく照らす、等間隔に並んだ原理の分からない白い灯りのが西洋風だと連想させるデザインだった。

 デトルゥーオと二人で歩いていると、正面からコリフェーオがやって来た。

 ……改めて見ると、コリフェーオって凄い格好だな。

 コリフェーオはボディライン丸出しの黒いボディスーツを着ている。一応、腰にウエストポーチらしいものを付けているが、どこをどう見ても怪しい人だよね。コリフェーオは顔の下半分を隠す黒いマスクを付けているから、尚更そう感じる。

 対面からやって来た私とデトルゥーオの姿を確認したコリフェーオが近づいて来た。

「よお、説明は終わったのか?」

「ごめん。私の空腹が酷いから、一時中断して貰った」

 私は話し掛けて来たコリフェーオに一言謝った。一時中断の言葉を使い、空腹が満たされたら残りは全部聞くつもりでいると、アピールする事も忘れない。

「そうか。まぁ、サボらないのなら良いか。……いや待て。デトルゥーオは肉を焼く意外に何も出来ないよな?」

 コリフェーオは私の簡潔な説明を聞いて納得したが、すぐに怪訝そうな顔をした。

 事前に簡単な料理だけが作れるものがいると聞いていたが、まさかただ肉を焼くレベルで心配されるのか。

「失礼ですわね。お肉を焼くにしても、わたくしはアヴァレーソのように焼き過ぎて炭にした事はありませんわよ」

 そして、デトルゥーオの反論を聞いた私は『何が起きても食事は自分で作ろう』と心に強く誓った。

「ユカリ? で、良いんだよな? お前、料理が出来るの?」

「凝ったものとかは作れないけど、それなりには作れるよ」

 コリフェーオから呼び方の確認を取られたが、それで問題無いので頷き、質問に回答した。すると、コリフェーオは大喜びした。今にも小躍りしそうな勢いだ。

「本当に!? え? 何気に初の人材じゃないか? だったら……あ」

 コリフェーオの反応を見たデトルゥーオは目を眇めた。私もコリフェーオの反応が気になった。どう言えば良いのか。喜び方が、九死に一生を得た感じだ。

 私とデトルゥーオの反応に気づいたコリフェーオは目を泳がせた。デトルゥーオが睨むように目を細めてコリフェーオに問い掛ける。

「コリフェーオ。何が起きましたの?」

 ここで『どうした』ではなく、『何が起きた』と断言したので、デトルゥーオは確信を持っていそうだ。

 コリフェーオは誤魔化しが通用しないと感じたのか、空色の頭を乱雑に掻いた。

「あー、デトルゥーオは覚えているか? この前、俺が拾って来た子供の事だ。名前はグーフォって言うんだが、俺の手が離せなくて、一時的にアヴァレーソに預けた。んで、アヴァレーソが焼いた肉を食って寝込んで、やっと復活したと思ったんだが、今度は真面に飯が食えない状態なんだ」

「それ以前にアヴァレーソに男子児童を任せるとか何を考えていますの!? 今から心に深い傷を負わせるつもりですの!?」

「待て、落ち着けデトルゥーオ。今は帰って来たヨギーストに預けている。勿論、クレリーカが帰って来るまで一時的だ」

 アヴァレーソが誰か知らないが、デトルゥーオの声は悲鳴に近かった。コリフェーオの口から出た子供と言うのは、デトルゥーオが言っていた十歳の子供の事だろう。

 コリフェーオに掴み掛からん勢いのデトルゥーオを宥めて、三人で食糧庫へ移動した。


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