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アラフォー、若返って魔法少女となり、デスゲームに巻き込まれる  作者: 天原 重音


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3/4

白い怪生物と再会し、理不尽で固めた現実を知る

 そして、どれ程の時間が経過したのか。

 一人になって、襲撃は受ける。一人で返り討ちにして、マスケット銃を強化して、出口を求めて移動を繰り返す。

 肉体的な疲労は感じないが、精神的な疲れは溜まる。

 これまでは紫藤さんと交代で仮眠を取っていたが、それも満足に取れていない。

 普通なら、休息不足で様々な問題が発生するんだけど、何故か発生しない。

 思い当たる原因は、強化したマスケット銃だけど、本当にどうなっているんだろう?

 

 生物が眠るのは、『眠っている姿こそが正常で、起きている状態は異常だ』とか、どこぞの生物学者が立てた仮説を聞いた事がある。常に泳いでいないと死ぬ魚も、脳を半分ずつ眠らせて泳いでいると聞いた。

 睡眠に関する、トリビア(?)と言うか雑学を思い出した私は、変化の無い空を見上げた。

 火星だったか、どこかの惑星でも、太陽からの日の当たり方が変わると地上から見える空の色が変わると聞いた。

 ここは地球じゃないのか? 日中の地球の空が青く見えるのは、光の拡散が関係する何かの現象で青く見えるんだったか。

 雲が無いのに、空が灰色に見える。空が別の色に見えるのは、大気中の粒子の反射が関わっているんだっけ?

 白い雲が別の色に見える彩雲も、光の反射具合いだっけ? う~ん、思い出せない。


 状況に変化が見られないからか、私は現実逃避をするように、余分な事を考えるようになった。

 勿論だけど、この瓦礫の山の調査も忘れずに行っている。たまに見つける文字は、相変わらず読めない。『せめて、文字が読めれば』と何度も思った。

 現実は非情で、調査中も襲撃を受けた。

 何度襲撃を受けて返り討ちにしたかなんて、もう数えていない。そもそも、十から先は数えていないし、そんな余裕は残っていなかった。

 一人になって気の抜けない状況が続いていた。

 眠気に襲われる事が無いのがせめてもの救いだ。

 


 瓦礫の隙間に身を潜めて休息を取っている時に、その声は突然響いた。 

「凄い! 本当に最後の一人になっている! うん、これは成功だね」

 聞き覚えのある声を聞いて、私は瓦礫の隙間から出た。休んでいる場合ではない。目を皿にして声の主を探す。

 この声の主は、忘れもしない、あのキ〇ウべ〇モドキの声だ!

「どこ!? どこにいるの!?」

 声に出して、全ての始まりにして元凶たる、あの白い怪生物を探す。

 どこだ、どこだ。そう声を出しながら探していると、不意に声が降って来た。

「あはは。僕はここだよ」

 声がする方向を見れば、懐かしく感じる、白い怪生物がいた。私は反射的にマスケット銃の銃口を向ける。

「お前っ」

「魔法少女になれるよって言えば、大抵の子は興味を持った。興味を示さなかったのは君だけだ。そんな君が生き残るとは思わなかったな」

「そもそも魔法少女のジャンルが違うわっ!」

 ぼやく怪生物に対して突っ込みならぬ訂正を入れた。状況的に場違い感があるけど、このキ〇ウべ〇モドキには言わねばならない気がしたので言った。

 魔法少女とは、幼女向けのニチアサ内容で十分よ。血みどろ命懸け系を魔法少女ジャンルの一つにしないで欲しい。『〇ター〇イ〇ブ〇イ〇ー』を撃ち放つ小学生の女の子が主人公の魔法少女みたいに、登場人物が子供なだけで『内容は完全に大人向け』系を魔法少女ジャンルに入れないで欲しいわ。全話視たし、内容は良かったけどさ。

「じゃんる? 意味が分からないけど、まいっか。おめでとう。君は最後の一人になった」

「心から嬉しいと思えない、『おめでとう』ね。最後の一人になったんだから、報酬ぐらいはあるでしょ? 元いたところに戻れるとか」

 マスケット銃を下ろさないまま、私は怪生物に『最後の一人になった事で得られるものは何か』尋ねた。問答無用で巻き込まれたのだ。何かしらの報酬が無いと、やっていられない。

 私は怪生物の顔を、何の生物のデフォルメか分からない顔をじっと見つめて答えを待った。


「無いよ」


「……は?」

 怪生物の回答を聞き、私は一瞬耳を疑った。マスケット銃の銃口が少し下がってしまうぐらいに衝撃的だった。

「だから、無いよ。報酬が欲しいの? じゃあ、僕の助手になる? 君がいた世界は魔素に分解しちゃったからもう無いし」

「――」

 怪生物の口から、耳を疑う言葉が飛び出した。意味が理解出来ず、思わず絶句してしまった。

 ――君がいた世界は魔素に分解しちゃったからもう無い。

「世界が無いって、どう言う事?」

 確認の為に発した私の声は震えていた。

 ……世界が無いって、何の冗談よ。

 怪生物は、こてんと、首を九十度横に曲げた。確認の為に発した言葉の意味が分からないと、言外に言われているようで寒気がした。

「そのままの意味だよ? 世界はもう無い。君がこれまでに戦って来た生物を作る材料にしちゃったから、もう存在しないよ」

 怪生物の言葉を言い換えると、『これまでに戦って倒した生物の材料は、帰りたい場所で出来ていた』と言う事になる。

 意味が理解出来ない、否、意味を理解したくない。頭が理解を拒絶する。

「ふ」

「ふ?」

 意味を理解してしまうと、これまでの時間は、犠牲は、一体何だったのか?

「ふざ――」

 こんな理不尽が許されていいのか? 紫藤さんの死は何だったのか?

「――けるなっ!!」

 心の底から湧いて来た怒りに任せて、私はマスケット銃の引き金を引いた。

 狙いは過たずに、怪生物の腹に直撃して大穴を開けた。

 


「おかしい。ここに招いた人間には『いっしょく分』の力しか出せないように設定したのに……」

 胴体に大穴が空いたのに、怪生物は苦しむ様子を見せずに不思議そうな声を上げた。

 こいつが言った『いっしょく分』――多分、『一色』か?――の意味は分からない。

「私の名前はね、『紫と書いて、ゆかり』って読むんだよ!」

 そう。私の名前の読みは名字もそうだが、珍しい読み方をする。

 これまでの人生で何度も『くろはむらさき』と間違えられた。渾名も、酷いものだと『くろはし』だった。中学時代はこの酷い渾名で虐めも発生した。当時の教師は『ただの渾名だから、広い心を持って』とか抜かしたけど、『くろはしね(黒羽紫氏ね)の、死ねが強調されているのに広い心を持たなくてはいけないんですか? 先生は死ね死ね言われても怒らないんですね』と言いせまった。

 担任の態度を見て、心底不快そうな顔をした学年主任が、この渾名呼びをしている生徒を厳重に注意してくれたけど、中学を卒業するまで隙あらば言われた。この渾名呼びをした生徒は、全員高校推薦入試で落ちた。


 何故、紫と書いてゆかりと読むのか。

 両親に問い詰めたら、私が生まれた日の朝に『紫色の藤の花が綺麗に咲いていて、花の色が印象的だったから』だ。


 怪生物は自分の叫びを聞き、仰け反って上を見た。

「そっか。僕は人選を間違えていたのか。困ったなぁ。こんな事で失敗するなんて」

 上を見ていた怪生物は顔を正面に戻した。

「君に一つ教えよう。僕を殺すと、君は僕の力を継承してしまう。それでも僕を殺すのかな?」

「意味が分からないわね。……でも、能力を継承するって事は、キ〇ウべ〇みたいなアンタは確実に死ぬんでしょ? それなら、()らない理由が無い」

「……本当に、キ〇ウべ〇って何? 僕の名前はチィエラルコなんだけど」

「今初めて聞いたわ。んじゃ、さよなら。あんたのせいで、沢山の人が死んだのよ!!」

 小首を傾げたキ〇ウべ〇モドキもと言い、怪生物に向かって、私はマスケット銃を、気が済むまで乱射した。



「ぜぇ、ぜぇ……」

 怪生物は全身穴だらけで蜂の巣のような状態になって斃れた。そのままピクリとも動かない。

 全身穴だらけになっても生きている生物なんていない。いたら吃驚する。プラナリアだったっけ? 単細胞分裂みたいに分裂して、そこから増えるような生物はいたかもしれないが、こいつには当て嵌まらないだろう。

 深呼吸を何度も繰り返して、私は呼吸を整え、得た情報を整理する。

 信じがたい情報だが、心を落ち着かせて、冷静に考えなくてはならない。

 

 ――帰る世界は既に存在しない。


 ここまで頑張って来たのに、帰る場所は無いと言われた。何の為に頑張って来たのか。真実かどうかなんて分からないから、嘘だと心の中で叫ぶも、答えは無い。

 ――この瓦礫の山の先を目指してみよう。

 答えを求めて、ふと、そんな事を思った。

 真実が知りたいと強く願ったせいか。『これからどうしよう』とか思うよりも先に、そんな事を思った。

 そうだ。相手の言葉鵜呑みにするよりも、調べた方が良い。

 瓦礫の向こうを見つめ、一歩、歩き出す。

 どれ程長い道であっても、一歩、踏み出さなくてはならない。


 ※※※※※※


 黒羽紫がいずこかへ歩き出したあと。


「いやぁ~、死ぬかと思った! 何事も備えるって大事だね!」


 自らをチィエラルコと名乗ったそれは、何事も無かったかのようにむくりと起き上がった。起き上がった瞬間、穴だらけだったチィエラルコの白い体は元通りになっていた。

 体の修復を終えたチィエラルコは、黒羽紫が去った方角を見る。

「しかし、こうなるとは予想外だよ。アレは貴重だ。標本として捕獲しなきゃだ! ――ふぎゃっ!?」

 チィエラルコが興奮気味に叫んだ直後、背後から何かに踏み付けられた。じたばたと藻掻いても、逃れる事は出来ない。無様に藻掻くチィエラルコの頭上から、今度は声が降って来た。

「へぇ~、随分と興奮していたみたいだけど、何を標本として捕獲するんだ?」

「その声!? コリフェーオかっ!」

「正解だ、ヘンテコ生物もといい、チィエラルコ」

 声の主を誰か看破したチィエラルコは、藻掻きながら全身に冷や汗をかき始めた。真面目に命の危機である。

「ま、待ってくれ! 僕の実験は、派閥全体にとって有益だよ! 減りはするけど増えない審判者の数を増やせる――」

「それ? その方法は既に確立されているよ」

「――なんだってっ!?」

 チィエラルコの叫びに被せるように、コリフェーオは言葉を遮った。コリフェーオの言葉を聞いたチィエラルコは動きを止めて、『そんな筈は無い』と心に従って叫んだ。

「そうそう、我らの緑の中の緑から伝言だ。『お前の実験は無意味だ。物体の魔素分解変換技術以外にも、数多の禁忌を持ち出したお前を処断する』だってさ」

「無意味? 僕の実験が無意味? そんな筈は無い! 審判者を増やす方法が確立されているのなら、どうして減り続ける一方なんだ!?」

「そりゃあ、増やす為の行動を取っていないからだろう? 俺も確認で聞いたら、緑の中の緑は『確実に審判者を生み出す事は出来るが、一手間を加える必要がある。この一手間が恐ろしく面倒だから滅多な事ではやらない』、だってさ」

「そ、そんな」

「この方法は他の派閥も知っている。緑の中の緑が言うには、派閥の代表に口伝で伝えられる情報の一つらしい」

「……」

 コリフェーオに踏まれたままのチィエラルコは無言になった。チィエラルコは頭の中で必死に状況の打開策を考えるも、戦闘を不得手とする身でコリフェーオに勝つ方法は無い。

 そもそも、コリフェーオは他の派閥から猟犬と畏怖される、処刑人(エクゼクティスト)を実力で纏め上げる人物だ。

 チィエラルコが所属する緑のヴェーダで、コリフェーオと正面から戦って、勝利を掴める人物が少ない。派閥の代表でもある緑の中の緑か、それに近しいものであっても、コリフェーオを戦う際には『搦手が必要』と発言したと聞いた。

 そんな強者であっても搦手を必要とする相手に、戦闘を不得手とするものが挑んだらどうなるか。火を見るよりも明らかだ。

 命乞いは不可能。現状の打開策は存在しない。つまり、どうしようもない。

「死ぬ覚悟は出来たか? じゃあな」

「っ! ま――ぎゃっ!?」

 首の付け根から上をコリフェーオに踏み潰されて、チィエラルコは今度こそ呆気なく死んだ。



「ふぅ、やれやれ。規則が守れないのなら、初めから他所の派閥に行けっつーの。ウチが情報の宝庫なのがいけないのかねぇ」

 仕事を終えたコリフェーオは、空色の頭を乱雑に掻いた。そして、コリフェーオは自ら踏みつぶしたチィエラルコの残骸を掴んだ。残骸を顔の高さにまで持ち上げたコリフェーオは確認を行う。

「継承は行われていないな。んじゃ、追い掛けて交渉するか」

 確認を終えたコリフェーオは、同胞を粛正したあととは思えないほどに、気楽な声を上げて移動を始めた。

 

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