魔法少女? デスゲーム? どちらも違います。理不尽な殺し合いです。
何度思い返しても理不尽な一件だ。あのキ〇ウべ〇モドキは何がしたいんだか。
マスケット銃を両手で抱きしめて、流水が私の体の汚れを洗い流す様子を強くイメージした。それだけで、どこからともなく水が出現して、体が綺麗に清められて行った。度重なる戦闘でボロボロになったスーツの汚れも落ちた。スーツのジャケットはとうの昔にボロボロになったので捨てた。今はブラウスとスカートだけだ。ストッキングもボロボロだけど、寒さ対策でニーソックスを履いていたので、伝線しているようには見えない。
……あのヘンテコ生物。魔法少女なら専用の衣装とか寄越しなさいよ。何で着の身着のままで、デスゲームに巻き込まれなくてはいけないのよ。
体の洗浄が終わったら、今度は背後を確認する。
ドラゴンモドキは絶命したまま地面に横たわっていたが、白い粒子が立ち昇り始めると十秒も経たない内にその姿は消えてしまい、コロンと丸い形をした黒色の石を残した。
ドラゴンモドキが残した石をマスケット銃で叩いた。すると、石は簡単に割れて粉々になり、マスケット銃に吸い込まれて行った。原理は分からないが、ファンタジー系の作品でお馴染みの生物を斃すと、これと同じ石を残して消える。
この石を手持ちの武器で破壊すると、武器が強化され、私の力も強化される。誰かと一緒に石を叩いても割れないので、何がどうなっているのか、誰にもさっぱり分からない。
「黒羽さーん!」
マスケット銃の強化を終えると、名前を呼ばれた。
振り返ると、私と同じようにこのデスゲームに巻き込まれた、正真正銘十代半ばの少女がセミロングの髪を揺らして走って来た。
彼女の名前は紫藤葉月で、現役の高校一年生だ。
紫藤さんは地元の高校入学してから半年後、席替えでたまたま隣席になった男子生徒と少し喋っただけで、クラスの複数の女子から虐められるようになり不登校になった子だ。
私が瓦礫の山と灰色の空しかないこの世界で情報を求めて彷徨っていた時に、偶然見つけた女の子だ。
彼女を発見した時は号泣していた。その正面では、別の女の子が二足歩行する蜥蜴に似た生物に頭から捕食されていた。急いで蜥蜴の頭を撃ち抜いて斃したよ。私に気づく前に斃せて良かった。
女の子に声を掛けたら泣き付かれて困った。宥めながら女の子の名前を聞き、何が起きたのか教えて貰った。
捕食されていた人物は、紫藤さんを虐めていた女子だった。
けれど、聞いていた話が進むと、紫藤さん以外の六人女の子(目の前で捕食されていた子含む)もこの蜥蜴に殺されてしまったらしい。どうやら私と違い、他の子(しかも紫藤さんを虐めていた女子全員)と一緒にこの世界に送り込まれたそうだ。
スクールカーストの影響で、紫藤さんは早々に囮役にされてしまった。だが、他の六人は化粧などをしていたせいで優先的に狙われた。そして、六人目が捕食されている時に、私が蜥蜴を仕留めて、今に至る。
鼻を啜る紫藤さんの背中を擦りながら、この世界に来た経緯を聞いて、私は今後について考える。
結果的に漁夫の利を得る形になったが、味方が得られた。この手のデスゲームは、味方がいないと気が休まらない。
なお、紫藤さんがキ〇ウべ〇モドキから貰った餞別の品は、長さ三十センチ程度の杖だった。
紫藤さんと合流するなり、私達は移動を開始した。
移動中に、さっき斃したドラゴンモドキの同種別個体を始めとした、訳の分からない巨大な生物に何度も襲われる。でも、足は止めない。止める訳にはいかない。不思議な事に、どれだけ休まずに活動しても、空腹と肉体疲労を感じないのだ。
現在、紫藤さんと二人で一面に広がる瓦礫の山を調べている途中なのだ。
調査結果、どこかの破壊された街である事は判った。けれど、残されていた文字はしているどの文字とも似つかない、全く知らない文字だった。
ここがどこなのかだけは分からない。
それでも、ここで足を止める訳にはいかない。
私の半分の年齢しか生きていない紫藤さんは、ずっと恐怖で震えている。でも、恐怖で泣いても震えても、家に帰る為に紫藤さんは震えつつも頑張っている。
年上の私が泣き言を言っている場合ではない。
どれだけ動いても疲労を感じない事を利用して、私と紫藤さんはずっと行動している。
ここに来た時に使われた入り口がある。ならば、どこかに出口がある筈だ。その出口を探す。入り口が出口の可能性も有るけど、とにかく、どこかへ繋がる場所を探す。うろ覚えだが、何かのゲームで『入り口があるのならば、出口が無ければ、循環出来ずに淀む』とか、そんな感じの事を言っているシーンがあった。
彷徨うように探索を続けて、ただひたすら歩き、出口もしくは、入り口を探す。
時折、巨大な生物に襲われるが、紫藤さんの支援を得て、どうにか撃退する。三度ほど、紫藤さんの強化も行った。私の強化が優先されているけど、紫藤さんが強化されると戦いやすいので、今後、機会があれば強くなって欲しい。
互いに不測の事態に警戒しながら、行動し、戦闘を行ったが、その時がやって来てしまった。
紫藤さんが遂に斃れてしまった。
ただ死ぬのではなく、敵と一緒に自爆した。
その自爆の仕方は、何時かのドラゴンに似た生物の口の中だ。
足元を砕いて土中から出現したドラゴンの口の中に落ちた紫藤さんに向かって、私は手を伸ばしたが、寸前のところで口が閉じてしまった。
強化されたマスケット銃の一撃で、ドラゴンの牙は砕けた。『隙間から脱出して!』と叫んだが、ドラゴンが上を向き、喉が動いた。
ドラゴンの喉が動いた事から、紫藤さんが呑み込まれた事を理解した。
その直後、ドラゴンの胸の辺りが異様に膨らみ――破裂した。
胸の辺りを破裂させたドラゴンは、血肉の雨を降らせて、ゆっくりと後ろへ倒れた。ドラゴンが後ろへ倒れた事で、地響きと地揺れが発生した。
私はドラゴンの血を浴び、頭上から降って来るドラゴンの肉塊を回避しながら、紫藤さんの名前を叫んだ。
紫藤さんからの返事は無い。その事実が、嫌な未来を想像させた。
倒れたドラゴンに駆け寄ってよじ登り、破裂した胸の辺りを覗き込んだ。
「っ!? 紫藤さん!!」
ドラゴンの胸の中――内臓がぐちゃぐちゃになった体内で、血塗れの紫藤さんを見つけた。
右腕は肩から先が残っていなかった。左腕は肩を残して無くなっていた。両足は融けて無くなっていた。顔も右半分が融けている。唯一無事だった左肩を掴み、魔法を使って引き上げた。そのまま地上へ運ぶ。
「紫藤さん、返事をして!」
私は息絶え絶えの紫藤さんの頬を軽く叩いて呼び掛けた。
紫藤さんの姿は、重傷どころか、助かる未来すら見えない程に酷い。
「……あ、く、ろば、ねさん」
「待ってて、今――」
微かに首を振った紫藤さんは大きく息を吸い言葉を紡ぐ。
「黒羽さん。泣き虫な私を見捨てないでくれてありがとう。一人にしてごめんなさい」
「紫藤さん……」
一息に言葉を紡いだ紫藤さんは、無理矢理笑顔を作った。
その言葉を聞いて、その笑顔を見て、私は理解してしまった。
紫藤さんはもう助からないのと同時に、何かが起きたら『自爆する』事を決めていたのだ。
「生きて、帰って、下さい」
紫藤さんはその言葉を最期に、これまでに倒した敵のように白い粒子になって消滅した。紫藤さんを引き上げた際に服に付着した血痕だけが、彼女がここにいた証拠だった。
ドラゴンが残した黒い石をマスケット銃で叩き割った。粉々になった黒い石はマスケット銃に吸い込まれて行く。
強化は終わった。これからは単独行動で行くしかない。
この場から移動する前に、私の自己満足だけど紫藤さんのお墓を作った。
紫藤さんのお墓に手を合わせてから、私は移動を始めた。




