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アラフォー、若返って魔法少女となり、デスゲームに巻き込まれる  作者: 天原 重音


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プロローグ~白い怪生物との出会い~

 空中を落下しながら、私こと、黒羽紫(くろばねゆかり)は眼前に迫る、ドラゴンにも似た巨大な生物の口腔内を見た。私が手にしているのは、マスケット銃だ。

 記憶が確かなら、マスケット銃は『単発式』だ。マスケット銃は一発撃ったら、棍棒のように打撃武器として使う。

 けれど、手にしているマスケット銃は何発でも撃てる。

 私は口腔内に向かって、マスケット銃を何度も発砲した。けれども、巨大な生物に効果は無い。

 ……こんなところで、マミられてたまるかっ!!

 私は必死に思考を回した。このままでは、頭からガブッとやられてしまう。

 考えても妙案は出てこないが、パンプスの爪先が牙に当たった。

 もうこれしかないと、疲れ切った体に鞭打ち、魔法で足場を作ってから、私は口腔内に飛び込んだ。若返った体じゃないと出来ない動きだ。口腔内は生臭いけど、仕方が無い。口を閉じた際に噛み砕かれないよう慎重に、牙の裏側に立ち、上あごの中央に向かって、マスケット銃を何度も発砲した。

 銃弾は肉を穿ち、赤黒い血をまき散らすも、貫通する気配は無い。生物は痛みを感じないのか無反応だ。

 それでも、何度も同じところに向かって連続で発砲した。

 背後で口が閉じた。外から声が聞こえる。でも、私はここで死にたくないから発砲を続ける。

 私は頭から返り血を浴びた。どこかの太い血管を撃ち抜いたのかな?

 血を浴び、生臭い空気の中で、私は何度もマスケット銃による射撃を行った。

 諦めずに何度も射撃を行い――遂に、肉を貫通し、骨を貫通した。

 頭部を撃ち抜かれた事で、生物は雄叫びすら上げずに絶命した。


 

 それから、私はマスケット銃で牙を砕いて、やっとの思いで生物の口腔内から這い出て、新鮮な空気を吸った。空気は新鮮だが、周辺は瓦礫の山だ。日本にこんな場所は無い。本当にここはどこなんだろう。

 深呼吸を終えると同時に過去を思い出した。

 あのへんな生物との会いを。



 私があのヘンテコな生物と出会ったのは、職場の契約社員としての契約期間最終日の帰宅途中だ。

 電車とバスを乗り継ぎ、バス停から実家に帰る道中、私は無人の小さな公園に立ち寄った。

 二十年前の高校生時代、クラスの担任教師は『学歴は初任給に違いが出るだけだから、高二のお前が気にしても意味は無いぞ』とか、寝言をほざいていた。だが、社会に出て仕事を探すと『学歴は問わない』求人は少なかった。

 バイトを頑張って、専門学校に進学して卒業したけど、時は就職氷河期世代だったので、求人は少なかった。

 ……新卒で入って、合わなくて辞めると、そこから先は転がり落ちる人生を歩む事になる、新卒制度って本当に嫌だなぁ。

 新卒で入った会社は微妙に排他的だった。母親おススメの会社だったんだけどね。

 会社がある市内の人間以外を受け継ない会社で、私の前に辞めた人は通勤時間を理由に辞めた。けど、三年以上勤めても市外の人間に対して、反応がどことなく冷たかった。

 自分も辞めたよ。食堂の窓際や会社の出入り口が喫煙場で、受動喫煙による喘息を引き起こしたり、ストレスで変な神経性の病気(数分以上ペンや箸などが持てなくなり、十分以上も手が痺れ続けて、日常生活に支障を来す)を発症し、二年しか勤務していないのに十年以上いるお局気取りの人とかがいて、この人と合わなくて辞めた。

 挨拶は社会人の基本だから、私は誰に対してもしていたが、この人は最終的に私だけ無視した。

 そう言えば、何であのおばさんの機嫌を損ねたんだっけ? おばさんの子供の話で、子供年齢が思春期だったから……そうだ、反抗期の事を口にしたらあからさまにむすっとした。

 おばさんは仕事中に『長男がバイク趣味に目覚めた』と自慢話をしていた。バイク趣味って、不良とは反抗期とかのイメージがあったから、話を振られた時に口にしたんだっけ。

 

 辞めた職場の事だ。あのおばさんの事はもう忘れよう。


 喘息は治ったけど、神経性の病気は治らず、紹介状を貰い大学病院にまで通院した。病名は判明したけど、原因は分からず、治療方法も無い。ある程度治まり、別の会社にパートとして再就職したけど、再発して辞めた。

 再び別の病院を探して通院し、リハビリと求職活動の日々を送り、やっと正社員で就職出来た。でも、母親おススメの会社は呪われているのか、ここも合わなかった。

 でも、四年近くもここで仕事をしてから辞めたけど、今度はストレス性の蕁麻疹(原因不明で毎日薬を飲んでいる)と婦人科系の病気(こっちは最終的に一泊入院の手術までした)を発症した。

 派遣社員になって通院費を稼いでいたが、これからどうしようか。

 ……次の通院予約日まではニートでいるしかないかな。

 私は無人の公園のブランコに腰掛けた。膝に鞄を乗せた私は暗い空を見上げた。

 十年以上も会っていない高校の友達は『社会人の資本は体なんだよ。日常生活に支障が出るような病気を発症したのなら、そんな会社は辞めて正解だよ』と言ってくれた。

 けれど、症状が治まったから次の仕事を始めて、また発症して退職を繰り返して、仕事を探すのが付かれるようになった。

 ハローワークへ通い、幾つものネットの求人サイトを見て回り、求人誌をと求めて複合商業施設に行く。何の行脚かな?

 ……仕事を探す気力が尽きた。働いても体を壊すだけだし、何をやっても上手く行かない日々だ。

 ここでラノベのような出来事が起きたらと、一瞬思った。けど、三十七歳でアラフォー間近の私には無理だ。若返っても、私では精神的に無理だ。

 冷たい風が吹いて来たので、そろそろ帰ろうと、目を閉じて軽く息を吐いてから鞄を手に取った。

 無人の公園に声が響いたのは、この直後だった。


「やぁ、この辺りにいる現実に飽きた子は君かな?」


 無人の公園に響いた変な言葉を聞き、私は慌てて音源を探した。

 見栄っ張りな母は、私が公園でのんびりとしていると、『ご近所さんの噂の種になる!』と怒るのだ。事実、近所には根も葉もない事を吹聴して回る迷惑な婆さんがいる。変な宗教団体に入っているのか、この婆さんが一人で暮らす家は、一日中、シャッターが下ろされた状態なのだ。シャッターが下りているのに、家の周辺の異変を感じ取るとわざわざ外にまで確認に出向く。

 私も、この婆さんがやって来たのかと思った。けれど、この心配は杞憂に終わった。

 その代わり(?)に、自分の正面の地面には、全身が真っ白で、兎のように長い耳をピンと立てた、犬の『お座り』と同じ姿勢をした、何かの動物のデフォルメ顔の生物がいた。苺のように赤いつぶらな瞳が自分を捉えていた。

 ……何だろう。外見がとある魔法少女アニメのキ〇ウべ〇に似ている。

 場違いな感想を抱きつつも、これは放たれた言葉を信じてはいけないと、判断する。

 それ以前に、『現実に飽きた子』って、私の事か?

 反応に困り『誰?』と言葉を口にしたら、白い謎の生物は大仰に頷いた。

「僕の言葉が聞こえているんだね? うん、契約成功だ」

「……は?」

「君には魔法少女になって貰う。とある場所で、最後の一人になるまで戦って生き残る。それだけしてくれれば良い。魔法は強く思い描けば勝手に発動するから、呪文とかの心配は要らないよ」

「待って! 契約!? 承諾していないわよ! それ以前に、私は少女なんて歳じゃない!」

「体が勝手に適した状態になるから心配は要らないかな? 服はそのままだけど」

 白い生物は瞬き一つせずに淡々と回答した。こいつの言葉が正しいのなら、若返るって事になる。

 でも、それよりもね。

「最後の一人になるまで戦って生き残るって、それデスゲームじゃない!? 何を言い出すのよ、キ〇ウべ〇モドキ!」

 この白い生物の言葉、『最後の一人になるまで~』を考えると、デスゲームだ。何故そんなものに参加せねばならんのだ?

「……キ〇ウべ〇が何かは知らないけど、僕は言葉を交わした相手と自動で契約してしまう、そんな生物として作られた。契約を解除するには、君が死ぬか、最後の一人になるしかない」

「何その理不尽っ!?」

 自分の絶叫を無視したキ〇ウべ〇モドキは、前触れ無く、首を左に九十度曲げた。

「そろそろ時間だ。頑張ってね。あ、これは餞別だよ」

 そう言うなり、キ〇ウべ〇モドキの姿は宙に掻き消えた。

 消えたキ〇ウべ〇モドキの代わりに私の正面に出現したのは……マスケット銃だった。私の身長は百六十六センチと女性としては少し高めだが、このマスケット銃は私の身長並みの長さがあるぞ。

「ふ、不吉ーっ!!」

 頭を抱えて絶叫したと同時に、視界は真っ白に染まった。

 そして、右も左も分からない瓦礫と灰色の空しかない世界に、私は十代半ばにまで若返った状態で送り込まれてしまった。


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