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第9話 卒業式

「卒業おめでとう!」


市香は学校の大講堂から出たところで、青空を見上げた。

あの後、市香は宏志の別荘とかいう家に家出した。

学校の林田に呼び出された亜弥子は林田と面談をしたらしい。

市香の成績ではどこも合格する可能性はなく、本人の強い希望で宏志の実家で住み込みの仕事を斡旋あっせんすることにした、と。

亜弥子は泣く泣く了承りょうしょうしたという。


「市香!」


下級生に見送られた先に保護者の列があった。

その奥にいる亜弥子に呼ばれた。


「大丈夫か?」

「ん、多分」


すぐ隣に来ていた宏志が心配して声をかけてくれる。

亜弥子に近づいた市香は、一定の距離を置いて、足をとめた。


「私は卒業する」

「い、市香…嘘でしょう…」

「お母さんから、卒業するから」

「あなたは…」


卒業式というめでたい場所だというのに、亜弥子の周りには多くの形を保てない黒い影がうごめいていた。

以前は一つのかたまりに見えていたが、今は分かる。

一つ一つの生き霊が何らかの意志を持って亜弥子についていた。

胸元には宏志がくれた護符があるから、以前よりも怖くない。


「私は、自分が生きたい道を行くから」

「市香!」

「不二崎さんのお母さん」


母から逃げたくて、振り返ろうとしたところで、宏志が背中を支えてくれる。

この数日で気付いたことだが、宏志の傍にいると空気がきれいな気がする。

詰まりそうな息も、すっとよくなった。


「ご心配なく。彼女は私のところで一人前に育て上げますから」

「あなたが…同じ職場にいく同級生?」

「ええ。彼女の面倒は、私が責任を持ってみますから。ですから、それまでに子離れお願いします」


ぐっ、と市香の肩をつかむ宏志の手に力が入る。

それが「大丈夫だ」と言ってくれていて、気がついたら息を止めていたことを思い出した。


「お母さん。私は一人前になって、また戻ってくるから」

「市香…」

「大丈夫だよ」


精一杯の笑顔を作って、市香は母親に見せた。


「私は自信を持ってこの道に進むから」


そう言い切ると、宏志と共に、教室へと戻った。

明日から、大学の準備がはじまる。


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