第7話 陰陽師のこと
「おーい。大丈夫か、不二崎」
「うーん…」
次の日。
学校の非常階段に市香と宏志はいた。
市香は腫れた目をうつむいて隠している。
「だめだった…」
「何をしようとしたんだ」
「五行大学のことをお母さんに言った」
「ふぅん。で?」
「うーん、て感じ」
「そうだろな」
昨夜、満を持して母に言ってみたものの、絶望が深まっただけだった。
「だまされてるんじゃないの、とか、疲れているのよ、とか」
「まぁ、俺達は昔そういうのがあったから、あまり知られてないんだよな」
宏志は前と同じように結界を張ってくれているらしく、人は来ないという。
「俺が思うに、不二崎の力ならこっちの世界で生きていけると思うけど」
「具体的に教えてほしいんだけど」
いろいろ調べた結局、市香は新しい志望校は見つけることはできなかった。
一番可能性があるところに志願書は出したものの、過去問をする気分にはなれなかった。
あの本番の会場を思い出すと、焦燥感がせり上がってくる。
それよりも、五行大学についてのほうが興味があった。
「陰陽師とかって、どう働いてるの?」
市香としては、奨学金が気になっていた。
奨学金の条件は規定の期間働くこと。
「俺達は物の怪が出る場所を聞いて行って祓う。実際は、陰陽師班と結界班とか、いろいろ分かれてるし、不二崎がどの力に適してるかは…まだわからないけど」
「でも絶対強い」と豪語してくれる。
「この現代日本で、ってなると難しいけど、別次元でなら生きていけるようになる」
『別次元』
多分、五行大学や宏志の生きる世界はここから遠いところにあるんだろうと思う。
五行大学に進むなら、その世界に入ること。
「…」
「誘っててなんだけど」
宏志が申し訳なさそうに口を開いた。
「俺は一緒にこっちのにくればいいと思ってる。けど、君がそれを望まないなら、強制すべきじゃないなと」
市香はまたうつむいて床を見た。
市香にとって、絶望から選択肢が現れただけでも救われた気がしていたのだ。
「私、気付いたんだけど」
市香はどくどくと心臓が大きく動くのが分かった。
鼓動で思考が邪魔される。
これを口に出してもいいのか、はばかれる。
ただ、一度外に出しておきたい。
「昨日お母さんと話してて、なんか、もうわかってもらえないんだな、って思っちゃって」
「まぁ、みえる人とみえない人の間は埋まらないっていうな」
「私のことをわかってもらえないのに、私が分かる必要ないかな、って思っちゃった…なんか、諦めみたいな…」
自分を理解してくれない母が望む大学にいくことに何の価値があるのか。
「で、これから私が何したいかって考えたら、もし私の力が使えて、それでお母さんについてるものを楽にできる方がやりたいことに近いと思って」
宏志の言葉が思い出された。
「前にいわれた、何のために大学にいくんだ?って、ちょっと考えたけど、この力を使えるようになりたい、っかなって。使えるようになってから次を考えたい」
思ったよりも簡単に口に出せたが、思っていたよりも心にずしりとよりかかる。
でも、これまでの中で自分が一番納得していた。
「そっかぁ」
受け止めてくれる宏志の声色は少しだけうれしそうな気持ちが含まれていた。
「俺は嬉しいけどな」
素直にそう言ってくれるので、ふわりと心が暖かくなる。
多分、市香の力が目的なんだろうけれど、その力を認めてくれる存在があることが今は嬉しい。
「おうおう、青春してるねぇ」
二人の空気が和やかになったところで、新しい声がその空気を壊した。




