第6話 気付いた
「た、ただいま…」
今日は学校からまっすぐ自宅に帰る。
母はまだ帰ってきてないようだ。
あの話し合いをしてから、まともに会話をしていない。
亜弥子もどう市香に話したらいいかわからないんだと思う。
市香もわからないんだから。
ちらりと見た居間の机には求人のチラシが抜き出されておかれていた。
所々丸がつけられていた。
それをみて、また胸が苦しくなり、市香は自分の部屋に飛び込んだ。
「はぁ…」
親離れ、なんて宏志に言われたが、しっくりこなかった。
それより、この母親を置いていくのか、と非情な自分に拒否感がある。
育ててくれた母親なのに、その期待に応えなかった自分。
今、その母親をさらに悲しませるかもしれない自分。
だんだん息が苦しくなる。
「ただいま」
背中で扉が開く音と母親の声。
そしてまた一つ大きく空気が重くなって、嫌な気配が玄関からする。
「あ…」
気付いてしまった。思い出してしまった。
母親の周りには常に黒い影があったこと。
それを言ったら酷く怒られたこと。
母親は、いつも多くの生き霊や妖怪を連れて帰ってきていたが、それをどうしようもできなかった自分。
しかし今は違う。
市香の手が昼間に渡された冊子に行った。
『この大学に入ることができれば、あなたに見える、妖怪や怪異への対処法とあなたの力の使い方を学ぶことができます』
親離れとは、自立した結果。
母親を否定するわけではない。でも肯定してもいけない。
自分の“みえる”力を認め、自分の力を自覚する。
市香は自分の意志で選択すべき時が今かもしれない。
こぶしを握りしめた。
「お母さん」
覚悟を決めて、自室の扉をあけ、帰ってきた亜弥子に呼びかけた。
「話があるの」




