第5話 なんのために
差し出された冊子を受け取る。
表紙には『大学入学案内』と記載されている。
「五行大学…」
「そ」
先ほどまで淡々と話をしていた宏志の声色が少しぶっきらぼうに感じた。
「俺達の大学。陰陽師とかそういう人たちを養成するための学校だ。“みえる”だけが入学条件だから、こっちで”みえる”人に会ったら渡すように言われてる」
表紙には重厚でレトロな建物が印刷されている。
ぺらり、とめくると、大学長の挨拶が書かれていた。
大学長の名字に見覚えがある。
「阿辺…」
「この大学は代々俺の一族が運営してる。入学者のほとんどは家業を継ぐ人達だけど、こうやって“みえる”一般人も入ってくる。成績は関係ない」
「『成績は関係ない』…」
今までその言葉を魅力的と感じたことがあっただろうか。
追い詰められていた心が安心を求めて温かくなる気がした。
さらなる情報を求めて冊子をなめるように見ていく。
全寮制。
制服は袴で、支給されるらしい。
そして、なにより一次試験の得点基準は書かれていない。
「入学の最初は戸惑うと思う。でも、不二崎のその力を使ったり、制御したり、できることが増えると思うんだよなぁ」
宏志が隣でそんなことを話すが、あまり市香の頭には入ってこない。
「なにより、その力を持っていてもったいない!」
「学費…」
冊子をなぞっていた市香の指があるところで止まる。
学費は学部によって異なるようだが、どの金額も高そうだった。
「ん、まぁ、な」
しかし、その下に書かれた言葉を市香は指で強く押さえた。
「あ!奨学金ある!」
「ああ」
『一定の条件の下、契約された方が奨学金の対象となります』。
その条件というものについてどこに記載されているのか、とペラペラとめくる。
「その奨学金、不二崎は対象になる」
「対象になるの⁈」
「条件ってのはここに書いてる」
宏志が該当するページを開くと穴が空くほどに見ていく。
「『卒業後…一定期間、任務にあたること』」
「大体、一般から入学してくる人はこの奨学金を使う人が多い」
「そうなんだ…」
学費、成績をクリアし、今にも入学が決めることができる大学。
窮地に追い込まれている市香には魅力的に見えすぎた。
しかし、まだもやがかかっている。
「でも…お母さんはこの力のことをよく思ってないから…」
「まぁた母親か」
はぁ、と深いため息をつかれる。
「余計な世話かもしれんが、親離れしてもいんじゃね?自分の人生だろ?」
「親離れ…」
考えたこともなかった。
市香が幼い頃に父親がいなくなって、母親と二人で生活したことしか覚えていない。
そんな母親から離れる。
「そ。無責任なこと言ってるかもしんないけど、不二崎にはまだいろんな選択肢があるとおもう。この大学にいけ、ってわけじゃないけど、俺としては不二崎がこっちの道を考えないのはもったいない」
「そう、なんだ…」
自分の力がわかっているわけじゃない。
しかし、宏志の言葉はなぜかすとん、と市香の腑に落ちる。
「大学受験はしないけど、俺も来年度はこの大学に入る予定だ。考えてみても、いいんじゃないか?」




