ミュートのリズム
初投稿です。一話完結の短編です。よろしくお願いします。
昼休みの教室はにぎやかだ。
笑い声、椅子の音、誰かの名前。
それらが渦になって、空気を揺らす。
私は窓側の席で弁当を開く。
箸を進める速さを、少しだけ遅くする。
卵焼きが甘い。
思わず、口元がゆるむ。
背中のほうで声が弾む。
「誘ってあげるー?」
「えー」
名前は出ない。善意と、少しの茶化し。
わたしは、思わず右側に顔を傾け、耳に手を当てる。
微かに揺れる声をかわすように。
しっかり味わった卵焼きを飲み込む。
窓の外を見ると、空には羊雲が出ていた。
羊が一匹、羊が二匹…羊がたくさん。
眺めていると、ちょっとだけ気分がほぐれてくる。
外はきっと、気持ちいいのだろう。
放課後、制服のまま駅へ向かう。
歩く速さは、気分のまま。
イヤホンは左側だけ。好きなところだけリピートして聴く。
「雨はいつかやむさ」――この一節が、何度も頭の中で回る。
駅前のコンビニに入った。
選ぶ飲み物は、いつものやつ。
お気に入りは、つい繰り返してしまう。
帰宅したわたしは、自分の部屋で深く息を吐き、右耳の耳栓をそっと外した。
耳を澄ます。
トントン、トントン……
規則正しい音。
イヤホンでリピートしていたメロディと、完全に重なる拍子。
壁の向こうは、外壁のはずなのに。
耳に残る曲と、壁のリズムを重ねる。
わたしは、毎日この曲を聴き続けてきた。
この音をミュートするために。
この音が止まらない限り、明日も、明後日も、同じ曲を聴き続けなければならない。
お気に入りの曲として。




