32/32
息止める幻
日差しが春のように明るい午後
どこからか
縦笛の旋律が聞こえてきて
耳を澄ます
練習でもしているのだろうか
インコの住処だったサンルームには
レモンと柑橘の植木鉢がふたつ
木の周りには雑草があふれんばかりだ
カタバミとオニノゲシとシンバラリア
水栽培で根が出た小さなドラセナと
ヘタから育った人参の葉
すべての緑が生を謳歌している
ふと屋外のガジュマルの枝を眺める
あの高さの辺りでお昼寝していたな
インコの幻に一瞬息を止める
少しだけ呼吸を忘れたあと
息を吹き返して緑に慰められる
その頻度は段々間遠になってきた
そうしてインコのいない世界になじんでゆく
悲しみは息を止めるものなのだ
だから苦しいのだろう
息を止めずに思い出すことができるまで
ゆっくりと
いつものように
日々は流れてゆく




