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【完結】伯爵様は帝国から抜け出したい  作者: ともはっと
終章

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59/71

伯爵狙いの第二王子は、失う



「お前。父上に、毒を盛っただろ」

「ど、毒!? 私が!?」

「お前以外誰がいる。お前が父上に提供していた薬。あれは神経毒の類だったぞ」


 私が、毒を? 父上に毒を?

 そんなことをするわけがない。あれは、痺れは少しあるが、それでも薬だと聞いている。モロニック王国から更に南部のほうにある国で作られた漢方という品だと。その痺れこそ回復の兆しであると。


「あれは、薬と。父上が早く良くなるようにと王国の【四公】の一人から手に入れた高額の」

「いやお前……。王国はれっきとした敵だぞ。こちらも向こうも侵略先と捉えた明確な敵国だ。そこから、しかも王国の【四公】? 王国の中でも上から数えたほうが早い相手からもらったものを、疑いもなく父上に渡したのか? しっかりと調べたのか?……まあ、それはいい。父上は無事であるが、元々政務も行えないほどにはお疲れであったから政務には影響はでないが。いや……まさか、それさえも。……王国側の策か……ありえるな」


 兄上が、私の前に立つ。

 見下ろすように立つその姿は、その表情はいまだ見えてこない。

 そんな兄上に掴まれ無理やり立ち上がらせられると、先ほど兄上が指さした玉座へと引き摺られて、そして無理やり座らせられた。


「お前は、これから一人で帝国を守れ」

「え……?」

「父上にも姉上にも、エルトにも。もうお前が帝王を後継することは了承済みだ。父上も、今回の心労で、もう帝王を継承する意思を固めた。お前が、次の帝王だ」

「私が、帝王に……?」

「何を驚いている。昔からお前が欲しがっていたものだろう。出来るからこんなことをしたのだろう」


 欲しがっていた。

 確かに、私は、帝王になるため、ここまで頑張ってきた。


 ……だけど。

 本当に、このような手に入れ方で、よかったのか?

 どこか、虚しさを感じるような。本当であれば、もっと輝かしく、誰からも望まれて帝王となるはずではなかったか?


 これでは。

 私のせいで家族がばらばらとなって、家族に危害を加えてしまって。そして、私だけが帝王になる資格を得ていた、というだけで、得た帝位とも思えないだろうか。


「元々、俺達は、誰もがお前に帝王となってもらおうと思っていた。だからこそ、姉さんも外へと嫁ぐことを望み、お前の成長のために敵対勢力として、お前の政敵を望んで行っていた。エルトも、西側から出てこないのは、お前と争わない為だ。そして俺は、お前の補佐を、お前のミスをすべてなかったことにするために奔走していた」

「……あ……」

「どれだけお前がしくじっていたと。それをどれだけフォローしていたか……。それぞれ、お前のために、役割をもって、お前がよりよい王として、これからの帝国を、自ら帝王となることを望んだお前のために、動いていた。お前の負担となる周辺国のしがらみは、俺達が守りになることで、強いては帝国のためになるからと、全員でお前を支えてきたつもりだ」


 座らせられた玉座。

 この玉座に、どれだけ座りたかったか。


 その頂を、どれだけ欲したか。

 だけどもそれは。

 周りが――兄上たちが、私と共に、いてくれたから。


 みんなが私とともに、考え、正し、そして守ってくれていたから。

 そうやって、帝国をみんなで築いていきたかったから。


 兄上たちとともに――


「俺は――いや、私は、これからランページへ行く」


 びくりと、思わず体が跳ねた。


「あ、兄上……マリーニャは……ランページは、わ、私の……」

「あぁ? 誰がお前にマリニャンを任せるか」


 兄上はそう言うと、私の頭の上にぽんっと手を置いた。


「お前は、これから帝王として、父上の跡を継いで、これから帝王家――帝国を守れ。たった一人で、誰の家族の手も借りずに。いや、もう借りられない。そこは理解しろ」


 兄上が、どこか寂しさを感じさせる笑みを浮かべた。


 どうして。

 どうして私は、こんなことをしたんだ。

 兄上からも警告された。エルトからも言われた。

 なのに、どうして、私は、二人の言うことを聞かずに。そして、二人に帝都から、いや、私達家族から離別させるようなことを、してしまったのか。


 なによりも。

 姉上こそ、もう戻ってこない。

 それがなにより致命的であった。


「俺は、王命によって、ランページに籍を入れることになった」

「っ!? そ、それは」

「残念だが、お前の王権は無効だ。お前がマリニャンを追いかけている間には、もう私のほうが王命により受理されている」

「そ、そう……だったの、ですか」

「お前の王権より先に、王城で、父上の元、発令された。何よりも優先されるそれによって、俺はランページへ向かう。ランページと王家は、元々どちらが偉いというものもないようなものだからな。降婿こうせいといえばいいのか。だから、もうお前の尻ぬぐいはできない」


 そう言うと、玉座に私を座らせたまま、兄上は私に背中を向けた。


「だからこそ、その前にお前がマリニャンに勝手に婚姻を結ぼうとしたことや、その結果、あそこまで悲しませたことを、私は、許すことができない。そして私とマリニャンの王命による婚姻成立を説明さえもできていない、できない状態を作り出したお前が憎い。だから――」


 ああ、待ってくれ。

 待ってくれ。兄上。私は……私は。


「――お前と、縁を切る。そして金輪際、私が籍に入ったランページは、王族のために動くことはない。次期帝王が、ランページ当主にあんな顔させたのだからな。これからランページは、帝国の護りだけに努める」


 思い違いをしていたのだ。

 許してくれ。

 私が、悪かった。

 私がすべて、悪かったのだ。


 だから、だから……。



 手を伸ばす。

 だけどもその手は、何も触れることはない。


 兄上は、もう、私の目の前から消え。この会議室の場には、玉座に一人座る、私だけになっていた。








 ――私はきっと。

 兄上に認められて、兄上たちとともに、この国を。


 みんなと同じ想いで。


 これからも、仲良く、治めていきたかったのだ。





 そう願うも。

 その想いを壊したのは自分の行いであり、自分がこれからも求めても、もう修復できないところまで進んでしまったのだと。兄上が去って行く姿を見て、理解してしまった。

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